名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

日本のエクストリームミュージック⑦GROUND-ZERO

こんばんは。日本のエクストリームミュージックの時間がやってまいりました。

今日は夢のドリームチーム、GROUND-ZEROを紹介します。


GROUND-ZERO

あまちゃんの劇伴で有名な大友良英により1990年に結成。1998年に解散。ボアダムス山塚アイヒカシューの巻上光一、サイン波奏者のSachiko Mなど錚々たるメンツが在籍していました。

大友良英はもともと阿部薫などのフリージャズに影響を受けており、その辺の要素を感じさせつつも、当時台頭してきたサンプラーオルタナティブロックとの融合により、完全なるカオスが顕現しています。

 

ちなみにHP見るとステキな文章が読めます。

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ステキな文章

というわけで早速消費してみましょう。

 

ファーストアルバムGROUND-ZEROより

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まあカオスとはいえ全然聴きやすいですよね。音楽として崩壊しきらないところでちゃんと理性保てててえらい。次はライブ音源です。

 

ライブ

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途中で人民解放軍に関する本をよみあげるくだり(10:30くらいから)が面白すぎる。思想が強い。あと31:00くらいからピンク雑誌の友達募集欄(?昔の雑誌にありますよね)を読み上げる裏で絶叫するところもシュール。

セリフが全体的に多くて、全体的にアングラ演劇みを感じてしまいます。

 

ラストアルバムPlays Standards 

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曲名に反して演奏がアバンギャルドすぎる。そもそも2曲目のウルトラQとかはスタンダード曲なんでしょうか?

 

このアルバムで驚くべきは、サンプラー奏者のSachiko Mがちゃんとサンプラーを演奏していることです。

サンプラーというのは音を録音してそれを使って演奏する楽器です。が、Sachiko Mは初期音源のサイン波のみを使って演奏してしまうので、このように本来のサンプラーの使い方をしている録音は今となっては貴重です。ありがたがりましょう。

 

ちなみに普段のSachiko Mはこちら↓

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とまあこんな感じです。普通に聴いてて楽しいバンドなので、みんな聴いてくれると嬉しいです。

最大のファンタジー作曲家、逝く - ジョージ・クラム追悼とその音楽

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George Crumb

 偉大なるファンタジー作曲家、ジョージ・クラムが死んだ。2022/2/6のことだった。92歳の大往生、しかしそれでも私はもっと生きてほしかった。そしてあの世のファンタジーを聴かせ続けてほしかった。
 今回は私が敬愛してやまない作曲家の一人だったジョージ・クラムの音楽の変遷と、その世界の解釈をしながら、偉大な作曲家の御霊に捧げたい。


 ジョージ・クラムは1929/10/24にアメリカのウェストヴァージニア州チャールストンチェリストの母とクラリネッティストの父の間に生まれた。作曲は少年時代からはじめていたという。本格的な作曲の勉強はイリノイ大学で始まり、ベルリン留学を経てミシガン大学で博士号を得るに至っている。なおベルリン時代にはボリス・ブラッハーに師事していた。
 初期の作風はバルトークリゲティの影響が顕著であり、その後徐々に変速編成の室内楽と特殊奏法の組み合わせによる独自の境地を確立し、代表作として名高い弦楽四重奏曲「ブラック・エンジェルズ」などに結実していく。
 バルトークスタイルからの転換にあっては、全く作風が変わったと言って良いほどの変化であり、作曲法もバルトーク流のそれ(黄金比や数学的分割法)ではなく、メシアン的なトータル・セリエリズムを援用した旋法主義に到達していることはあまり触れらていない。
 ペンシルヴェニア大学で教鞭をとり、オズバルド・ゴリホフなどを育てた。数学的な秩序と、オカルトとも言える数秘術的な指向を結びつけ、さらに電気増幅させた上での特殊奏法のコンビネーションによって、描写音楽としても極めて優れた内容を持ち、数と表現における表現の折衷という問題をクリアしている。またその曲一部はアンチクライスト的とも取られることがあるが、これは無理解からくる大きな誤りだと指摘しておきたい。

 

・初期の作品-バルトークの匂い


 バルトークが祖国に見切りをつけアメリカに移住してきたの1940年頃であり、クラムの少年期に重なる。独自のスタイルを構築し、新しい音楽を求道するバルトークの影響を受けたのはこの時期的思想的重なり合いからだったのは間違いないだろう。そしてこの頃の作品として、いまでもよく演奏会で取り上げられる曲がある。バルトークの盟友コダーイの代表作を彷彿させる「無伴奏チェロソナタ」である。1955年の作品で26歳の時の作品である。

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 そして大きな変化が生じるまでにはそれほど時間を要さなかった。ソプラノとチェレスタ、二人の打楽器奏者のための「夜の音楽I」ではすでに異色のコンビネーションが試行されており、神秘主義的な音楽世界に、詳しく見るとメシアン的な数理構造が見られるようになっている。そして描き出された音は確かに現代音楽だが、タイトルの通りの響きに満ち、それが神秘的で極めて幻想的なものになっているのである。

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 クラムはこういった作風の特性からあまり大編成の曲は得意でない印象を受ける。オーケストラの中での陳腐な音の組み合わせに彼自身があまり興味を持てたかったのではないと私は思っている。そんな中1967年に彼の珍しい管弦楽曲「時と河のこだま(エコー第2集)」が書かれる。この曲はある意味で彼の出世作となり、ピューリッツァー賞受賞作となる。たしかに素晴らしい曲だが、私にはあまりらしくない曲だなと感じてしまう点もある。

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 そしてここから創作の黄金期に入った彼は次々に名作を生み出して行く。そしてそれと同時に神秘性、悪魔性を強めていくことになり、これが大きな誤解を招く結果になったのだと思う。そしてその代表的な作品が、彼の最大の代表作、いや人類史上最高傑作と言っても良い弦楽四重奏曲の発表であった。
 その曲は「ブラック・エンジェルズ」と題されドビュッシー風のサブタイトル「印象I」と付されている。この曲は拡張された弦楽四重奏の為に書かれており、各楽器はアンプによって音を拡大するよう指示され、更にグラスハープ、銅鑼、マラカスの演奏や、叫び声まで求められる強烈な作品だ。題材ははっきりと「ベトナム戦争」であり、組曲となった各部分は厳密に数字に支配されている。特にその全体を支配する二つの大きな数字が「7」と「13」であり、これ様々に組み合わせることから素材の厳選としている。例えば13/7とか7☓13とかそのバリエーションは様々であるが、ベトナム戦争に神と悪魔の戦いを見出し、その様子を数的に、表現的に描ききった作品である。なおよくあるハッピーエンドには終始しないとと、ルネサンス期のマドリガルの引用であったり、非常にその表現の層は厚く、細かいものである。こういった悪魔的な音楽をそのまま捉えてしまうと、悪魔崇拝者などという誤った結論に達してしまう。特にこの種の勘違いは日本で多く散見されるのも面白い。

 これは宗教の差そのものであり、クラムのそれは悪魔崇拝ではなく、敬虔なクリスチャンとして神があるなら対として悪魔があるという概念を踏襲し、神側からの視点、悪魔側からの視点を等価に描いているだけにほかならない。
 一方日本人における神は神道のそれであるが、その対の概念とはなにかと言って即答できるものは少ない。例えば生きるものと霊体という対の概念は仏教的観点からも表せるが、神道となると神の対として同じだけの悪なる存在がなくてはおかしい。
 これは古代に徹底的に対の世界を潰され、或いは神として祭り直されるなどしてきた日本の歴史が関わってくる。しかし現代でもこの対の概念はそれこそ夜闇に紛れて残っている。所謂「呪い」である。
 神とのやり取り、或いは神に告げるための言葉として「祝詞」があり、その対として悪なるものに告げる言葉として「呪(しゅ)」があるのだが、徹底的に弾圧された「呪」の世界は、一種のファンタジーぐらいの意味に認識されて現代に至っているため、クラムのキリスト教的世界観に対して誤解が生じやすいのである。
少々話が長くなったが、早速この曲を聞いてみよう。

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 非常に強烈で、極めて幻想的な作品ではなかっただろうか。なおこの曲の末尾には完成の日付が書いてある。「1970年3月13日金曜日」と。

 これはベトナム戦争中の13日の金曜日に書き終わったと言う意味で、ここにまで徹底して「13」という数字へのこだわりが突き通されている。


 そしてこの翌年には「Vox Balaenae(クジラの声)」という代表作を完成させている。まさに脂が乗りきっていると言った印象だ。
 この曲もクラムの作品の中では好まれ、ピアノの内部奏法をふんだんに伴うにも関わらず世界中で再演され続けている。私が最も感銘を受けたクラムの曲でもあるが、地球の始まりから終わりについて「時の始まり」から「時の終わり」として曲が書かれている。そして「時の始まり」にあってクジラの鳴き声が響き、そこから地球の歴史を人の姿を登場させることなく地層時代を表すサブタイトルを持つ楽章でたどっていく。そして愛の時代として描かれる部分にわずかに人間の影、あるいは神の愛を描いて、人類の姿はまた全くなくなり、時の終わりにクジラの声だけがまた響くのである。
 あれ、それってこの前の自分の曲の設定と似てない?と指摘されたら嬉しいが、実は前回発表した二台ピアノの拙作のヒントはここにもあったのは事実である。
 さてではクラムの「鯨の声」を聴いてみよう。なお、この曲には演奏者はマスクを付けて演奏することが求められている。

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 そして立て続けに初期のクラムが尊敬してやまなかったバルトークの有名な練習曲「ミクロコスモス」に対して「マクロコスモス」という性格的音楽を完成させる。
 本家バルトークはミクロコスモスを6巻書いているが、クラムのマクロコスモスは4巻書かれている。
 ピアノに対する徹底的な内部奏法、演奏者に歌う、ささやく、叫ばせるなどの身体表現を要求し、さらにアンプによる拡張もなされる。そして今度のテーマは第1巻と第2巻は「ゾディアック」つまり黄道十二宮をめぐる音楽となっている。彼の曲の中でも「あの世感」が非常に強い曲と言える。今回は第1巻を紹介するがこの中の「ゴンドラ乗りの幽霊」は本当に不気味で、演奏者にはベルリオーズファウストの劫罰の中の死者の言葉を発せさせられる。

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 奇妙な曲と思う前に私達はピアノ単体による表現がここまで細かく行えるのだということに驚嘆せねばならないだろう。特に曲を書くことをする人間は、自分の表現の陳腐をこの曲の前で恥なければならないとすら思う。


 これほどあの世を描いた作曲家はいないだろう。そしてそれは幻想的な物語として書かれている点がユニークである。例えばアンプリファイされたピアノとソプラノのために書かれた「幽霊」というそのものズバリの曲もある。
 これは分類としては歌曲になるが、あまり有名な作品ではないが幽玄な幻想に包まれた作品だと言える。

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 そんなクラムは流石に晩年になると創作の速度は著しく下がってくる。また娘が声楽になったことから、娘のために書かれた声楽作品が多くなるのも1980年代に入った頃だ。

 作品の発表はこの頃すでに4年に1曲くらいのペースになっている。

 2000年代に入ると懐古的とも言える作品を連続で2巻書いている。マクロコスモスを思い出すこの曲には「Metamorphoses」とタイトルが付けられている。変化や変身といった意味だ。一連の彼の創作姿勢を考えれば何の変化なのか、何の変身なのかは明白な気もするが、早速聴いてみよう。

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 この作品は第1巻が2017に、第2巻は2019年に書かれている。ほぼ最後の作品と言えるだろう。

 

 最後に彼の遺作となったと思われる曲を紹介したい。打楽器のアンサンブルのために書かれている曲で「Kronos-Kryptos」と題された曲である。もちろん「クロノス」はギリシア神話の大地、農耕の神であり、クリプトスはビル・サンボーンの暗号で埋め尽くされた彫刻のことであろう。もともとクリプトスはギリシャ語で「隠す」の意味があり意味深なムードである。
 実は打楽器のみのアンサンブル曲はクラムにとってこの曲が初めてだったという。2018年に書かれ2020に改定されたということで、未知の作品以外ではこの曲が遺作ということになるのではないかと思う。

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 いかがであっただろうか。偉大なる芸術家、ファンタジストというほかない。
 未だにブラック・エンジェルズに出会った衝撃は忘れられないし、鯨の声に何度触発されたかもわからない。一時はずっとクラムの曲ばかりを聴いていた時期すらある。
 そしてもう一人の私の敬愛する作曲家武満徹との間に、ファンタジックなリアリズムと、愛を信じる気持ち、さらにメシアン的語法という共通点があるのも面白い。

 

 実は私が大学に入学する一年前、夏期講習で大学に行ったときに図書館の資料が一日だけ借りられるらしいので利用カードを作りに行って、真っ先に借りたのがクラムの楽譜であった。ニコニコしながらその神秘の蓋を開けるとそこには「献呈資料」という文字が書いてあった。クラムの楽譜なんぞを寄付するやつは相当マニアックだなどと思いながら献呈者の名を見ると「武満徹氏寄贈」とあるではないか。
 私よりはるか前にクラムの楽譜を手に入れ、研究をしていた武満徹というもうその時点で感動に包まれるばかりだった。なぜだか自分がやっていることは間違いないんだという確信みたいなものを覚えてしまい、毎日毎日家族のしかめっ面も他所にスコア片手に聴きふける日々が続いた。そして気がつけば折衷主義的な面白さと、人を音楽から排除することでよりリアルに人を描くことが出来るということを学び、対の概念の大切さを教えられた気がするのだ。

 

 気がつけば私の尊敬する武満徹も、そしてジョージ・クラムも鬼籍に入ってしまった。私はせいぜい彼らの音楽を読み、その理解できた何%かを後進に伝えていくくらいしか出来ないだろう。しかしそれが以心伝心、文化継承の一歩になることを信じて頑張っていこうと思う。

 

 ありがとうございました。そしてゆっくりお休みください。ジョージ・クラム先生。

 

 なお、不思議なことにこの原稿執筆中にロシアがウクライナに侵攻を開始し、世界中が戦争の緊張感に包まれることになってしまった。あまりの偶然に驚きを禁じえないが、クラムがマクロコスモスの楽譜に残した「平和の希求」を最後に掲げざるを得ないだろう。私自身は平和を信じない、しかし希求をしている。その複雑な心中とクラムの音楽が不思議に融合するのだ。

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ピースサインを楽譜のレイアウトに取り入れた例

 

音を聞かずに即興で曲を作ったらどうなるのか

今の世の中、音楽を作る人はずいぶん増えましたね。

パソコンを使って気軽にDTMできる時代、作曲のハードルはだいぶ下がったように思います。

音を並べて、その場で聞いて、みたいなことはパソコンを使えば簡単ですからね。

DTMのイラスト

しかし、昔のクラシック作曲家とかの時代を思い浮かべてみてください。

当然ですがパソコンなんてなく、楽譜に書いた音は演奏するまで聞けなかったわけです。

まあピアノくらいならサッと弾くこともできたでしょうけど、オーケストラとか管楽器とかが入ると、本当に頭の中で音を想像しながらやるしかなかったんじゃないでしょうか。

クラシック音楽ってかなり単純な響きのものが多いですが、こういう事情も関係しているのかもしれません。

 

で、昔の人にできたなら僕らにもできるはず。

……一丁検証してみましょうか。

 

30分音なし作曲一本勝負

 

というわけで、30分音なし作曲一本勝負を行いました。

今回挑戦するイカれたメンバーはこの3人。

 

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冨田……名作同の会長。最近絶対音感を失った。

 

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榊原……名作同の副会長。服の趣味が良い。

 

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なんすい……名作同の会計係。恥ずかしがり屋。

 

そして作曲に使う楽器は、名作同の過去コンサートでもおなじみ、手回しオルゴール

紙に穴をあけたシートを巻き込んで音を鳴らすやつです。

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オルゴール

シートには音に対応した線が引いてあり、縦軸は音の高さ、横軸は時間の流れに対応しています。

まさにDTMのピアノロールに近いです。

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穴をあけたシート

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ピアノロール

ただし、DTMと違いオルゴールは紙に穴をあけただけでは音が鳴りません。

だから普段はいちいち音を確認しながら曲を作っていきますが、今回は音を確認するのは禁止。

30分の時間制限内に、音を一切聞かずに想像だけで曲を作ります

お題はです。

ではさっそくGO!

 

第1走者:なんすい

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なんすいは堅実に、まずはペンを取り出してシートにメモ書きを始めました。

 

なんすい「いや、想像だけでいきなり穴開けるの怖くないですか?」

 

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何やらどんどんメモしていきます。

しかし、今回与えられた時間はわずか30分。

下書きをしている時間などあるのでしょうか……?

 

冨田「15分経過」

なんすい「余裕すぎる……」

 

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15分以上かけて下書きした後、ついに穴あけ作業に入りました。

どうでもいいけど、めちゃ楽しそうにポチポチ穴を開けていきます。

そして……

 

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完成!

タイムは27分37秒です。

この時点では、作曲者のなんすいもこの曲がどんな曲か想像できておらず、不安げな様子。

 

なんすい「メモまで書いたのにカス曲だったらいやだな……」

 

それではついに運命の時です、聞いてみましょう。

 

「強く咲きほこれ ぼくらの桜よ」

なかなか悪くないんじゃないでしょうか?

全く音を聞かずに作った割に、変な音とか不協和音は見当たりません。

さすがですね。

ただ、制限時間ギリギリだったためか音数が少なく、特徴のない曲になってしまった感もあります。

 

なんすい「もっと攻めてもよかったかな……」

 

第2走者:冨田

次は冨田会長がチャレンジします。

 

冨田男は度胸だ」

 

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おっと、メモ書きをせずにいきなり穴をあけていきます。

時間を節約して音数を多くするという作戦のようです。

しかし……

 

冨田「…………」

 

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すぐに自分が何の音を鳴らしているのか分からなくなり、混乱し始めました。

それでもウンウンうなりながら果敢に攻めていきます。

 

冨田「ここで転調だ!」

なんすい「よく転調できるな……」

 

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なんとか完成!

タイムはだいぶ早く、17分57秒です。

早速聞いてみましょう。

 

「さくら」

なんすいの曲よりも明らかに音数が多く、豪華ですね。

ただし、その分響きが怪しい部分がある気もします。

とはいえ、お洒落でいい感じの曲にはなったんじゃないでしょうか。

 

冨田「頭の中ではもっといい曲だったんだけどな……」

 

第3走者:榊原

最後に、榊原副会長にチャレンジしてもらいますが……

 

榊原「僕、音聞かないと絶対曲作れないと思いますよ」

 

マジか……。

とはいえルールはルール、構わずやってもらいます。

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めちゃめちゃ首をかしげながら穴をあけていく副会長。

とても苦しそうで、「芸術家の苦悩」という言葉が脳裏をよぎります。

 

榊原「冒頭だけ12音技法にして……最後は適当にハ長調で終わらせるか」

 

本当に大丈夫なのか。

 

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一応完成しましたが、榊原は浮かない顔です。

タイムは18分21秒という好タイムをたたき出してくれましたが、肝心の曲は果たして。

 

「SAKURA ~咲かないで~」

いや、自信なかった割にいい曲では???

 

榊原「オルゴールの音色、多少怪しい音でもキレイに聞こえる」

冨田「最後だけいきなり普通の響きになるの、必死さが見えるな」

 

結果発表

以上の3曲で決選投票を取った結果、

 

なんすい:0票

冨田:1票

榊原:2票

 

ということでダークホースの榊原が優勝しました。

おめでとうございます。

 

結果、意外と音を聞かなくても曲は作れるっぽいですね。

ただ、やはり想定していた雰囲気と違ったり、音を制御しきれずに混乱することは多かったようです。

DTMには感謝しないといけません。

 

~告知~

名作同では、YouTubeにて無料公開するオンラインコンサートを企画しています。

3/25に「名作同YouTubeチャンネル」にて公開予定です。

この記事で使ったオルゴールも演奏に参加し、一風変わった面白い曲も聞くことができます。

お楽しみに!

 

音楽アプリtalkyがちょっと面白い

こんにちは、gyoxiです。

今回はちょっと面白い音楽アプリを見つけたので紹介したいと思います。その名も...

 

talky



talkyについて

talkyは音楽を聴きながら喋れるというアプリだ。

音源の選択はAppleMusicからとYoutubeからできて、2媒体をミックスして流すことはできないが、この2媒体上の音楽ならだいたい流すことができる。

そして、この音楽を聴きながらおしゃべりできるのがこのアプリ最大の特徴だ。ラジオDJのように喋るのもよし、知らない人と音楽を通して交流するのもよし、というのがこのアプリのコンセプトなのだ。

 

talkyの使い方

早速使い方を見てみよう。これがtalkyの基本画面だ。

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①チャンネル名

これがチャンネル名だ。ここの部分をタップするとチャンネル名・及びトピック内容を編集することができる

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②TEAM

TEAMと書いてあるところをタップすると現在作成されているTEAMの一覧を見ることができる。TEAMの横の< >ボタンを押すと、TEAM間の移動をすることができる。

 

③曲名

ここに表示されている曲名が現在流れている曲名だ。ここをタップするとプレイリストの一覧を見ることができ、自チャンネルならば選曲をすることができる。選曲はyoutube、もしくはAppleMusicからできる。下記画面がその選曲画面だ。曲名を左スライドすると削除でき、長押しすると曲順を入れ替えることができる。

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トークボタン

このトークボタンを押すと配信に合わせてトークをすることができる。ラジオDJ風に語るのもなかなか楽しいですよ。

 

⑤TEAM間移動ボタン

このボタンを押しながらぐるぐる回すとTEAM間を移動することができる。要は②の< >ボタンと同じだ。

 

talkyのこれから

「talkyのこれから」なんぞ仰々しく書きましたが、これからこうなって欲しいな〜なんて思うところを挙げてみます。

 

①曲を入れてもそのまま再生されててほしい

これは仕様上どうしようもないことではありますが、曲を追加すると曲が止まってプレイリストがまた最初から再生されてしまうのはやはり短所かな〜と。欲張りな願望ですがもう少しシームレスに曲が再生されて欲しいな〜と思います

 

②喋る人が増えてほしい

音楽聴きながらおしゃべりできると書きましたがあんまり話せる人が居ないんですよね〜このアプリ。折角おしゃべり機能があるのでおしゃべりできる人がもっと増えて欲しいな〜と思います。そしてそれには...

③ユーザがもっと増えてほしい!

何よりユーザがもっと増えてほしい!こんなに色々な音楽を楽しめるアプリはなかなか無いので、この面白さがもっと音楽好きに広まれば良いな〜と思います。(ユーザ数)増えろ、増えろ...

 

おわりに

今回はtalkyについてご紹介しました。皆さんもtalkyを使ってみて新たな音楽に出逢いに出かけてみては?

ではまた

日本のエクストリームミュージック⑥山塚アイ その2

こんばんは。割と久しぶりに連載再開します。四週に一回当番が回ってくるので、一回休むと二ヶ月空いちゃうんですよね。そういえば渋谷系の方も長らく更新が止まってるのでやりたいとは思っています。

 

山塚アイ その1はコチラ

nu-composers.hateblo.jp

おそらく前回は山塚アイハナタラシで活動できなくなってしまったところで終わっていた気がするのでそのつづきから。

 

ボアダムス

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ボアダムスハナタラシが活動できなくなるちょっと前あたりから活動開始しました。

メンバー全員がそれぞれ尖りまくっているのですが、話しているとキリがないのでこれについては今後紹介したいと思います。主に俺は山本精一の話がしたい、好きだから。

メンバーは非常に流動的(あるとき急に招集されなくなるらしい、非道か?)で、今はなんか山塚アイのソロプロジェクトと化してる気がします。そしてその音楽性が変わりまくることで私の中で有名です。ちなみにバンド名の表記も変わりまくる(ボアダムスBOREDOMSV∞REDOMS)。やめてほしい。

ということでアルバム紹介をば。とはいえ多すぎるので抜粋してお届けします。

 

Chocolate Synthesizer

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1994年発売。おそらく今まで紹介してきた音楽と比較してかなり聴きやすいと思うのですが、どうでしょうか。完全にいかれてしまったガレージロックという趣があって私は好きです。いや、キングクリムゾンをハンマーでボコボコにたたいたらこんな感じになるといった方が正しいかな? とにかく形容しがたいミクスチャーロックになっていることは確かです。

Super æ

youtu.be

スーパーアーと読む。1998年発売。おそらくボアダムスのアルバムで一番評価が高いと思われるアルバムです。ジャケットも有名ですよね(知っている人にとっては)。全ての曲名に「Super」がつきます。小学生が描くバトル漫画の技みたいですね。

それまでのノイズミュージック的な表現から一段階マイルドになっており、トランスっぽさが全面に押し出されています。

 

このへんでシングルカットされたSuper Go!!!!!が一番かっこいいと思っています。

 

Super Go!!!!!

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Vision Creation Newsun

youtu.be

1999年の作品。曲名が○、♡などほぼ全部記号になっています。このあたりから曲名までBOREDOMしはじめました。ノイズはほぼなくなり、前作のトランスっぽさがより推し進められている感じです。

 

それで今はというと、

今は大量のドラマーがいる宗教みたいになっています。

youtu.be

真ん中にいるのが山塚アイです。彼の周りを取り囲むのは111人のドラマー。数字にはこだわりがあるようで、111人でない場合は77人や55人など絶対にぞろ目です。

ドラマーの多さに目が行ってしまいがちですが、特定のコードが鳴るギターネックの化け物みたいなのもあります。

これはどう見れば良いんだろう。誰か教えてください。

 

 

 

というところで力尽きてしまったので今回は筆を置きますが、山塚アイについてはまだ書き漏らしたことがたくさんあるので、「その3」の執筆があるかもしれません。それではさようなら。

 

 

RMCチャンネル人気動画ランキング2021

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RMC

 私の個人研究に名大作曲同好会のご理解を頂いて協力関係を作り、毎週1曲のペースで忘れられた音楽、知られざる音楽を紹介しているRMCチャンネルですが、2021年の人気動画ランキングとその理由などを纏めてみようかと思います。

 このチャンネルはすでに100人ほどの方にご登録いただいており、マニアックな企画にしてはご支持を頂けて非常に嬉しいところですが、とは言え弱小チャンネルではあります。ではその弱小感をフルに生かしてやっていこうじゃないかと燃え立つ事のできる、唯一無二の研究発表の場となっているばかりでなく、各界の著名な方からもお褒めの言葉をいただき本当に光栄でなりません。そんな研究も、楽しくも多くの壁に当たりながらすでに年単位の活動となってきました。一つの区切りとしてこの原稿執筆時(2022/1/1)のデータを元にランキングで振り返ってみようと思います。人気チャンネルをお持ちの方からしたらホコリにもならないような成果ですが、RMCチャンネルの2021年の成果は以下の通りでした。

 

視聴回数 8021回
総再生時間 440.8時間
現在のチャンネル登録者数 97名

 

まずは2021年ランキング第10位の動画からご紹介します。

 

第10位
Two Preludes - 服部正

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服部正

 服部正氏は1908年生まれ2008年に100歳にて亡くなられた作曲家です。ラジオ体操第1番の作曲家として知られるだけでなく、管弦楽、劇伴の作品も多く、とりわけ自らが学生時代に経験していたマンドリンオーケストラの作品が充実しています。
 作曲は菅原明朗に師事し、その後は国立音楽大学で教鞭をとり、去年惜しくも亡くなられた小林亜星氏らを育てられました。
 実は服部正氏はピアノ曲の作曲は得意ではなかったそうで、ご紹介の初期作品の作曲には非常に難儀されたのだとか。この動画を発表した後、服部正氏を恩師とする方を介してご子息様と交流を持つことが叶い、様々なことをお二人からお教え頂きました。
この場を借りて深く御礼を申し上げます。

 

第9位
小さなプレリュードとフーガ - 大宅寛

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大宅寛

 大宅寛氏は1935年生まれで2009年に亡くなられた作曲家、教育者です。
 国立音楽大学のご出身で、髙田三郎、先日亡くなられた島岡譲に師事され、作曲と合唱についてその見識を深めていかれました。その後は教育者として音楽教諭のお立場から多くの生徒を輩出、また校歌や市歌の作曲に携わられることも多かった方です。
音楽は美しいメロディを持っていることを大切にされ、保守的で穏健な作風をとられていました。
 実は自分の後輩のトロンボニストである佐藤学さんが、大宅氏を恩師としており、ご遺族をご紹介して頂きその縁で残された小品をご提供いただきました。私とお住まいも近く、ご存命であればお話を伺いに行きたかったなと思いました。

 

第8位
ピアノのための悲歌 - 平吉毅州

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平吉毅州

 平吉毅州氏は1936年に兵庫県に生まれ、東京芸術大学で長谷川良夫らに師事、1998年に亡くなるまでに合唱曲、児童用の作品を中心に愛される名曲を多く作曲した方です。
 渋いルックスと、低音の美声で魅力ある方だったなと個人的な思い出のある作曲家なのですが、特に気球にのってどこまでもなどは本当に素晴らしい名曲です。そういった児童用の作品が有名なだけに、あまりシリアスな作品は知られていませんが、このピアノ曲はかなりその中では辛い表現に満ちた晦渋な曲です。専門的に見るとこれでも調性機構は持っており、完全な無調とは言えないのですが、ほぼ無調の空間に雨のように無機質に降る恩恵と、悲しみと怒りを湛えた響きの二つを構成要素として書かれています。この曲がランキングに入ってきたのはいささか意外でしたが、多くの方に聞いて頂けたことはとてもうれしく思います。

 

第7位
3つの小品 - 毛利蔵人

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毛利蔵人

 こちらもランキングに入るのは少し意外だった作品です。
 毛利蔵人氏は1950年に兵庫県に生まれ1997年に46歳で早逝された作曲家です。独学で始めた作曲でしたが、その後三善晃に師事して本格的に学びはじめ、武満徹芥川也寸志など名だたる作曲家のアシスタントで培ったテクニックを駆使し、非常に精度の高い作曲法を身につけられました。このことは師たちと同じく彼を劇伴の道にも向かわせ、多くの仕事をこなして売れっ子となった途端に無くなってしまうという、なんとも悲しく残念な生涯を送られました。
 この作品は子供のための組曲ですが、フランス風のわせに身を包み、おしゃれで美しい曲ですが、なんとはなく薄っすらと悲しみが漂っているようにも聴こえます。
最後の楽章は連弾ですので、多くのお教室でもっと弾かれて欲しい名曲です。

 

第6位
ピアノ・ソナタ - 佐藤眞

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佐藤眞

 RMCチャンネルでは長大な曲は得てして再生数が伸びないのですが、その中にあってピアノソナタで上位に入ったのがこの曲でした。
 佐藤眞氏は1938年に茨城県に生まれ、現在でも現役バリバリの作曲家の一人であります。とくに合唱曲の分野の仕事は名高く、大地讃頌は誰もが歌っとことなある有名曲でしょう。
 東京芸術大学卒業で作曲は下総皖一に師事していることも、彼を歌の作曲のジャンルにいざなうに影響があったのだろうと思います。しかしピアノ曲となると彼のもう一つのシリアスな面が現れてきます。交響曲第3番などでも見せた鋭い不協和音と、大胆な構想による音楽は大地讃頌しか知らない人には驚いて受け止められることだと思います。伝統的な形式とそれを打ち壊すかのような楽章ごとの長短の極端さが面白い力作です。

 

 

 ここまで見てくるとやはり聴きやすい小品が多くランキングしているように思います。打ち込みのデータですし、長くじっくり向かい合うには演奏の説得力が弱いのは仕方ありませんが、ここはもっと私の努力で埋めていきたいところでもあります。余談ですが、ピアノの音源などRMCチャンネルで使うソフトについてちょっと紹介してみようかなと思います。

 自分はGODWOODという名義で商業音楽を書いていますので、DTMの環境を揃えているわけですが、ハードウェアにはあまり重きをおいていません。なぜならばそれが必要なら専門職に依頼すればよいという環境で仕事をさせていただいているからでもありますし、昨今ソフトウェアの出来が素晴らしく正しく使うことができれば、ハードウェアへそこまで依存を高める必要はないと考えているからです。

 RMCではピアノ曲を扱うのでピアノの音色についてはこだわりのポイントとなります。ちゃんと楽曲を読み込み、ただ打ち込むだけではなく解釈を行っています。その上でどのピアノをどんな環境で鳴らすかということに強くこだわっているのです。

 使っているDAWはStudio One 5です。最近買収問題があって非常に先行きが不安ですが、とても優れたDAWであることは言うまでもありません。そしてピアノ音源についてはKONTAKTベースのものとUVIベースのもので各種揃えていますが、よく使うものとしては以下のものがあります。

 

Native Instruments NOIRE
 ピュアなピアノのサウンドと、フェルトで加工したサウンドを柱に、シンセサイズされたプリセットをたくさん持っている音源です。私はこの音源は主にピュアの音に自分で設定を加えて、シリアスな音楽の打ち込みに多く利用しています。

C. Bechstein Digital
 ドイツピアノのベヒシュタインをデジタル化した音源です。クラシカルなサウンドの表現が素晴らしく、性格なタッチワークを表現することに向きます。このため内容が古典的であったり、或いはフーガなどの作品で私は極めて重宝させていただいています。

AcousticSamples Kawai-Ex Pro
 カワイのピアノをモデリングした音源です。実機も年々良くなっているカワイですが、この音源も設定を色々してゆくと素晴らしい音が得られます。しかし私はあえて少しチープな音にセッティングし、教育的な側面の強い児童向けの曲などに多用しています。

 

 このあたりがよく使う音源ですが、その他にもFazioliを使うこともあれば、当然SteinwayBosendorferを選ぶこともあります。また山本正美の「ショパン」をデータ化した時は、ショパンの愛用のピアノにあやかってわざわざPleyelの音源を用いました。正直音源あつめも楽ではありませんが、少しでも良いデータをとこれからこの方向の研究も詰めていきたいなと思っています。ピアノの音の加工についてはかなり企業秘密があるのですが、そのうち記事にするかもしれません。


さて後半上位5位の発表に戻りましょう。

 

第5位
ピアノ小組曲 - 山内正

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山内正

 この曲は上位に来る予感はしていました。発表直後からアクセスがすごく、伊福部門下の再評価の勢いとどまるところを知らないなと痛感しました。これもSalidaさん、片山杜秀さんはじめ、西さんなどのご努力の賜物ですし、この曲発表時はSalidaさんと西さんにRTを頂いたことで大きなアクセスに繋がりました。これもこの場を借りて御礼を申し上げます。
 山内正氏は1927年東京出身でヴァイオリニストを目指していたものの、戦時中の怪我からこれを断念し伊福部門下で作曲家となりました。仕事の中心を劇伴に置かれていたので純音楽はあまり多くなく、Salidaさんが発売されたCDでその殆どが聴けます。
 この「ピアノのための小組曲」は子供のための小品として書かれており、5曲の可愛らしい曲からなっていますが、日本伝統音楽を語法の中心に据え、ユニークな和声をつける作風はここでもしっかり貫かれており、極めて充実した内容を持っています。1980年に山内氏は亡くなられましたが、今こうやって多くの場所で再評価の機運が高まっていることは、私の研究の一つの憧れ、目標でもありそれをなし得た方々に学ばせていただくことばかりです。

 

第4位
ノクターン - 尾高惇忠

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尾高惇忠

 RMCチャンネルは忘れられた曲だけではなく、知られざる曲や作曲家の追悼などもその役割だと思っています。そしてこの曲は残念ながらその追悼の意味合いの紹介となった曲です。
 尾高惇忠氏は1944年東京出身、名音楽一家である尾高家に生まれ東京藝術大学矢代秋雄三善晃に師事し作曲家になりました。そのご渡仏しモーリス・デュルフレ、マルセル・ビッチュ、アンリ・デュティユーに師事したことで作風が確定したとも言えるでしょう。非常にフランス的なムードを持っていますが、湿り気というかやや陰鬱なムードを持つ作風には、惇忠トーンといえる色彩を纏っています。
 この曲は小さな組曲ですが、非常に暗いく小さな序奏から、爆発的なピークを形成させ、また闇へ消えるような構想で書かれています。最晩年作で音源もないことから、2021年2月に訃報が飛び込んですぐにデータ化し、アップさせて頂きました。

 

第3位
失われたものへの三章 - 有馬礼子

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有馬礼子

 この曲もランクイン、しかも上位というのは少し意外な気がしました。音源としては珍しいものとなりますが、そこまで多くの人に聴かれるとはちょっと思っていなかったというのが正直なところです。
 有馬礼子氏は1933年東京出身、一時満州への移住を経験するも、帰国し東京藝術大学下総皖一に師事しています。そして人生の転機となったのはおそらくその後、東京音楽大学で教鞭を執り始めてからのことと思います。この時学長職にあった伊福部昭に師事し、その影響を受けたことでフランス風の響きと日本的な眼差しが融合していったと考えられるからです。
 大きな規模の作品も書かれてはいますが、ご本人曰く小品に縁があるそうで、たしかに子供のための作品などはおびただしい量が書かれています。この曲もそういった小品の一つですが、高い表現力を必要とする曲ですので、ぜひ多くの人に弾かれ再評価につながって欲しいと願うばかりです。

 

 

 さて最上位2曲を残すだけとなりましたが、逆に全く再生数が伸びなかったものはなにか少しだけ見てみます。2021年最も再生されなかったのは三谷俊造の「Primula Sinensis」でした。San Tanの名で書かれたアメリカ在住のピアニストであった三谷俊造氏の作品の再発見という非常に大きな意味があったのですが、全く無名になってしまっていて多くの方の興味を惹かなかったのかもしれません。

 最近アップしたものはまだ時間的に再生数が伸びていなくても当たり前なのですが、それを抜かすとその次に聴かれていないのは大村泰敏氏の「夜曲」です。これも完全に忘れらている作曲家の作品の蘇演ということになるのですが、再評価の機運もなくあまり伸びませんでした。
 こういった作品こそ本来はこのチャンネルの趣旨に近いのですが、やはり再生数を見るとある程度の知名度がベースにあったり、世の中での再評価の機運に強く影響されているというのは正直なところであるようです。今後はこのような作品たちをもっと聴いてもらえるように、様々にアピールをしていきたいと考えています。


さて2021年RMCチャンネル再生数ランキング上位2つを紹介いたします。

 

第2位
五月の組曲 - 江文也

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江文也

 この曲はコンスタントに再生されずっと高再生率をキープしています。どうも一種のブームが来ているようで、彼の作品演奏会なども企画されているような話も伺いました。
 江文也氏は1910年台湾生まれ、日本コロムビア・レコード所属の歌手としてイケメンと美声を生かして人気者になります。その後山田耕筰と橋本國彦に作曲を師事、日本の伝統とモダニズムを折衷させた独自語法を手に、後年は北京で教鞭を執るようになります。1983年に同地で没しています。
 日本的という枠を超えて、アジア的という意味でのエスニシティを武器にモダニズムに傾倒した初の例といっても過言ではない大天才であったように思います。
 彼のピアノ作品の中ではよく知られた方の選曲ではあり、他に生演奏の動画も存在しますが、沢山の再生を頂いておりこの作曲家の再評価の機運を強く感じます。

 

第1位
断章 - 菅原明朗

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菅原明朗

 さて2021年RMCチャンネル再生ランキング栄えある第一位メイロー先生のピアノ曲でした。
 菅原明朗氏は1897年兵庫県生まれ、1988年までご長命で活躍され我が国にフランス風の作曲方法を持ち込んだ歴史的作曲家です。彼の師匠は大沼哲と言われているものの、これはご遺族によって否定されており、師といえるのは瀬戸口藤吉翁だけであったとのことです。マンドリンオーケストラへの貢献と決別、服部正などの後進の指導のほか、新興作曲家連盟や楽団創生の結成などその活動は日本の音楽会の礎となったのは間違いありません。
 非常に好奇心が強かった人のようで、ハーモニカのコンチェルト、アコーディオンのコンチェルトなども書かれ、さらにイタリアのピッツェッティとの個人的交流もあって、グレゴリオ聖歌についての知識も深かったとのことです。
 このピアノ曲は長きに渡り5曲か6曲か議論があったようですが、私の研究では5曲であろうと結論し、楽譜をなんとか入手してデータ化して発表した所、ちょうど似た折にこの曲を5曲の作品として演奏する演奏会が企画されていたこともあって話題となったことが再生数に影響したのだろうと思います。先程の服部正氏の項目でも触れましたが、服部氏を恩師とする野口様が菅原氏のご遺族様と繋いでくださり、この曲や作曲者本人について、或いは楽曲の表記など色々のご助言をいただくことが出来ました。この経験は研究者冥利に尽きるものであり、本当に心から感謝申し上げるものであります。

 


 ということで2021RMCチャンネル再生数ランキングはいかがだったでしょうか。
 2022年も更に研究を深めできれば毎週のペースを維持しながら発表していきたいと思っておりますので、ぜひご贔屓になさっていただければ幸いです。ちょっと最近再生数が鈍くなってきておりますので、一度紹介させていただいた作曲家についても二曲目のターンに入っていこうかと思っています。
 またこれはコロナ次第ではあるのですが、できる限り今後はこれらの曲の生演奏化を進めていきたいとも思っておりますし、研究で集めた資料のうち著作権の切れたものは公開していきたいとも考えております。こういった文化的な財産は残してこそ意味があると考えますので、さらに様々方面で色々とアピールしていけたらなと思っておりますので、皆様のご協力をよろしくおねがい申し上げます。

楽曲分析〈アナリーゼ〉のススメ

僕は作曲家ですが、やはりインプットがないといい曲は書けないぞ、と最近改めて思いました。

そこで、気になった曲の耳コピと分析を始めました。

 

今の時代だと、ネットで探せばコード譜くらいは転がっている曲が多いので、大変便利ですよね。

しかし、ちゃんと音楽理論を勉強した身からすると、ずいぶんテキトーな分析も散見されます。

やっぱり、手間をかけて分析するならちゃんと成果を得たいですよね。

そこで今回は、楽曲分析の時に僕なりに気を付けていることを書こうと思います。

 

 

1. コード分析は2行で

僕は、曲のコード分析は必ず2行使って書きます。

こんな感じです。

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上の段にはポピュラー和声のコード・ネームを、下の段にはクラシック音楽理論の和声記号を書いています。

なぜ別々の書き方を並べるかというと、それぞれ役割が違うからです。

ポピュラー和声のコード・ネームは、例えばCM7のコードはどんな調で鳴っていても必ず「CM7」と表記されるわけですから、絶対的な表記になっています。

それに対しクラシック音楽理論の和声記号は、同じCM7の和音が鳴っていても、ハ長調では「I7」、ト長調では「IV7」と表記されます。

つまり、どの調で鳴らされているかによって表記が変わる、相対的な表記ということです。

 

音楽にはふつう調があるので、相対表記をすることはものすごく大事です。

これをしないと、「CM7」とだけ書いてあって結局よく分からない、ということになりかねません。

相対表記があってはじめて、その和音の役割が分かるのです。

ただ、相対表記だけだとその瞬間に鳴っている具体的な音が分かりにくいので、絶対表記も合わせて書きます。

 

2. ヴォイシングを無視するな

コードを分析すると、それだけで満足してしまいがちです。

しかし、コード分析にはもう1つ大事な観点があります。

それがヴォイシングです。

これは大変見落とされやすいですが、かなり重要なことだと思っています。

 

例えば、こういう3種類のヴォイシングがあったとします。

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左のヴォイシングは、音数が必要充分で無難な響きになります。

音がぶつかっている個所もなく、またトップノートが第3音のミになっているため、安定していて響きがよく調和します。

 

真ん中のヴォイシングは、完全5度&完全4度の音程を主体として幅広い音域に配置されているため、荘厳で空間のある硬い響きになります。

トップノートのシは第7音で、しかもオクターヴ重複されているため、メジャー・7thの浮いた雰囲気が強く感じられ、さらに金属質な感じも加わります。

 

右のヴォイシングは、右手のレンジが広い一方で、シとドがぶつかっているのがポイントです。

厚みはなくさっぱりとした響きでありつつ、半音のぶつかりによるきらめきが良い味を出しています。

 

どうでしょう。

ヴォイシング1つで、和音の響きは本当に想像以上に変わってしまうものです。

変わったヴォイシングの和音に気付いたら、どういう狙いや効果があってそのヴォイシングになっているのか、ちゃんと書いておく必要があります。

 

3. 解釈が伝わる書き方を

分析というのは、その曲について解釈をし、よくかみ砕いて飲み込むためにすることです。

だから、正しく解釈しやすいように書いておくことが大変重要です。

 

例えば、こういうコード進行があったとしましょう。

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それをこのように分析したとすると……

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分析として間違ってはいないのかもしれませんが、問題があります。

真ん中のBdim7は明らかにAm7に向かってドミナント・モーションをしているように聞こえますが、その解釈ができないからです。

 

これを正しく分析すると、こうなります。

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そう、真ん中の和音はBdim7ではなく、G#dim7と分析すべきなのです。

これでドミナント・モーションの説明がつくようになります。

 

このように、漫然と和音を書いているだけでは分析にはならないわけです。

ここでは分かりやすさのためにコード分析の例を出しましたが、コード以外でも同じことが言えると思います。

 

4. できるだけ全パート耳コピすべし

音楽を分析しようと思うと、ポップスだとどうしてもコード譜しかないことも多く、メロディと和音だけの分析で終わることは多いと思います。

しかし僕の経験上、それだけでは得られるものはやはり限られてしまいます。

1曲全パートを耳コピするだけでも、かなり色々なことに気付きます。

自分の知らないドラムのパターンや、意外なベースの動き、聞いているときには気にならなかったパート間の音のぶつかりなど。

そういうわけで、耳コピの能力があってなおかつ根気もあるのなら、全パート耳コピするのが最も成果を得られると感じています。

 

最も、純音楽であればフルスコアがあることが大半なので、その点はありがたいですよね。

 

5. 最後に「総評」を書くべし

1曲分析し終わったら、ぜひとも総評を書いてください。

その曲を通して使われている技術や、作曲家のクセ、あるいは曲の気づきにくいテーマなど、書くことは必ずあるはずです。

分析する最中も、総評に何を書こうか考えながら分析を進めるべきです。

でないと、その曲を作っている作曲家に対しての意識が損なわれてしまいます。

 

音楽は、当たり前ですが必ず人に作られています。

音楽を分析するときには、それを作った人が何を考えていたのか、あるいはどういうクセを持っているのか、その人らしさがどのように音楽の中に現れているか、このあたりを強く意識しないといけません。

でないと、ただその場その場で鳴っている音を分類するだけの作業になってしまい、身に付くものも身につかないからです。

 

おわりに

こういうことを気にしながら、僕は曲の分析をしています。

興味があれば、ぜひ僕のページを覗いてみてください。

分析方法の参考にもなるかと思います。