名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

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コンテンポラリーの回廊 俺の視聴部屋5

コンテンポラリーの回廊

 皆様GWエンジョイしましたか?
 私はGWは嫌いなので出かけたりしません。人の多いところにわざわざ行ったり、他人と同じ行動しかとれないって正直人間に生まれた意味なくないですか?もっと自分の「好き」を探求したらいいんだと思います。「考えることを放棄して選択する権利だけ主張する」というのは、ある知り合いの発言ですが、とても的を射ていますね。まず考えることをすれば自ずと自分の思考がどういうものか見えてくるってわけです。
 そんなこんなで、私の嗜好を皆さんにも聴いてみて頂いてどう感じられるのかと同時に、新しい世界レベルの音楽文化をご紹介する今シリーズも5回目です。今回も気になる作曲家と音楽がいくつか出てきたのでご紹介がてら聴いてみたいと思います。

 

Tatjana Kozlova-Johannes

1.Lovesong/Tatjana Kozlova-Johannes

 まず初めにご紹介するのはエストニア出身の作曲家、タチアナ・コズロワ=ヨハネスの「ラブソング」です。
 作者は1977年エストニアに生まれたロシア人で、エストニアで音楽教育を受け、ヤーン・ラーツ、ヘレナ・トゥルヴェに師事しています。なるほど一聴にして彼女の音楽に引き込まれたのは、私がヘレナ・トゥルヴェの音楽が好きということも関係してきそうです。その後もダルムシュタット夏期講習などで様々なマスタークラスを受講、イタリアにわたりファビオ・ニーダーにも支持しています。現在は母国に戻り、タリン音楽院で教鞭をとり、師の一人であるヘレナ・トゥルヴェとともにマスタークラスを開いているとのことです。母国での受賞が多く、国際的に知られ始めたのは2004年に「Made of Hot Glass」がパリ国際音楽賞3位受賞となったことからのようですが、その後は一気に国際的な賞を多く獲得していきます。
 今回選んだ「Lovesong」は2010年に書かれたヴァイオリンとフルートのための作品で、静謐な音空間に漂うエロティシズムが魅力的です。
 最近私自身の音楽の思考に若干の変化が現れてきており、静かで影響されやすく、鈍い色合いを散発的に生み出すような音楽に強く惹かれるようになったことで、この曲に魅力を感じたわけです。
 この頃の作曲シーンは微分音の再解釈が進んでおり、この曲も微分音を多用しています。しかし単に微分音を使ったというだけの作品や、響きの展開に必ずしも影響させるために微分音を使っているわけではない作品も多く、それらには若干嫌悪感を感じます。この曲のように、微分音がその音楽表現に必要不可欠で、さらに色合いのある空間に大きく影響するタイプの音楽は心地よくその響きに身を委ねられるように感じます。
 作者の世界観は出世作から変わらず、狭い音程を往復するモチーフと、ノイズ感、時折見せるメロディーと折衷的な語法ながら、弱奏にこそ力を発揮する音楽です。そしてこの「Lovesong」はそれを凝縮したような音楽になっていると感じます。
 こういう音楽浸るのは私にとっては快適な時間です。毛嫌いされずにいちど浸ってみると良いものですよ。

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Conrad Winslow

2.A Likeness/Conrad Winslow

 2曲目はアメリカ出身の作曲家コンラッド・ウィンズロウの書いた「A Likeness」です。
 ウィンズロウは1985年アラスカ生まれ、自然の中で育つ中で両親が家を森の中に自力で立てていく姿に強い影響を受け、一から物を作る行為に強いあこがれを持ったそうです。このことは彼の音楽がその後、むしろ建築のあり方をヒントに構築されるようになったことと無縁ではなく、彼は音楽の構造の建て方を家を建てる方法から構築しているとのことです。
 アメリカの音楽でもアラスカ出身の人、在住の人の音楽はやはり寒さのニュアンスがあり、聴いていてももたれてこない良さがあると勝手に思っているのですが、ウィンズロウの作品もそういう良さがはっきりとあります。
 彼はジュリアード音楽院でジョン・コリリアーノに、ニューヨーク大学ではジャスティン・デロ=ジョイオに学んでおり、コンテポラリーと映画音楽の両面の影響を受けているようです。確かにそれらの言語が構造的に混ぜ合わされることで、新しい安定感とも言える不思議な世界観を形作っており、特にこの「A Likeness」はバス・ヴィオラ・ダ・ガンバとピアノのために書かれており、その特異な編成を彼の作曲技術はうまく乗りこなしているように感じます。古楽器は普通はメロディ的なものを求められることしかないわけですが、この曲ではガンバのもつ不安定さをうまく倍音に付加させ、ピアノの鳴らすモード・クラスターと良い相乗を作り出しており、単純でありながら奥深い作品になっているように感じます。古楽ではなくてもこんな活かし方があるのだとびっくりさせられる、なかなかの良曲だと思います。

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Alan Hilario

3.pakikisama/Alan Hilario

 3曲目はフィリピン出身の作曲家アラン・ヒラリオの書いた「pakikisama」です。作曲年は1995年とやや古いですが、とても面白い曲だと感じましたので紹介しようと思います。
 アラン・ヒラリオは1967年フィリピンのマニラに生まれ、その後ドイツを拠点に活動しています。はじめはヴァイオリンを学んでいたそうですが、フィリピン大学に入ると作曲を専門にします。そして作曲家としてのキャリアを積むべくドイツにわたり、フライブルク音楽大学でマティアス・シュパーリンガーに、電子音楽をメシアス・マイグアシュカに支持し、特殊奏法によるノイズ性を活かす作風に到達したようです。
 すぐに頭角を現しIRCAMやダルムシュタット夏期講習にも招聘されベルリン芸術性も受賞するなど、大きな活躍をしていきます。しかし出身国の影響は彼のテーマとして強く打ち出されることになり、貧困と人種差別や芸術と投資の関係などをテーマに講習会を開くなど、社会的活動の面でも注目される存在になっていきます。
 この曲もそんなヒラリオの思想がテーマになっており、音楽は散発的でノイズの多いものですが、タイトルの「pakikisama」はフィリピン人の特性、友情や強調という意味だそうで、自分のルーツとその特性を国際社会に投げかけたときのギャップや抑圧などを描いていると思われます。打楽器をソロに据えた21人編成の室内楽として書かれており、1996年に初演されています。
 こういった散発性とノイズを中心とした音楽は、ややもすると音楽の本質自体が散逸していくような、崩壊の音楽になってしまいますが。多数のストップを効果的に用いることで、崩壊をせずしっかりと最後まで聴かせる音楽になっています。シュパーリンガーの影響は顕著ですが、もっと薄いテクスチャーであり、どことなくアジアの匂いを湛えているように感じます。

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Eliška Cílková

4.String Quartet No.4/Eliška Cílková

 4曲目はチェコ出身の作曲家エリシュカ・チルコヴァの作品です。伝統的なスタイルの弦楽四重奏で書かれている、曲の内容も現代においては極めて穏健です。
 チルコヴァは1987年にフラハに生まれ幼少期からピアノと作曲をはじめていた天才だったようです。ヤロスラフ・イェジェク音楽院で指揮と作曲を学び、その後ブラチスラヴァの無体芸術アカデミーで作曲を、ウィーンに渡りウィーン音楽大学ではメディア向けの音楽を学んだとのことです。作曲はボジヴォイ・スーチー、ラインハルト・カルガー、ハヌシュ・バルトンなどに師事したとのことです。
 この経歴からもわかるとおり、彼女は芸術音楽と映画音楽を両立して活動しており、奏法の作品にそれらの影響が混在する作風となっています。映像との関わりも強く、インスタレーション的な作品も多いようですが、短いながらこの弦楽四重奏は純粋な絶対音楽に挑んでいます。しかしその響きはたしかに映像的であり、心地の良い自然の風景のようなものを感じるのも事実です。民族的な雰囲気を持つ長いドローンの上に、倍音グリッサンドが散りばめられ、サウンドスケープとしての雰囲気を持っていると感じます。

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Bergrún Snæbjörnsdóttir

5.Strange Turn/Narwhal / Bergrún Snæbjörnsdóttir

 最後に紹介するのはアイスランド出身の作曲家ベルグルン・スネビョルンスドッティルです。
 作者は1987年にアイスランドの郊外に生まれ、その後ミルズ大学などに学び、作曲はジョン・ビショフ、フレッド・フリス、ジェームス・フェイ、ジーナ・パーキンスなどに師事したとのこと。まだ売出中の作曲家ではありますが、世界的歌手のビョークのツアーレコーディングミュージシャンであるなど、音楽家としてのキャリアはすでに大きなものになっています。
 この作曲家も映像と不可分の作曲姿勢をとる事が多く、インスタレーションやパフォーマンスを伴う表現が主体であるようです。現在は母国のアイスランド芸術大学助教を務めているとのこと。
 今回紹介する曲は弦楽三重奏とハープシコードのために書かれ、楽器には様々な細工が施され、特殊な音が出る仕様にしてあるようです。最近はこういったスタイルをもつ作曲家も増えてきましたが、彼女の音楽は極めて静かな空間にノイズが満ちるという独自性があり、アイスランド出身の作曲家の特徴であるドライなサウンドがここでも堪能できます。シンプルな素材を構造的に練り上げていく作風のようで、素材は必ずしも多くはないものの、しっかり聴かせる音楽になっていますし、何より透明感がある点が美しいと感じます。
 私は個人的にアイスランド出身の作曲家の音楽が好きで、多くの作曲家を追いかけていますが、また一人そのリストに加わったと言う感じです。皆様いかがお感じでしょうか?

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 というわけで、最近気になったコンテンポラリー作品を5つ紹介いたしましたが、やはり常にアンテナは高く広く持っていないとだめだなと痛感します。こういった作品が楽に聴けるのは現代のありがたさにほかありませんから、文明の利器を最大限使ってこれからも探求続けていきたいものです。