名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

俺とダーツと備忘録。〜ダーツに3年間向き合って〜

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〜お知らせ〜

2026年2月14日に、本山駅近くの「美 Silent Hall」にて、邦人作曲家にフォーカスしたピアノコンサートを行います。 演奏機会の極めて少ない作品も上演される予定ですので、お時間、ご興味ある方は是非お越しくださいませ。



こんにちは、gyoxiです。
ずいぶん前に、

という記事を書きました。そしてそんなダーツに出逢ってから3年が経ち、私は今なおダーツをやっております。今回はその備忘録的な感じです。

 

3年の間にあったこと


・リーグに参加する
ダーツを初めて4-5か月ほど経ったとき、「リーグ」なるものに誘われました。リーグとは、ダーツ台のあるお店がチームを作って、オンラインや対面にてチーム対抗で対戦する交流戦のようなものです。そして私は、名古屋の地域リーグに参加させていただくことになりました。初めはガチガチに緊張しまくっていましたが(今でもたまに緊張する)、今現在はオーダー(試合に出る順番)を組んだり、チームの取りまとめをやったりと、それなりに重要ポジションをさせていただいています...マジで頑張らないとな...


・ぐんぐん上手くなる

リーグに出場したこともあってか、定期的な自主練が身につき、ぐんぐん上手くなりました。具体的にはブルを狙えば、3投に一本くらいはブルに入るくらいまでには上手くなりました。リーグという緊張する場においても、時々トン(3投で100点以上)やハット(3投投げて全部ブル)を出せるようになり、これからもっと伸ばすぞ!と思っていた矢先...

 

・ひたすらに迷走する
投げ方がわからなくなりました。イップスではないのですが、ダーツのグリップ圧を変に意識してしまったことから始まり、あれこれ試しているうちにブル率がガタ落ちし、金欠で練習量が減ったことも追い打ちをかけて、一年で実力が「ちょっと上手い初心者...?」ってくらいまで落ちました。ただただ苦しい。もう投げたくない。リーグにも出たくない。いっそやめてしまおうか。そう考えていましたが...

 

・再起する

そんな時、ちょうど2025年の新年を迎えたことにより、自分の中で「メンタルリセット」が入りました。本当にたまたまかもしれませんが、年が明けると「辞めてやろうか...」という気持ちがスッと引いていったのです。気持ちを新たにした自分は、根本からダーツの投げ方を変えました。特に大きかったのは、迷走をやめたことです。ダーツをやっていると、あれこれアドバイスをいただくことがありますが、合っているものも合わないものもあります。これまでは合っていないものも取り入れようとひたすらにもがき苦しんでいたので、それをやめ、「少し試して、合わなかったものは頭の片隅に置いておく」ようにしました。他にも細かな改善と試行を繰り返し、また一年かけて、再び元の実力に戻すことができました。

 

・大会でBEST16を取る

上記の努力の結果として、DARTSLIVE OPENという大会にて約90組中でBEST16まで残ることができました。これまでにも一般大会は2度出たことがありましたがいずれも予選落ちでしたので、これは大きな進歩です。(まあこの試合はダブルスで、相方もかなり頑張ってくれたというのもありましたが。)BEST16止まりであることは悔しくもありますが、それでも自分のダーツ経歴上で一つ大きな自信となりました。

 

ダーツをやって分かったこと


・とにかく知り合いが増えるぞ

1人投げやオンライン対戦メインの方も多くいらっしゃいますが、やっぱりダーツは対人戦をやってナンボの競技です。多くのダーツバーに足を運んだり、リーグでいろんな方々と対戦したことで、本当に多くの方に出会うことができました。それはもう、顔と名前を覚えるのが不得意な自分が困っちゃうくらいには... 私と再戦する時は「前会ったじゃん!」とは言わずに、名乗っていただけると幸いです...はい...


・とにかくお金がかかるぞ
とにかくお金がかかります。バレル(持ち手の金属部分)も1万円程度はかかりますし、そのほかのパーツは基本消耗品ですので、時々買い替えが必要になります。またなにより、ダーツバーやダーツマシンの置いてあるお店にコンスタントに通うことになるので、どれだけ安いお店を選んでもそれなりの出費が伴います。まあ、趣味への出費と考えれば安いもんですが、「一度道具を買えばあとはお金がかからない!」という訳ではないのです。

 

・一筋縄ではいかないぞ

練習量に比例して実力も伸びてくれれば良いのですが、そんなことはありません。そもそも日々投げるだけでも、その日の疲れ具合などで姿勢が微妙に変わり、それがスローへと大きく影響するのです。また、ただただ投げているだけでは実力は伸びませんので、どこかで「改善」をする必要がありますが、新しい投げ方を取り入れたからといって、すぐに実力に反映されるものでもありません。ダーツの実力は、上がって下がってを繰り返しつつ、少しずつ上昇していくものです。メンタル保持のためにも、『必ずどこかで「下がり」のタイミングがある』ことを頭に隅に置いておかねばなりません。

 

・でも、楽しいぞ

でも、楽しいです。上で申しました通り、これまでにたくさんの方々と出会うこともできました。また、自分の気づきや努力によって、実力が伸びてゆくのはとても嬉しく楽しいです。さらに、この実力が「レーティング」という数値によって表されるのも、わかりやすくて面白い点の一つだと思います。これまで何度か「もうやめてしまおうか...」と考えたこともありますが、今は「やっててよかったな」とふと思う時がしばしばあります。

 

おわりに

 

今回は「ブル音気持ちいい!ダーツ楽しい!」と言っていた自分が、3年経ってどう変わったかを振り返ってみました。これからも日々の努力にリーグに大会にと精進して参りますので、何卒よろしくお願いします。もちろん、名作会の活動も頑張りますよ。

 

ではまた!

YouTuberと見る案件詐欺の世界

どうも、作曲家のトイドラです。

皆さま、新年明けましておめでとうございます!

時間の経つのが早すぎてちっとも実感が湧きませんが……。

さて、新年早々恐縮ですが、今回のブログでは物騒な内容を取り上げます。

 

先日、僕の運営するYouTubeの「音楽ガチ分析チャンネル」で初の案件動画をアップしました。

www.youtube.com

Musicfulというアメリカ発のAI作曲ツールを紹介しています。

案件動画とはいえけっこう内容のある動画になっており、けっこう満足の出来です。

 

僕のチャンネルも登録者数がいよいよ9万に近づき、いろんな企業様からコラボ案件のメールやDMが届くようになりました。

そのうちの一つが上で紹介したMusicfulだったわけですね。

ところが、そういうコラボ打診のメールの中には、実はけっこうな割合で詐欺DMが混じっています。

今は物騒なネット社会ですから、YouTuberでない皆さんも迷惑メールやスパムは普段から受け取っていると思います。

しかし、僕が受け取るような詐欺DMは、YouTuberやインフルエンサーでもなければよっぽど見る機会のないもの。

というわけで、せっかくなので紹介してみましょう。

 

※ コラボのお誘い自体は、僕はとても嬉しく受け取っております!

※ 詐欺メールの中には、実在する企業の名前を騙るものがありますが、実際には企業さんは何も悪くありません! 勝手になりすまされているだけです。

 

まず、Twitterの方にはこんなDMが届きます。

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やあ、音楽ガチ分析チャンネル(トイドラ)さん。

有償でクリエイター同士がコラボするYouTube企画を考えてるんだけど、興味ある?

こういうのは典型的ですね。

自分の所属を明かさない、企画の内容を説明しない、文章が短すぎる……三拍子揃った詐欺DMです。

ちなみに、これと全く同じ文面のDMが同時に2人から送られてきました。

おそらく定型文なのでしょう。

 

こういうDMは、さすがにスパムなのがバレバレなので返事しません。

一方で、こんなDMも飛んできます。

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こんにちは。MSIの代理でご連絡しています。

プロモーション案件があるのですが、少しお話しできますか?

ワオ、MSI社と言えばゲーミングPCなどで名を馳せる大企業です。

ぜひともコラボを!と言いたくなるところですが……。

やっぱりこのDMでも、所属・企画の具体的な内容ともに具体的に明かされていません。

そこで、こんな風に返事しました。

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ご連絡ありがとうございます!

確認のため、企画内容や依頼内容、スケジュールなどの詳細を共有いただくか、MSIの公式メールアドレスからご連絡いただけますか?

お返事お待ちしています。

そしたら、案の定返事が来ませんでした。

まあなんとも。

 

もっと凝った詐欺メールだと、こんなのもありました。

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こんにちは、影響力のあるインフルエンサーさん!

Saramonicチームを代表してご連絡しています。

私はパートナーシップマネージャーのMelissaです。

あなたの音楽や効果音の使い方に感銘を受けました。

私たちはオーディオに情熱を持つ方とつながり、デジタル分野でSaramonicを広く紹介していきたいと考えています。

(以下略)

これは文量もしっかりとあり、一見問題なさそうなメールです。

しかし、実は送信元のメールアドレスが実際のSaramonic社のものと違ったんですよね。

そこで、「本社のメールアドレスから再送してください」と返事したのですが……

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その時にはメアド自体が消滅していました。

やっぱり詐欺だったか。

 

またある時には、Oura Ring という睡眠計測用のスマート指輪の会社を騙るコラボ案件が来たこともありました(メールは消えちゃった)。

スマート指輪をくれる上に、スポンサーになってくれれば 3,000〜12,000ドルという破格の報酬をくれるとのこと。

Oura Ring 自体は実際に販売されており、インフルエンサーを通した広告もたくさん出しているようなのですが、なぜ音楽ガチ分析チャンネルに???

そういうのは普通ガジェット系のチャンネルに頼むでしょう。

で、メールの返信をChatGPTに書かせていたら、気を利かせたGPTちゃんがこんなアドバイスをしてくれました。

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特に「詐欺かどうか検証せよ」とか指示していないのに、なんと優秀なAIでしょう。

結局このメールは、適当なマレーシアのフリーメールから送られた詐欺メールだったというわけです。

 

最後に余談ですが、こんなメールも来ています。

これに関しては詐欺なのかどうか分らないのですが……

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スマホゲームの広告案件です。

だから、なぜ"音楽ガチ分析"チャンネルに!?

こういうのはゲーム実況者が適任じゃないでしょうか。

手当り次第にメールを送っているとしか……。

ちなみに、この案件は仮に詐欺じゃなくてもご遠慮したく、特に返信していません。

 

というわけで、新年早々カオスをお見せしました。

YouTuberに見えている景色、少しばかり楽しんでいただけたでしょうか。

皆さんも、くれぐれもスパムには気をつけてくださいね。

 

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…………で、最後に告知!

今年の2月14日、希少な日本人作曲家のピアノ曲を演奏するコンサートを名古屋にて行います。

この告知は詐欺じゃありませんよ。

https://x.com/nu_composers/status/2006676795786211477?s=46

 

名作会の久しぶりのコンサートになります。

次は無いような珍しすぎるプログラムになっていますので、悔いのないよう是非お越しください!

Nintendo Switch2の新機能について今更ながら考える

ようやくSwitch2を入手しました、Southernです。

 

著者・Southernの近影

△著者近影(一部加工アリ)

 

クリスマスをまたぎ、私のようにNintendo Switch2を手に入れた方も大きく増えたことと思います。
今回はそんなSwitch2の、私自身も驚いた新機能について触れていきます。年末っぽいですよね。

 

※当記事には『Nintendo Switch2のひみつ展』の内容が含まれますので、これから当該ゲームをプレイされる方や、「Switch2の秘密を自力で解明するんや!」という方などは閲覧をお控えください。

 

 

 

 

 

驚愕の新機能・HD振動2


2017年に発売された初代Nintendo Switch
あれから8年の時を数え誕生したSwitch2は、その期待に違わず多くの新機能が搭載されました。

 

 

新機能は上記動画で紹介されているものだけではなく、本体と同時に発売された『Nintendo Switch2のひみつ展』というソフトによって、このハードのさらなるこだわりを垣間見ることができます。

 

Nintendo Switch2のひみつ展 紹介画像

引用:https://www.nintendo.com/jp/games/switch2/aahea/index.html

 

これがまぁなんとも、言うなれば男心をくすぐらせるようなものばかりなのですが、そこに記された新機能・HD振動2の内容に驚愕しました。

それがこちら。

 

Nintendo Switch2のひみつ展についての画像。HD振動2の説明

Nintendo Switch2のひみつ展についての画像。HD振動2の説明

 

なんと、HD振動2は振動のパターンを応用して音が鳴らせるのです。

 

 

実際には非常に単純


あまりにも画期的なシステム……かと思いきや、その仕組みは実に単純。

 

こちらのサイトによると、スピーカーで音が鳴る際には

  • 音の電気信号を受け取ったボイスコイル
  • 信号を受け取った際に出す磁力ダイアフラムを動かし
  • この動きで作り出された音波が空気を伝わり音として届く

……という経過を辿るそうです。

 

Nintendo Switch2のひみつ展についての画像。HD振動2の説明

 

HD振動2は、磁力でおもりを振るわせたその力でJoy-con2自体を振るわすとのことです。スピーカーと同様の効果をもたらすパターンを組み込んである、ということになりますね。

 

……と、こうして書き連ねるのは簡単ですが、スピーカーにもなる振動システムを小型化してJoy-conの隙間に埋め込む、その技術力は日本の誇りですね。まさしく。

 

 

この機能を活かせるのか?


ここまで解説してきたHD振動2の機能。
しかし素人の私からすると、この機能を活かせるゲームは何があるか、なかなか考えられないのです*1

 

そもそもコントローラーに含まれる振動機能は、ゲームの展開に合わせ、緊張感や興奮を煽るために使われるパターンが多いのではないでしょうか。

 

Pokemon Legends Z-Aについての画像。メガスターミー

△こんな感じの強敵が出現したときとか

 

HD振動2のユニットが一個しか入っていないということは、音を鳴らしている間はこの振動機能が使えないということを示しています。

 

また、コントローラーから特定の音だけが鳴る必要性は今後訪れるのか? そこについても疑問の余地が残ります。

そして何より、この機能は初代Joy-conにも実装されていたとのことです(なので厳密には新機能ではない)。もちろんSwitch2のほうがより綺麗に音が鳴らせるそうですが、にしても初代のこの機能を使ったゲーム、あったのでしょうか……。

 

私案ですが、例えば特定の人探しの際に、本体のスピーカーだけでなくコントローラーからも雑踏や話し声が聞こえてきて、それを使わないとクリアできない……なんてものがあったら面白いとは思います。
が、それではイヤホンなどを使っている人は切り捨てられそうですし、公共の場で鳴らすのは非常に難儀しそうですよね。

 

といった感じでこの機能は、言葉を選ばず言うなら宝の持ち腐れになりそうな予感がします。
もちろん、ゲームのいいシーンでコントローラーが震える高揚感はこれまで通りにやってほしいとは思います。その機能を犠牲にして現れるシーンは何か、注目していきたいと思います。

 

 

Switch2で、皆さまもよい生活を


なんだかんだ書き連ねてはきましたが、それでもNintendo Switch2というハードが8年越しという期間からの期待を大きく飛び越え、かなりの層に新たな喜びをもたらすものなのは疑いようもないと思います。なにより割安ですし。

 

皆さまにおかれましても、2025年の年末年始、そしてその先の日々を過ごす選択肢の一つに、Nintendo Switch2でゲームをすることを加えてみてはいかがでしょうか。

 

 

それではまたいつか。

 

 

*1:余談ですがマウス機能もそうだろ、と思われる方もいるかと存じます。しかしこちらは操作するための機能であり、ボタンなどある程度は他の機能が残っているうえ、実際に機能が使われたゲームがあるので、個人的にはHD振動2よりはなんとかなりそうだとみています。

シリーズ我が国の作曲家009「建依別彦」

シリーズ我が国の作曲家

・建依別彦(野町二)――二つの名を持つ作曲家を追って

 この作曲家の名を、最初から知っている人は、おそらく極めて少ないだろう。建依別彦――読み方すら即答できる人は多くないに違いない。ところが、この名の背後には、日本の近代文化史に確かな足跡を残した、きわめて著名な人物が隠れている。
 無名と著名、周縁と中心。相反する二つの位置が、同一人物の内部に併存していた。その事実に辿り着いたとき、私はこの作曲家について記録を残さずにはいられなくなった。

 冒頭に、どうしても述べておかねばならない。
 今回まとめる内容は、私一人の探索や調査だけでは、決して到達しえなかったものである。静岡県伊東市、ならびに同市立木下杢太郎記念館、そして丸井重雄先生の多大なるご協力があって、初めて一つの像として結実した研究である。この場を借りて、心より感謝を申し上げたい。

 そもそもの発端は、「建依別彦」という作曲家の名を、いくつかの断片的資料の中で見かけたことに始まる。国会図書館デジタルコレクション、大学図書館OPAC、古書目録。そこには確かに作品名があり、出版物があり、演奏記録がある。しかし、作曲家自身の輪郭だけが、意図的に消されたかのように見えてこなかった。

 決定的な糸口となったのは、伊東市の広報誌に掲載されていた、木下杢太郎記念館の過去の催しの記事である。そこに、木下杢太郎の詩に作曲された歌曲《黒日》の名が、ひっそりと記されていた【注1】。
 ここから藁にもすがる思いで伊東市へ問い合わせを行い、幸いにも丁寧な対応をいただいたことで、木下杢太郎記念館、そして丸井重雄先生へと繋がる道が開けた。

 丸井先生からは、ご自身の研究資料の提供にとどまらず、関係資料の所在確認、展覧会記録の整理、さらには野町二という人物についての私的な記憶まで、惜しみなく教示していただいた。調査というよりも、人と人との信頼に支えられた探索であったと言うべきだろう。

・建依別彦=野町二という確証

 こうして徐々に明らかになったのが、「建依別彦」という名がペンネームであるという事実である。本名は野町二(Nomachi Susumu)。1911年高知県生まれ。東京帝国大学文学部英文学科および同大学院を修了し、のちに文学博士号を取得、長年にわたり学習院大学で英文学を講じた、日本を代表する英文学者の一人である【注2】。

 この二つの名を決定的に結びつけたのが、平井康三郎の回想を含む文献であった。
 早崎えりなの著書『ベルリン・東京物語――音楽家クラウス・プリングスハイム』には、平井自身の言葉として、次のような証言が記されている。

 ――平井康三郎、安部幸明、そして野町二(筆名=建依別彦)の三人が、麻布のプリングスハイム邸に通い、和声学と対位法を学んだ【注3】。

 ここに至って、建依別彦は単なる「文人の余技としての作曲家」ではなく、当時最先端の西洋音楽理論を直接学んだ存在であったことが、史料的に確定したのである。

・若き日の作曲活動と名義の使い分け

 建依別彦(野町二)の作曲活動は、1920年代後半から1940年代初頭にかけて集中的に行われた。
 ピアノ独奏曲《湖畔の幻想(Visions by a lake)》は1927年に初稿が書かれ、1938年に改訂されている【注4】。この十年以上にわたる改訂の事実は、彼が自作を一過性の学生作品として放置せず、成熟した表現へと鍛え直そうとしていたことを雄弁に物語る。

Ionicaの表紙

 《Ionica》(1935)では、ウィリアム・コーリーの詩句が扉に掲げられ、英文学者としての専門性が、音楽の思想的基盤として明確に現れる【注5】。

サフォーにまねびて表紙



 《サフォーにまなびて(Saphique)》(1937)では、サッフォーのギリシア語原文と呉茂一訳を併記し、古典文献学的教養に裏打ちされた標題音楽が試みられている【注6】。

 注目すべきは、これらの器楽作品がはじめはすべて本名「Susumu Nomachi」名義で書かれ、後年歌曲とともに一貫して「建依別彦」名義が用いられたことから、初期に制作された楽譜には名義の混乱が見られる。この名義の使い分けは、彼自身が作曲と文学の位相を明確に意識していたことを示していると同時に、筆名を定める前は本名で作曲活動をしていた時期があることを示していると言える。

・英文学者・野町二としての生

 野町二にとって、作曲は決して「副業」ではあったが、「余技」ではなかった。しかし同時に、彼の人生の重心が英文学研究と教育にあったこともまた、動かしがたい事実である。

 1911年生まれの野町は、東京帝国大学文学部英文学科に進学し、同大学院を修了して文学博士号を取得した。これは当時としては、英文学研究者として王道かつ最上位の学術的キャリアであり、戦前から戦後にかけての日本英文学界の中核に位置する経歴である【注2】。

 その後、学習院大学に奉職し、長年にわたり英文学を講じた。研究者としての野町二は、いわゆる「理論的最先端」を競うタイプではなく、英文学をどのように読み、どのように理解し、どのように日本語で思考・表現するかという、きわめて基礎的かつ本質的な問題に力点を置いた学者であった。

イギリス文学案内の表紙

 その姿勢は著作に明確に表れている。
 代表的なものとして挙げられる『イギリス文学案内』は、単なる文学史概説ではなく、英文学を「読む行為」としてどう捉えるかを示した入門書であり、作品・時代・文体・思想を横断的に理解させる構成を持っている。また『小論文の書き方』は、英文学研究に限らず、大学教育における文章指導書として広く用いられ、文学研究を支える思考と文章の技術を体系化した著作であった【注2】。

 ここで重要なのは、野町二が詩を専門とする英文学者であったという点である。彼の関心は、物語論や思想史よりも、むしろ

-詩的言語の構造

-リズムと意味の関係

-時間性・刹那性・感覚の表現

といった領域に強く向けられていた。
ウィリアム・コーリーの詩句を掲げた《Ionica》、サッフォーの断片を正確な学術訳とともに引用した《サフォーにまなびて》は、偶然の選択ではなく、英文学者としての専門的関心の自然な延長線上にある。

 すなわち、野町二にとって音楽は、文学と同様に「言語にきわめて近い思考媒体」であり、
作曲とは、詩を読むことと同型の知的営為であったと考えるのが妥当であろう。

神話の世界の表紙

 またピアノ曲「サフォーにまねびて」と関連の深い神話についての著書もある。こういったことから、彼の創作態度は名を変えこそすれ、興味関心の分野は常に緊密に関係し合い、一つの美学形成に至っていたと考えるのがだとうであろう。

・晩年の生活と自己再編集

 丸井先生のお話によれば、野町二は晩年、青山に居を構え、東村山市にアトリエを持っていたという。英文学者としての長い公的生活を終えた後、静かな環境で、過去の創作と向き合う時間を持っていたことがうかがえる。未発表作品の原稿もアトリエにまだ多く残されているというお話であったが、ご遺族との連絡が取れなくなっており、ご自宅へのご連絡をしていただいているが、今のところ電話に出てくれる方は居ないようで困って居られた。
 私としても協力をお願いしていて心苦しさもあるので、もしこの記事をご遺族や関係者の方が目にされることがあれば、どうか伊東市立木下杢太郎記念館の丸井先生にご連絡をしていただきたく、また当会へご連絡を寄せていただきたく強く願うところである。

 1980年代後半から1990年代初頭にかけて出版された歌曲集――《木下杢太郎詩集より》《現代和歌四篇》《刈田元司詩選》――はいずれも、この晩年における自己再編集の成果である【注7】。
 重要なのは、これらが新作ではなく、戦前・戦中に作曲された作品を、本人の意思で選別・再構成したものであるという点である。

 《刈田元司詩選》の後記には、若書きであることへの自覚と、それでもなお残すべき価値への確信が率直に記されており、ここに一人の作曲家としての誠実な自己批評を見ることができる。

・音として甦らせるという行為

 私が《サフォーにまなびて》をデータ化し、音源として公開しようと決断したのは、この作品があまりにも長く沈黙を強いられてきたと感じたからである。

 この曲はピアノ独奏のために書かれ、まことに文学者らしい表題をもつ。その名が示すとおり、全体は「サッフォーのスタイル」で書かれ、どこかエロティックな感触を帯びている。やや荒削りではあるが、確かな知性と独特の感性を感じさせ、このまま眠らせておくには惜しい作品である。

 楽曲分析を行ったうえで音源化し、以下の動画として公開した。

www.youtube.com

 なお、野町氏が長年奉職された学習院大学にも資料提供を依頼したが、「記念館に行ってくれ」との一言のみで、友好的な返答は得られなかった。この点は、伊東市および木下杢太郎記念館から受けた手厚い協力と対照的であり、率直に言って残念でならない。

・結びにかえて

 建依別彦――野町二。
 二つの名は分裂ではなく、一人の知的生が置かれた複数の位相を示している。英文学者として言葉を読み、作曲家として音を思考したその営みは、いまなお静かに、しかし確かな重みをもって響いている。

 この記録が、インターネットという不確かな海に、一つの確かな錨として留まり、未来のどこかで再び誰かに拾い上げられることを願って、ひとまず筆を置くことにしたい。

・建依別彦(野町二)確認済作品一覧

器楽作品(作曲年)

1927 《湖畔の幻想(Visions by a lake)》初稿【注4】

1935 《Ionica》【注5】

1937 《サフォーにまなびて(Saphique)》【注6】

1938 《湖畔の幻想》改訂【注4】

1939 《Mazurka》

1940 《洋琴曲三篇》【注8】

歌曲(作曲年)

1937 《悲しみ》(萬葉集

1938 《黒日》(木下杢太郎)【注1】

1939 《亀》【注9】

1940–43 《残照》《秋風》《月夜》(木下杢太郎)

同上 《水辺の頌》《白樺》《野菊》(刈田元司)

同上 《集をいて》《朝羽振り》《なびきふる》《言いかけて》(現代和歌)

晩年の再編集・出版(※作曲年は戦前)

1986 歌曲集《木下杢太郎詩集より》【注7】

1986 歌曲集《現代和歌四篇》【注7】

1986 歌曲集《刈田元司詩選》【注7】

1991 組曲《孤独の姿》(再編集・出版)

1992 連曲《未知の国への道程》(没後刊行)


注記・参考資料・引用元

【注1】伊東市広報誌(木下杢太郎記念館催事紹介、歌曲《黒日》)

【注2】野町二『イギリス文学案内』『小論文の書き方』ほか

【注3】早崎えりな『ベルリン・東京物語音楽之友社、1994年、p.178

【注4】《湖畔の幻想》楽譜(1927 / Rev.1938)

【注5】《Ionica》楽譜(1935、William Cory 詩)

【注6】《Saphique》楽譜(1937、サッフォー原詩・呉茂一訳)

【注7】建依別彦歌曲集各後記(1986年)

【注8】『日本の洋楽百年史』秋山竜英 編、1966年

【注9】『現代日本歌曲』日本音楽文化協会監修、昭和19年

大学の実技試験でオリジナルのコンテンポラリー楽曲を演奏する話。

(初稿)

はじめに

こんばんは。Niynuh Swidffel(ニーヌ・スウィドゥフェル)です。

前回の記事ではfripSideのメロディにおけるリズム構造について分析を行いましたが、今回は少し趣向を変えて、私自身の「実技試験」にまつわる、現在進行系のプロジェクトについてお話ししたいと思います。

私の所属する大学では、副専攻の実技レッスンとしてユーフォニアムを履修しています。来たる来年1月、その成果を発表する「実技試験」が控えているのですが、ここで私は一つ、大きな決断を下しました。

それは、「自作のコンテンポラリー(現代音楽)作品を演奏する」ということです。

一見すると、意欲的な芸術学生の挑戦のように聞こえるかもしれません。しかし、この決断の裏には、切実かつ戦略的な、ある「生存戦略」が隠されています。今回は、技術的に未熟な奏者が、いかにして現代音楽というフレームワークを利用し、試験という戦場を生き抜こうとしているのか。その作曲プロセスと戦略の全貌を、一種のドキュメンタリーとして記録しておこうと思います。最後までお読みいただけますと幸いです。

圧倒的な練習不足

まず、現状を正直に告白せねばなりません。

私はユーフォニアムという管楽器のレッスンを受けてはいますが、恥ずかしながら大して練習していません。

本来であれば、伝統的なエチュードや協奏曲をさらい、美しい音色と正確な音程で朗々と歌い上げる……というのが実技試験の王道でしょう。しかし、今の私の技術(特に唇の持久力とピッチコントロール)は極めて低く、既存のレパートリーを演奏すれば、減点法で評価される試験において、「爆死」することは火を見るよりも明らかです。

「練習不足で下手だから、点数が低い」。

これは因果応報であり、甘んじて受け入れるべき結果かもしれません。しかし、私は考えました。

「吹けない」という事実を、「特殊奏法」や「演劇的要素」として再定義できないだろうか?

現代音楽の世界において、「伝統的な美しい音色」は必ずしも絶対的な正義ではありません。むしろ、楽器の構造的限界に挑んだり、ノイズを音楽的要素として取り込んだりするアプローチが正当に評価される土壌があります。

つまり、評価軸を「技術」から「概念」へとずらすのです。

これが、私が今回の試験でコンテンポラリー作品を自作・自演することに決めた、真の理由です。これは「逃げ」ではありません。「戦略的撤退と新たな戦線の構築」です。

作品のコンセプト:『Monologue IV -"ソロ・ユーフォニアム"のための-』

タイトルに込められた「嘘」と「真実」

今回作曲した楽曲のタイトルは、『Monologue IV -"ソロ・ユーフォニアム"のための-』です。

お気づきの方もいるでしょう。「IV(4)」ということは、I、II、IIIがあるのか?、 と。

実のところ、これまでの試験で発表したこともなければ、楽譜が存在するわけでもありません。しかし、私はあえて「IV」と名付けました。

これには2つの狙いがあります。

「4回目」という文脈の利用

私は今回で4回目の実技試験(半期ごとに実施されます)を迎えます。これまでの3回(普通の曲を吹いて玉砕した過去)を、あたかも「この境地に至るまでのプロローグ」であったかのように演出するメタ的な仕掛けです。「急に路線変更した」のではなく、「2年間の苦悩と探求の末に、ついにIVが生まれた」という偽の歴史を構築するわけです。

また、サブタイトルの『"ソロ・ユーフォニアム"のための』についたダブルクォーテーション("")も重要です。

本楽曲には、実はピアノ伴奏がつきます。本来なら「ユーフォニアムとピアノのための」とすべきところを、あえて「ソロ」と銘打つ。ここに皮肉と哲学を込めました。

「このピアノは伴奏者ではない。ユーフォニアム奏者の内面世界や、過去の残響が具現化した『孤独な影』である」

……と言い張るための「""」です。これにより、ピアノに助けてもらいながらも「これはソロ曲である」という概念を成立させています。

楽曲のテーマ:『Exhaust』

楽曲の核となるコンセプトは「Exhaust(排気)」、あるいは「Guttural(喉の奥からの唸り)」です。

旋律を奏でる機能を楽器から剥奪し、金属管としての物質性、および奏者の身体性(呼吸、打撃)に焦点を当てます。

要するに、「汚い音」「変な音」を主役に据えるということです。これなら、リップスラーが苦手でも、ハイトーンが出なくても全く問題ありません。

作曲のアプローチ:技術不足を逆手に取る特殊奏法

具体的に、私が採用した「ごまかしが効く(しかし前衛的に聞こえる)」特殊奏法たちを紹介します。これらは全て、私の技術的欠陥をカバーするために選定されました。

1. エア・サウンド (Air Sounds)

楽器に息だけを吹き込み、「シュー」「フォー」という音を出します。

  • メリット: 唇を振動させなくていいので、バテません。ピッチもなにも関係ありません。
  • 記譜: 楽譜には「Air sound only」と記述します。
  • (この奏法は第4稿から削除されました)

2. ディストーション / スプリット・トーン (Distorted Tone)

低音域で、あえて唇をリラックスさせすぎた状態で息を突っ込み、「バリバリ」「ベベベ」という割れた音を出します。

  • メリット: 普通なら「汚い音」として怒られますが、現代曲では「倍音の探求」「原始的な叫び」と評価されます。一番出しやすい最低音(ペダルトーン)でこれをやると、非常に迫力が出ます。

3. 発声奏法 (Vocalization / Growl)

楽器を吹きながら、喉で「うー」「あー」と声を唸らせます。楽器の音と声が干渉し合い、「ギュルギュル」という不気味なマルチフォニックス(重音)効果が生まれます。

  • メリット: 音程が多少ズレても、むしろその「ズレ」が唸りを生むので好都合です。

4. パーカッシブ・エフェクト (Percussive Effects)

  • Valve Click: ピストンを強く叩いて「カチャカチャ」鳴らす。
  • Palm Hit: マウスピースの入り口やベルを手のひらで軽く「ポン」と叩く。
  • メリット: リズム感さえあれば、管楽器の技術はゼロで済みます。「機械的な動作音」として構成に組み込みます。

ピアノパートの構築:1週間で完成させる「トーン・クラスター」

今回、伴奏を依頼するピアニストにも無理をさせないよう、ピアノパートは「1週間未満でさらえるレベル」に設定しました。和声進行やメロディは一切排除し、現代音楽の必殺技「トーン・クラスター」を多用します。

主な指示

  • Sempre pedale: 最初から最後まで、右のサステインペダルを踏みっぱなしにします。これにより、ユーフォニアムが単音を吹くだけで、ピアノの弦が共鳴し、浴室のような残響が生まれます。
  • Forearm Cluster: 左腕の肘から手首までを使い、低音域の鍵盤をまとめて「ドゴォォォォン!!」と叩きつけます。技術不要で、見た目のインパクトと音圧は絶大です。
  • Depress silently(無音の打鍵): 鍵盤を音が出ないようにゆっくり押し込み、開放弦を作ります。そこにユーフォニアムが吹き込むことで、ピアノから共鳴音が立ち上がります。

これらの要素を組み合わせることで、「技術的な難易度は低いが、音響的には極めて複雑で重厚」なアンサンブルを実現しました。

記譜法のハック

楽譜を作成する際、私は全ての演奏指示を英語で記述しました。これは単なる形式美ではなく、心理的な印象操作です。

例えば、「汚い音で吹く」と日本語で書くと、どうしても「ふざけている」「下手」というニュアンスが漂います。しかし、これを:

Distorted tone / Loose embouchure

と書くだけで、途端に「アカデミックな特殊奏法」に見えてくるから不思議です。

他にも:

  • 手のひらで叩く → Percussive palm hit
  • 音が消えるまで保つ → Let ring until the sound fades away

このように記述することで、審査員に対して「私は現代音楽の語法を理解し、適切に指示を出している」という姿勢をアピールします。もちろん、演奏者が困らないよう、楽譜の冒頭には日本語でPerformance Notesを別記するというプランを採用しました。

指導教員との攻防

さて、問題作の楽譜とデモ音源を、恐る恐る担当の指導教員に送りました。

先生からの返信は、現代音楽の本質を突く鋭いものでした。

「斬新で面白いね。でも、この強烈な低音とか吹ける?

効果音みたいな物だから、効果的に鳴らせないと格好良く行かないからね」

「効果的に鳴らせないと格好良く行かない」

これは金言です。つまり、「迷いながら吹くな」ということです。

「あってるかな?」と不安げに吹くノイズは、ただの「雑音」です。しかし、「これが世界の真理だ」という顔で確信を持って放つノイズは、「芸術」になります。

先生は、私が技術不足を隠そうとしていることなどお見通しの上で、「やるなら徹底的に演技しろ。中途半端が一番ダサいぞ」と背中を押してくれた(あるいは釘を刺した)のです。

これに対し、私は以下のように返信しました。

「おっしゃる通りです。単なる『雑音』や『失敗』に聞こえず、意図的な『表現』として響くよう、音の質感や立ち上がりを意識して練習します。

楽譜上の音程よりも、その場の空気感や音の圧力を支配できるように詰めていきたいと思います」

もはや学生と先生の会話というより、演出家と役者の会話です。しかし、これで腹は決まりました。

実技試験に向けた戦略

今の私に必要なのは、ロングトーンの練習でもスケール練習でもありません。

「私は孤高の現代音楽家である」という自己暗示と、ステージ上での立ち振る舞いの演技です。

当日のステージプランは以下の通りです。

  1. 入場: ニヤニヤしない。客席を見ない。深刻な顔で、何かに憑依されたように歩く。
  2. 準備: ピアノの椅子に座る伴奏者とも目を合わせない。長い沈黙を作る。
  3. 演奏:
    • 汚い低音を鳴らす際は、苦悶の表情を浮かべる。
    • 楽器を叩くシーンでは、機械が故障していく様を憑依させる。
  4. 終結: 最後の音が消えた後、ペダルの残響が完全に無になるまで、絶対に動かない。
  5. 退場: やりきった顔で、しかし愛想は振りまかずに去る。

審査員が「こいつ下手だな」と思う隙を与えず、「なんだこれは……何を見せられているんだ……」と呆気にとられている間に3分間を駆け抜ける。これが私の勝利条件です。

(第5稿(決定稿))

おわりに:コンテンポラリーは「救済」か

今回、実技試験のためにコンテンポラリー作品を作るというプロセスを経て、私は逆説的に「音楽とは何か」を深く考えることになりました。

技術が足りないから、技術を否定する。これは一見すると後ろ向きな「逃げ」の姿勢です。

しかし、その「逃げ」を極限まで突き詰め、論理武装し、楽譜という形に落とし込み、一つの作品として提示する行為は、紛れもなくクリエイティブな挑戦でした。

「吹けない」ことがコンプレックスではなくなり、「吹けないからこそ出せる音」という武器に変わった瞬間、私のユーフォニアムは単なる「下手な管楽器」から、「固有のノイズ発生装置」へと変化/進化を遂げました。

『Monologue IV -"ソロ・ユーフォニアム"のための-』は、私が大学生活3年間で積み上げてきた(あるいは積み上げられなかった)技術へのアンチテーゼであり、同時に、それでも音楽を続けようとする意志の表明でもあります。

来年1月の本番。その結果が吉と出るか凶と出るか。またこのブログで報告できる日を楽しみにしていてください。

それでは、また次回の記事で。

 

追記

(※本記事は、試験対策のための思考整理を兼ねています。審査員の先生方、もしこの記事を見つけても、どうか温かい目で見守ってください)

私とクリスマス(なんすいの場合)

もうすぐクリスマスですね。

2019年のこの時期、名作会の企画で、皆でクリスマスについて記事を書くよーというのをやってました。

私は当時それに参加していなかったので、今参加します。

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これまでのクリスマスを自分がどのように過ごしてきたか、正直あまり思い出せません。少しずつ思い出していきます。

大学時代はTwitterをいっぱいやっていたので、当時のツイートが残っていました。

 

2020年

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2021年

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2022年

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youtu.be

 

思えば、中学、高校、大学と、クリスマス周辺は何かと忙しくしていることが多かったかもしれません。

 

私は中学からずっと吹奏楽部に入っていたのですが、毎年冬にはアンサンブルコンテストがあり、それに向けてのハードな練習がありました。

それから、受験勉強の山場もこの時期でしたよね。

学生時代の私にとって、この12月という月は、必ず何か大きなイベントがあり、そのために重いストレスを掛け続けられる、そういう時期でした。

 

そして、ストレスで潰れそうになりながらもなんとか凌いだ先には、人工甘味料のように露骨なエモーショナルがあったものでした。

部活の練習帰り、えも言われぬ気持ちで帰り道を歩く、それを迎えてくれたのはクリスマスの煌びやかなイルミネーションの光で、良く出来たものだといつも思っていました。

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クリスマスの時期になると、よく思い出すエピソードがあります。

中学生の頃の話です。

 

クラスメイトに不登校の子(Sくんとします)がいました。

先生たちはSくんを何とか学校に通わせたいと思っていたようでした。

 

私は先生や(私の)親から、クラスとSくんとの接点を失くさないため、Sくんと定期的にメールでやり取りしてあげてほしいと頼まれました。昨日何食べた?とか、普通に雑談するだけでいいから、と。

クラスとSくんの中継者として私が選ばれたのは、Sくんが学校に来ていた頃に仲良くしていたのが私だったからでした。私自身、そうした形で必要とされたことが嬉しくて、喜んで中継役を受けました。

 

しかし実際のところ、Sくんと私はよほど仲がいいわけでもなかったし、私は私で学校に親しい友人関係が出来てきていたので、Sくんとメールをやり取りするモチベーションは急速に無くなっていきました。

メールを2,3通やり取りして、すぐにSくんとは何も話さなくなりました。

 

先生や親は定期的に「最近Sくんどう?」と私に聞いてきました。

そのたびに私は、適当に口から出まかせで、Sくんとの架空の会話やエピソードを喋っていました。

 

ある日、私のメール履歴を親に見られてしまい、私がとうの昔にSくんへのメールをやめていたことがバレました。

クリスマスも迫る、冬の夜でした。

心臓が恐ろしく速く打ち、気持ち悪い汗が止まりませんでした。親は怒らず、悲しい顔をしていました。

 

今にして見れば、不登校の生徒とのコミュニケーションを私一人に丸投げする大人もどうかしているかもと思いますが、それも今やどうでもいいことです。

卒業式の日、久しぶりにSくんが学校に来ていました。Sくんとろくに喋ったこともなさそうな陽キャたちが物珍しそうにSくんに話し掛けている中、私は目も合わせられずにいました。

今でもクリスマスのたびに思い出す、ということが確かです。

 

特に学生時代、新年度となる4月に全てがリセットされ、そこから人間関係などの「無理」が徐々に蓄積されていき、それが何かの形で崩壊するのが12月くらいになるってことだと思います。

もしも日本の新年度が10月だったら、私がクリスマスに抱くイメージは大きく違っていたことでしょう。などと思う時もあります。

youtu.be

 

クリスマスの時期になると街が活気付くように見えますが、その実は、みんなそれぞれ各々の時間を過ごしているので、逆説的によそよそしさを感じるような気がします。

他人同士のゆるやかな繋がりは薄れ、自然と感情が内向的になります。

そういう時は、一人でスーパーへ出掛け、シャンメリーと、少し珍しい野菜を買ったりします。今の私はそういうクリスマスが好きです。

 

こどものとき…

幸福なことに、私の家にはサンタさんが毎年来てくれていました。

5歳の頃、サンタさんにお願いしたのは電卓でした。25×64が1600(ぴったり!)になることを発見して、祖父母、親戚、宅配便の人などに自慢し回ったのを覚えています。

 

アクエリアスをお願いした年がありました。

チープ過ぎてサンタさんが哀れと思ったのか、翌朝、大量のアクエリアスと全然頼んでないおもちゃが届いていました。

 

今年はサンタさんが何を持ってきてくれるでしょうか。

 

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youtu.be

テンションコードを図式化したらこうなった 前編

弾け弾です。突然ですが皆さんは、音楽におけるテンションって何だとお考えですか?

手元にあった書籍を見ると「ハーモニーに緊張感を与える」と書かれています。

でも、音楽理論を勉強しようと思った時に、心理的な説明だけでは物足りない、もっと原理を知りたいと感じる人が私を含めているはずです。

それに何より、13のテンションと\flat13のテンションを比べた時、本番前の「上手くいくかな……」というネガティブな緊張感はどっちかと聞かれたら、たいていの人は\flat13を選ぶと思います。前者はもう「テンション上がってきた!」って感じの音で、日本語の「緊張感」のニュアンスとは遠いです。「緊張感」という言葉が持つ意味の曖昧さで、うまくごまかされている気分になります。

実際テンションコードの語源が何なのかは調べてもよくわからなかったのですが、私なりの結論は、結局直訳が一番わかりやすいということです。

テンションって何?それは「引っ張られること」。何が引っ張られる?コード=です。

ギターのチョーキング奏法を思い描いてみてください。弦を引っ張ると、音が上がりますよね。テンションとは、「弦が引っ張られて音が高くなる」それだけの事だと考えましょう。

参考動画:《ギターテクニック》チョーキングのやり方を解説してみた!

テンションの説明として、実際に使われるテンションを列挙していくという方法もあります。

「テンションとは、9と11と13があって、9には\flat\natural\sharpがあって、11には\natural\sharpがあって、13には\flat\naturalがあります。縦軸に数字、横軸に臨時記号で表を作るとこうなります。」

 \flat13 13
 11 \sharp11
 \flat9 9 \sharp9

これがテンションの全貌だと言われれば一見整理された形であり納得した気になります。でも、弦が引っ張られたものがテンションだと考えると、この整理の仕方には不都合もあります。引っ張られた状態があるなら、当然自然長(元の位置)もあるわけで、それを書き入れると

 5 \flat13 13
 3 11 \sharp11
 1 \flat9 9 \sharp9

元の位置がガタガタ。綺麗に並ばないのです。

今回の記事は、この改めて考えると難しいテンションコードをもっと原理に基づいて整理してみよう。そして、テンションコードの地図、テンションマップを作っていこうという回になります。

独自研究かつ全てを十分に説明できる状態ではないですが、いったん形になったので提案しつつ、図式化の中で私の過去記事の内容もおさらいできればと思います。 そして後編では、作ったテンションマップをどう使うのかについて詳らかにしていく予定です。

テンションマップを描こう

トライアド

テンションの前にまずは、自然長の弦から奏られる原位音が何より肝心要。3度ずつ垂直に積み重ねます。

 5
 3
 1

このそれぞれの段が一本の弦になっていて、引っ張ることで横に使える音を増やしていきます。

ナチュラルテンション

それではいよいよテンションを加えていきましょう。トライアドの各弦が緊張を持つことで、全音高くなった音を追加します。これらの9,13はジャズの理論でナチュラルテンションと呼ばれます。\sharp11だけはオルタードテンションですが、テンションマップではナチュラルテンションと同じ列に並びます。

 513
 3\sharp11
 19

オルタードテンション

トライアドの各弦が半分の緊張を持ち、半音上の高さになるとオルタードテンションとなります。

ここでも、一般的にはオルタードに属さない\natural11が含まれていることに注意してください。

 5\flat1313
 3\natural11\sharp11
 1\flat99

 \sharp9th

一応これで \sharp9以外のテンションは綺麗に並びました。 最後に \sharp9を含めたいのですが、

 5\flat1313
 3\natural11\sharp11
 1\flat99\sharp9

一つだけ突き出していて、収まりが悪いですね。 何故こうなってしまうのかというと、私の過去記事から重ねて述べている通り \sharp9は他のテンションとは性質が違うのです。

nu-composers.hateblo.jp

他のテンションは、自然長から音階の一つ隣の音に転位した「一次転位音」の性質を持っているのに対し、 \sharp9だけは2つ動いた「二次転位音」からできたテンションなのです。だから \sharp9がハブられているのは残当です。 ここで自然長自体についても、自然長から音階0個分動いた音「零次転位音」と見なして表を整理してみます。 \sharp9 \flat17になっていますが、この2つは過去記事で書いた通り、同じ意味です。

零次 一次 二次
 5
 3
 1
\flat1313
\natural11\sharp11
\flat99
\flat17

この通り、中央2列が一次転位音、左右に零次・二次とくっきり分かれているのです。 これで一般的に使われるテンションがすべて出そろいました。シンプルで、だんだんこの表の便利さが見えてきました。

17th

次は、同じく私の過去記事に登場した\natural17thをテンションマップに組み込みます。 これも二次転位音なので、\flat17thの隣に置いておきます。

 5\flat1313
 3\natural11\sharp11
 1\flat99\flat1717

マイナー、ディミニッシュ

一次転位音と同じく二次転位音も二列になりました。じゃあ零次転位音だけ一列なのがむしろ変ですよね。もう見出しにあるのでバレバレですが、テンションではないあいつらが表に入ってきます。

 \flat5 5\flat1313
 \flat3 3\natural11\sharp11
 1\flat99\flat1717

これですべての次数が2列になりました。1度だけはマイナーやディミニッシュに当たる音がありませんので不使用とします。

テンションの表を作ろうと思ったら、あるはずなのに無い「空白」が気になって、探してみると確かにそれに相当する音があった。まるでメンデレーエフ周期表みたいで面白いですね。 さらにsus4を[tex;\natural11]、augを\flat13と同一視するなどしていけば、この表はテンションに限らず色んなコードを表せるという可能性も見えてきます。

また、各次数の2列の中では、左側が暗い、右側が明るいとされる音が配置される傾向が共通していることにも注目です。実は各次数の右側は、これも過去記事で解説した13次までの自然倍音列の十二平均律近似に現れる音、左側はそれより少し低い音になっています。

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どちらかといえば右側が「安定」で、左側が中途半端で「不安定」な響きになっているのです。

弦は、チョーキングして高くするのは簡単でも、低くするのは難しいです。もし低いという状況が生まれたなら、それは経年劣化で弛緩したものです。マイナーコードや \flat13を人が悲しい、怖いと思うのは、このような古びて腐ったものに対する生理的な嫌悪感を思い浮かべているのかもしれませんね。

テンションマップ各部分の名称

表の中身が増えてきたので、各部分の名称を決めておきます。一旦、この図式化シリーズ内での便宜上の呼び方とします。

まず列に関しては既に決めている通り左2列を「零次」の列、中央2列を「一次」の列、右2列を「二次」の列とし、それら2列を細分化して、左側を「」の列、右側を「」の列とします。これは弦の弛緩と緊張から来ていまして、右側は緊張というよりは「安定」なのですが、意味的な対比とカン-キンの語呂が良いのでこのようにしました。

続いて行については、一度、三度、五度でも分かりそうですが、「一弦」、「三弦」、「五弦」とします。度数ではなく行全体の、一本の弦から変位した音の集まりであることを明確にするためです。 そして各マスに対しては、行と列の組み合わせで「○弦-○次-(緊/緩)」のように表すことにします。

零次一次二次
五弦 \flat5 5\flat1313
三弦 \flat3 3\natural11\sharp11
一弦 1\flat99\flat1717

セブンス

テンションコード以外も表したくなると、まだセブンスが表に出てきていなかったので、「七弦」の行を追加することを考えます。ただ難しいのは、マイナーセブンス、メジャーセブンス、ディミニッシュセブンスの3種類をどのように配置したらよいかという問題です。

そこでまた倍音列の考え方を使えば、自然長の位置には第7倍音を近似したマイナーセブンス、一次の列には第15倍音を近似したメジャーセブンスを置くことになります。ところが一次の枠は2列あるのに、マイナーセブンスとメジャーセブンスの間には12平均律の音がありません。そこでここでは、メジャーセブンスを2枠分使って置くことにします。 そしてディミニッシュセブンスはマイナーセブンスの左側、零次-緩列に置くことにします。これで七弦もセブンスで使われる三種類を当てはめることができました。

 \mathrm{d}7 7\mathrm{M}7
 \flat5 5\flat1313
 \flat3 3\natural11\sharp11
 1\flat99\flat1717

19th、21st

いよいよ最後のピースです。 今二次の列が寂しいですよね。そこにも実はテンションが隠されているとしたら…。

倍音列の考え方を使うと、零次の列は[8,10,12,14]、一次の列は[9,11,13,15]倍音の近似です。順当にいけば二次の列は[10,12,14,16]倍音が当てはまるはずで、一弦の17は10(=5×2)倍音だから実際そうなっていますね。三弦、五弦に関しては、長5度・短7度が該当し、一次-緊の音から半音上がっただけなので、七弦-一次のM7と同じく2列にまたがって配置します。これは前回記事で紹介した19th, 21stの二次転位音がちょうど対応します。

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七弦-二次の16倍音は基音とオクターブの関係になります。ただ実際はルートの音と同一視され、セブンスのテンションと聴くことは難しいため不使用とします。

それではようやく完成したテンションマップを見ていただきましょう!

零次一次二次
七弦 \mathrm{d}7 7\mathrm{M}7
五弦 \flat5 5\flat131321
三弦 \flat3 3\natural11\sharp1119
一弦 1\flat99\flat1717

まとめ

今回はテンションの原理を探り、全貌を図式化しました。テンションを「弦が引っ張られて音が高く」なったものとして、コードが弦の緊張と弛緩から出来ていると捉えると、それはテンション以外のコードにも敷衍できるスキームであり、さらにマイナー・メジャーに芽生える感情をも示唆しました。そうして出来た図はもはやテンションコードだけの地図ではないとも言えますが、弦の緊張度合いを一望できる図という意味合いで「テンションマップ」という名称は引き続き使っていきます。またテンションが「転位」で類別できることは過去記事から述べていましたが、テンションマップで列毎に分かれたことで視覚的にもそれが実感できました。

表の見え方としては、弦の変位だけでなく転位音・倍音列の考え方も入ったことで、結局は不使用箇所あり、セル結合ありのちょっとややこしいとも思える表になった感もあります。テンションコードを簡単に覚えられるかも、と思って読んでくださった方には期待外れだったかもしれません。

しかしそうはいっても現時点のテンションマップは実用に値します。後編ではそれを主張していきます。お楽しみに!