名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

Brainfeederのイカれた面子を紹介する

皆さんは楽しみにしていますか?

BEATINK.COM / KNOWER JAPAN TOUR 2024

KNOWERのライブを。私は楽しみです。

 

ということで今日は復習がてらKNOWERのメンバー2人も所属している音楽レーベルBrainfeederに所属する(していた)ミュージシャンを片っ端から聞いていきます。

どうでもいいですが、私はいつも何気なく音楽を聴いたり聞いていなかったりするのですが、現代海外ミュージシャンで私が好きな人は大体Brainfeederに属している(いた)ことがわかり、もうじゃあBrainfeederでよくね、みたいな感じに、なりつつあります。よくないね。

 

Brainfeederとは

Brainfeeder | MoodboardFlying Lotusが主宰するLAのインディー・レコードレーベルがBrainfeederです。インディーとは言いつつも、LAの音楽シーンをけん引するくらいには絶大な影響力を持っています。というか、グラミー賞候補者がゴロゴロいるので影響力がないわけがないのでした。

というわけでBrainfeederに所属する(していた)いかれたメンツを紹介していきます。

 

Flying Lotus


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主催のアニオタのおじさん。現代ジャズとヒップホップ、エレクトロニカなどが混然一体に混ざり合った音楽が現在のLAを中心に席巻していますが、主催ということもありお手本のようなLAサウンドです。この人がBrainfeederに人を入れたり入れなかったりをしています。

アニオタだからなのかは知らないですが、日本のアングラ漫画家・駕籠真太郎にジャケ写を依頼したり、日本に実在した黒人武士を主題にしたトンデモSFアニメYASUKEのサントラを書いたりと、音楽以外のジャンルとのクロスオーバーも盛んに行っています。というか、映画監督もしています。


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ちなみにJohn Coltraneの親戚です。

 

Thundercat


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アニオタのおじさん2。来日公演の時はサン・ラみたいなアクセサリに身を包み、ニンテンドーのTシャツを着、エヴァンゲリオンのアスカがでかでかとプリントされた真っ赤な多弦ベース(ラメ加工)を手に登場*1して私の度肝を抜きました。

配信されている曲は2~3分と短いですが、元々ゴリゴリのメタラーかつジャズマンでもあるのでライブではすさまじいインプロが追加され、元の曲が何なのかわからなくなります。なおThunder Catはベーシストですが、ソロの時はオクターバーを乱用するのでベースが何なのかもわからなくなります。


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して肝心の曲ですが、非常にイカしたリバイバルR&Bという感じ。ただリバイバルするだけでなく、ヒップホップを経由したグルーヴ感を感じさせたり、ストリーミングで聴取されることを前提とした作曲など現代的な側面も強いですね。

 

Louis Cole


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この記事で十分語られているのでもう特に書くことはないですが、しいて言えばこのMVしかりエンターテインメントへの視座が強烈です。また、感覚的な和声進行が多く「感覚で作ってそ~」とは思っていましたが、長谷川白紙との対談で思った以上に本当に感覚で作曲していることが判明*2し、私の度肝を抜きました。

演奏面でいえば非常にメカニカルなフレーズが特徴です。さらに言えば叩き方がやや特殊で、普通8ビートを叩くときに両手がクロスしますが、Louis Coleはしません。あと足がやばく、並みのドラマーならスティックで演奏するようなハイハットのフレーズをすべて足で演奏します。彼の手数の多さはこれが理由だと思われますが、目の当たりにしてもなお信じがたいです。

音作りも特殊で、特にスネアドラムの録り方が異常ですね。昔はそうでもありませんでしたが、最近作ではスネアドラムとバスドラムの音色の違いがほぼないところまで来てしまいました。これからどこへむかうというのでしょうか。

 

Geneviave Artadi


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Louis Coleといつもつるんでる人、という印象が強いですが、そんなことがどうでもよくなるくらい曲が変化球です。正直な話、際物ぞろいのBrainfeederの中でもかなりオリジナリティがあると思います。というか常にふわっふわしていてどうノったらいいのかよくわからない(この曲(Visionary)はかなりノリが良いが)です。Louis Coleの来日公演では前座を務めていましたが、あまりの浮遊感に最初ノろうとしていた客もあきらめて最終的に棒立ちになっていました。

普通に貶めているような書き方になってしまいましたが、そこが魅力なのです。

 

Hiatus Kaiyote


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オーストラリアのバンド。オーストラリアは影が薄いようでいて、GotyeとかHiatus Kaiyoteとか、何かしら存在感のある人を輩出しますね。

こちらもR&Bを基調として様々なジャンルをミックスしていることはLAシーンと違いはないのですが、出自の違いからかその結果出力されるものが全然違うのが興味深いです。

スタジオアルバムも素晴らしい出来だと強く思いますが、Hiatus Kaiyoteはやはりライブが素晴らしいと思います。ということで、ここで一旦Tiny Desk Concertの模様をぜひ見てみましょう。


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絵面が意味不明なインパクトで我々に襲い掛かってくるのは仕方ないとして、ライブバンドとしての完成度の高さをぜひ感じてほしいと思います。

 

長谷川白紙


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日本人で唯一の所属ミュージシャンは長谷川白紙です。所属が発表されたときはさすがに驚きましたね。Flying Lotusが主催するTHEHITというライブに出たのがきっかけだったらしいですが、何があるかわからんもんです。

そもそも日本の音楽シーンをちゃんと注視しているFlying Lotusは本当に何者なんでしょうか。英語圏から長谷川白紙までたどり着こうと思うと相当な労力が必要だと思うのですが.......。


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(↑THE HITの映像)

長谷川白紙も徐々に音楽性が変わってきたというか、コアとなる部分は多分あんまり変わっていませんが、表層として現れるカオスの制御の仕方がだいぶ変わってきたなあという印象を受けます。

 

Dorian Concept


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オーストリアのミュージシャン。ジャンルでいうとエレクトロニカになってしまうのでしょうが、エレクトロニカという枠にカテゴライズしてしまうには惜しいくらい色んなジャンルの影が見え隠れしています。

音作りに関しては偏執狂の域で、古いアナログシンセサイザーなどで一回音を作ったうえで演奏したフレーズをセルフサンプリングしてさらにデジタル加工したものを断片化して再配置しているそうです。昔の小山田圭吾みたいだぜ。

ちなみに芸名のDorian Conceptは本当にドリア旋法に由来しているそうです。ドリア旋法はみんな大好きですからね。

 

Iglooghost


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ロンドンを拠点に活動するイギリス人ミュージシャンです。なんというか(私が意図的にそういう人間を選出しているというのもありますが)、Flying Lotusの趣味はだいぶわかりやすいですね。

最近だとそうでもないのですが、このころ(6年前くらい)はFuture bassっぽいIDMをやっていました。今はこんな感じ。


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とまあこんなもんです。

全然趣味じゃないのでここではほぼ紹介しませんでしたが、ラッパーとかゴリゴリのヒップホッパーもたくさん所属しています。Flying Lotusはヒップホッパーですからね!

*1:ポーズとかではなく本当に日本のアニメが大好き。家にはクソでかいアスカのタペストリーが飾ってある

*2:

ルイス・コール×長谷川白紙 フジロックで実現した夢のブレインフィーダー対談 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

一緒に聴いてよ、マイナー交響曲

オーケストラ

 花粉がつらい。なんで杉の乱交パーティーに巻き込まれなければならないのかという根本的な疑問が解けぬまま、毎年巻き込まれ続けている。なんだが、吹奏楽界のくだらない「批評するな騒動」に巻き込まれたのと同じ気分である。

 こういうときは、シンフォニーに身を委ねて、外出も控えるに限る。

 ということで、あれこれ書きましたが、また交響曲聴きたい症候群を発症したので、皆さんと分かち合いたいというだけの回です。5曲ほどご紹介しますので、一緒にあれこれ妄想していただけたら幸いです。あまりコメントが付くこともないのですが、ともに「批評」しあえたら良いので、思い切ってコメントしてくださったらなお嬉しいです。

 

1.Levko Kolodub/Symphony No.9"Sensilis Moderno"

 まず初めにご紹介するのは何かと最近話題のウクライナ出身の作曲家コロドゥーブの書いた第九番のシンフォニーです。書かれたのは2004年と新しく、非常に慎重にではあるもののモダニズムが入ってきます。モダン度合いはドイツ本流と比べれば1世紀ほど時代が異なっているかとは思いますが、深刻さと静謐さのコントラストが見事。途中から少しPopな要素、調性と民族性が現れるのもこの地域のモダニズムの受け取り方として納得です。タイトルは「敏感な現代」とでも言えましょうか。現代に対して感覚を尖らせているという意味と考えて良さそうかなと思います。

Levko Kolodub

 作者のレフ・ミコワヨビッチ・コロドゥーブは1930年ウクライナのキーフに生まれ、キーフ音楽院で学び、ウクライナ作曲家協会の理事長を務めるまでに出世します。
 日本では殆ど知られておらず、一部こどものためのピアノ曲集にその名を見ることがある程度ですが、実に4つのオペラ、2つのバレエ、交響曲は12曲残したという、立派なシンフォニスト。その作風は時代と共に変わりますが、シンフォニーをもっと体系的に聴くことができればもっと彼の変遷が理解できるのではないかと思います。

 さて説明が長くなりましたが曲を聞いてみましょう。サムネに使われているダリの絵画が強烈ですが、まあ気にせず音に集中してみてください。独特の折衷様式に立脚した独特との世界が聴けるはずです。

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2.Merab Gagnidze/Symphony No.65

 二曲目はジョージア出身のメラブ・ガニーゼの書いた第65番の交響曲です。交響曲をたくさん書いた作曲家というのはハイドンを除いて案外マイナーだったりするのですが、それにしてもすごい数です。
 ジョージアの作曲家の音楽は、旧スターリン体制下の影響が遅くまで残り、民謡性と社会主義リアリズム路線が残り続けることが多いのですが、ガニーゼの音楽はそこから脱却しています。65番の交響曲は終始、抽象的で静かな印象の曲ですが、ポツポツと散発的に置かれる和音が独特な効果を与えているように思います。不思議な雰囲気ですが、飽きることもなく聴けてしまうのは音に対する感性の強さと構成力にあるのかもしれません。かなりオーケストラも扱い慣れている印象で、静謐ながら極めて立体的な音楽構成が図られているように感じます。

Merab Gagnidze

 作者のメラブ・ガニーゼは1944年ジョージアトビリシに生まれ、トビリシ音楽院を卒業・作曲はダヴィッド・オレクサンドロビッチ・トラーゼに師事、その後モスクワに渡って活動します。
 モスクワでは児童劇場の責任者として働き、自身もそのジャンルに音楽を書いていたそうです。手元の資料には交響曲は54曲発表とありますが、存命の作曲家なのでその後も書き進みこの65番は割に近作なのだろうと思います。
 その他にもピアノ曲などがyoutubeで散見され、基本的には民族性の強い作風を貫いているようでした。さて聴いてみましょう。本人の公式チャンネルの音源です。

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3.王婕/Symphony No.1

 三曲目は中国生まれの作曲家王婕(Wang Jie)の交響曲第1番です。記念すべき第一番の交響曲は2017年に書かれた新しい作品ですが、内容は中国的な民謡性と現代的なPop性も感じるものとなっています。調性がはっきりと感じられるので微妙という方もいるでしょうが、譚盾の作ったラインにある作曲家と考えると、モダニズムもしっかり入り折衷的であるところなど、今の世代的な音楽と言えるかもしれません。
 中国的なポルタメントの多様と、アメリカで吸収したと考えられる金管楽器の大胆なら仕方がありそうでない雰囲気で、どちらの文化もしっかり吸収したということがわかります。また交響曲としては小ぶりで聴きやすく、疲れないのも良いところかなと思います。
 文革以降の中国の作曲家の動静は注目しなければならないものでもあり、若い世代の作曲姿勢を垣間見られるこの曲は重要な存在と言えると思います。なんとなく日本でやっても人気が出そうな気がしますね。コープランドアメリカっぽさをしっかり取り入れられているのが素晴らしいなと感じます。

王婕

 王婕は1980年に中国の上海生まれ。5歳でピアノの天才として知られる才能の持ち主で、2000年からマンハッタン音楽学校に渡り、リチャード・ダニエルプールなどに作曲を師事、学生時代に発表したオペラですぐに話題となりました。重鎮であるジョン・コリリアーノにも激賞されるなど、アメリカでの活躍は凄まじいものがあり、世界的にも紹介される作曲家になっていきました。
 様々な音楽の折衷様式を確立していますが、コリリアーノの言葉によれば、それらは単純なモチーフから紡ぎ出されており、今の音楽シーンでは珍しいとのことです。
 第1番の交響曲「目覚め」と題されていて、これは非常に広い意味をもった、主張のある作品になっていることを暗示しているように感じます。
早速聴いてみましょう。

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4.Julian Anderson/Symphony No.2"Prague Panoramas"

 四曲目はイギリスの作曲家ジュリアン・アンダーソンの近作、交響曲第二番「プラハの風景」です。作曲年は2021年でごく最近の作品ということがわかりますが、古典的楽章構成、サブタイトルも古典的と今の時代に書かれるべき作品なのかと疑問になりますが、聴いてみるとその疑問はたちどころになくなります。
 美しい交響曲としての美と、現代的折衷様式が非常に高度な書法で結実しており、現代から交響曲というものを見直そうという気概をはっきりと感じ取れる名作だと思います。日本にはこういう仕事のできる人がほとんど居なくなってしまいました。交響曲というハイドン以降はスタイルではなく美学そのものになってゆくものであり、哲学体系的にそれを理解せず、形だけ取ったJ-POPシンガーの駄作などを生み出してしまったのは国際的汚点と言わざるを得ませんね。またそれをゴーストライティングした人間も、まったく畑違いでありましたし、交響曲などファッションのようなものだとでも思っているのでしょうか。この曲を聴いてその理解度の違いと気概に気が付き、今すぐ馬鹿な行為はやめてもらいたいものです。圧倒的美しさと、構成力、さらに深い伝統愛に最新語法への研究とこの曲が示した現代の交響曲像は、もう無視できるものではないはずです。

Julian Anderson

 ジュリアン・アンダーソンは1967年にイギリスのロンドンで生まれました。英国王立音楽院で、ジョン・ランバートケンブリッジ大学でアレクサンダー・ゲーアに、加えて個人的にトリスタン・ミュライユにも師事しており、またメシアン、ノアゴー。リゲティのコースでも学んだというキャリアを持ちます。その後母校の英国王立音楽に奉職し、ハーバード大学を経て、ギルドホール音楽演劇学校で教鞭をとっているそうです。
 このあたりでピンとくる人は少ないと思いますが、バーミンガム交響楽団クリーブランド管弦楽団付きの作曲家を努めていたことから、吹奏楽作品も書いています。なんだか某日本のつまらない交響曲とも被ってきますが、全く土台が違うことがわかります。
 モダニズム・スペクトル・電子音楽を柔軟に使い分け、極めて感度の高い美しい音響を構築する作風で知られています。ときにはPopsの語法さえも取り上げ、とにかくその響きの世界は官能的にすら聞こえます。多くの師からの影響がはっきりわかり、充実した作風を形成し世界で高い評価を得ています。
さて聴いてみましょう。これぞ現代のシンフォニーといえるでしょう。

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5.Willhelm Killmayer/Symphony No.3

 さて本日最後に紹介するのは、最近で最も感動した一曲で、ドイツの作曲家ウィルヘルム・キルマイヤーの書いた第3番の交響曲です。聴いてみると同音の連打と突然の三和音、民謡的メロディの断片と、混沌とした和声などに満ちており、構成も何だ支離滅裂なようですが、これでいて極めて純粋な保守主義の作曲家なんです。ただメロディの作り方、全体の構成法が馴染みがないだけで、古典音楽とストラヴィンスキー的な音楽エッセンスをミックスして得られた真にオリジナルなものなため、我々は保守性を認識するのに時間がかかるのです。
 この作曲家は原始主義的な作風を持っていることから、オルフの系統を純粋に引き継でいると知ると、今度はなるほど曲が理解できてくると思います。三和音が躊躇なく現れ、無論旋法性、調性を持つ音楽です。ただトゥッティーよりも独立的に楽器を使う事が多く、巨大な編成の割にダイナミクスは抑えめにできています。
 本当に個性的で似た作風を採る人に心当たりがありません。キルマイヤーは3曲のシンフォニーを書いていますが、この3番はもっとも長大で20分、その他のものはごく短く、2番などはなんと8分ほどです。内容も充実しているので今回は3番を選びましたが、この独特の世界は他では味わえません。おすすめです。

Willhelm Killmayer

 ヴィルヘルム・キルマイヤーは1927年ドイツのミュンヘンに生まれ、基礎を学んだ後合唱指揮者となり、声楽作品を書くようになります。この作品がカール・オルフの目に止まり激賞され、彼に師事した後、アマチュアへの作品提供を主戦場とする独自の道を歩みました。
 一方でミュンヘン音楽大学で長年指導に当たり、先程来述べている古典と原始主義に立脚する作風を確立、保守作曲家の代表として独自の作風を構築しました。惜しまれつつ2017年に亡くなりましたが、徐々に作品の録音もなされてきているようで、もっと多くの曲が自由に聴けるようになると良いとの希望を持ってしまいます。
さあ聴いてみましょう。交響曲への先入観が吹っ飛びます。

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 さて今回も5曲ユニークだなと思った交響曲を紹介しました。いずれも劣らぬ傑作揃いだと思いますし、私もこういう次元で音楽をかければと思うばかりです。それと同時に優れた音楽は、現代日本のまずさも強く教えてくれるもので、狭くみっともない世界でだけスターになれることを、プライドと思ってやっている音楽の多さに辟易します。今後も力強く音楽の大海を紹介し、日本の狭さを打倒していきたいと思うばかりです。

正規位数条件(べき生成スケール後編)

本記事は、なんすいの理論記事シリーズの続きです。過去記事で紹介した用語を基本断りなしに使うので、本記事最後の用語集を眺めてから読むのをおすすめします。

 

 

 

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こんにちは、なんすいです。

 

前回、12音律の正規べき生成スケールを全て見つけました。

正規というのはインターバル構成の条件、そしてべき生成スケールとは、べき音列から生成されたスケールのことでしたね。

結果見つかったスケールは次の3つでした:

 

・ホールトーンスケール [0,2,4,6,8,10]

・リディアンスケール [0,2,4,6,7,9,11]

・ロクリアンスケール [0,1,3,5,6,8,10]

 

同様にして、今回は12音律以外の音律で正規べき生成スケールを探してみましょう。

 

 

 

n音律のホールトーンスケール

n音律における、べき数pによるべき生成スケールを考えてみましょう。(「n/pスケール」と書き表すことにします)

n音律の正規べき生成スケールを探すには、各pによるべき生成スケールを順に確認していけば良いのですが、前回述べた「べき倍音列の網羅性」を考えて、まず「pがnと互いに素であるかどうか」で場合分けしてそれぞれ調べていきます。

以下、aとbの最大公約数をGCD(a,b)で書き表すことにします。

 

pがnと互いに素でない場合、正規条件からGCD(n,p)≧3ならばべき生成スケールは正規になり得ません。

従って、nが奇数のとき、nと2は互いに素なのでGCD(n,p)>2 つまり正規べき生成スケールを持つpはありません。

一方nが偶数のとき、GCD(n,p)=2になるようなpにおいて正規べき生成スケール[0,2,4,...,n-2]が出来ます。

これは全てのインターバルが2であるようなスケールで、n=12を代入すればホールトーンスケール[0,2,4,6,8,10]になります。

 

以上をまとめると、nとpが互いに素でない場合については、nが偶数のときに限り、ただ1つ[0,2,4,...,n-2]という正規べき生成スケールが存在することが分かりました。

このスケールはいわば一般のn音律におけるホールトーンスケール、と呼ぶことが出来るでしょう。

 

 

 

nとpが互いに素である場合

では一方、nとpが互いに素である場合はどうでしょう。

全てのpに対して正規べき生成スケールが存在すると言えるでしょうか。

 

例として、13音律について考えてみましょう。

13は素数なので、12以下の全てのpが互いに素なべき数になります。

まずはp=5を選んでべき生成スケールを見てみましょう。

位数8のところでちょうど正規となるスケールが見つかりました。

 

では次に、p=3を選んでみましょう。

この場合は、正規条件を両方満たすスケールにはなりませんでした。

すなわち、nとpが互いに素の場合、正規べき生成スケールが得られるときと得られないときがあるようです。

 

 

 

正規性を満たす条件を考える

nとpが互いに素のとき、そのべき生成スケールは、元のべき音列の長さを1ずつ増やしていくごとに1つずつ新しい音がスケールに追加されていく、という特徴がありました。

ここで正規条件を再び確認してみましょう。

 

《正規条件》

①各インターバルの長さが2以下

②長さ1のインターバルが連続しない

 

べき音列の長さkを増やしながらべき生成スケールを作っていくことを考えると、kが増えるにつれて各インターバルの最大値はだんだん減少していきます(増加することはありません)。

したがって、「kがあるところより大きければ条件①が満たされ、kがあるところより小さければ条件②が満たされる」ということになります。

すなわち、条件①を満たす位数の領域と②を満たす位数の領域、2つの領域で被っているところがあるかどうか、が「正規べき生成スケールが存在するかどうか」を左右しているのです。

 

また前回「正規スケールから1つでも成分を取り除いたり加えたりすると、正規性は失われる」という事実を示したので、結局以下の2パターンが考えられるということになります:

 

(i)2つの領域がちょうど1つのある位数でだけ被っている→その位数のときに限りべき生成スケールが正規となる

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(ii)2つの領域が被っていない→正規べき生成スケールは存在しない

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正規条件を満たす位数kの条件

最初に、次のような定義を用意します:

 

l_+をMOD(l_+ p)=1 かつ 1≦l_+≦n-1,

l_-をMOD(l_- p)=n-1 かつ 1≦l_-≦n-1

を満たすものとし、

l = min(l_+,l_-) とする。(minは括弧内の数の最小値)

 

例として、n=13,p=5の場合を考えてみましょう。

pの倍数を13で割った剰余は、順に

0,5,10,2,7,12(=13-1),4,9,1,... と続きます。

すなわちMOD(5*5)=13-1, MOD(8*5)=1だから、

l_+=8, l_-=5 そして l=min(8,5)=5

となります。

 

lたちは、nとpによって決まる値というわけですね。

これを使って、正規条件を満たすべき生成スケールの位数kの条件を与えます。

 

《命題①》

位数kのn/pスケールが正規条件①を満たす⇔k≧n-l

 

[証明]

べき生成スケールの表を思い出して下さい。

これを逆から遡っていくことを考えます。

すなわち、k=nの状態[0,1,2,...,n-1]からべき音列の後ろの音を1つずつ取り去っていきます。

そうすると、べき生成スケールの位数は減っていき、どこかで条件①を満たさなくなります。

それは、長さ3以上のインターバルが初めて生まれたとき…すなわち、取り去った音群のうちで連続したものが現れたときです。

 

よって、音群(MOD( (n-m)p, ... , (n-1)p ) )を取り去ったとき、この両端の音程

MOD( (n-1)p)-MOD( (n-m)p )=MOD( (m-1)p )

が初めて1or -1になるような個数mの時点で、条件①を満たさなくなります。

これはlの定義からm=l+1であると分かるので、条件①をギリギリ満たす位数はl個取り去ったとき、すなわちべき生成スケールの位数がn-lのとき、ということになります。■

 

 

《命題②》

位数kのn/pスケールが正規条件②を満たす⇔k≦min(2l,n-l)

 

[証明]

定義から、

(a)MOD(0,l_- p,2l_- p)=(0,-1,-2)

(b)MOD(0,l_+ p,2l_+p)=(0,1,2)

となるので、(a)(b)どちらかの3つ組がスケールの中に現れた時点で、正規条件②は満たされなくなります。

(※MOD(l_-p)とMOD(2l_+p)など, 0以外の(a)の要素と(b)の要素の値が一致することは有り得ません(容易に分かります))

一方をlで書き直すともう一方はn-lで書き直せるので、

(a')MOD(0,lp,2lp)

(b')MOD(0,(n-l)p,2(n-l)p)

と出来、さらに 2(n-l)≡n-2l (mod n) だから、n/pスケールで位数を増やしていったときに、

位数が2l+1に達する→(a')が揃う

位数がn-l+1に達する→(b')が揃う

となるので、結局条件②を満たすギリギリの位数は、min(2l, n-l) となります。■

 

 

以上の命題①②から、正規条件①②を満たす位数kの条件は

n-l≦k かつ k≦min(2l, n-l) だから、これを両方満たすkは、

n-l≦2l ならば k=n-l 

n-l>2l ならば 解なし、つまり正規べき生成スケールは存在しないということになります。

n-l≦2lの場合にkがただ1つの値n-lに絞られているのは、「正規スケールから1つでも成分を取り除いたり加えたりすると、正規性は失われる」という事実にも合致していますね。

まとめると、次のようになります。

 

《正規位数条件》

n/pスケールが正規スケールを含む⇔n≦3l

このとき、正規性を満たすスケールの位数はk=n-l

 

正規位数条件の使用例

例えばn=56として、56/pスケールが正規スケールを持つかどうか調べましょう。

愚直にやれば、位数kを1つずつ増やしていって、正規条件②を満たさなくなるまで調べる必要がありますが、今回のようにnが大きいと大変ですよね。

そこで、先程の位数条件を使います。

 

まず、p=5の場合を調べてみます。

5の倍数のMODを計算していくと、l=11であることが分かりますが、56>11*3=33 だから、正規位数条件より56/5スケールは正規スケールを持たないことが分かります。

 

次に、p=9の場合を調べます。

9の倍数で56に近いのは6*9=54(=56-2)と7*9=63(=56+7)なので、この2つを使ってMODが1になるようなものを作ります。

すなわち3*54+63=3*(56-2)+(56+7)=4*56+1≡1(mod 56)

よってl=3*6+7=25

56≦25*3=75 だから、正規位数条件より56/9スケール正規スケールを持ち、その位数は25であることが分かります。

 

 

 

べき生成スケールの広い世界

さて、ここまで来て、あらゆる音律に対してべき生成スケールの世界が開けました。

現在作られている音楽のほとんどを支配している、12音律べき音7のべき生成スケールによる調空間は、その「12」「7」そして位数「7」という数に縛られながら音楽理論を展開させています。

すなわち、また別の音律におけるべき生成スケールに基づいて調空間を構成した時、そこには全く別の数に縛られた物理法則を働かせていくことになるでしょう。

それはまるで音楽構造のパラレルワールドが犇めいているようです……


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へぇ、ここがメイド喫茶かー。入ってみよう

 

ウィーン

 


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「お帰りなさいませ、ご主人様︎︎︎︎♡」

(目が3つある緑色のメイドさんが席へ案内してくれる)

 

「このお店、メニューに『ライブ』があるんですね。入れるとメイドさんが踊ってくれるんだ…1つお願いしてみよう」ポチ

(スピーカーから56音律べき数9のべき生成スケールを基にした調構造のある電波ソングが流れ、メイドさんが敏捷に踊り出す)

 

という世界も存在しているかもしれません。

 

 

 

【定義・表記など】

数列によって音列を表記する方法:インターバル構成など単に音列のときは()、スケールを数列で書くときは[]で囲むことで区別する

 

スケールのインターバル構成:スケールの各インターバル(隣接音程)を順に並べた数列

 

巡回同値関係:2つのスケールを適当な巡回によって一致させることが出来るとき、2スケールは巡回同値関係で結ばれているという

 

巡回同値類:どの2スケールを取っても巡回同値関係で結ばれているようなスケールたちの集合を巡回同値類といい、そこに含まれるスケールを1つ取ってきて括弧でくくり表記する

 

位数:スケールに含まれる音の個数

 

正規条件:①各インターバルが長さ2以下②長さ1のインターバルが連続しない

正規条件を満たすスケールを正規スケールと呼ぶ。

 

スケール:  n音律のスケールとは、次の3条件を満たす音列である:

①要素に0を必ず含む

②全ての要素が0以上n-1以下の相異なる整数である

③要素が左から小さい順に並んでいる

 

スケール化可能性: n音律のもとで音列aが次の条件を満たすとき、スケール化可能であるという:

①要素に0を必ず含む

②各要素a_jに対してMOD(a_j)が相異なる

 

スケール化: スケール化可能な音列に対して、その音列の各要素を小さい順に並べ替えてスケールを生成することをスケール化、生成したスケールを生成スケールと呼ぶ。

 

MOD: n音律のもとで、MODは次のように計算される:

単音eに対して

MOD(e)=(eをnで割った余り)

音列a=(a[0], a[1], ... , a[m-1])に対して

MOD(a)=( MOD(a[0]), ... , MOD(a[m-1]) )

 

べき倍音列: ある数の倍数を0から順に連ねた音列。(0, p, 2p, ... , (k-1)p) を「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼ぶ。

 

べき生成スケール: べき倍音列から生成されるスケール

 

べき倍音列の網羅性: n音律のもとで、0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,11の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であること(pはべき数)

 

------------------------------↓New

 

l_+,l_-,l:

l_+をMOD(l_+ p)=1 かつ 1≦l_+≦n-1,

l_-をMOD(l_- p)=n-1 かつ 1≦l_-≦n-1

を満たすものとし、l = min(l_+,l_-) とする。

 

正規位数条件: n/pスケールが正規スケールを含む⇔n≦3l

このとき、正規性を満たすスケールの位数はk=n-l

東方曲紹介~永夜抄編~

 久しぶりのブログになります。最近は花粉症のために頭がぼーっとしていますが、なんとかやっています。

 

 今回は東方プロジェクトの個人的お気に入り楽曲紹介第二弾です。前回は東方幻想郷東方紅魔郷の曲について紹介しました。

 

nu-composers.hateblo.jp

 

 今回は、東方永夜抄の中で個人的にお気に入りの楽曲を紹介していこうと思います。

 「発表順にいけば次は妖々夢では?」と思う人もいたりいなかったりするかもしれませんが、個人的に妖々夢より永夜抄の方が好きなので今回は妖々夢をすっ飛ばして永夜抄の曲紹介をします。いつか妖々夢も扱いたいですが、なんとなくそんな日は来ない気がします。

 

 

 最初の曲はこちらです。

 

 タイトル画面テーマの永夜抄~Eastern Night

youtu.be

 

 東方永夜抄は、ものすごく大まかに言うと月が偽物に入れ替えられるという異変を主人公サイドが解決するというストーリーです。また、月に関連して竹取物語や日本の古典的伝承がモチーフになっており、曲も全体的に和風で趣のある仕上がりになっています。生死や時間も作品のテーマになっているので落ち着いた雰囲気になっているのかもしれません。

 「永夜抄~Eastern Night」はそのタイトルテーマということで、月が夜空に浮かび草が揺れている優しくも厳かな雰囲気が体現されています。これは永夜抄全体を貫いている雰囲気と言えるでしょう。

 

 お次は2面ボスのミスティア・ローレライのテーマ曲「もう歌しか聞こえない」です。

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 「もう歌しか聞こえない」というタイトルを聞いて、なんとなく小田和正の「もう歌は作れない」を連想した人もいるんじゃないでしょうか。ちなみに私は連想しました。「これはもしや何かのオマージュか…!?」と思われた方、残念ですがなんのオマージュでもありません。

 

 「歌は元気の元。悲しい歌なんか歌って感傷的になってるんじゃないわよ。自殺したくなる様な歌なんて以ての外!」

というのが作中のミスティアのセリフとしてあるようですが、「歌は元気の元」と言い切っている割には曲が初めから終わりまで全て不穏に聞こえました。

 ミスティアのことはそこまで知らなかったので改めて概要を調べてみましたが、やっぱり結構悪属性な気がします。*1

 

 ただ、注の表に載っている登場作品をいくつか持っていたので本棚から持ってきて片っ端から確認してみると、書籍の方では普通の陽気な妖怪という感じなのでやっぱり善属性な気がしてきました。どっちなんだ。人間を襲う時だけ害悪なのかもしれません。

 話を戻すと、この曲は不安や妖しさを感じる曲のように感じます。暗闇の不安感と似ていて、そこら辺がミスティアのテーマ曲たる所以なのかもしれません。

 イントロのリズム感のある入りから、幽かに聞こえるドラムの、特にシンバルの音が一層不気味さを掻き立てています。その後のAメロの静かに流れているメロディはそれ単体ではそこまで不穏には聞えませんが、それ以外の要素と合体すると微妙に明るいとは言えない曲調になっているように感じます。

 

 次は、4面ボス博麗霊夢のテーマ曲「少女綺想曲 ~ Dream Battle」です。

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 なんといっても初っ端の「デーン」からの火花が弾けたような「パンっ」が一番好きです。正直少女綺想曲と言えばここと、あとは冒頭のメロディラインが真っ先に思い浮かびます。正直この「デーン」と「パンっ」で選んだのでこれ以上の感想はありませんが、パワフルながらも綺麗で良い曲です。この曲はゲームセンター東方という二次創作で使われていますが、私はこれを本当によく見ていたので思い出深いです。

 

 畳み掛けていきます。4面ボス霧雨魔理沙のテーマ曲の恋色マスタースパークです。

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 これはもはや説明はいらないような気がします。魔理沙のテーマ曲で一番有名な曲といっても過言ではないでしょう。魔理沙が所有しているミニ八卦炉から繰り出される恋符「マスタースパーク」というスペルカードがもとになっていると思われます。というかこのスペルカードがもとになってなかったらペンとリンゴを間違えるくらい意味が分からないのでこのスペルカードがもとになっていると断言します。このスペルカードとミニ八卦炉も魔理沙を象徴するものなので、そういう意味でも代表的な曲だと言えるでしょう。

 全体的にテンポの速い曲で、ポップで軽く可愛い音色のAメロから、パワフルなサビまでの流れが鮮やかで印象的です。一回目のサビが終わった後も、背後でいかつめのギターが鳴っている一方でメロディがポップな音が鳴っていますが、この二面性が曲全体を貫いているように思われます。また、2回目のサビの後半で急に勢いを落とす構成が緩急あって癖になりました。

 

 続いて5面ボス鈴仙・優曇華院・イナバのテーマ曲「狂気の瞳 ~ Invisible Full Moon」です。

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 サビ前のギターで一気に元気が出る曲です。YouTubeのリプレイ回数を見てもやはりそこがダントツで再生されています。高校生の頃はこの曲はサビ前のギターのみに価値があると周囲に語っていましたが、今聞くとサビ含めそこまで悪い曲ではないと思いました。ただ個人的にはAメロがちょっと穏やか過ぎる気がするし、全体的になんだかんだ優等生感があるのが減点ポイントです。優曇華らしいといえばそうかもしれませんが、優等生らしさは嫌いなのでちょっと惜しいなと思ってしまいます。

 

 

 いよいよ6面に突入です。6面Aボス永琳のテーマ曲「千年幻想郷~History of the Moon」です。

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 さっきから「Invisible Full Moon」やら「Dream Battle」やら「Eastern Night」やら英語がやかましいですが、月は幻想郷にとっての異世界だからかもしれません。10秒で考えた憶測ですが。

 これは永夜抄で一番好きな曲です。タイトルの「千年幻想郷」も月の住民であった永琳が、この先はずっと幻想郷の民として生きていくんだという覚悟が感じられて胸の奥が熱くなる思いがありました。そして私は歴史に弱いのでタイトルで結構やられていたのですが、曲を聞いてさらに胸の中心部が熱くなりました。

 曲調がパワフルなので、太陽と対照的におしとやかに輝く月というよりかは、燦々と光を放つ力強い月のイメージがあります。特にサビのトランペットは力強くも決して粗削りなものではなく、厳かでどこか自信や知性を感じさせるものになっています。その全てにより強者感と、そして永琳の人間性をあらわしているように感じます。

 

 最後に、Extraボス藤原妹紅の「月まで届け不死の煙」です。

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 鉄琴の部分が美しいです。全体的にドラムの音色が鋭く、特に鉄琴が主要のパートでその音がはっきりと聞こえ、それが鉄琴の優しい音色と対照的で鋭くもふんわりとした印象を抱きました。このふんわりとした心地よさはなんとなく終わらない永遠のように感じられ、ドラムはそれに付随した妹紅の激しい感情を表現しているのではないでしょうか。あと、サビのメロディの儚さが妹紅とマッチしていると感じました。

 曲自体ももちろん素晴らしいのですが、私としてはキャラクターがとても好きなので、若干その補正が入っているかもしれません。

 

 

 以上で紹介は終わります。さくっとした紹介にはなってしまいましたが、この記事をきっかけに原曲や、もしくはアレンジなども色々聞いてくださると嬉しいです。

 

 前回に引き続き、特に4面以降は好きな曲としてピックアップされる傾向にありました。主要キャラがメインになってくるので、曲も重みをもったものが中心になるからだと思いますが、今度は1面ごと2面ごとにどれが一番好きな曲なのか選手権を開催しようかなという気になりました。

 

それでは、アディオス。

とれ高サイコロ#1

何が出るかな♪

今日はApple musicのディスカバリーステーション(私の嗜好に基づいた知らない曲が出てくるチャンネル)で出てきた音楽全てにコメントしていきます。要するに普段していることなんですが、そうです、一旦ネタが切れています。

 

それではスタート!IMG_4462_R_20130429213419.jpg

何が出るかな♪何が出るかな♪

 

Limited Express (has gone?) - ラーメンライス


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なんかかっこいいのが出てきました。今日は当たりの日かもしれません。
なんとなくSuper Junkey Monkeyとかポリシックスを思い出す作風ですね。

調べてみると1998年結成の結構老舗バンドでした。パンクシーンでは有名なようで、海外でも結構演奏しているみたいですね。

 

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何が出るかな♪何が出るかな♪

 

B玉 - 景色の青さ


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なんかどこにでもいそうなエモバンドが出てしまいました。私の経験上、こういうバンドが出ると芋づる式に同じような有象無象が出てきてサジェストが汚染されていくのでもう今日はダメかもしれません。

 

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何が出るかな♪何が出るかな♪

 

The Act We Act - リズム

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......と思いましたが、予想が外れました。
The Act We Actはなんと名古屋のバンドらしいです。名古屋はアングラシーンが活発らしいですが、こういうのもいるんですね〜。サビのリズムもっと凝ってくれたら個人的には嬉しいですがね、せっかく七人いるんだから。

 

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何が出るかな♪何が出るかな♪

 

Picher56 - Humming Word

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ミックスが酷すぎる!特にシンバルがやばい。デカすぎる。あと全体的にベロシティが死んでる。

渋谷系っぽいな〜と当然思うわけですが、ネオ渋谷系の人でした。リフがかっこいいね。

 

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何が出るかな♪何が出るかな♪

 

SetagayaGenico - 誰も追いつけない


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すげーUSバンドっぽい雰囲気なのに完全に音響がローファイでおもろいです。でも2018年結成の日本のバンドらしいので、わかんないもんですね。

 

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何が出るかな♪何が出るかな♪

 

PSP Social - tsuki ni kaeru


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この手の曲にしてはめちゃくちゃ長い(10:33)ですね。何となくte'とか残響系の人たちを思い出しましたが、もしかしてその人たちですか?というくらいにはインターネットに何の情報も書いてなくてびっくりしました。自主レーベル「エスパーキック」のロゴがポップでかわいい。

自主レーベル「エスパーキック」のロゴ

 

次で最後にします。

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何が出るかな♪何が出るかな♪

 

John Tremendous' Soft Adult Explosion - スペース露出狂


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何?????

禍々しいイントロからの爽やかポップスからの「俺はスペース露出狂」はまじ意味わかんないですね。何だったんでしょうか。

超どうでもいいですが、HPがいい作りをしています。

explosion.sakura.ne.jp

早く考えて

おしまい。

 

 

 

打楽器アンサンブルのススメ

打楽器アンサンブル

 暖冬と言われる今冬、たしかに例年より温かい気がしますが、その分花粉の飛散も早く、ワタシ、すでに苦しんでいます。
 それにしても年初から大きな出来事が相次ぎ、先行きが思いやられる立ち上がりになりましたね。本当に災害でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りし、一刻も早い復興を願いたいと思うばかりです。
 さて唐突ですが、今回は、打楽器アンサンブルについてまとめてみようと思っています。それは、打楽器アンサンブルに対する知識の不足が世の中顕著になってきたのかなと思うところがあるからです。
 打楽器アンサンブルというジャンルはその確立が現代になってからと、とても歴史の浅いジャンルです。そして鍵盤打楽器類のように音程のある楽器だけでなく、本来はむしろ音程のない打楽器によるリズム要素と、響き要素で作られる楽曲がその本分であったわけです。

 音楽という芸術活動は、基本的にそれまでのあり方に抗う性質を持っていますから、この事自体がそれまでの西洋音楽のクラシックの伝統に抗う意味があり、あえてメロディ要素を持たせないことが良いとして発展してきたと言えるのです。
 ところが最近の打楽器アンサンブル、特にアンサンブルコンテストなどの状況を見るに、シロフォンにメロディを、マリンバがハーモニー、ドラムセットをバラしたような打楽器がリズムをという、たった一つの形態だけの打楽器アンサンブルが台頭しているではありませんか。これはこのアンサンブル形態全体に対する無理解が背景であり、また本来の面白さをかき消し、大衆の知っている小さな世界だけに阿ろうとする、極めて危険な文化破壊と言って過言ではないとさえ言えます。しかもそれが、吹奏楽界の一部レーベルや、その世界でしか目にしない作曲家の独占的市場となっていることに、打楽器出身で作曲に転身した私としては、極めて強い憤りに似た感情を覚えています。
 また昨今SNSの台頭で、演奏家として大変な経歴をお持ちの方が、こういった状況を擁護、現役世代に思い切り阿ることで、本来の打楽器アンサンブルの姿を隠し、ときに平然とそれを批判するような発言を、公開の場に喧嘩腰に発信している姿は疑問でしかありません。そういったはっきり言って音楽と無縁な児戯にも劣る行為がまかり通ってくると、その世界自体が閉じてしまって終りを迎えていくことになります。私はそれを看過するつもりはなく、真の打楽器アンサンブル形態への知識レベルを上げていくことで、ニセモノが駆逐され、健全な文化的土壌を守れるのではないかと思っています。

 

 私は作曲のレッスンを行う中で、常に感じていたことですが、一般的に作曲を志す人間が一つの壁としてあたってしまうのが、案外打楽器であり、その集まりであるアンサンブルは理解するのに苦労している印象を受けます。
 これは打楽器という括りがあまりにも広範であり、これを理解することが難しいからということと、それら膨大なマテリアルの音、さらにその膨大な演奏法からなる音を記憶し、頭の中でコンビネーションさせることが難しいからだと考えます。このことへの対処法はできる限り多くの打楽器に触れ、音を記憶し、コンビネーションは無限で、いまだに色々思考する余地しかないという自由度を主眼に、実験をし続けていけば良いと教えています。つまり定跡のない力戦の将棋のように、本来の創造性を発揮して立ち向かえば、自ずとそこには新たな音楽が完成しうるということなのです。


この方法への布石として、打楽器をいくつかの分類法で整理して教えています。

1)音程の有無
2)楽器の材質
3)演奏法

これらを組み合わせると、例えば以下のようなコンビネーションができます。

音程があり-膜面楽器であり-叩くことを基本とする

これに該当する楽器の代表はティンパニですね。

ティンパニ

もう一つぐらいやってみましょう。

音程はなく-木質楽器であり-打ち合わせることを基本とする

これを代表する楽器は「拍子木」「クラヴェス」といったものですね。

拍子木

 このように形質などでその属性を整理してしまって、そこに楽器を当てはめて覚えていけば、圧倒的に理解しやすくなるのが打楽器です。


 次にこれにレッスンではその楽器の演奏法、つまり膨大にある特殊奏法を含む演奏法をある程度大きな括りで同じように整理します。これは詳しくやると大変な文章量になってしまいますから、ここでは割愛しますが、ちゃんと整理できるものなのです。

 これら楽器分類と演奏法の分類を知ったら、いよいよ打楽器アンサンブルの形態を分類していきます。本来は有料のレッスンの中でやっていることですが、昨今の無理解の広がりに一石を投じるべく、また無理解にパラサイトする輩に警鐘を鳴らすためにもここにその考察を紹介していきたいと思います。

 

I.通常の音楽の書法を用いるもの
-1.異種混合でいわゆる調性音楽をめざすもの

 この方法論は、メロディ、ハーモニー、リズムの要素を持ち、そもそも調性があり打楽器アンサンブルの本質から本来的には外れる、いわゆる現代文化の生んだスタイルと言えます。打楽器アンサンブルの面白さをある意味捨てて、わかりやすさを優先して一般に阿るスタイルが顕著な形態であり、これは本質的に音楽に興味を持った若者に、視野狭窄と一部の人気者を神格化させ、響きの学習の機会を失わさせる極めて恐ろしい副作用があることに注意が必要です。それでも書き方としては成立し、それは一つのスタイルでもあるので、ここではちゃんと分類して代表的な曲を紹介したいと思います。

 

失われた宮殿/嶋崎雄斗

嶋崎雄斗

 作者は1986年千葉県生まれで、自身が優れた打楽器演奏家です。名門を渡り歩き、武蔵野音楽大学のヴィルトゥオーソ学科に学び、その後は各コンクールで優秀な成績をかさね、ユーチューバーとしても活動する人気の作家です。彼の作品の中でも演奏回数の多いこの作品は、I-1の代表的な例になります。

失われた宮殿

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 思わしげな序奏を聴けば作者が打楽器アンサンブルについて本来はよく知っていると理解できますが、その後の展開はとても大衆音楽的で芸術を志向してはいないように感じます。

 つまりこのスタイルで書くというときには、作曲者には暗に2つの選択肢があるということを示しているとも言えます。

・思いっきり商業主義的作品として割り切って書く
・サラリーミュージシャンとして大衆に阿ると腹をくくったとき

 そうでない限りは芸術作品として新機軸を打ち出しにくく、本来メロディやハーモニーの美しさが他のアンサンブルと異なる打楽器でやる意味は薄く、出来上がりも芸術的とは言えなくなるので、積極的に避けた方が良いスタイルとなってしまうと言えるかもしれません。まあ量産しやすいし、売上に繋げやすいので否定はしないですけどね。これだけが打楽器アンサンブルの世界と誤認させるような在り方は流石に良くないように思います。

 

 -2.通常書法を拡大する
  -ア)同属楽器アンサンブル

 この方法論は同じく通常の音楽の書き方に立脚するものが多い中、それを拡大し特にマリンバなど鍵盤打楽器の同属性を利用した形態です。マリンバは非常に音域の広い鍵盤打楽器でありながら、奏法によって多彩な音を取り出せる稀有な楽器でもあります。
このためこれを数台寄せ集めて書かれるアンサンブルには木質の豊か響きの統一感が生まれます。

Tambourin Paraphrase/安倍圭子

安倍圭子

 安倍圭子は1937年に東京に生まれた世界的マリンビストであり、この世界のパイオニア的存在です。学芸大学に学び、自らこの楽器の可能性を信じて、まだこの楽器の作品の殆どなかった頃から、自ら作品を書き、また多くの作曲家への委嘱活動を通じて世界的な奏者となりました。
 その後は積極的に世界中で後進を育成、また書かれた作品はマリンバの定番曲となったもの極めて多く、マリンバの世界をかたるに、この人を除くことはできません。
 そんな安倍先生の曲にフランスの田舎で、ハンドドラムを叩きながら民謡を歌う少年の印象から仕上げられた素晴らしいアンサンブル曲があります。ソロ曲から改変された曲で、同属性の良さと楽器の可能性を追求した、真に専門的な名曲です。今回は大合奏版を聴いてみましょう。

Tambourin Paraphrase

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 統一感を中心とした観点で見ると、先程の異種混合スタイルはそのスタイル自体が原因となる響きの不味さがはっきりします。こちらは物語性も伝わる柔らかく楽しい音楽になっていますし、やはり統一感がもたらすサウンドの説得力がありますね。しかしこのスタイルを書くのはマリンバという楽器に対する専門的な知識がかなり問われます。特にバスマリンバなど、特殊マリンバを加えたりする際は、実際に楽器屋さん等で実機を触ってみることを強くおすすめします。

 

 -2.通常書法を拡大する
  -イ)役割の変更
 この方法論はI-1に近いのですが、先程来触れている響きの不味さの原因を探って、役割をより打楽器的なものに置き換えていく考え方です。この方法論では同属でも異種混合でも可能ですが、メロディ、ハーモニー、リズムを例えばパルス、集合、フェーズなどに置き換えるとミニマル・ミュージックの組成になります。つまりはミニマル・ミュージックに極めて親和性の高いスタイルともいえ、I-1にあったような欠点が逆に強みに変わっていきます。

 

Six Marimbas/Steve Reich

Steve Reich


 スティーブ・ライヒは言わずとしれたミニマル・ミュージック創始者、発展者として世界的な伝説となっている作曲家です。
 1936年ニューヨークの生まれ、コーネル大学で哲学を学び、その後ジュリアード音楽院で音楽を学びんだ後、ルチアーノ・ベリオダリウス・ミヨーに師事しました。これら師匠の影響を残しつつも、テープをズレて再生させるというアイディアから、フェーズシフティングという技術を確立、ミニマリズムの潮流を起こしました。
 彼は自らオーケストラ作品は特異ではない旨を語っており、アンサンブル曲がその多くを占めていますが、打楽器をよく使う作曲家であるとも言えます。今回はそんな中から同属楽器による例としてこの曲を選びました。

Six Marimbas

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 このようにとても打楽器によく合うスタイルになっており、響きもハーモニーではなく群として制御されることで、寧ろ構造性が押し出されPopsの響きに寄っていきます。
これは一般に耳馴染みが良い音ですし、打楽器の性能を無理なく発揮できることから、打楽器アンサンブルの基本の一つと言っても良いと思います。
 当然マリンバのみで書くときはI-2-イ)と同じようにその楽器への知識が必須になりますが、異種混合のI-1の編成でも無理なく書けるのがとても便利です。まずミニマリズムの作曲を知り、このスタイルから打楽器アンサンブルを書いてみるとうまく行きやすいと思います。

 

 

II.リズムのユニークさを主眼とした書法
 -1.調性的雰囲気を残したもの

 いよいよ打楽器の専門的な世界に入っていきます。このスタイルの書き方は、通常の音楽的構造と打楽器の性能を混合し、その中から打楽器の性能の方に傾斜し音楽を形作るものになります。このためソリストをおいて、打楽器で伴奏するという形に非常に相性がよく、打楽器の配置としても中央のソリストと、対向配置の背景というオーケストラ的要素が加わってきます。ただ背景の楽器がハーモニーを作るとは限らず、寧ろそこにはむき出しのリズム性が出てくる方が良い用に思います。

 

Uneven Souls/Nebojsa Jovan Zivkovic

Nebojsa Jovan Zivkovic

 作者は世界的に有名なマリンビストであり、1962年にセルビアに生まれたという経歴も国際的には異色と言えるでしょう。正確無比で超絶技巧を軽々とこなすスタイルは常人離れしており、また早くから自作を発表する作曲家でもあります。
 音楽性は民族性を臆することなく押し出すスタイルで、特に農民歌、労働階級の視線を持ったしっかりした主張のある作品を多く書いています。なんだか演奏家出身の作曲家はスタイルが似るのかもしれませんが、それぞれ作風は大きく異なっていて、それが本人の表現者としての哲学の違いだと言えます。
 この方法論で書かれる曲は、打楽器の専門知識を駆使した作品が多いので、同じようなスタイルで書くにはかなりの経験が必要ですが、演奏する楽しみや、聴く楽しみは非常に高いものです。

Uneven Souls

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 非常に豊かで主張に満ちた芸術作品であることがわかります。実はこの曲の演奏に携わったことがありますが、聴き易さとは裏腹に、途中にはポリテンポなども登場する難解な曲です。しかしその演奏は内的高揚を誘われる素晴らしい曲でした。

 もしこのスタイルで書く事ができれば、作家としてはもう打楽器曲の名手と言えると思います。そして本来打楽器アンサンブルが目指すべきはこういったスタイルであるべきと強く思います。それが本来の音楽性と、楽器特性の集合体であり、他の形態の真似事のような作品であってはいけない理由でもあります。

 


 -2.純粋なリズムのみで作るもの

 こうなるともうI-1やI-2のように「メロディ」の存在に頼る作曲方法は使えなくなります。しかしその分純粋な打楽器のアンサンブルであることから、古代性や祭祀性などを帯びた楽曲とは抜群の相性です。
 また新たな創作楽器や、音を加える隙も大きくなり独自性が追求しやすいのも大きな特徴になります。最近はこれにエレクトロニクスを加えた作品も多くなってきて、いよいよ世界では中心的なスタイルとなってきていますね。

 

Ogoun Badagris/Christopher Rouse

Christopher Rouse

 作者のクリストファー・ラウスは1949年にボルティモアに生まれた作曲家です。この世代の作曲家にしては珍しくロック好きを公言し、有名なドラマー、ボーナムの名をタイトルにした打楽器アンサンブルも書いています。またこれまでの人々と違い、打楽器奏者でなく作曲専門という点でも、彼の知識が専門家を超える域であったことがわかるでしょう。
 オーバリン音楽院でリチャード・ホフマンに、コーネル大学でカレル・フサに、さらに個人的にジョージ・クラムにも師事したという経歴からも、思考する音楽が力強いモダニズムにあふれていることがわかります。
 打楽器アンサンブルの名作をいくつも書いた彼ですが、純粋にリズムで勝負したこの作品はバーバリスティックな土俗性を感じる名曲です。

Ogoun Badagris

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 打楽器全般に対する知識が問われ、また真に面白いリズムの掛け合いはどういったものかを、感覚面だけでなく、数的な面からも知らなくてはならないですが、これぞ王道という響きです。
 打楽器の世界というのはこうやって広がってきたという原点性の点でもこういったスタイルの曲が、このジャンルの中心的なレパートリーでないと本来はおかしいのです。

 

III.響きを中心とした書法

 芸術性を中心として、作曲家としてアンサンブルを考えた場合最も創造性を必要とし挑みがいがある反面、かなりの専門知識と難解な楽曲構想が問われるスタイルがこれです。少し細分化してみてみましょう。

 

 -1.コアになる音を設定するケース
 特徴的な音というのは、その楽曲の性格を決める上で打楽器アンサンブルにとって最も重要な要素です。そこであまり見ないような楽器や、ヴィルトゥオーゾ性のあるものを中心に据え、この中心からアンサンブルに音楽が波及する構造をもたせる書き方がこれです。構想自体はシンプルなので、波及構造に様々な作曲法を持ち込みやすく、ある程度熟練してくれば書きやすく扱えると言える方法論です。

 

Drums/Sven-David Sandström

Sven-David Sandström

 作者は1942年にスウェーデンに生まれた作曲家で、ストックホルム王立音楽大学で作曲を学び、様々なスタイルの音楽言語を自在に操り、初期は極めて破滅的なサウンドを特徴とした前衛音楽に傾倒、徐々に軟化し、現在はPopsの言語も用いた作品を書くなどしています。
 彼の作品の中に非常に複雑な構造を持つこの曲があり、演奏も至難ながら、まずカオスに満ちた音楽をどう聴くべきかかなり考えさせられます。実はこの曲の構造は単純で、カオスを構成している打楽器群にティンパニが司令塔になって素材を投げ込んでゆくと、それに応じてアンサンブルのリズムが変化して、カオスが解消されます。引き続いてティンパニは今度反対に自ら崩壊の道を進み、これに巻き込まれるようにカオスが復活してくるというものです。
 やや長い曲なので演奏者は極度の集中を維持する必要があり、体力的にも大変な曲ですが、もうこうなると多くの人が知っている打楽器アンサンブルの世界が、如何にこの媒体の表面しか見ていないかがはっきりしてくるのではないでしょうか。

Drums

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 相互に影響し合いながらカオスが形を変えていくさまは、ある種音の視覚化とも言える効果を生み出し、これまでの打楽器に求められる在り方を変える、極めて印象的なものになっていると言えます。

 

 -2.コアを複数とし、波及構造をさらに複雑化する
 この手法はI-1のように異種の楽器をコアに据えることから、それをそれぞれの同属楽器に波及させるか、異種混合に波及させるかで様相が異なります。手法は自由度も高く、波及構造をプログラム処理するなどの方法も魅力的です。出来上がるものは複雑になりますが、非常に大きな編成を必要とすることから、もはや打楽器アンサンブルというよりも、オーケストラ的な世界観が出現します。サウンドのコントロールはかなり難しく、相当の作曲技術がなければ書きこなせないのは明白ですが、聴き応えのある重厚な作品が類例に多いです。

 

レイディアント・ポイント/安良岡章夫

安良岡章夫

 作者は私も個人的にお世話になった先生ですが、1958年に東京に生まれ、作曲は野田暉行、三善晃に師事、日本音楽コンクール作曲部門第一受賞を皮切りに、純粋に音楽書くという行為を追求され、重要な作品を残しています。
 そして特筆すべきはその圧倒的な打楽器に対する知識です。どの曲でも多く打楽器が活躍し、独特の作風の中であるときは唸り、あるときは波打つような自在なコントロール力を持っておられます。アール・レスピラン主宰として、自らタクト持ち様々な作品を世に送り出しておられます。
 このレイディアント・ポイントという曲は流星群にヒントを得て、放射点と波及の構造を巨大な打楽器アンサンブルに応用、マリンバのソロや放射点のチャイムを据えて、ダイナミックに展開する曲です。また編鐘という中国の古代楽器を用いていることもこの曲の大きなポイントとなっています。

レイディアント・ポイント

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 着想はわかりやすいですが、その構想をこの大きな編成の中で実現するのは大変な力量が求められると思います。

 

 -3.中心群とそれ以外という構造を持つもの
 この方法は群を群で囲うような構想を中心としていて、失敗すると音の明瞭性が失われ混沌としてしまいます。しかしうまく音に差をつけるなどして書いていくと、極めてエネルギッシュな曲に結びついてきます。実は結構多く書かれるスタイルですが、響きに力点をおいて書かれることが多く、それぞれの作家の色彩を味わうにはとても良いスタイルになっています。
 ただいざ書こうというときに、しっかりした構想力を求められるのと、演奏には多くの楽器が必要になりやすいので、その点には留意した方が良いものとも言えます。

 

ケチャ/西村朗

西村朗

 作曲者は現代日本を代表する巨匠でした。2023年、突然の訃報には本当にショックを受けました。
 1953年大阪生まれ、全く音楽に縁のない家庭に生まれ、僧を志すようになっていったところ、クラシックに触れて一気にその世界にのめり込んでいったそうです。そして池内友次郎に作曲を師事し、東京藝術大学に入学、野田暉行、矢代秋雄に師事、在学中より東アジアの音楽、特にヘテロフォニーに関心を持ち、同音連打から高揚を作る独自のスタイルを確立、大きく活躍されました。その音楽はあらゆるジャンルに及び、その中でも打楽器のアンサンブルは名曲ぞろいで多くが現在のアンサンブルレパートリーとして定着しています。
 この曲はインドネシアのケチャにヒントを得て、旋法性と原始の音楽とをまといながら恐ろしいまでの高揚感を作る名曲中の名曲です。その音楽は反復が多いことと、リズムのズレを基本とするため、なかなか演奏は難しいですが、この曲を除いて打楽器アンサンブルは語れないと思います。

ケチャ

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 中心のグループをティンパニとチャイムのグループが取り囲み、更にPAで増幅された声によるリズムも加わります。三重のリズムグループと響きが相互に関連性を持ちながら、火の玉のごとくエネルギーを放っていくと言う構想ですが、これが20代の作品ということで西村先生の天才性が伺われます。

 

IV.これまでの分類に属さないもの
 これは作曲家の発想の元、様々に作られた形態の打楽器アンサンブルです。一応細分化して見てみましょう。様々な響きにきっと出会えますよ。

 

 -1.音響体として扱われるケース
 このスタイルは同属楽器、異種混合問わず、また波及構造のようなものもなく、それぞれのアクションが音響体となって展開するものです。非常に作曲家自身の音に対する鋭敏な感性が求められる難しいスタイルです。音楽的経験だけでは決して書けない楽曲が多く見られます。

 

雨の樹/武満徹

武満徹

 武満徹は日本を代表する、そして私の最も敬愛する作曲家です。1930年に東京に生まれほぼ独学で音楽を学び、その後実験工房に参加し劇伴と純音楽の両方で大成功しました。父の影響で触れたシャンソンの響きを一生涯大切にし、愛をテーマに真にオリジナルな作風を気づいた作曲家です。1996年に亡くなったときは私は大いに泣き、しばらくは立ち直れないほどのショックを受けました。
 武満はシリーズを持って作曲に当たる人でしたが、その中の「雨シリーズ」(水シリーズでもある)に打楽器アンサンブルの名作があります。それが「雨の樹」です。この作品は舞台照明も効果として楽譜に書かれ、その明かりと響きだけの中で展開する、静謐な音楽です。
 真に自らの欲する響きを、打楽器の編成に投影し書かれており、その書法は打楽器の書き方にとどまらず、自らの音楽の方法論として選択されており、これまでの作品とは大きく異なります。

雨の樹

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 素晴らしい幻想的な空間と響き、真にオリジナルな打楽器の使い方、全てにおいて武満徹という人間そのものを映し出しています。本来の芸術とはこうでなくてはいけないと気が付かされる大名曲であり、圧倒的な存在感にジャンルの入り口に無数に存在する簡便な楽曲がいかに芸術のなりをしているだけであったかを思い知らされます。


 -2.大規模アンサンブルとしての書法
 この書法は先にも出てきたものに近くはありますが、波及構造などその曲のコンセプトに応じて編成が大きくなったのではなく、最初から大きな編成で書くことを主眼にしたものです。
 いわゆる打楽器オーケストラであり、これを従来のクラシック音楽のように制御することは意味をなしません。なぜならその役割をこなす、つまりはメロディ役もハーモニー役も置かれないことに特色があるからです。逆に言えばI-1のようにこのタイプを扱って書けば、それは商業的に手返しがよく、ジャンクフードのように気軽に楽しめる作品になるでしょう。しかしそういう要素を廃して、真に打楽器オーケストラとしての独自の書法で書かれた世界はもう同じ打楽器アンサンブルと言えないくらいかけ離れた音楽となっていきます。

 

IONISATION/Edgard Varese

Edgard Varese

 エドガー・ヴァレーズは1883年フランスに生まれ、アメリカに帰化した後1965年に亡くなったモダニストです。はじめはフランス印象派の音楽からスタートし、その後未来派の影響を受けつつ電子音楽を先駆けて導入、一貫して前衛の道を突き進みました。その中にモダニズムの代表的な形として打楽器アンサンブルの曲を書き、今ではその作品はこのジャンルにおける古典として親しまれています。
 特にこのイオニザシオンは、サイレンの音を打楽器として用いたり、ピアノにトーンクラスターのみを演奏させることで、打楽器として扱うなどの独特な眼差しが加えられ、シンプルなリズムから始まる音楽とは思えない、大規模で個性的なものになっています。

IONISATION

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 アンサンブル・アンテルコンタンポランの超人的な演奏で細部まではっきりわかる素晴らしい録音となっています。本当に打楽器がオーケストラとして扱われ、しかもその要素にハーモニーもメロディーも使われていないことがわかると思います。これこそが本来的に打楽器アンサンブルが担っていた、モダニズムとしての役割といえます。だからこそ今になってメロディやハーモニーを呼び戻して書くということには理由が必要になると思うのです。商業音楽であると割り切らないのなら、その曲にこの曲を超えるような意味を求めなければならなくなります。それが芸術の宿命なのではないでしょうか。

 


 -3.パフォーマンスとしての書法
 このスタイルは、打楽器が大きくモーションを伴うこと、そして表現主義の影響を受けてヴィジュアライズされたものとして登場してきます。
 実は案外多くの作品があるこのスタイルですが、演奏と肉体の動作というものが深いつながりにあるということをその哲学のベースとしています。つまりは打楽器というものは触媒にしかなっておらず、作者の意図は打楽器であることと必ずしも同一ではないことが多いというのもこのスタイルの特徴と言えるでしょう。

 

L'art bruit/Mauricio Kagel

Mauricio Kagel

 作者のマウリシオ・カーゲルは真に独特な作曲家でした。1931年にソ連から亡命した両親の下アルゼンチンに生まれ、その後ドイツに渡って活躍した作曲家です。この複雑なバックボーンと、作曲は独学であったことが、アイディアマンだった彼の才能を開かせます。
 パフォーマンスを音楽の一部とみなし、殆どの作品でそういった要素が既存の音楽への皮肉として取り入れられており、ティンパニ協奏曲ではソリストティンパニに頭から飛び込むといった指示がされたり、指揮者が胸を掻きむしって倒れるという指示のなされた曲もあります。
 この曲はコンセプチュアル・アートの先駆けと言っても良い面白い曲で、実は打楽器アンサンブルではなく打楽器のソロ曲として書かれています。しかしその内容はアンサンブル的性質をもっており、助演者が参加することで、ソロなのに二人で完成させる作品となっている作品です。とにかく見てみないとわからないと思う曲なので動画をご覧ください。

L'art bruit

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 こういったスタイルの作品は表現主義の作曲家ヘスポスや、日本では川島素晴の作品にも見られます。アイディアが強く求められる一方、ちょっとしたジョークという面もあるので、難しく考えずいたずらごころを鑑賞する気持ちで、面白かったら笑ってしまってもいいと思います。
 ここまで来ると流石に意味がわからないと言って眉をひそめる人もいるでしょうが、なぜ眉をひそめるのでしょうか?音楽にはメロディがなきゃいけないのですか?美しいハーモニーが必要ですか?それが響きを作ることに向いているとは言い難い編成でもですか?
 こういう視点の転換こそが打楽器アンサンブルの真の面白さに繋がっていきます。だからメロディがないとか、和音がないとか、そういう次元で語られるべきものではないのではないでしょうか。

 


 -4.今までの一切に当てはまらないもの
 最後はどの分類も拒否する高いオリジナリティを持つものを見てみたいと思います。
これは無理やり分類すればこれまでの何かには当てはまるでしょうが、カテゴライズを拒絶するという点に力点があることが最も重要です。
 このスタイルで書くというのは相当に困難であり、もはや生まれ持った才能が大きな役割を占めているとも言えますが、現代ではこのスタイルこそ世界標準であることは、作曲をするものとして、特に近年の日本における作家は重く受け止めねばならないのではないかと思います。

 

花庭園/藤家溪子

藤家溪子

 作者の藤家先生は1963年京都府生まれ。小学校三年でオペラを作曲するなど幼い頃から特筆すべき才能を発揮し東京藝術大学八村義夫間宮芳生に師事しました。
 男性社会であった作曲界に女性性ということをそのまま武器に切り込み、ある時期は反構造的な作風と母というキーワードを強く盛り込み大成功しました。尾高賞を二回受賞するなどその経歴はまさにレジェンドそのものであり、その後の日本の音楽界のあり方を根本的に変えたとも言えます。
 藤家先生の作風は時期とともに変わっていきますが、特に女性性を打ち出していた頃の作品に素晴らしい打楽器アンサンブルがあります。それが「花庭園」で、内容は先生の代表作でもあるオーケストラ曲「思い出す ひとびとのしぐさを」とやや似ており、一人の女性の一日を打楽器アンサンブルを通じて描いています。しかし打楽器だけではなく、チェレスタ、鍵盤ハーモニカ、コーラスや電話まで使って表現され、どのようなカテゴライズも拒絶する凄みがある曲になっています。

花庭園

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 実はこの曲の演奏に関わったことがあり、本当に衝撃を受けたことをよく覚えています。これこそ新しい打楽器アンサンブルの金字塔といえるのではないでしょうか。

 

 さて今回は大分長くなってしまいましたが、私のレッスンで教える打楽器の扱い方をベースに多くのスタイルの打楽器アンサンブルを見てきました。
 多くの方はこのジャンルがこんなにも豊かで、こんなに多彩な曲が書かれていることをご存じなかったのではないでしょうか。多少勉強しないとわからないという性質もありますが、だからこそ通り一遍の量産品が入り込んで来てしまうだと思います。繰り返しになりますが、そういうまやかしで若者にイメージを固定させるようなビジネスは、本来の意味での学習の機会を奪っていることに注意しなければならないと思います。
 本当の打楽器アンサンブルの奥深さを少しでも多くの人に知っていただき、ある形だけがこのジャンルの正当な書き方だというような固定観念を改めて頂くチャンスになれば本望です。そしてそういったものを芸術のふりをして書くものたちがSNSyoutubeで幅を利かせているという現状は文化の衰退のボタンを連射していることと他ならないのです。首謀する者たちに言っても意味をなさないことなので、市場を担う一人ひとりがもう一歩深く、もう一歩高く探求することで、市場自体の在り方もきっと変化していくことになるでしょうし、その日を心待ちにせずにはいられません。

 

12音律のべき生成スケール(べき生成スケール中編)

本記事は、なんすいの理論記事シリーズの続きです。過去記事で紹介した用語を基本断りなしに使うので、本記事最後の用語集を眺めてから読むのをおすすめします。

 

 

 

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こんにちは、なんすいです。

前回は、音列からスケールを生成する方法を紹介し、そしてチャーチスケールの1つであるリディアンスケールが"べき倍音列"から生成されることに触れました。

 

"べき倍音列"とは何だったでしょうか。

 

べき倍音

べき倍音列とは、ある数の倍数を0から順に連ねた音列です。

一般に、(0, p, 2p, ... , (k-1)p) 「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼びます。

さらに、べき倍音列から生成されるスケールを「べき生成スケール」と呼ぶことにしましょう。

 

例えば、前回リディアンスケールを生成した音列(0, 7, 14, 21, 28, 35, 42)は、7の倍数を7個並べた音列になっているので、「べき数7による位数7のべき倍音列」となります。

そして、リディアンスケールはべき生成スケールとみなすことが出来る、と言えます。

 

さて、当たり前ですが、べき倍音列は上述の(0, 7, 14, 21, 28, 35, 42)以外にも、べき数p、位数kを変えることでいろいろ作ることが出来ます。

そこで今回は、べき倍音列から生成されるスケールたちを観察してみようと思います。

 

 

 

「べき数7、位数kのべき倍音列」によるべき生成スケール

さて、私たちにとってスタンダードである12音律のもとで、べき数7は固定、位数kをいろいろ変えてべき倍音を設定したときに、生成されるスケールがどのようになるのか見てみましょう。

 

 

位数kが増えるとべき倍音列の長さが単純にのびるわけなので、kが増えるのに伴ってべき生成スケールの成分も1つずつ追加されていきます。

そして最終的に位数12の段階で、べき倍音列(0, 7, ... , 77)の各成分は12音律の全ての音0~11にちょうど1つずつ対応し、べき生成スケールは(0, 1, ... , 11)すなわちクロマティックスケール(半音階)となります。

これ以上位数を増やしても、新たに追加される成分はもう無いので、生成されるスケールはクロマティックスケールのままです。

 

階名で表すなら、べき数7のべき倍音列は「ド、ソ、レ、ラ、ミ、…」と連なっていき、12半音の全ての音を被りなく網羅するような音列になっている、と言えます。

 

では、今度はべき数を変えてみましょう。どうなるでしょうか。

 

 

 

「べき数9、位数kのべき倍音列」によるべき生成スケール

べき数を、例えば9にして、同様に位数kを増やしながら生成スケールを見てみましょう。

 


なんだかさっきと様子が違いますね??

位数4以降、どれだけ位数を増やしても生成スケールは(0, 3, 6, 9)から変化していません。どうしてでしょう。

 

スケール生成とは、音列の各成分に対してMODを施し、小さい順に並べ替えるという操作でした。

今、べき数9のべき倍音列にMODを施してみると…

 

MOD( (0, 9, 18, 27, 36, 45, 54, 63, 72, ...) )

=( MOD(0), MOD(9), MOD(18), MOD(27), ... )

=(0, 9, 6, 3, 0, 9, 6, 3, 0, ...)

 

このように、0,9,6,3,だけが繰り返し出てきます。

したがって、どれだけべき倍音列の位数を増やしたとしても、生成スケールに新たな成分が追加されないため、上表のような結果になったのです。

つまり、べき数9のべき倍音列は、べき数7のそれとは異なり、12音律の全ての成分を網羅出来ないということになります。

 

これを音楽の現象で説明すると、「転調」によりすべての調を網羅出来るかという問題に言い換えられます。

べき数7の場合、7半音=完全五度の転調を繰り返していくと、すべての調をちょうど一回ずつ経て元の調に戻って来れます。

いわゆる「五度圏」と呼ばれるものは、べき数7のべき倍音列の"網羅性"のおかげで成立していると言えます。

五度圏表

 

対してべき数9の場合……9半音=長六度、つまり実質短三度の転調を繰り返すと、4回の転調で元の調に戻ってきてしまいます。

したがってべき数7の場合のようにすべての調に広がっていかないので、五度圏に対して「六度圏」のようなものは作ることが出来ません。

 

では、べき数がどのような数のとき、べき倍音列は"網羅性"を持つのでしょうか?

 

 

 

べき倍音列がすべての音を網羅する条件

突然なんですが、実は次のようなことが言えるんです!

(証明が気になる場合は何かしらの方法でなんすいに聞いて下さい)

 

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n音律のもとで、

0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,n-1の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であることである。

(pはべき数)

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上述のべき生成スケールたちは、みんな12音律のもとで生成されたものでした。

したがって、べき数7の場合、n=12、p=7となります。12と7は互いに素なので、べき倍音列は網羅性を持つということになります。

一方、べき数9の場合、12と9の最小公約数は3なので、12と9は互いに素ではありません。したがって、べき倍音列は網羅性を持たない、と分かります。

 

 

 

12音律の正規べき生成スケール

過去記事「チャーチスケールの近縁を探す」では、チャーチスケールに近しい性質のスケールを見つけるために、"正規性"という指標を定義しました。

 

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《スケールの正規条件》

①各インターバルが長さ2以下

②長さ1のインターバルが連続しない

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この指標を、べき生成スケールにおいて考えてみましょう。

つまり、べき生成スケールであってかつ正規性を満たすようなスケールはどんなものがあるか調べます。

 

ここで前提として、次の事実があります。

 

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★正規スケールから1つでも成分を取り除いたり加えたりすると、正規性は失われる。

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まず、スケールの正規条件①②より、正規スケールにおいて「一個挟んで隣同士」の二要素のインターバルは3または4となるので、正規スケールから1つ要素を取り除くと、その部分に長さ3以上のインターバルが生まれ、正規条件①を満たさなくなります。

f:id:nu-composers:20240204021814j:image

 

また、正規条件①より、正規スケールの隙間に要素を1つ追加すると、その要素はもともとのスケールの2つの要素と両側から挟まれることになります。したがってこの部分で正規条件②を満たさなくなります。

f:id:nu-composers:20240204021830j:image

 

以上から★の事実が分かります。

正規条件を満たしている状態とは、これ以上音が増えても減ってもダメな、ギリギリのバランスを保った状態であるわけですね。

 

 

 

さて、これを踏まえて、12音律の正規べき生成スケールを探しましょう。

ここで、べき数pが12と最小公約数d>1を持つとき、先に述べた事実からべき倍音列は全ての音を網羅しません。

さらに、このとき十分な位数のべき倍音列により生成されるスケールは

[0, d, 2d, ... , (d/n-1)d]となります。(容易に示せます…)

これは全てのインターバルがdとなっているスケールです。

 

したがって、pが12と互いに素でない場合、正規条件を満たすべき生成スケールはd=2のとき、すなわちホールトーンスケール[0, 2, 4, 6, 8, 10]のみであることが分かります。

 

一方pが12と互いに素のとき、すなわちp=1, 5, 7, 11のとき、もしあるpによるべき生成スケールたちの中に正規なものがあったとすると、それはあるただ1つの位数の時に限り正規で、それより位数が多い/少ない生成スケールは全て正規でないということになるはずです。(★の事実から)

 

p=1, 11の場合、べき倍音列は(0, 1, 2, ...)あるいは(0, 11, 10, ...)とインターバル1で連ねていくだけなので、生成スケールが正規条件を満たすことは無いと容易に分かります。

p=7の場合は、位数7のときに限り正規条件を満たします。すなわちこれは冒頭からずっと登場していたリディアンスケール[0, 2, 4, 6, 7, 9, 11]です。

 

そしてもう1つ、p=5の場合、こちらも位数7のときに限り正規条件を満たします。このときのべき生成スケールは[0, 1, 3, 5, 6, 8, 10]、すなわちロクリアンスケールです。

 

まとめると、12音律のべき生成スケールで正規条件を満たすものは

ホールトーンスケール [0, 2, 4, 6, 8, 10]

リディアンスケール [0, 2, 4, 6, 7, 9, 11]

ロクリアンスケール [0, 1, 3, 5, 6, 8, 10]

の3つであることが分かりました。

 

特に、12と互いに素なべき数によるべき生成スケールであるホールトーン以外の2つのスケールは、調性空間を網羅する"圏"を構成するため、広がりのある和声理論の基礎としての役割が期待されます。

 

実際、べき数7のべき倍音列から生成されたリディアンスケールは下属音を持つように変位を加えられ、7半音=完全五度によって全調を繋ぐ五度圏を構成します。そしてその構造のもとに、機能和声やジャズ理論など様々な複雑な和声理論が構築されてきました。

また、リディアンスケールと対称的にべき数5のべき倍音列から生成されたロクリアンスケール、これを基にして作られた理論が存在しています。

それは、当会会員であるトイドラくんが提唱している「トイドラ式ロクリア旋法理論(TLT)」です。

nu-composers.hateblo.jp

 

特性上五度圏での処理が難しいロクリア旋法を扱うために、「四度圏」上で機能和声や対位法を展開するというもので、やはり複雑な構造作りに十分耐えています。

 

べき数5のべき倍音列は、べき数7のべき倍音列を逆さに並べたものに等しいので、このような対称的な結果が出るのは当然と言えば当然ではあります。

しかし、少なくとも「べき生成スケール」および「正規性」という2つの構造的指標のもとにおいて、リディアンスケールとロクリアンスケール…五度圏と四度圏が同じだけの可能性を持って並置されるというのは、これまでの五度圏中心の音楽史を思えば驚けることかもしれません。

 

また、四度圏音楽は「自然倍音の観点から根拠が薄い」と批判されることがありますが、調性音楽における構造的な広がりにおいて五度圏と同じ強度を持つことこそ、四度圏音楽が成立する重大な根拠になると私は考えます。

音響を切り取るだけが音楽ではありません。音がいくつも連なり進行していく上での構造もまた、音楽の重要な側面だと思います。

 

 

 

次回

12音律、飽きてきましたよね。

これまでずっと音楽理論記事なのに数学的な記述を取り入れてきましたが、これのいいところは一般的な話をしやすいところです。

次回は馴れ親しんだ12音律の世界を飛び出して、いろんな音律のべき生成スケールを見ていきます。

 

それではさようなら。

 

 

【定義・表記集】

数列によって音列を表記する方法:インターバル構成など単に音列のときは()、スケールを数列で書くときは[]で囲むことで区別する

 

スケールのインターバル構成:スケールの各インターバル(隣接音程)を順に並べた数列

 

巡回同値関係:2つのスケールを適当な巡回によって一致させることが出来るとき、2スケールは巡回同値関係で結ばれているという

 

巡回同値類:どの2スケールを取っても巡回同値関係で結ばれているようなスケールたちの集合を巡回同値類といい、そこに含まれるスケールを1つ取ってきて括弧でくくり表記する

 

位数:スケールに含まれる音の個数

 

正規条件:①各インターバルが長さ2以下②長さ1のインターバルが連続しない

正規条件を満たすスケールを正規スケールと呼ぶ。

 

------------------------------

 

スケール:  n音律のスケールとは、次の3条件を満たす音列である:

①要素に0を必ず含む

②全ての要素が0以上n-1以下の相異なる整数である

③要素が左から小さい順に並んでいる

 

スケール化可能性: n音律のもとで音列aが次の条件を満たすとき、スケール化可能であるという:

①要素に0を必ず含む

②各要素a_jに対してMOD(a_j)が相異なる

 

スケール化: スケール化可能な音列に対して、その音列の各要素を小さい順に並べ替えてスケールを生成することをスケール化、生成したスケールを生成スケールと呼ぶ。

 

MOD: n音律のもとで、MODは次のように計算される:

単音eに対して

MOD(e)=(eをnで割った余り)

音列a=(a[0], a[1], ... , a[m-1])に対して

MOD(a)=( MOD(a[0]), ... , MOD(a[m-1]) )

 

------------------------------New↓

 

べき倍音列: ある数の倍数を0から順に連ねた音列。(0, p, 2p, ... , (k-1)p) を「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼ぶ。

 

べき生成スケール: べき倍音列から生成されるスケール

 

べき倍音列の網羅性: n音律のもとで、0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,11の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であること(pはべき数)