【※注意】今回紹介する作品のMV動画にはグロテスクな描写がいくつも見られます。苦手な方は動画は見ないで下さい(歌のみのバージョンもセットでリンクを貼っておきます)。
こんにちは。なんすいです。
今回は、ボカロに代わって私の思春期を支えてくれた「内田温」の作品たちを紹介します。
彼女は、私が最も影響を受けたアーティストとしても指折りの存在と言って差し支えありません。
今まで全然言ってなかったけどね。
内田温 プロフィール
内田温は、横浜市在住のクリエイター。既婚女性。
音楽、動画、イラスト、漫画など活動範囲は多岐にのぼり、自身のサイトにおいて「ぶりっこテクノ」というシリーズで音楽作品を発表している。
「ぶりっこテクノ」では、作曲にMV制作、歌唱も全部1人で手がけている。
2年前くらいに「コックカワサキマイクロビキニ部」という界隈で頭角を現し、「コックカワサキマイクロビキニかるた」を販売して公式に怒られていた。
彼女の作品との出会いは、私が中一の頃にまで遡ります。
当時はボカロ全盛期、カゲプロのオタクで溢れていました。そんな環境の中、幼きなんすいは一体どんな感じで過ごしていたのか。
それはもう完全に、中二病真っ盛りでした。
輪切りのハニー
ただし当時の私の中二病は、いわゆるそれよりももう少しひねくれたもので、
「右手が疼く…」
みたいなかっこいい台詞を吐く一般的な中二病の人達のことはむしろバカにしていました。
あからさまに痛い格好はしないけど、内に秘める心は燃えている。サイコパス診断で事前にサイコパスの想定解を暗記しておいたりはする。そういうタイプの中二病でした。
あと、流行のネットサブカルとかも避けていたので、ボカロは全然詳しくありませんでした。
さて、そんな中学時代の私には、重要な日々のタスクがありました。
それは「検索してはいけない言葉」リストに載っている言葉を五十音順に全て検索していくこと。
ネットのアングラな世界を自ずから見に行っちゃうなんてまぁサイコパスね、と、自分の狂気性に手軽に溺れて気持ちよくなるには最適の趣味だったのでした。
そしてここで、私は内田温の「輪切りのハニー」という作品に出会います。
この作品に衝撃を受け、私はたちまち内田温のファンになってしまったのです。
恋人の何が欲しいのか、何をもって「きみ」であるのか…というテーマ。
その答えを探すため、MVでは少年が恋人をバラバラに分解しています。
この作品をパッと視聴してみた感じ、どうでしょうか。
グロい!!!!!!
確かに
「検索してはいけない言葉」リストでは危険度2とされていますが、ポップアニメとはいえ全然ちゃんとグロいと思います。
そしてそれに加えて、
なんかキモい!!!!!!
という感想を持ってくれた人は、グレートです。
そう、作品の全部がキモいのです。
テーマ、歌詞、曲、MVの表現、その全てに直裁さとポップさがあり、それが非常に鼻に付く。端的に不愉快と感じる人も少なくないでしょう。
しかし、このバランス感こそ内田温の魅力だと思うのです…
内田温の正直さにドン引き
内田温の作品をいくつか見ていきましょう。
まずは「ぼくらは肉でできている」という曲。
私たちは愛や夢で出来たロマンチックなものではなくて、肉で出来てるし交尾によって増える生物なんだよ、という曲。
内田温の作品には少なからず、私たちが動物であり物質であることの汚さ・残酷さを中心に据えたテーマのものがあります。「ぼくらは肉でできている」もその代表と言えるでしょう。
ロマンチックラブから当たり前の流れで食とか死とかに連想されていくために、グロテスクな描写はむしろ違和感無く受け入れられます。
次はこちらの、「中村さん」という曲です。
この人もごはんを食べたり排泄したりしてるんだな、と見えない部分の現実に思いを馳せるタイプの「好き」を持つ人の曲。
MVはトイレにいる中村さんの肛門を突き抜けるシーンで終わります。最高だ。
内田温の作品はどれもテーマ自体は単純で、一聴するだけでだいたい何が言いたいのか分かります。評価したいのはむしろ主張の表現力の高さで、目をふさぎたくなるような直截な表現を拒まない強さも魅力です。
例えばボカロ界隈の中で「中村さん」的な曲が生まれていたとしたら、もっと婉曲した陶酔的な表現でカッコつけていただろうな、と思います。
「先生、質問があります」
この曲は「中村さん」と似て正反対の内容になっています。
つまり、好きな人の肉体・実在性について想像することは同じですが、「中村さん」ではそれこそを愛していたのに対し、本曲では「実在しないで」と拒んでいます。
この曲のMVは内田温の作品の中でも屈指の表現力だと思います。
ところで、内田温の曲の作風は前期→後期で若干変化しています。
先程紹介した「中村さん」「先生、質問があります」はともに後期作品で、結構起伏激しい歌謡めいてきています。
一方、最初の頃はかなりテクノポップっぽい作風で、淡々と気持ち悪さがある感じの曲が多いです。「輪切りのハニー」もそうだし、次に紹介する「さなぎホイップス」も、前期作品です。*1
好きな人(蛹状態)をパンチしまくって羽化阻止する曲です。
蛹になっていつか蝶になる…自分だけが見ていた人が広い世界で活躍しそうになった時のモヤモヤ感とか、欠点を抱えた人がそれを克服するのを拒む気持ちとか、異質なMVに対してそのテーマには共感出来るものがあります。
ちょっと特殊で共感出来る感覚を表現するのも、内田温の得意とするところです。やはり容赦無い描写方法と気持ち悪さはどの作品でも光っています。
まとめ
以上、作風を象徴する作品を5曲選んで紹介しましたが、どの作品にも共通したポップで退廃的で気持ち悪い、そして正直なまなざしがありました。
そんな内田温作品を聴いて育った結果……私は自覚的に人間の実在性から目を逸らし続ける大人になってしまいました。
あらゆる身近な感覚や営みに対して気持ち悪さや狂気をいちいち自覚させられてきたわけなので、まあそうなりますよね。何をするにも常に罪の心が付き纏う感じになってます。悲しい。
内田温自身も、若い頃はまさに曲にしてきたようなテーマに思い悩んでいたようなので、これからもコツコツ生きていくうちに全てを受け入れて(観念して)いくものなのかもしれません。
一応作品を書く時だけは、私も手近な気持ち悪さに目配せを凝らすようにしています。リスペクトを込めて。
最後に、名古屋との縁ということで、彼女の作品「金の鯱」をご紹介して〆にします。
この曲は彼女がまだ名古屋に行ったことない時に書いたそうです。まあ名古屋だし。
この音源に違う歌詞を付けた「ごっくんおつきさま」もあります。なにこれ?
*1:本当は前期後期で分けるなら結婚前(石川温)と結婚後で分けるべきなんでしょうが、結婚前の作品は内容の面でまた全然変わってくるので、恣意的な分け方をしてしまいました