東方Project最新作「東方獣王園」がついにリリースされました!
やったー!
若い人「東方ってなんですか」
↑!?!!!?!!?!!????
東方Projectとは (トウホウプロジェクトとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
『東方Project』とは、ZUNが運営する個人サークル「上海アリス幻樂団」制作の弾幕シューティングゲームを中心とする作品群の総称。
ニコニコ動画三大ジャンル(御三家)のひとつ。
東方なんて言わずと知れたビッグコンテンツだったんですが、このごろ、東方って何?と言われることがマジで増えてます。
サブカルの栄枯盛衰凄まじく、もう最近の若者はあまり東方を知らないみたいです。恐ろしい。
東方は1995年に始まり、凄まじい勢いで人気を広げていきました。
だいたい2010年くらいにピークを迎え、そこから次第に勢い衰えつつも、なお人気長寿コンテンツとして今日まで続いています。
さて、東方には色々な魅力がありますが、その中でもよく言われているのが「BGM」です。
東方の音楽はとてもエモでかっこいいものが多く、「音楽から東方界隈に入った」という人も少なくありません。
そして、音楽の内容を見てみると、ほとんどの曲に似通った特徴があることが分かります。
【いわゆる東方曲の特徴】
・「ヘキサトニック」を基本としたキャッチーなメロディ
・IV-V-VImやその派生系のコード進行
・ピアノなどによる細かく激しいフレーズ
・特有の楽器編成(トランペット、ピアノ、ドラム、コーラスなど…)
東方原曲 花映塚 四季映姫テーマ 六十年目の東方裁判~Fate of Sixty Years - YouTubeyoutu.be
こちらは東方花映塚の「六十年目の東方裁判」。
主題の1つとコード進行を見てみましょう。
和風だったり中国風だったりカントリーな雰囲気を作るのに有用なペンタトニックスケール。
ここにさらにviiを追加したヘキサトニックスケールは、ペンタトニックの雰囲気を残しつつ、より豊かな表情を持ったメロディを作るのに向いています。
「六十年目の東方裁判」のメロディを見ると、確かにヘキサトニックスケールになっています。
ただし、一部#vが現れていますね。これは、和声的短音階の導音として変位したものですね。
このタイプの変位音は東方の音楽では頻出です。同様にコード進行についても、IV-V-VImから変位音を含ませた派生系IV-III-VImが頻繁に使われています。
もう1つ頻出の変位があります。それはピカルディ終止の#iです。
[http://東方原曲 妖々夢 PHANTASMボス・八雲 紫のテーマ ネクロファンタジア - YouTubeyoutu.be
こちらの「ネクロファンタジア」では、サビのコード進行がIV-V-VImの繰り返しになっているんですが、その最後だけIV-V-VIとピカルディ終止になります。
その結果、メロディも#iに変位しています。
以上の2つの変位は非常によく使われていますが、一方でこれら以外の変位音はほぼ全くと言って良いほど登場しません。(まれにドリア/属調由来の#ivも出てきます)
つまり、東方のメロディは「ヘキサトニック」+「2種類の変位」によって特徴付けられると言えます。
コード進行、細かいフレーズ、楽器編成についても、有名曲をいくつか聴いてみるとすぐに確かめられます。
細かいフレーズについては「発狂ピアノ」、またよく使われるトランペットの音は「ZUNペット」と呼ばれていたりします。
俗称が付いていることからも分かる通り、これらの東方曲の特徴として最初に箇条書きしたものはどれも愛好者達の間では常識として知られているものばかりで、「東方曲といえばこうだよね」という強固なセオリーになっています。
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さて、ここまで踏まえてようやく本題なのですが、実は最近の東方の音楽には先述の特徴に当てはまらない「新しい傾向」が見られます。
今回の記事では、それらの変化がどういったものなのか、具体例を上げながら紹介していきます。
かつて全盛期の東方界隈にどっぷり漬かってたけどもう今はあまり追ってなくて、今は原神とかブルアカとかで忙しい、そんなような人達が最も目覚ましく楽しめる内容になるかなと思います。
最初に、以下で扱う「最近の東方作品」を古い順に書いておきます :
・東方天空璋
・東方鬼形獣
・東方虹龍洞
・バレットフィリア達の闇市場
・東方獣王園(最新)
一番上の東方天空璋は、シリーズ第16弾、2017年にリリースされた作品です。
タイトルに「天空」を冠し、発表当時は誰しも清涼感溢れる青空シューティングゲームになるだろうと期待したと思うんですが、蓋を開けてみるとすげー渋い内容でした。
[作業用BGM] 真夏の妖精の夢 [東方天空璋:1面ボス] - YouTubeyoutu.be
何とも言えない不気味なイントロで始まる1面ボス曲。
この時点で昔の東方しか知らない人は結構びっくりするんじゃないでしょうか。
私もリアルタイムで聴いた当時面喰らいました。
続けざまに2面道中も聴いてみましょう。本題はこちらです。
[http://[作業用BGM] 色無き風は妖怪の山に [東方天空璋:2面道中] - YouTubeyoutu.be
なんと都節音階(陰音階)が使われています!
けっこうびっくりしませんか?
一般的にはそんなに驚くようなことじゃないんですが、今まで和風っぽさをヘキサトニック一辺倒でやってきた東方においては、かなり画期的な試みです。
そしてこれに伴い、ヘキサトニックでは避けられてきたivをここではしっかりと踏んでおり、増四の音程がメロディ内で強く印象付きます。
一部ヘキサトニックから離脱しivを使用する曲は、天空璋以前でも無くは無いんですが、数は相当少ないです。また増四の音程を意識させる使い方もあまりされていませんでした。
次は東方鬼形獣の曲を見てみましょう。
[作業用BGM] 石の赤子と水中の牛 [東方鬼形獣:2面ボス] - YouTubeyoutu.be
かつての東方曲では変位音は2種類に限られましたが、こちらはブルーノート由来の変位を取り入れたより自由なメロディになっています。
鬼形獣屈指の名曲、4面道中「アンロケイテッドヘ
ル」のメロディも同様に自由な変位が見られます。
これにより、キャッチーながら引っ掛かりのあるメロディ作りに成功しています。
[作業用BGM] アンロケイテッドヘル [東方鬼形獣:4面道中] - YouTubeyoutu.be
そして続く東方虹龍洞ですが、こちらはより二足飛びに攻めたアプローチが各曲からうかがえます。
まずは2面道中曲。
深緑に隠された断崖 | 東方虹龍洞 原曲 BGM - YouTubeyoutu.be
このメロディにもivが使われています。ヘキサトニックのメロディに突然挟まるので結構違和感を醸しています。
また、拍子に対して恣意的にズラされたリズムも目を引きます。繰り返しのフレーズが小節線ガン無視で奏され、聴いていても拍感がよくわからなくなります。
虹龍洞の特に前半の曲は、どれもやや煮え切らないメロディが多い印象です。
かつての純度100%のエモーショナルで真っ直ぐぶん殴ってくるようなキャッチーなメロディは、音階やリズムの工夫により敢えて避けられています。
そしてその結果、より「BGM的」な音楽に仕上がっています。
4面道中とかもそれが顕著です。
廃れゆく産業遺構 | 東方虹龍洞 原曲 BGM - YouTubeyoutu.be
お決まりのトランペットで奏されるメロディ。綺麗なんですが、やはり背景に徹している感じがあります。
一方でメロディよりも耳に残るのは、頻りに繰り返される細かいリフの方です。
虹龍洞ではほとんどの曲に特徴的なリフの繰り返しが使われており、メロディよりもリフが曲を支配しています。
そしてラスボス曲。
東方のラスボス曲は大体構造が決まっていて、大まかに2つのパートに分けられます。(全然そうじゃないのもあります)
一方は割と流し目のメロディを中心にしていて、その後雰囲気を変えてもう一方に激エモのサビがあるとか、そういう2パートの対比構造を作って1つのアニソンみたいな感じにしているものが多いです。
最初に上げた「六十年目の東方裁判」もだいたいこのタイプになります。
さて、虹龍洞のラスボス曲はどうでしょうか。
あの賑やかな市場は今どこに ~ Immemorial Marketeers | 東方虹龍洞 原曲 BGM - YouTubeyoutu.be
大まかに2つのパートで大きく構成されており、核になるメロディもそれぞれ確認出来ます。
[パート1]
[パート2]
しかし、この曲においてカタルシスの中心を担っているのは、これらのメロディのどちらでも無く、実はパートを繋ぐ役割にあり何度も繰り返し使われる「ファンファーレ」部分であるように思えます。
これです
すごく巧い構成になっていて、虹龍洞の中では一番完成度の高い曲だと思います。めっちゃかっこいい。
しかし一方で、この曲を思い出した時にどの部分のフレーズを思い浮かべるかは、人によってバラバラになるんじゃないかと思います。それはこの曲のアイデンティティを握る部分が分散していることに起因します。
本曲がキャッチーなメロディ一本が目立っていたかつての作風とはかなり異なるアプローチの曲であるということは、特筆すべきです。
さて最後に小数タイトル、バレットフィリア達の闇市場の曲も見てみましょう。
妖怪フックオン | バレットフィリア達の闇市場 原曲 BGM - YouTubeyoutu.be
キャッチーな曲ですが、ここにも新しい風が吹いています。
メロディがやたら装飾音に包まれています。場所によっては短いグリッサンドみたいになっていて、ちょっとしたモードクラスターのような響きすら一瞬生じさせる効果を出しています。
そして、コード進行にも注目です。
前半部分、素直にIV-V-VImとすれば良さそうなところをIV-VImと繋いでいます。またベースも第二転回形のベース音を使って変わった動きをしています。
これらの工夫により、進行の強さが弱まり、音楽に浮遊感が与えられています。
こういったオーソドックスなIV-V-VIm進行を弱めたりあいまいにするアプローチは、天空璋の頃からちょっとずつ使われてきています。
最後に同作品の終盤テーマ曲、「100回目のブラックマーケット」もキャッチーながら新しい雰囲気を持った名曲として紹介します。
やはりヘキサトニック縛りから自由になり、トライトーンが印象強く残るイントロのメロディ。
サビでは「妖怪フックオン」同様、特徴的な装飾が唸っています。
まとめ
まとめます。
以前の作風と比較して、最近の東方曲はまずメロディが大きく異なってきました。
キャッチーでほぼヘキサトニックに制限されていた旋律は、より自由に、そして背景的な印象に。その結果、メロディ以外のリフが曲をより支配するようになり、「BGM的」な内容になってきています。
これはつまり、曲とキャッチーな主題が一対一対応していたかつての「歌謡的」な作風に比べて、最近の曲はアイデンティティを担っている部分を取り出すのが困難であり、二次創作に向いていないとも言えると思います。
実際最近の東方の曲は二次創作の数が大きく減っていて、それはコンテンツ全体が下火になっているだけが理由では無いような気がします。
そもそも、初期の東方曲が二次創作のゆとりを考えて戦略的に作られたとは思えませんし、今の方向性にしても、作者のZUN氏はあまり一般にウケることを第一には考えていなさそうです。
どちらかというと逆に、メロディだけミーム化されて音楽だけが一人歩きすることを嫌って、よりゲームと一体になったBGMという方向性を模索しているんじゃないか、と個人的には考えています。
実際ゲームをプレイしながらBGMを聴いてみると、主張しすぎないメロディやより多様化した表現は、かつての作風よりもゲームとの相乗効果が高いように感じます。
何にせよ、これらの作風の変化が恣意的であり、色々実験途中そうであろうことは伝わってきます。
そして最後に、これらの変化は東方を追ってきた人にとっては大きな変化に見えますが、客観的にはかなり微々たる変化であることも認めなければいけません。
しかし一方で、同じに見える中でもちょっとずつ新しい方向性の模索があって、そのミニマルな価値観の変化を捉えることにも一定の価値があるのではないかと思っています。
そういえば記事でなんとなく触れそびれた楽器編成の変化についても、作品を更新するごとに如実に出ているので、ぜひ気にしながら色々聴いてみてほしいです。
そんな感じで、今回は最近の東方曲の特徴を解説しました。いかがでしょうか。
リリースされた最新作「東方獣王園」の楽曲でも、さらにまた新しい進化が見られるのか、ぜひ皆さん自身で確かめてみて下さい。