僕は作曲家ですが、やはりインプットがないといい曲は書けないぞ、と最近改めて思いました。
そこで、気になった曲の耳コピと分析を始めました。
今の時代だと、ネットで探せばコード譜くらいは転がっている曲が多いので、大変便利ですよね。
しかし、ちゃんと音楽理論を勉強した身からすると、ずいぶんテキトーな分析も散見されます。
やっぱり、手間をかけて分析するならちゃんと成果を得たいですよね。
そこで今回は、楽曲分析の時に僕なりに気を付けていることを書こうと思います。
1. コード分析は2行で
僕は、曲のコード分析は必ず2行使って書きます。
こんな感じです。
上の段にはポピュラー和声のコード・ネームを、下の段にはクラシック音楽理論の和声記号を書いています。
なぜ別々の書き方を並べるかというと、それぞれ役割が違うからです。
ポピュラー和声のコード・ネームは、例えばCM7のコードはどんな調で鳴っていても必ず「CM7」と表記されるわけですから、絶対的な表記になっています。
それに対しクラシック音楽理論の和声記号は、同じCM7の和音が鳴っていても、ハ長調では「I7」、ト長調では「IV7」と表記されます。
つまり、どの調で鳴らされているかによって表記が変わる、相対的な表記ということです。
音楽にはふつう調があるので、相対表記をすることはものすごく大事です。
これをしないと、「CM7」とだけ書いてあって結局よく分からない、ということになりかねません。
相対表記があってはじめて、その和音の役割が分かるのです。
ただ、相対表記だけだとその瞬間に鳴っている具体的な音が分かりにくいので、絶対表記も合わせて書きます。
2. ヴォイシングを無視するな
コードを分析すると、それだけで満足してしまいがちです。
しかし、コード分析にはもう1つ大事な観点があります。
それがヴォイシングです。
これは大変見落とされやすいですが、かなり重要なことだと思っています。
例えば、こういう3種類のヴォイシングがあったとします。
左のヴォイシングは、音数が必要充分で無難な響きになります。
音がぶつかっている個所もなく、またトップノートが第3音のミになっているため、安定していて響きがよく調和します。
真ん中のヴォイシングは、完全5度&完全4度の音程を主体として幅広い音域に配置されているため、荘厳で空間のある硬い響きになります。
トップノートのシは第7音で、しかもオクターヴ重複されているため、メジャー・7thの浮いた雰囲気が強く感じられ、さらに金属質な感じも加わります。
右のヴォイシングは、右手のレンジが広い一方で、シとドがぶつかっているのがポイントです。
厚みはなくさっぱりとした響きでありつつ、半音のぶつかりによるきらめきが良い味を出しています。
どうでしょう。
ヴォイシング1つで、和音の響きは本当に想像以上に変わってしまうものです。
変わったヴォイシングの和音に気付いたら、どういう狙いや効果があってそのヴォイシングになっているのか、ちゃんと書いておく必要があります。
3. 解釈が伝わる書き方を
分析というのは、その曲について解釈をし、よくかみ砕いて飲み込むためにすることです。
だから、正しく解釈しやすいように書いておくことが大変重要です。
例えば、こういうコード進行があったとしましょう。
それをこのように分析したとすると……
分析として間違ってはいないのかもしれませんが、問題があります。
真ん中のBdim7は明らかにAm7に向かってドミナント・モーションをしているように聞こえますが、その解釈ができないからです。
これを正しく分析すると、こうなります。
そう、真ん中の和音はBdim7ではなく、G#dim7と分析すべきなのです。
これでドミナント・モーションの説明がつくようになります。
このように、漫然と和音を書いているだけでは分析にはならないわけです。
ここでは分かりやすさのためにコード分析の例を出しましたが、コード以外でも同じことが言えると思います。
4. できるだけ全パート耳コピすべし
音楽を分析しようと思うと、ポップスだとどうしてもコード譜しかないことも多く、メロディと和音だけの分析で終わることは多いと思います。
しかし僕の経験上、それだけでは得られるものはやはり限られてしまいます。
1曲全パートを耳コピするだけでも、かなり色々なことに気付きます。
自分の知らないドラムのパターンや、意外なベースの動き、聞いているときには気にならなかったパート間の音のぶつかりなど。
そういうわけで、耳コピの能力があってなおかつ根気もあるのなら、全パート耳コピするのが最も成果を得られると感じています。
最も、純音楽であればフルスコアがあることが大半なので、その点はありがたいですよね。
5. 最後に「総評」を書くべし
1曲分析し終わったら、ぜひとも総評を書いてください。
その曲を通して使われている技術や、作曲家のクセ、あるいは曲の気づきにくいテーマなど、書くことは必ずあるはずです。
分析する最中も、総評に何を書こうか考えながら分析を進めるべきです。
でないと、その曲を作っている作曲家に対しての意識が損なわれてしまいます。
音楽は、当たり前ですが必ず人に作られています。
音楽を分析するときには、それを作った人が何を考えていたのか、あるいはどういうクセを持っているのか、その人らしさがどのように音楽の中に現れているか、このあたりを強く意識しないといけません。
でないと、ただその場その場で鳴っている音を分類するだけの作業になってしまい、身に付くものも身につかないからです。
おわりに
こういうことを気にしながら、僕は曲の分析をしています。
興味があれば、ぜひ僕のページを覗いてみてください。
分析方法の参考にもなるかと思います。