名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

RMCチャンネル人気動画ランキング2021

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RMC

 私の個人研究に名大作曲同好会のご理解を頂いて協力関係を作り、毎週1曲のペースで忘れられた音楽、知られざる音楽を紹介しているRMCチャンネルですが、2021年の人気動画ランキングとその理由などを纏めてみようかと思います。

 このチャンネルはすでに100人ほどの方にご登録いただいており、マニアックな企画にしてはご支持を頂けて非常に嬉しいところですが、とは言え弱小チャンネルではあります。ではその弱小感をフルに生かしてやっていこうじゃないかと燃え立つ事のできる、唯一無二の研究発表の場となっているばかりでなく、各界の著名な方からもお褒めの言葉をいただき本当に光栄でなりません。そんな研究も、楽しくも多くの壁に当たりながらすでに年単位の活動となってきました。一つの区切りとしてこの原稿執筆時(2022/1/1)のデータを元にランキングで振り返ってみようと思います。人気チャンネルをお持ちの方からしたらホコリにもならないような成果ですが、RMCチャンネルの2021年の成果は以下の通りでした。

 

視聴回数 8021回
総再生時間 440.8時間
現在のチャンネル登録者数 97名

 

まずは2021年ランキング第10位の動画からご紹介します。

 

第10位
Two Preludes - 服部正

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服部正

 服部正氏は1908年生まれ2008年に100歳にて亡くなられた作曲家です。ラジオ体操第1番の作曲家として知られるだけでなく、管弦楽、劇伴の作品も多く、とりわけ自らが学生時代に経験していたマンドリンオーケストラの作品が充実しています。
 作曲は菅原明朗に師事し、その後は国立音楽大学で教鞭をとり、去年惜しくも亡くなられた小林亜星氏らを育てられました。
 実は服部正氏はピアノ曲の作曲は得意ではなかったそうで、ご紹介の初期作品の作曲には非常に難儀されたのだとか。この動画を発表した後、服部正氏を恩師とする方を介してご子息様と交流を持つことが叶い、様々なことをお二人からお教え頂きました。
この場を借りて深く御礼を申し上げます。

 

第9位
小さなプレリュードとフーガ - 大宅寛

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大宅寛

 大宅寛氏は1935年生まれで2009年に亡くなられた作曲家、教育者です。
 国立音楽大学のご出身で、髙田三郎、先日亡くなられた島岡譲に師事され、作曲と合唱についてその見識を深めていかれました。その後は教育者として音楽教諭のお立場から多くの生徒を輩出、また校歌や市歌の作曲に携わられることも多かった方です。
音楽は美しいメロディを持っていることを大切にされ、保守的で穏健な作風をとられていました。
 実は自分の後輩のトロンボニストである佐藤学さんが、大宅氏を恩師としており、ご遺族をご紹介して頂きその縁で残された小品をご提供いただきました。私とお住まいも近く、ご存命であればお話を伺いに行きたかったなと思いました。

 

第8位
ピアノのための悲歌 - 平吉毅州

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平吉毅州

 平吉毅州氏は1936年に兵庫県に生まれ、東京芸術大学で長谷川良夫らに師事、1998年に亡くなるまでに合唱曲、児童用の作品を中心に愛される名曲を多く作曲した方です。
 渋いルックスと、低音の美声で魅力ある方だったなと個人的な思い出のある作曲家なのですが、特に気球にのってどこまでもなどは本当に素晴らしい名曲です。そういった児童用の作品が有名なだけに、あまりシリアスな作品は知られていませんが、このピアノ曲はかなりその中では辛い表現に満ちた晦渋な曲です。専門的に見るとこれでも調性機構は持っており、完全な無調とは言えないのですが、ほぼ無調の空間に雨のように無機質に降る恩恵と、悲しみと怒りを湛えた響きの二つを構成要素として書かれています。この曲がランキングに入ってきたのはいささか意外でしたが、多くの方に聞いて頂けたことはとてもうれしく思います。

 

第7位
3つの小品 - 毛利蔵人

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毛利蔵人

 こちらもランキングに入るのは少し意外だった作品です。
 毛利蔵人氏は1950年に兵庫県に生まれ1997年に46歳で早逝された作曲家です。独学で始めた作曲でしたが、その後三善晃に師事して本格的に学びはじめ、武満徹芥川也寸志など名だたる作曲家のアシスタントで培ったテクニックを駆使し、非常に精度の高い作曲法を身につけられました。このことは師たちと同じく彼を劇伴の道にも向かわせ、多くの仕事をこなして売れっ子となった途端に無くなってしまうという、なんとも悲しく残念な生涯を送られました。
 この作品は子供のための組曲ですが、フランス風のわせに身を包み、おしゃれで美しい曲ですが、なんとはなく薄っすらと悲しみが漂っているようにも聴こえます。
最後の楽章は連弾ですので、多くのお教室でもっと弾かれて欲しい名曲です。

 

第6位
ピアノ・ソナタ - 佐藤眞

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佐藤眞

 RMCチャンネルでは長大な曲は得てして再生数が伸びないのですが、その中にあってピアノソナタで上位に入ったのがこの曲でした。
 佐藤眞氏は1938年に茨城県に生まれ、現在でも現役バリバリの作曲家の一人であります。とくに合唱曲の分野の仕事は名高く、大地讃頌は誰もが歌っとことなある有名曲でしょう。
 東京芸術大学卒業で作曲は下総皖一に師事していることも、彼を歌の作曲のジャンルにいざなうに影響があったのだろうと思います。しかしピアノ曲となると彼のもう一つのシリアスな面が現れてきます。交響曲第3番などでも見せた鋭い不協和音と、大胆な構想による音楽は大地讃頌しか知らない人には驚いて受け止められることだと思います。伝統的な形式とそれを打ち壊すかのような楽章ごとの長短の極端さが面白い力作です。

 

 

 ここまで見てくるとやはり聴きやすい小品が多くランキングしているように思います。打ち込みのデータですし、長くじっくり向かい合うには演奏の説得力が弱いのは仕方ありませんが、ここはもっと私の努力で埋めていきたいところでもあります。余談ですが、ピアノの音源などRMCチャンネルで使うソフトについてちょっと紹介してみようかなと思います。

 自分はGODWOODという名義で商業音楽を書いていますので、DTMの環境を揃えているわけですが、ハードウェアにはあまり重きをおいていません。なぜならばそれが必要なら専門職に依頼すればよいという環境で仕事をさせていただいているからでもありますし、昨今ソフトウェアの出来が素晴らしく正しく使うことができれば、ハードウェアへそこまで依存を高める必要はないと考えているからです。

 RMCではピアノ曲を扱うのでピアノの音色についてはこだわりのポイントとなります。ちゃんと楽曲を読み込み、ただ打ち込むだけではなく解釈を行っています。その上でどのピアノをどんな環境で鳴らすかということに強くこだわっているのです。

 使っているDAWはStudio One 5です。最近買収問題があって非常に先行きが不安ですが、とても優れたDAWであることは言うまでもありません。そしてピアノ音源についてはKONTAKTベースのものとUVIベースのもので各種揃えていますが、よく使うものとしては以下のものがあります。

 

Native Instruments NOIRE
 ピュアなピアノのサウンドと、フェルトで加工したサウンドを柱に、シンセサイズされたプリセットをたくさん持っている音源です。私はこの音源は主にピュアの音に自分で設定を加えて、シリアスな音楽の打ち込みに多く利用しています。

C. Bechstein Digital
 ドイツピアノのベヒシュタインをデジタル化した音源です。クラシカルなサウンドの表現が素晴らしく、性格なタッチワークを表現することに向きます。このため内容が古典的であったり、或いはフーガなどの作品で私は極めて重宝させていただいています。

AcousticSamples Kawai-Ex Pro
 カワイのピアノをモデリングした音源です。実機も年々良くなっているカワイですが、この音源も設定を色々してゆくと素晴らしい音が得られます。しかし私はあえて少しチープな音にセッティングし、教育的な側面の強い児童向けの曲などに多用しています。

 

 このあたりがよく使う音源ですが、その他にもFazioliを使うこともあれば、当然SteinwayBosendorferを選ぶこともあります。また山本正美の「ショパン」をデータ化した時は、ショパンの愛用のピアノにあやかってわざわざPleyelの音源を用いました。正直音源あつめも楽ではありませんが、少しでも良いデータをとこれからこの方向の研究も詰めていきたいなと思っています。ピアノの音の加工についてはかなり企業秘密があるのですが、そのうち記事にするかもしれません。


さて後半上位5位の発表に戻りましょう。

 

第5位
ピアノ小組曲 - 山内正

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山内正

 この曲は上位に来る予感はしていました。発表直後からアクセスがすごく、伊福部門下の再評価の勢いとどまるところを知らないなと痛感しました。これもSalidaさん、片山杜秀さんはじめ、西さんなどのご努力の賜物ですし、この曲発表時はSalidaさんと西さんにRTを頂いたことで大きなアクセスに繋がりました。これもこの場を借りて御礼を申し上げます。
 山内正氏は1927年東京出身でヴァイオリニストを目指していたものの、戦時中の怪我からこれを断念し伊福部門下で作曲家となりました。仕事の中心を劇伴に置かれていたので純音楽はあまり多くなく、Salidaさんが発売されたCDでその殆どが聴けます。
 この「ピアノのための小組曲」は子供のための小品として書かれており、5曲の可愛らしい曲からなっていますが、日本伝統音楽を語法の中心に据え、ユニークな和声をつける作風はここでもしっかり貫かれており、極めて充実した内容を持っています。1980年に山内氏は亡くなられましたが、今こうやって多くの場所で再評価の機運が高まっていることは、私の研究の一つの憧れ、目標でもありそれをなし得た方々に学ばせていただくことばかりです。

 

第4位
ノクターン - 尾高惇忠

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尾高惇忠

 RMCチャンネルは忘れられた曲だけではなく、知られざる曲や作曲家の追悼などもその役割だと思っています。そしてこの曲は残念ながらその追悼の意味合いの紹介となった曲です。
 尾高惇忠氏は1944年東京出身、名音楽一家である尾高家に生まれ東京藝術大学矢代秋雄三善晃に師事し作曲家になりました。そのご渡仏しモーリス・デュルフレ、マルセル・ビッチュ、アンリ・デュティユーに師事したことで作風が確定したとも言えるでしょう。非常にフランス的なムードを持っていますが、湿り気というかやや陰鬱なムードを持つ作風には、惇忠トーンといえる色彩を纏っています。
 この曲は小さな組曲ですが、非常に暗いく小さな序奏から、爆発的なピークを形成させ、また闇へ消えるような構想で書かれています。最晩年作で音源もないことから、2021年2月に訃報が飛び込んですぐにデータ化し、アップさせて頂きました。

 

第3位
失われたものへの三章 - 有馬礼子

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有馬礼子

 この曲もランクイン、しかも上位というのは少し意外な気がしました。音源としては珍しいものとなりますが、そこまで多くの人に聴かれるとはちょっと思っていなかったというのが正直なところです。
 有馬礼子氏は1933年東京出身、一時満州への移住を経験するも、帰国し東京藝術大学下総皖一に師事しています。そして人生の転機となったのはおそらくその後、東京音楽大学で教鞭を執り始めてからのことと思います。この時学長職にあった伊福部昭に師事し、その影響を受けたことでフランス風の響きと日本的な眼差しが融合していったと考えられるからです。
 大きな規模の作品も書かれてはいますが、ご本人曰く小品に縁があるそうで、たしかに子供のための作品などはおびただしい量が書かれています。この曲もそういった小品の一つですが、高い表現力を必要とする曲ですので、ぜひ多くの人に弾かれ再評価につながって欲しいと願うばかりです。

 

 

 さて最上位2曲を残すだけとなりましたが、逆に全く再生数が伸びなかったものはなにか少しだけ見てみます。2021年最も再生されなかったのは三谷俊造の「Primula Sinensis」でした。San Tanの名で書かれたアメリカ在住のピアニストであった三谷俊造氏の作品の再発見という非常に大きな意味があったのですが、全く無名になってしまっていて多くの方の興味を惹かなかったのかもしれません。

 最近アップしたものはまだ時間的に再生数が伸びていなくても当たり前なのですが、それを抜かすとその次に聴かれていないのは大村泰敏氏の「夜曲」です。これも完全に忘れらている作曲家の作品の蘇演ということになるのですが、再評価の機運もなくあまり伸びませんでした。
 こういった作品こそ本来はこのチャンネルの趣旨に近いのですが、やはり再生数を見るとある程度の知名度がベースにあったり、世の中での再評価の機運に強く影響されているというのは正直なところであるようです。今後はこのような作品たちをもっと聴いてもらえるように、様々にアピールをしていきたいと考えています。


さて2021年RMCチャンネル再生数ランキング上位2つを紹介いたします。

 

第2位
五月の組曲 - 江文也

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江文也

 この曲はコンスタントに再生されずっと高再生率をキープしています。どうも一種のブームが来ているようで、彼の作品演奏会なども企画されているような話も伺いました。
 江文也氏は1910年台湾生まれ、日本コロムビア・レコード所属の歌手としてイケメンと美声を生かして人気者になります。その後山田耕筰と橋本國彦に作曲を師事、日本の伝統とモダニズムを折衷させた独自語法を手に、後年は北京で教鞭を執るようになります。1983年に同地で没しています。
 日本的という枠を超えて、アジア的という意味でのエスニシティを武器にモダニズムに傾倒した初の例といっても過言ではない大天才であったように思います。
 彼のピアノ作品の中ではよく知られた方の選曲ではあり、他に生演奏の動画も存在しますが、沢山の再生を頂いておりこの作曲家の再評価の機運を強く感じます。

 

第1位
断章 - 菅原明朗

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菅原明朗

 さて2021年RMCチャンネル再生ランキング栄えある第一位メイロー先生のピアノ曲でした。
 菅原明朗氏は1897年兵庫県生まれ、1988年までご長命で活躍され我が国にフランス風の作曲方法を持ち込んだ歴史的作曲家です。彼の師匠は大沼哲と言われているものの、これはご遺族によって否定されており、師といえるのは瀬戸口藤吉翁だけであったとのことです。マンドリンオーケストラへの貢献と決別、服部正などの後進の指導のほか、新興作曲家連盟や楽団創生の結成などその活動は日本の音楽会の礎となったのは間違いありません。
 非常に好奇心が強かった人のようで、ハーモニカのコンチェルト、アコーディオンのコンチェルトなども書かれ、さらにイタリアのピッツェッティとの個人的交流もあって、グレゴリオ聖歌についての知識も深かったとのことです。
 このピアノ曲は長きに渡り5曲か6曲か議論があったようですが、私の研究では5曲であろうと結論し、楽譜をなんとか入手してデータ化して発表した所、ちょうど似た折にこの曲を5曲の作品として演奏する演奏会が企画されていたこともあって話題となったことが再生数に影響したのだろうと思います。先程の服部正氏の項目でも触れましたが、服部氏を恩師とする野口様が菅原氏のご遺族様と繋いでくださり、この曲や作曲者本人について、或いは楽曲の表記など色々のご助言をいただくことが出来ました。この経験は研究者冥利に尽きるものであり、本当に心から感謝申し上げるものであります。

 


 ということで2021RMCチャンネル再生数ランキングはいかがだったでしょうか。
 2022年も更に研究を深めできれば毎週のペースを維持しながら発表していきたいと思っておりますので、ぜひご贔屓になさっていただければ幸いです。ちょっと最近再生数が鈍くなってきておりますので、一度紹介させていただいた作曲家についても二曲目のターンに入っていこうかと思っています。
 またこれはコロナ次第ではあるのですが、できる限り今後はこれらの曲の生演奏化を進めていきたいとも思っておりますし、研究で集めた資料のうち著作権の切れたものは公開していきたいとも考えております。こういった文化的な財産は残してこそ意味があると考えますので、さらに様々方面で色々とアピールしていけたらなと思っておりますので、皆様のご協力をよろしくおねがい申し上げます。