どうも、名作会会長の冨田です。
自分は今年度大学を卒業してから、作曲家として活動すべくインプットとアウトプットを重ねる日々を送っております。
この連載は、クラシックの大作曲家たちの作風を研究し、ものまねで一曲書いてみようという趣旨です。
4回目の今回は、長らく研究に苦戦していたモーリス・ラヴェルのものまねに挑戦します。
かなり骨が折れました。
モーリス・ラヴェルとは
モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)は、1900年代初めごろにフランスで活躍した作曲家です。
「管弦楽の魔術師」の異名を持ち、ドビュッシーに代表される印象派の作曲家とされていますが、その作風はドビュッシーに比べると伝統主義的です。
スペインにほど近いバスク地方に生まれたことから、作品にはスペイン民謡の雰囲気が感じられます。
バレエ音楽の「ボレロ」を作曲したことで有名ですが、「ボレロ」がラヴェルの代表作かというと微妙なところです。
もっと彼の作風をよく反映した名作は数多くあるでしょう。
というわけで、今回モノマネをするにあたり参考にした曲は2曲です。
まずは、リストの「エステ荘の噴水」に霊感を得て作られたといわれる「水の戯れ(Jeux D’Eau)」。
そして、スペイン風の6拍子で書かれた舞曲、「道化師の朝の歌(Alborada del gracioso)」です。
特徴点の分析
まず、全体的な部分から。
楽式を見てみると、「水の戯れ」はソナタ形式、「道化師の朝の歌」は明瞭な3部形式であることが分かります。
また、「道化師の朝の歌」の終わりの部分ではこれまで出てきた主題の断片が代わる代わる演奏されるシーンがあり、フーガの嬉遊部のような作りになっています。
▽5:50~あたり
このように、ラヴェルは楽曲の全体的な構造・主題の扱い方の点では古典的だと言えます。
しっかりとした古典的な構成の上に、全く古典的でない音を乗せていくのです。
☆POINT☆
・伝統音楽的な楽曲構成
次に、一聴して分かる際立った特徴を洗い出していきます。
まず、彼の音楽には不協和音が大変多く、それが古典音楽と一線を画するポイントとなっています。
このように、あからさまな音のぶつかりが多く見られます。
こうした不協和音は、和音の構成音が上下に半音ずれるずれ和音や、刺繍音・倚音などといった非和声音が和声音に解決しないままになった結果として生じるものです。
こういった”解決しない非和声音”によって、ラヴェルの音楽の中にはジャズにおけるテンション・ノートに等しい音がしばしば用いられます。
打撃的な不協和音も、美しいテンションの乗った和音も、どちらも”解決しない非和声音”という共通の発想から生まれているのは面白いと思います。
上の譜例では、古典音楽では用いられることのなかったメジャー7thコードが当たり前のように用いられていることが分かりますね。
こうした7thコードなどの不協和音を用いる際は、ヴォイシングは完全5度を基礎に敷かれるという特徴もあります。
上の譜例を見ても、右手・左手ともに完全5度を奏し、その結果としてメジャー7thコードが鳴っていることが分かります。
空虚5度も多用され、和音全体の響きを支えるために低音の完全5度も頻繁に登場します。
このように完全5度が愛用されるあたりは、ドビュッシーを思わせますね。
ラヴェルの音楽では、もはや連続5度は積極的に用いられています。
さらに、これもドビュッシーの影響を感じますが、ヨナ抜き音階(陽旋)や陰旋といったペンタトニック(5音音階)が好んで使われます。
下の譜例では、左手がペンタトニックで主題を奏しながら右手はぶつかりを含む完全5度のアルペジオを奏していますね。
☆POINT☆
・ずれ和音や拡張された非和声音による不協和音、ぶつかりの多い音使い
・7thや9thなどのテンションは普通に使われる
・完全5度の響きに支えられたヴォイシング
・ペンタトニック
さて、ラヴェルの曲ではD進行しない属7・属9の和音がたびたび登場します。
属9を乱用する辺りはドビュッシーも共通で、印象派らしさといえるかもしれません。
ラヴェルの作品中では、ふつうのD進行というものがほとんどありません。
古典音楽との差異化を図るため、S進行や3度進行・減5度進行・弱進行といった和声の方が多用され、D進行はとっておきの際にしか使われません。
また、D進行はしていても導音の解決が見られないことが多いです。
従来とは違った響きを作ろうという、ラヴェルの気概が感じられます。
フリギア旋法やジプシー音階といった民謡的なスケールが用いられるのも、こういった狙いからでしょう。
☆POINT☆
・D進行はあえて使わない
・導音の解決を聞かせない
・フリギア旋法やジプシー音階など、民謡の音階を用いる
ものまね曲、完成
……以上のポイントを踏まえてものまねをしてみました。
モーリス・ラヴェルの作風を意識しつつ、僕が作ってみた曲です。
本家のラヴェルよりも無調感の強い曲になるよう狙いました。
我ながら結構いい感じではないでしょうか。
ラヴェルは個人的に好きな作曲家なので、研究にも作曲にも熱が入りました。
近代音楽になると、音楽性もだんだんと一筋縄ではいかなくなってきますね。
皆さんもぜひ、ラヴェルっぽい曲を作って僕に聞かせてください。
なお、「水の戯れ」「道化師の朝の歌」の詳細な分析はこちらにアップしています。
興味があれば見てみてください。