名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

12音律のべき生成スケール(べき生成スケール中編)

本記事は、なんすいの理論記事シリーズの続きです。過去記事で紹介した用語を基本断りなしに使うので、本記事最後の用語集を眺めてから読むのをおすすめします。

 

 

 

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こんにちは、なんすいです。

前回は、音列からスケールを生成する方法を紹介し、そしてチャーチスケールの1つであるリディアンスケールが"べき倍音列"から生成されることに触れました。

 

"べき倍音列"とは何だったでしょうか。

 

べき倍音

べき倍音列とは、ある数の倍数を0から順に連ねた音列です。

一般に、(0, p, 2p, ... , (k-1)p) 「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼びます。

さらに、べき倍音列から生成されるスケールを「べき生成スケール」と呼ぶことにしましょう。

 

例えば、前回リディアンスケールを生成した音列(0, 7, 14, 21, 28, 35, 42)は、7の倍数を7個並べた音列になっているので、「べき数7による位数7のべき倍音列」となります。

そして、リディアンスケールはべき生成スケールとみなすことが出来る、と言えます。

 

さて、当たり前ですが、べき倍音列は上述の(0, 7, 14, 21, 28, 35, 42)以外にも、べき数p、位数kを変えることでいろいろ作ることが出来ます。

そこで今回は、べき倍音列から生成されるスケールたちを観察してみようと思います。

 

 

 

「べき数7、位数kのべき倍音列」によるべき生成スケール

さて、私たちにとってスタンダードである12音律のもとで、べき数7は固定、位数kをいろいろ変えてべき倍音を設定したときに、生成されるスケールがどのようになるのか見てみましょう。

 

 

位数kが増えるとべき倍音列の長さが単純にのびるわけなので、kが増えるのに伴ってべき生成スケールの成分も1つずつ追加されていきます。

そして最終的に位数12の段階で、べき倍音列(0, 7, ... , 77)の各成分は12音律の全ての音0~11にちょうど1つずつ対応し、べき生成スケールは(0, 1, ... , 11)すなわちクロマティックスケール(半音階)となります。

これ以上位数を増やしても、新たに追加される成分はもう無いので、生成されるスケールはクロマティックスケールのままです。

 

階名で表すなら、べき数7のべき倍音列は「ド、ソ、レ、ラ、ミ、…」と連なっていき、12半音の全ての音を被りなく網羅するような音列になっている、と言えます。

 

では、今度はべき数を変えてみましょう。どうなるでしょうか。

 

 

 

「べき数9、位数kのべき倍音列」によるべき生成スケール

べき数を、例えば9にして、同様に位数kを増やしながら生成スケールを見てみましょう。

 


なんだかさっきと様子が違いますね??

位数4以降、どれだけ位数を増やしても生成スケールは(0, 3, 6, 9)から変化していません。どうしてでしょう。

 

スケール生成とは、音列の各成分に対してMODを施し、小さい順に並べ替えるという操作でした。

今、べき数9のべき倍音列にMODを施してみると…

 

MOD( (0, 9, 18, 27, 36, 45, 54, 63, 72, ...) )

=( MOD(0), MOD(9), MOD(18), MOD(27), ... )

=(0, 9, 6, 3, 0, 9, 6, 3, 0, ...)

 

このように、0,9,6,3,だけが繰り返し出てきます。

したがって、どれだけべき倍音列の位数を増やしたとしても、生成スケールに新たな成分が追加されないため、上表のような結果になったのです。

つまり、べき数9のべき倍音列は、べき数7のそれとは異なり、12音律の全ての成分を網羅出来ないということになります。

 

これを音楽の現象で説明すると、「転調」によりすべての調を網羅出来るかという問題に言い換えられます。

べき数7の場合、7半音=完全五度の転調を繰り返していくと、すべての調をちょうど一回ずつ経て元の調に戻って来れます。

いわゆる「五度圏」と呼ばれるものは、べき数7のべき倍音列の"網羅性"のおかげで成立していると言えます。

五度圏表

 

対してべき数9の場合……9半音=長六度、つまり実質短三度の転調を繰り返すと、4回の転調で元の調に戻ってきてしまいます。

したがってべき数7の場合のようにすべての調に広がっていかないので、五度圏に対して「六度圏」のようなものは作ることが出来ません。

 

では、べき数がどのような数のとき、べき倍音列は"網羅性"を持つのでしょうか?

 

 

 

べき倍音列がすべての音を網羅する条件

突然なんですが、実は次のようなことが言えるんです!

(証明が気になる場合は何かしらの方法でなんすいに聞いて下さい)

 

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n音律のもとで、

0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,n-1の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であることである。

(pはべき数)

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上述のべき生成スケールたちは、みんな12音律のもとで生成されたものでした。

したがって、べき数7の場合、n=12、p=7となります。12と7は互いに素なので、べき倍音列は網羅性を持つということになります。

一方、べき数9の場合、12と9の最小公約数は3なので、12と9は互いに素ではありません。したがって、べき倍音列は網羅性を持たない、と分かります。

 

 

 

12音律の正規べき生成スケール

過去記事「チャーチスケールの近縁を探す」では、チャーチスケールに近しい性質のスケールを見つけるために、"正規性"という指標を定義しました。

 

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《スケールの正規条件》

①各インターバルが長さ2以下

②長さ1のインターバルが連続しない

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この指標を、べき生成スケールにおいて考えてみましょう。

つまり、べき生成スケールであってかつ正規性を満たすようなスケールはどんなものがあるか調べます。

 

ここで前提として、次の事実があります。

 

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★正規スケールから1つでも成分を取り除いたり加えたりすると、正規性は失われる。

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まず、スケールの正規条件①②より、正規スケールにおいて「一個挟んで隣同士」の二要素のインターバルは3または4となるので、正規スケールから1つ要素を取り除くと、その部分に長さ3以上のインターバルが生まれ、正規条件①を満たさなくなります。

f:id:nu-composers:20240204021814j:image

 

また、正規条件①より、正規スケールの隙間に要素を1つ追加すると、その要素はもともとのスケールの2つの要素と両側から挟まれることになります。したがってこの部分で正規条件②を満たさなくなります。

f:id:nu-composers:20240204021830j:image

 

以上から★の事実が分かります。

正規条件を満たしている状態とは、これ以上音が増えても減ってもダメな、ギリギリのバランスを保った状態であるわけですね。

 

 

 

さて、これを踏まえて、12音律の正規べき生成スケールを探しましょう。

ここで、べき数pが12と最小公約数d>1を持つとき、先に述べた事実からべき倍音列は全ての音を網羅しません。

さらに、このとき十分な位数のべき倍音列により生成されるスケールは

[0, d, 2d, ... , (d/n-1)d]となります。(容易に示せます…)

これは全てのインターバルがdとなっているスケールです。

 

したがって、pが12と互いに素でない場合、正規条件を満たすべき生成スケールはd=2のとき、すなわちホールトーンスケール[0, 2, 4, 6, 8, 10]のみであることが分かります。

 

一方pが12と互いに素のとき、すなわちp=1, 5, 7, 11のとき、もしあるpによるべき生成スケールたちの中に正規なものがあったとすると、それはあるただ1つの位数の時に限り正規で、それより位数が多い/少ない生成スケールは全て正規でないということになるはずです。(★の事実から)

 

p=1, 11の場合、べき倍音列は(0, 1, 2, ...)あるいは(0, 11, 10, ...)とインターバル1で連ねていくだけなので、生成スケールが正規条件を満たすことは無いと容易に分かります。

p=7の場合は、位数7のときに限り正規条件を満たします。すなわちこれは冒頭からずっと登場していたリディアンスケール[0, 2, 4, 6, 7, 9, 11]です。

 

そしてもう1つ、p=5の場合、こちらも位数7のときに限り正規条件を満たします。このときのべき生成スケールは[0, 1, 3, 5, 6, 8, 10]、すなわちロクリアンスケールです。

 

まとめると、12音律のべき生成スケールで正規条件を満たすものは

ホールトーンスケール [0, 2, 4, 6, 8, 10]

リディアンスケール [0, 2, 4, 6, 7, 9, 11]

ロクリアンスケール [0, 1, 3, 5, 6, 8, 10]

の3つであることが分かりました。

 

特に、12と互いに素なべき数によるべき生成スケールであるホールトーン以外の2つのスケールは、調性空間を網羅する"圏"を構成するため、広がりのある和声理論の基礎としての役割が期待されます。

 

実際、べき数7のべき倍音列から生成されたリディアンスケールは下属音を持つように変位を加えられ、7半音=完全五度によって全調を繋ぐ五度圏を構成します。そしてその構造のもとに、機能和声やジャズ理論など様々な複雑な和声理論が構築されてきました。

また、リディアンスケールと対称的にべき数5のべき倍音列から生成されたロクリアンスケール、これを基にして作られた理論が存在しています。

それは、当会会員であるトイドラくんが提唱している「トイドラ式ロクリア旋法理論(TLT)」です。

nu-composers.hateblo.jp

 

特性上五度圏での処理が難しいロクリア旋法を扱うために、「四度圏」上で機能和声や対位法を展開するというもので、やはり複雑な構造作りに十分耐えています。

 

べき数5のべき倍音列は、べき数7のべき倍音列を逆さに並べたものに等しいので、このような対称的な結果が出るのは当然と言えば当然ではあります。

しかし、少なくとも「べき生成スケール」および「正規性」という2つの構造的指標のもとにおいて、リディアンスケールとロクリアンスケール…五度圏と四度圏が同じだけの可能性を持って並置されるというのは、これまでの五度圏中心の音楽史を思えば驚けることかもしれません。

 

また、四度圏音楽は「自然倍音の観点から根拠が薄い」と批判されることがありますが、調性音楽における構造的な広がりにおいて五度圏と同じ強度を持つことこそ、四度圏音楽が成立する重大な根拠になると私は考えます。

音響を切り取るだけが音楽ではありません。音がいくつも連なり進行していく上での構造もまた、音楽の重要な側面だと思います。

 

 

 

次回

12音律、飽きてきましたよね。

これまでずっと音楽理論記事なのに数学的な記述を取り入れてきましたが、これのいいところは一般的な話をしやすいところです。

次回は馴れ親しんだ12音律の世界を飛び出して、いろんな音律のべき生成スケールを見ていきます。

 

それではさようなら。

 

 

【定義・表記集】

数列によって音列を表記する方法:インターバル構成など単に音列のときは()、スケールを数列で書くときは[]で囲むことで区別する

 

スケールのインターバル構成:スケールの各インターバル(隣接音程)を順に並べた数列

 

巡回同値関係:2つのスケールを適当な巡回によって一致させることが出来るとき、2スケールは巡回同値関係で結ばれているという

 

巡回同値類:どの2スケールを取っても巡回同値関係で結ばれているようなスケールたちの集合を巡回同値類といい、そこに含まれるスケールを1つ取ってきて括弧でくくり表記する

 

位数:スケールに含まれる音の個数

 

正規条件:①各インターバルが長さ2以下②長さ1のインターバルが連続しない

正規条件を満たすスケールを正規スケールと呼ぶ。

 

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スケール:  n音律のスケールとは、次の3条件を満たす音列である:

①要素に0を必ず含む

②全ての要素が0以上n-1以下の相異なる整数である

③要素が左から小さい順に並んでいる

 

スケール化可能性: n音律のもとで音列aが次の条件を満たすとき、スケール化可能であるという:

①要素に0を必ず含む

②各要素a_jに対してMOD(a_j)が相異なる

 

スケール化: スケール化可能な音列に対して、その音列の各要素を小さい順に並べ替えてスケールを生成することをスケール化、生成したスケールを生成スケールと呼ぶ。

 

MOD: n音律のもとで、MODは次のように計算される:

単音eに対して

MOD(e)=(eをnで割った余り)

音列a=(a[0], a[1], ... , a[m-1])に対して

MOD(a)=( MOD(a[0]), ... , MOD(a[m-1]) )

 

------------------------------New↓

 

べき倍音列: ある数の倍数を0から順に連ねた音列。(0, p, 2p, ... , (k-1)p) を「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼ぶ。

 

べき生成スケール: べき倍音列から生成されるスケール

 

べき倍音列の網羅性: n音律のもとで、0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,11の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であること(pはべき数)

2023年に観たアニメ

【2023年版】

 

遅ればせながらあけましておめでとうございます。ぎょくしです。では、今年もまた、去年観たアニメの振り返りをやって参りたいと思います。今年は若干のルール変更がございますのでよろしくお願いします。

 

〜ルール説明〜

①これは2023年内に視聴終了した作品のリストである。年を跨ごうが2023年に視聴終了したらリストに追加される。

 

昨年までは、過去に一回観た作品をもう一回観た場合などはリストに追加しなかったが、今年から追加することにする。なぜなら観た時によって印象は変わるので。感想はその時観た感想を記入する。

 

③複数回視聴した場合は作品タイトルの後ろに本年中に視聴した回数を明記する。書き方は(年内に観た回数/観た回数のトータル)

 

④基本「面白かった」しか言わない人間なので評価基準は大雑把に以下の通り

★☆☆☆☆→そこそこ面白かった、一度観れば充分

★★☆☆☆→まあまあ面白かった、印象に残っている

★★★☆☆→面白かった、観られて満足している

★★★★☆→とても面白かった、オススメできる

★★★★★→非常に面白かった、是非観るべきだ

 

それではスタート!

 

うたわれるもの 二人の白皇

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長年続く大人気戦記モノアニメの最終章。“戦”がメインとなったこの最終章は、良いシーンが盛りだくさんで、観ていて何度もドキドキ・ウルウルさせられました...総評として、SFと戦記モノとが絡みあったなかなか素晴らしい作品に仕上がっていたと思います。私は満足。

 

戦記モノ観るならまあオススメ ★★★☆☆

 

・劇場版 機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-(1/2)

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なんとなく観返したくなったので視聴。ルリ艦長が可愛いのと、ストーリーが面白いのは相変わらずでした。

 

相変わらず面白かった★★★☆☆

 

・Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-(2/2)

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高校生の女の子がDIYに挑戦する!という概要だけ聞けばよくありそうな(?)「何かに挑戦する系アニメ」だが、キャラデザよし、音楽も良し、ストーリーもかなり良くて2回も観ちゃいました。何か作業をしながらもフワッと視聴できるような、こういう柔らかな作品を観たのは久しぶりかも。

 

柔らかで優しい雰囲気のアニメ★★★★☆

 

 

・猫のダヤン ダヤンとジタン

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猫のダヤンシリーズを初めて観ました。元は池田あきこさんによる絵本シリーズ。まずキャラクターデザインが可愛すぎて劇場でデカい声出しそうになったのと(←本当の話)、ストーリーもちょっとドキドキハラハラさせる感じですごく面白かったです。別に原作を知らなくても観れるのでオススメです。

 

キャラデザがすっっっっっごい可愛い★★★★☆

 

・猫のダヤン 日本へ行く

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上記ダヤンシリーズのダヤンたちが日本へ行く、という作品群。そこそこ面白かったですが、こっちよりかは「ダヤンとジタン」の方が圧倒的に好きですね...日本要素いる?いやまあ要るか...ってなっちゃったので。

 

ダヤン達の日本の旅★★☆☆☆

 

・魔入りました!入間くん 第3シリーズ

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入間くん第3シリーズは「収穫祭」という学校の行事を中心に描かれるのだが、今シリーズは入間くんのクラスメイトにもしっかりとスポットが当たり、観てて非常に楽しかったです。毎週めっちゃ楽しみにしてたもん、俺。沢山のキャラクターがワイワイ(?)する系の作品が好きな人は是非!!!!

 

非常に丁寧なキャラクター描写★★★★☆

 

たまこラブストーリー

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たまこマーケットの劇場版。京アニ作品。たまこともち蔵の酸っぱくて甘い恋模様を見ることができます。やっぱり作画がめちゃくちゃ綺麗なのと、たまこ達のバトン演技する時に流れる「上を向いて歩こう」のアレンジが素敵だったのがとても記憶に残っています。

 

二人の“恋”の行方は...★★★★☆

 

グスコーブドリの伝記

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宮沢賢治原作、杉井ギザブロー監督版のグスコーブドリの伝記。キャラ原案は銀河鉄道の夜の、ますむらひろし氏です。田園の美しい風景や都市のスチームパンク的世界観はまあ良かったんですが、世界観(?)の解釈の点でこれはあまりしっくり来なかったな〜というのが印象です。それだったら銀河鉄道の夜の方が100倍好きかも。

 

銀河鉄道の夜の方が好きだった...★★☆☆☆

 

シチリアを征服したクマ王国の物語

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海外アニメーション作品。大須シネマで上映してたので視聴。旅芸人の2人がある雪の夜、老いた大きな熊と遭遇する。二人は食べられるまいと「シチリアを征服したクマ王国の物語」の話を披露するのだが...アニメーションも美しく、ストーリーも面白かったです。子どもだけでなく、大人も楽しめる作品になっております。

 

大人も楽しめるクマ王国のおはなし★★★☆☆

 

銀河鉄道の夜(1/2)

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「原作知ってないと良くわかんねぇな」という評価に落ち着いた前回でしたが、今回ボーーーーッとしながら観て評価が★5に跳ね上がりました。いやほんとに美しい作品です...あれこれ考えずに自分も一緒に星の旅に出かけるような、そんな気楽さで物語に臨むのをオススメします。

 

とても不思議でとても美しい、星の世界★★★★★

 

・緑子

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大須シネマで視聴。ものすごい作画で、ものすごいストーリーの、ものすごい作品でした。人によっては「うわっ...!」ってなるかもしれませが、一遍は観てみるのをオススメしたいですね...これは...

 

色々とものすごい作品★★★☆☆

 

大人のためのグリム童話 手をなくした少女

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大須シネマで視聴。「クリプトキノグラフィー」という手法を用いて作られており、美しくてアッサリした線や絵が流れるように動いていて素直に「すご!」ってなりました。ストーリーも結構良かったです。

 

圧巻の「クリプトキノグラフィー」★★★☆☆

 

セロ弾きのゴーシュ

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高畑勲監督作品。原作はもちろん宮沢賢治です。実は、大昔にこれのアニメ絵本を読んだことがあり、「懐かしいェェェェ!」という気分でずっと観ていました。大っぴらに取り上げられることはあまりない作品ですが、間違いなく名作の一つだと思います。登場する子だぬきが可愛いです。

 

隠れた名作品の一つ★★★★☆

 

哀しみのベラドンナ

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虫プロが制作した、大人向けアニメーション。絵が美しく、エロティックだったり、サイケデリックだったりと、一級アート映画に仕上がっております。挿入歌や音楽もかなり良かった記憶...

 

アート系アニメーション映画作品★★★☆☆

 

・ペンギンズ・メモリー 幸福物語(2/2)

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ペンギンが松田聖子の歌を歌う「あのビールのCM」が元となっているこの作品。戦争で心の傷ついた主人公のマイクが放浪の旅の末、ある街に辿り着き、そこでジルと恋に落ちるも...という、キャラの見た目は子ども向けなれど、バリバリの大人向け作品でした。声優も非常に豪華で、ストーリーもめちゃくちゃ面白いので、頼む、DVDかブルーレイを出してくれ。

 

ペンギン達のアメリカン・ニューシネマ★★★★★

 

君たちはどう生きるか(2/2)

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気になってたので観ちゃいましたよ、「君たちはどう生きるか」。自分の感想としては「0(何も考えず観る)か100(完璧に考察をする)で観る作品」といった感じです。自分はハナから0状態で観たので、かなり楽しめました。二度観に行ってもなお「まだ観に行きたい」と思ってしまうので、それだけ自分にとっては良き作品ということです。

 

高純度・高品質のファンタジー作品★★★★☆

 

・駒田蒸留所へようこそ

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お仕事作品でお馴染み、P.A.Worksの劇場版作品は「ウイスキーづくり」に関する作品。酒好きとして一応観とくか...って感じで観に行きましたが、普通に質も高くて面白かったです。ウイスキーに関する知識も得ることができるので良かったです。

 

ウイスキーにまつわる、家族の物語★★★☆☆

 

・鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

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鬼太郎の出生の謎にフォーカスした、「お姉様方」に大人気の作品。いや実際、ストーリーもめちゃくちゃ面白く、音楽や作画の質も高くて「全ての要素において平均点を軽く超えてくる作品」(友人談)となってます。ただ、折角ならもっとじっくり観たい気持ちもあって...半クールくらいで...アニメ化してくれんか...

 

「ゲ謎」人気に大いに納得、面白い★★★☆☆

 

・ちびねこトムの大冒険(4/8)

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大須シネマで上映してたから、また観に行きました。いや実は、初見時の感想は「めちゃ面白かったな(普通)」くらいだったんですが、観るたびに新たな視線が発見されたりして、「めちゃくちゃ面白いやんこれ!!!!!!」という想いに変わりました。本当に素晴らしい作品なんです、チャンスがあったら絶対観てください...お願いします...

アニメーション好きは絶対見るべき名作★★★★★★

 

風が吹くとき(1/2)

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U-NEXTで配信始まってたので、(帰り道の店で飲んだビールに悪酔いしながら)二度目の視聴。戦争(原爆)系映画の傑作の一つ。観てた時のコンディションの悪さもあるんですが、主人公のおじいさん・おばあさんの話がとにかく長いので、観てて疲れちゃった...でも、ラストシーンは本当に心に残るので、一度は観てみると良いかもね。

 

原爆系作品の名作アニメ、ラストが好き★★☆☆☆

 

・劇場版ポールプリンセス(2/2)

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女の子たちがポールダンスに挑戦するアニメ、の劇場版。最初は予習もナシでそれほど期待せずに観に行きましたが、ホンマに凄かった...ストーリーも普通に面白いし、何よりポールダンスシーン(3DCG)のスクリーン映えが凄い。で、そのポールダンスシーンは全てモーションキャプチャで作られているので、現実離れした動きも実は全て「リアル」という驚き... 私は沼に落ちました。どれだけ凄い動きをしてるかは下の動画を見ていただければお分かりいただけると思います...

 

圧巻のポールダンス演技は是非劇場で★★★★★

 

・ポールプリンセス

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上記劇場版に先行して配信されていたWEBオリジナルアニメ。こちらは日常パートも全て3DCGとなっています。ストーリーもそれなりに面白くて良かったのですが、ポールダンス演技シーンはカットされていた(※演技シーンは別動画として配信されている)ので、長尺になっちゃっても良いから同時に見せて欲しかったなぁ...と。でもこちらの演技も素晴らしいので、是非。演技動画はモーキャプ元の実写動画もあるので、それも観てください。観ろ。

 

劇場版を観る前に視聴しておくと吉★★★☆☆

 

 

・Helck

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佐藤竜雄監督作品。原作はマンガワン連載の漫画。最初はギャグ中心で、ギャグがそこまで好きでない私は最初こそは「うーむ...?」という感じでしたが、回数を重ねるごとに夢中になり、ギャグには大いに笑い、シリアスな展開に頭を抱え、ハラハラする展開には手に汗握って、全力で楽しませていただきました。ありがとうございました。ヒロイン達も魅力的ですが、やっぱり自分はヘルク推しですかねぇ...バリかっこいいので。

 

ギャグとシリアスの絶妙な加減、キャラも魅力的★★★★★

 

以上!

 

去年は一昨年に比べて観たテレビアニメの本数がガクッと減少し、そのかわり劇場作品の視聴本数が激増しました。あと、実写系劇場作品もかなり観ましたね(重複含めて12本)。でも本当にTV作品が観れなくなってきているので、良くないですね...良くない...今年は何をどれだけ観れるのでしょうか...

...ではまた!!!

LA SEÑASのライブに行った

LA SEÑASのライブに行きました。

Country of Frenzy (熱狂の国)ツアーでした。

 

貴様はLA SEÑASを知っているか

LA SEÑASは2016年に結成された結成、打楽器奏者のみで構成された即興演奏打楽器集団です。 アルゼンチン発祥のハンドサインを用いた即興演奏法、Rhythm with Signsを取り入れた日本初のグループだそう。Rhythm with Signsってなんだ?

 

貴様はRhythm with Signsを知っているか

アルゼンチンのミュージシャン、Santiago Vázquezによって発案されたパーカッション即興演奏法がRhythm with Signs*1です。グループで演奏する際に指揮者を設定し、あらかじめ考案された150を超えるハンドサインを駆使して即興的に演奏を指示します。いわば野球で監督がベンチから出してるサインみたいなもんです。

実際にどんなハンドサインがあるのかというとこんな感じです。

drumsmagazine.jp

これを実際にやるとこうなります。


www.youtube.com

0:20付近でジャンベに16分音符4つを指示するところとかわかりやすいんじゃないかと思います。

 

こんな感じの事前知識があるとLA SEÑASのライブをより楽しめるような気がします。

 

俺はLA SEÑASのライブに行った

といったところで話はライブに戻ります。

実はLA SEÑAS自体は3年くらい前から知ってました。
私はポピュラーミュージックにおけるパーカッショングループが好きなんですが、人が聴いていて気持ちいいビートが限られているからか、だったらもうDTMでよくね?テクノでよくね?的な感じだからなのか、あんまりいなくて結構ニッチなんですよね~。GOMA and Jungle Rhythm Sectionとか好きなのに......。


www.youtube.com

とか思って探してたら見つけました。


www.youtube.com
今思えばそれより前にツイッターで何回か見かけていたような気もします。でもストリーミングサービスに配信したのはこの曲(が入っているEP)が初だったと思うので、やはりなんでも配信にかけてくれたほうが覚えやすいですね。

そして結成から七年の歳月を経た今年、ついに1stアルバムが完成した(長え)し、東名阪ワンマンツアーを行うとのことで、念願かなってライブを見ることができました。

 

以下感想です。

パーカッショングループということもあり、観客の手拍子や歓声がダイレクトに演奏に反映されるのがライブ体験として新鮮でした。驚いたのは、コール・アンド・レスポンスが裏拍主体だったことです。パーカッショングループとしての妥協がねえ。平気で16ビートのレスポンスを求めてくるので非常に楽しかったです。
さらに言うと指揮者の存在が効果的に働いていた*2と思います。実際、演者だけでなく観客にもハンドサインによる指示で手拍子や掛け声での演奏への参加を促していました。メンバーがしきりに言っていた「ここにいるおれたちだけじゃない、お前たちも含めてみんなでLA SEÑASだ」というのはまさにこの演者・観客の相互作用により生じる面白さ(彼らが言うところの熱狂を示していたと思います。なんですが、その割には客が棒立ちでノリが悪かったように思います。不思議です。どう聴いても実質EDMみたいな曲なのに?????


www.youtube.com

↑実質EDMみたいな曲の一例↑

演奏を見たい打楽器マニアよりは、踊りたいクラブ狂いとかに届くとライブ体験としてもっと充実するかも、と割と真面目に思います。あるいは名古屋が文化的空白地帯の可能性がありますが、これに懲りずにまた来ていただけると私は嬉しいです。

とか言っておきながら、謎の打楽器が大量に出現するので、楽器マニアにはたまらないと思います*3ガムランとかはさもあたりまえかのように出てきました。普通の楽器もどこかおかしくて、特にシンバルからは明らかに打ち込みっぽい音がして異様だったので後で確認しに見に行ったんですが、シンセドラムとかではなく人力だということがおそらく判明しました。その代わり見たことないセッティングでした。

全然伝わらない写真で申し訳ないんですが、セッティングが異様だったんです。信じてください。

南米だとこれが主流だったりするんですか!?

また、先ほども少し言及しましたが、パーカッショングループのジレンマとして人が聴いていて気持ちいいビートが限られているというのが挙げられると思うのですが、その辺はラテン系のビートを基調に日本やアフリカ、現代ポップスのビートを折衷することでなんとかなってました。むしろ折衷の仕方がおかしい。途中ティンバレス奏者が締め太鼓をたたくシーンがあったんですが、たたき方がもろティンバレスだったんですよね。なんでやねん。これが最もわかりやすいシーンだったんですが、おそらくこれと同じことがほぼすべての楽器で起きていました。おそらく、というのは楽器が多すぎて全容を把握できていないからです。

 

という感じで私は結構楽しめました。大所帯なので難しいかもしれませんが、また名古屋に来てほしいです。おわり。

*1:ちなみにRhythm with Signs自体にはLawrence D. “Butch” Morrisが考案した即興演奏法が元ネタとしてあるようです。

*2:本来ならば

*3:私もたまりませんでした

コンテンポラリーの回廊 俺の視聴部屋4

コンテンポラリーの回廊

 皆様あけましておめでとうございます。
 旧年中は当ブログ、そして何より名古屋作曲の会と私自身に多くのご指導ご鞭撻をいただき有難うございました。
 この会の顧問になって数年、会長も変わり次の局面を迎えた昨年は、残念ながら当会としては満足の行く活動内容とは行きませんでした。体制の変化に伴い、徐々にヴィジョンと企画の着地に失敗することが多かったのが主たる原因と考えますが、今年はそんな雰囲気を吹き飛ばし大飛躍をしてもらいたいと考えております。まだ具体的な段階ではありませんが、支部の結成、事務局の設置、さらに外部協力者の方々と色々ご一緒させていただき、会にも大きな刺激になれば良いなと感和えております。

 どうか本年もさらなるご指導ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

 さて本年のブログ、私の担当回としては最初の回となります。やはりここはこの「コンテンポラリーの回廊」シリーズで始まり、近年のコンテンポラリーの動向をどこよりも速くキャッチし、日本の文化度の後退を止めたいとの思いを新たにしたいと思います。では早速近年書かれたユニークだと私が感じた作品を聴いていきたいと思います。

 

Alex Temple

1.This Changes Everything!/Alex Temple


 はじめにご紹介するのは1983年アメリカ生まれの作曲家、アレックス・テンプルの書いた曲です。アレックス・テンプルは写真でも分かる通りLGBTQをカミングアウトしており、Qとしての活動に力を入れている作曲家です。

 彼女はイェール大学に学び、作曲はカスリン・アレキサンダー、マシュー・サッターに師事しており、系譜としてはポスト・ミニマル的なものと言えますが、作風はミニマリズムではなくPOPSとのクロスオーヴァー微分音による音響に関心が置かれているようです。
 この曲はソプラノ・サックスの独奏に打ち込みによる伴奏がつけられ、Jazzのイディオムを柔軟に取り入れた上で、微分音によるゆらぎを加えるというクラシック離れした内容です。非常に現代的でDTM的な視座に立った個人的な作品と捉えられますが、そこらのDTMerと名乗る人々とはやはり土台の力が全く違います。日本でパソコンのケツを眺めてシコシコやっている自称音楽家も、このくらいの精度と解像度を持って音楽に臨んでもらいたいとの思いを新たにする刺激的な作品ではないかと思います。
 え?何が違うって?わからないあなたの耳はもうカビで詰まっているのでしょう。対位法の技術が詰まった作品ということにすら気が付かないようでは先が思いやられますね。さてそんなワードをヒントに聴いてみましょう。

 

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Demian Rudel Rey

2.Cuélebre/Demian Rudel Rey


 次にご紹介するのは1987年アルゼンチン出身デミアン・ルーデル・レイの作品です。作者はアストル・ピアソラ音楽大学サンティアゴ・サンテロに師事し、その後は一貫してエレクトロニクスを活用した作曲を行っています。
 その音楽は細かい断片を各楽器に演奏させ、一種ジョン・ゾーンのような無軌道で疾走する断片を敷き詰め、徹底的に電子加工して聴衆に届ける手法を用いています。こういった作品は今に始まった手法ではありませんが、加工の方法がギタリストでもある彼の側面を生かしたものとなっており、一般的なライブエレクトロニクスの域を遥かに超え、楽器の実音を殆ど残さない域に達しているのが現代的ではないかと思います。音楽自体は難解な響きに包まれていますが、文明の利器をここまではっきりと肯定している音楽は、アレキサンダーシューベルトの作品を思い出すほどです。またVJ的な要素をライブに持ち込むインスタレーションアートとしても極めて独創的と言えるでしょう。

 

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Adrianna Kubica-Cypek

3.Reflection Nebulae/Adrianna Kubica-Cypek


 3曲目はポーランド出身の新鋭作曲家アドリアンナ・クビツァ=ツィペックの書いたオーケストラ曲です。タイトルは「反射星雲」の意味で、宇宙に輝く茫洋とした星雲の一形態のことのようです。
 クビツァ=ツィペックは1996年にポーランドに生まれ、デンマーク王立音楽アカデミーでニールス・ロスリング=ショウのマスタークラスを卒業、その後もアレクサンダー・ラーション、ヴォイチェック・ステピエン、デイヴィッド・チャップイス、ルカ・アンティニャーニに師事しています。現在では国際的評価が大きく高まり世界各国から委嘱を受けるようになり、人気作家として頭角を現してきています。
 この頃の音楽ではもはや、調性、無調、汎調、復調、多調、旋法性、倍音性、騒音性などは音楽を分ける区分ではなくなって来ており、彼女の作品も語彙選択が自由に行われています。この曲ではよく鳴り響くポイントとなる鋭い音が、茫洋と反射され溶け込むような響きの残滓になってゆくというはっきりした描写が続きますが、調的な響きと倍音的響きの混在が明らかであり、それが違和感なく美しく調和しています。大きな視座と直感的ですらある感性が結びついたまさに今を表す作風だなと感じたので、ここに紹介してみようと思います。

 

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Jannik Giger

4.ŒIL/Jannik Giger


 4曲目はスイスの作曲家ヤニク・ギーガーの作品をご紹介します。昨今のコンテンポラリー作曲家は作曲行為だけで何かを表すだけでなく、複数の芸術ジャンル、表現活動にまたがって活動することが多くなっており彼もまたそんな一人です。
 1985年にスイスのバーゼルに生まれ、現在もそこを拠点に活動する、作曲家・ビジュアルアーティストです。
 ベルン大学でダニエル・ヴァイスバーグ、ミカエル・ハレンバーグに師事、更にバーゼル音楽大学でミシェル・ロスとエリック・オーナのマスタークラスを修了しています。その後メディアアートを中心に作品を発表しており、映像と音楽との関係を不可分にした表現を中心にしているようです。
 今回は純粋な弦楽四重奏の作品を紹介しますが、聴けばすぐにその作風の特異性に気がつくことと思います。一見すると古典音楽のような響きなのです。しかしなにか歪でレコード変調でもしたかのような不思議な感覚にとらわれることでしょう。これは調性や微分音やゆらぎのようなものを複数の言語の統合として認識し、複雑な楽譜を通じて不思議な音体験として聴衆に正確に届けているためです。倍音管理がしっかりしているため、これら微分音と調性が無理なく結びつき、ユニークな音楽となっています。なお表題の意味は「目」。非常に曲内容とともに意味深なタイトル付けだなと感心します。

 

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Mithatcan Öcal

5.Alessandro Perevelli/Mithatcan Öcal


 最後に紹介するのはトルコの作曲家ミタトカン・エカルの作品です。

 私は常々このブログや他媒体を通じて現代トルコの作曲家はいずれ世界のコンテンポラリーの中心を築くだろうと申し上げておりますが、まさにこの曲を聴くとその思いを新たにします。トルコには非常に豊かで、またかなり細かい微分音を含む伝統音楽の歴史があります。このあたりは当会の岩附会員の専門分野ですので、彼の記事を参照されるとよいかと思いますが、この伝統のせいか先天的に音の分解能が高いという特色があるように思います。
 先程来書いてきた通り、今の作曲家はあまり音楽語法について一つの言語に拘泥せず、それらを如何に混ぜるかが作風の決定的な部分となっています。その中の要素にマイクロトナリティ、つまりは微分音の復活が著しいことは、トルコの作曲の絶対的な後押しになっていると言えると思います。9分音を文化に持つ彼らは、そもそも美しい微分音というものを幼少期から染み込ませているとも言え、これが倍音を中心とした響きを作る上で絶対的なイニシアチブとなっているのです。
 エカルは特にアナトリア民謡や、中東の伝説などに興味の中心を置き、現代においてこれら古典がどのように聴かれるかということを作曲のテーマにしています。このため先程の曲もそうだったように、様々な語法がそれら民族素材の上に並べられ、西洋音楽史上では出現し得なかった旋法音楽に繋がっているわけです。
 エカルは1992年トルコのイスタンブール出身。ミマール・シナン国立音楽院でアフメト・アルトゥネル、メフメット・ネムトルに師事しキャリアの最初の頃から、伝統音楽への傾倒を見せる作風を確立、現在国際的にも注目される一人になっています。
 この作曲家の取り組みについてはそのうち「コンテンポラリーを聴く」シリーズで詳細に取り上げたいなと思っているので今回は多くは語らず、まず彼の音楽を堪能してみてください。ベートヴェン好き、民族音楽好き、そして劇伴好きにも刺さる内容と思います。

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 いかがだったでしょうか。新春を彩るにふさわしい最新現代音楽の世界は。そして日本の遅れっぷり、忘れ去られっぷりとこの国における文化理解度の低さをこれほど簡単に味わえることは少ないのではないでしょうか。
 陽出づる國、経済大国と浮かれてるうちに、何も学ばず、楽を覚え、権利だけが先に行き、努力も研究もせず自分の好きなものだけ食べ続けたら、それはこうなるのは必然でしょう。2024年はどんな音楽が世界から生まれてくるか、どんな表現に出会えるか楽しみですね。願わくばそこに天才的日本人の存在がほしいですが、現状では望み薄なのかなと言わざるを得ません。少なくとも私とその弟子たちは、こういったフィールドへの研究を絶やさず、小さくまとまってほしくないものだなと思うばかりです。

 

 ということで新春から強めの刺激と厳し目の論説で始めてしまいましたが、皆様に置かれましては引き続き感染症にもお気をつけになり、この年を良い年になさってください。また当会の活動にもぜひご注目ください。

 

ストリートピアノ企画各曲解説

明けないに1万掛けてましたが、明けましたね。

おめでとうございます。

なんすいです。

名作会今年もよろしくお願いします。

 

 

さて、我々名作会より、今年の年明けと同時に「ストリートピアノ企画」の公開を行いました。

皆さんご視聴頂けたでしょうか。

 

youtube.com

 

ストリートピアノを使って演奏することを前提としたストリートピアノのための楽曲を、3人の会員が書き下ろしました。

 

KIRITORI~by the media's efforts to sabotage the nation through street pianos /榊山大亮

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榊山先生が制作したこの作品は、原曲の演奏にさらに映像編集を施した、メディアアートになっています。

 

「私はだれ?どこから来て、どこへ向かうの?」…というテロップから始まり、終始シリアスな雰囲気を纏ったドキュメンタリー風に映像が仕上げられています。

一体この映像にはどういう意味が込められているのでしょうか。

 

 

ここで作品の英語タイトルを訳してみると、「ストリートピアノによる、国家を妨害するメディアの"KIRITORI"」となります。

なんだか不穏ですが、このタイトル自体が本作品の種明かしになっています。

 

実は、意味ありげな映像には本当は何の意味も無く、ただそれっぽさを演出しているだけのものです。

意味の無い素材達を切り取って繋げ、恣意的に編集する「マスコミの手法」メディアアートとして再現されているのです。

 

マスコミ

 

ストリートピアノはもともと、街中での文化的な営みの機会として世界中に広まりました。

誰でも弾くことが出来、その中で文化的な交流が生まれることを期待されてきました。

 

しかし、現状はどうでしょうか。

 

youtu.be

 

ピアノの弾ける人達がこぞってストリートピアノでの演奏動画をYouTubeにアップし、人気を博しています。

もはやストリートピアノといえば、こういう風に上手い人が動画を回して流暢に流行りのポップスを弾いてみせる、といったイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

「誰でも弾く」ものではなく「弾ける人が弾く」ものへ、「何でも弾く」ものから「人気の曲を弾いてウケる」ものへと、ストリートピアノの役割は変貌してしまいました。

 

すなわち、当初の目的を果たせなくなったストリートピアノは「もっともらしく意味ありげな無意味」の象徴となった……ここに、マスコミの"KIRITORI"の手法を重ねるというのが、本作品のからくりになっているわけです。

非常に榊山先生らしい、意地悪なコンセプトです。

ストリートピアノの演奏が専らYouTubeで動画として拡散されていることに対比して、メディアアートの形で本作品が作られているという点も、皮肉ポイントです。

 

演奏者の私自身、最初からコンセプトを聞いていたので、演奏の際は本当に何も考えずに譜面の音符を弾いていただけでした。

映像として見ると、なんだか神妙な面持ちで弾いているように見えてきますが、それは弾くのが難しかったからです。素人の私でも弾けるようにだいぶ少ない音数で作って頂きましたが、いや、ピアノって難しいんですね。

私の演奏のぎこちなさ、そして風貌の謎さがより意味ありげな感じを醸していて、作品により良い効果を出せていたようで光栄です。

 

 

 

空間デザイン/冨田悠暉

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冨田悠暉(トイドラくん)作曲の「空間デザイン」。

これを最初から最後まで飛ばさずに聴いてくれた人は何割くらいいるんでしょうか。

 

1ページに収まるくらいの短くシンプルな譜面を、無限に繰り返し弾くという内容。

私自身、最初に楽譜をもらった時はかなりギョッとしました。

本曲を聴いてくれた人は、なんかずっと同じようなことばっかり弾いてるなと思ったかもしれませんが、本当にそうなのでした。

 

本曲の背景には、エリック・サティ家具の音楽という概念の存在があります。

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家具の音楽」は無意識のうちに聴かれながら空間の心地良さを演出するという、アンビエント的な音楽の構想といわれています。

しかし、そうして作られた楽曲はいずれも癖があり、あまり無意識的に聴けるような内容ではありませんでした。

実際、その初演は観客が音楽に聴き入ってしまったため失敗に終わったとされています。

 

さて、この「家具の音楽」を踏まえた上で、本作品は機械的な内容をひたすら繰り返すという、まさに道具のような音楽を鳴らし続けるものです。

静かな騒音を響かせ続けるピアノ、これを人々が意識に上らせまいと無視することにより、ストリートピアノは環境に溶け込みます。「逆・家具の音楽になりうるのです。

 

本作品は終始左腕で幅広のクラスターをpppで響かせ続けます。それは明確なビートにすらならず、機械のノイズのように静かに単調になり続けます。

コンセプト通り、譜面も演奏の動作自体も家具的で、静的な異様さを孕んでいるのが私的にとても好きです。

 

 

さて、榊山先生の作品とトイドラくんの「空間デザイン」は、どちらもストリートピアノが抱える重大な矛盾を指摘しています。

すなわち、公共空間に自由さを持って設置されたはずのものが、娯楽的で異質な存在としてある現状。本来の存在意義を見失って社会の中で浮遊しているという矛盾です。

この点で、2人の作品は非常に似たコンセプトを持ち、異なる手法でその矛盾に迫っているものといえるでしょう。

 

一方、榊山先生はストリートピアノがYouTube等で拡散された動画として消費されている点に目を向け、トイドラくんはストリートピアノの本来想定された聴衆の方を意識して、それぞれの作品を作り上げたという相違点も明確にあります。

 

どちらもストリートピアノの現状に異なる目線から切り込んだ、厳しいコンセプチュアル・アートになっていました。

 

 

 

ピアノ・イドラ/なんすい

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正直、先の2人と全然コンセプトの毛色が違ってドキドキしていました。が、それは割と当たり前の結果だったと言えます。

何故なら、本企画は私が発案し、私が全曲演奏したいと買って出たものだったからです。

 

したがって、先の2人の作品はいずれも演奏者を含めた空間や映像全体にピントを合わせた作品になっていますが、一方で私の「ピアノ・イドラ」は、最終的に演奏者…つまり私にスポットライトが当たる仕組みになっています。

 

本作品では、「冷たい羨望」をキーワードに、ストリートピアノを使って所謂「地下アイドル」的な風景を作ることを目指しました。

聴衆の平たい眼差したちを含めた風景が、結果的に演奏者をアイドルたらしめるのです。

この演奏を通して、ストリートピアノ界の地下アイドル…「ピアノ・アイドル」を出現させるのが、本作品の目的です。


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私が演奏者である私のために作ったと言っても良い本作品の背景には、やはり非常に個人的な動機がありました。

人前に立った時の湿っぽい緊張感、自分がなれなかったものへの嫉妬心、遠く離れた分野で華々しく活動する人達への複雑な目線。

そうした感情が、去年とあるアニメを見たことがきっかけでより深刻に起こり、作品に残すことを迫られることになりました。

それが「ひろがるスカイ!プリキュアです。



最終回が近づいてきてとても寂しいです

 

このアニメに出てくる青色のプリキュア「キュアスカイ」は、今の所私の中で最もアイドルです。

最高にかっこいくてかわいくて真っ直ぐで向う見ずで、私が絶対になれない性格をしています。

キュアスカイを見るたびに心が洗われ、同じくらいまた心が濁るので、毎回プラマイゼロになっています。

 

そんなわけで、本曲に使われているモチーフはほぼ全て「ひろがるスカイ!プリキュア」のOPメロディや変身シーンのBGMから取られています。

(本曲は「ひろがるスカイ!プリキュア」の二次創作と言ってしまっても過言ではありません、)

youtu.be

 

本作品「ピアノ・イドラ」は私をプロのピアニストにはしてくれませんが、アイドル性の本質にある濁った仕組みを描き出してくれる装置として機能するのです。

 

今一度他の作品と比べてみると、ストリートピアノが演奏されている空間自体に作用するという点では、トイドラくんの作品とより近いと言えそうです。

というより、むしろ榊山先生の作品の視点の特殊さがより際立ったという所でしょうか。

 

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以上3曲、変わったテーマの企画であっただけにいつもに増してコンセプチュアルな作品が集まりましたが、それぞれ全然異なるアプローチのものになっていたと思います。

 

これら3曲の楽譜は全て近日無料公開する予定です。どれも楽譜で見るとまたとても面白いので、ぜひご覧頂きたいですね。

またこれらの作品に興味を持って頂けたなら、ぜひお近くのストリートピアノで演奏してみて下さい。公共空間をちょっとだけ揺さぶることが出来ます。

2023年よかった曲

[前書き]もういくつと数えることもない。なぜなら明日はお正月なのだから。

2023年の3月に私が東京行きの新幹線に置き忘れたイヤホンは、誰かに拾われ今頃どこかの警察署で保管されている。いや、もう捨てられたかもしれない。でももうそんなことはどうだっていい。おかげで半年間電車で音楽を聴くことができなかった私の耳は渇望のあまりついに知多半島を飛び出し、今や名古屋大学のすぐそばに住んでいるという。そばに居て蕎麦煮て。今日は大晦日なのだから。

私は聴いた音楽をその場でメモるとかプレイリストに入れ、濃縮還元するとかいう活動を年がら年中しており、それもついに5年というメモリアル・イヤーに突入した。メモリアルだから何だというわけでもないが、今年も今年で現代音楽〜J-POP〜個人制作まで異種格闘技空中技・寝技・打撃技乱れ打ちの様相を呈している。そしてそれをここに記す。このブログはプログラム通りならば12/31 19:00に公開されているはずである。はたして紅白歌合戦の最中にこんなブログを読むやつはいるのだろうか? しかしまあ紅白歌合戦の最中にこんなブログを見るやつのために私は一年分の記録を参照したのだった。そういう人も、そうじゃない人も、どうぞご照覧あれ。

 

目次

 

やばきゅん♡シューベルト / DIALOGUE+


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DIALOGUE+は女性声優8人組のグループです。プロデュースは全てUNISON SQUARE GUARDENの田淵智也が務めているようです。本曲「やばきゅん♡シューベルト」の作曲は広川恵一によるもの。広川は田中秀和もかつて在籍していたMONACA所属の職業作曲家で、アニメやゲーム音楽などを多数提供しているようです。ベーシストとしての顔も持ち、この曲ではその技が存分に発揮されています。また師匠は「もってけ!セーラーふく」などのアニソンを多数作曲する神前暁であり、師に勝るとも劣らない電波具合でもありますね。

 

SERENITARY 2.0 / Ben Nobuto


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Ben Nobutoは日系イギリス人の作曲家です。現代音楽に加えてジャズやインターネットカルチャー的なイディオムを感じます。今最も「現代」的な作曲家の一人と言っても良いでしょう。梅本佑利と仲が良く、彼がこういった精神性の音楽を実現しようとしているのも頷けます。
この曲もそうですが、全体的にカットアップ的な音響がとても印象的です。目まぐるしく変わるのに不思議と一貫性があるのがとても現代っぽい。切り替わる際にしばしばチャンネルを切り替えるかのような特徴的な電子音が挿入されるのもなんかポップで面白いです。

 

MAGICAL DESTROYER / 愛美


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OPとEDだけよかったクソアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」のOPテーマ。歌唱は声優の愛美。作曲はソロユニットAA=としても活躍する上田剛士です。彼は海外での評価も高いメタラーで、日本だとBABYMETALの「ギミチョコ!!」楽曲提供で有名でしょうか。ルーツにYMOを挙げているように、ただのメタルではなくデジタル的な無機質さが特徴だったりします。

 

Gospelion in a classic love / The 13th tailor


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同EDテーマ。なぜか音楽のセンスだけは異常に高くてむかつくアニメでした。

The 13th tailor吟(Busted Rose)名義でも作曲活動を行う羽柴吟によるソロプロジェクトです。吟名義だとアニメ・ポプテピピック周りの作曲がすべてそうなので、聴いたことがある人もいるかもしれません。そんな彼に好き勝手やらせた結果がこれです。JPOPの楽曲構造をバキバキに崩して文字通り好き勝手やってくれました。もっと好き勝手やってくれると嬉しいなと思います。

 

Scotoma / kou/kizumono


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kou/kizumono、またの名をkasane vavzedは東京出身のミュージシャンですがそれ以上のことはあんまりよくわかりません。とりあえずレーベルに所属せずすべて自力でやっていることは確かなようです。明らかにメタル出身なのは良いとして、そこにビルドアップやドロップなどEDM的な要素とハイパーポップががっつり加わり、歌っているのは可不と、現代インターネット・ポップスの流行りどころが贅沢にミクスチャーされています。混ざりすぎてもはやかっこいいことしかわからない。

 

Negaceando / Radames Gnattali


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Radames Gnattaliはイタリア系ブラジル人作曲家です。クラシックもポップスも幅広くてがけていたようで、この曲ではポップス方面での才が発揮されています。ジャズが基調となりながらもときおりクラシカルな香りがしたり、自身の出身であるブラジル音楽への目配せが効いているなかなかイカした小品だと思います。

 

鬼 remixed by 佐藤優介 / 吉澤嘉代子


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吉澤嘉代子はもはや押しも押されもしないシンガーソングライターなわけですが、相変わらずいいですね。原曲ももちろんよかったですが、佐藤優介の80年代風ポップアレンジが特にナイスでした。

 

シノワズリ / Babi


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Babiは日本の作曲家で、主にCMのBGMなんかを作曲していますが、やはりソロ活動が素晴らしいと思います。こんな感じで旋法性の強い室内楽調の楽曲が特徴です。長らくアルバムが出ていなかったんですが今年は久しぶりに新作(この曲が入ったアルバム)が出ました。その間にどうやら子供が生まれたようで、作られる曲の中に生活感が見え隠れするようになったのもなかなかほっこりするポイントかも。

 

The Fairy / Paavo


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Babiいいな~と思っていたら海外で若干似たような音を鳴らすバンドを見つけたのでついでに紹介します。Sofia Jernberg と Cecilia Persson 、ふたりの女性バンドリーダー率いる Paavoです。それしかわかりません。Paavoで調べるとパーヴォ・ヤルヴィ(指揮者)のことしかでてこないからです。

しかしこれはジャンルは何になるんでしょうか?一応ジャズのような気がしなくもありませんが......。

 

化石のうた / パスピエ


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パスピエといえば人気邦ロックバンドだったはずなのですが、ここ数年で売れ線っぽい曲を作る頻度が激減し、最新作ではこうなりました。

どうしてこうなってしまったのかは全くの不明なのですが、とにかく脱臼しまくったモダンジャズみたいな何かが展開されていきます。ところで今までの客層ってついてこれてるんでしょうか? マジで何がしたいんでしょうか? 私はこのまま続けていってほしいですが。

 

意外なことが次々に起こる / ZOMOZ


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ZOMOZはほかのすべての曲もかっこいいので四の五の言わずすべて聞いてほしいです。活動自体は今年はあまりやっていなくて情報があまりないんですが、たま~にライブはやっています。

肝心のこの曲ですが、リズムもコード進行もかっこよすぎます! 途中のビートチェンジもめちゃくちゃスムーズ。タイトルがキャッチーなのに意味不明、あと歌詞が意味不明。本当に意外なことが次々と起こる。

 

大仏ビーム / カラコルムの山々


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カラコルムの山々は下北沢を起点とするシネマチック・ロックバンドです。バンドのアカウントを見たらめちゃくちゃそのへんの大学生の軽音サークルみたいで吹き飛ばしそうになりました。

さて、肝心の「大仏ビーム」ですが、どう考えてもZAZEN BOYSとか向井秀徳に影響されまくっています、されてないとは言わせません。にしても「第三の目から大仏ビーム」のなんてキャッチーなこと! 曲自体も普通にかっこいいです。ZAZEN BOYSみたいだから。

あとなんか地下演劇の香りがする曲が多いです。シネマチックを名乗るのはその辺が所以でしょうか?

 

Valsa para as Criancas / Amilton godoy


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Amilton godoyはブラジルの作曲家・ジャズピアニストです。1941年生まれということでブラジル・ジャズ界の生き字引のような存在らしいです。この楽曲は子供のためのワルツということで(クソ速いですが)平易に書かれてはいますが、ちゃんとジャズワルツとしてめちゃくちゃお洒落でいい感じだなと思います。

 

夢 / めぞぴあのきゃんでぃ


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「めぞぴあのきゃんでぃ」は日本で唯一の姫かわHIPHOPを全国47都道県の少女たちに届けるために美兄(びにい)霊臨(たまりん)とによって結成されたヒップホップユニットです。何を言っているかお判りでしょうか。

おそらくHIPHOPから一番遠いものとは何か考えたときに出てきたのが「姫」だったんだと思いますが、にしてもそのイメージをここまで凶悪な形で具現化できるのには驚かざるを得ません。あと何気にリリックがイカしています。「大きいほうをあげる 小さいほうを食べる パク  ファック」とか普通思いつきませんよ。

彼らはめぞぴあのきゃんでぃ以外でも謎の曲ばかり歌っており、そちらも実は気に入っています。気に入っていますが、紹介するほどでもないのでここには載せません。

 

驚異320回転 / HASAMI group


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さて、HASAMI groupの最新楽曲の一つなわけですが、マジでイカれています。

この曲の前では今まで紹介した曲のすべてがかすんでしまうほどのインパクトとすさまじい熱量を感じます。I’M A KAMAKIRIだけで曲を完成させてしまい、I’M A KAMAKIRIという言葉にこれだけの説得力を与えられるのは青木龍一郎しかいないのではないかと本気で思っています。

 

G.A.D / QUBIT


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さてそろそろ口直しを。

QUBITは今年結成されたバンドで、ボーカルはDAOKOです。の割には全く話題になっておらず悲しいです。ボーカルがDAOKOだからというよりはちゃんとかっこいいからなのですが......。キーボードに現代音楽作曲家としての顔を持つ網守将平が参加しており、まあまあの本気度がうかがえるのですが......。

 

I'm the president / KNOWER


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当ブログでもたびたび取り上げているKNOWER。EDMっぽいサウンドが特徴かと思っていたのですが、どうやらそれにも飽きてしまったらしく、最早音だけではルイス・コールのソロとの違いが判らなくなっています。それはそれとしてベースラインが絶望的にダサいはずなのにちゃんとかっこよく聞こえていて流石です。今度来日するのがめちゃくちゃ楽しみですね。

 

There's s something happening / Jack Stauber's Micropop


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アメリカの映像作家Jack Stauberによるソロプロジェクトです。くわしくはこちら。

nu-composers.hateblo.jp

この記事を書いた後もたびたび聞くようになり、完全にお気に入りになりました。

 

踊るクエン酸回路 / おしゃれTV


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おしゃれTV野見祐二荻原義衛によるテクノ・ポップ・ユニットです。野見祐二は職業作曲家で「耳をすませば」の劇伴で有名です。個人的には「日常」サウンドトラックなんかも結構お気に入りなのですが。彼の仕事を聞くとわかるようにオーケストラを使うのが得意です。なので「踊るクエン酸回路」でもそのクラシック的な技法がいかんなく発揮されています。さらにいえばおしゃれTVは坂本龍一プロデュースなので余計にその傾向が強いです。同アルバムに収録されている「アジアの恋」なんかはモロ坂本なんじゃないでしょうか。

「踊るクエン酸回路」ではほんとになんでそうしたかったのかは全くわかりませんが、食事から消化、好気呼吸にいたるまでに起こる諸反応について細かく解説してくれています。しかも現代音楽的な語法を交えて。ありがとう。なんか食事の内容がおしゃれすぎてむかつくけど、まあおしゃれTVだし、いいか!

 

Boys, be ambitious (feat. ermhoi) / 東京塩麹


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東京塩麴は昔からスティーブ・ライヒのようなミニマルミュージックをポップスに落とし込んだ楽曲を製作していましたが、近年でそこにはEDMなどの現代ポップス的なアクセントが加わるようになりました。

本楽曲ではまず明らかにメロディがロクリア旋法をなぞっています。サビはといえばEDMにおけるドロップをそのまま人力で置き換えたかのような(どっちかというとIDMかも?)めちゃくちゃ断片的なフレーズを演奏していますし、今までよりは行儀がよくないミニマルミュージックになっていてなかなか面白いんじゃないかと思います。歌詞はくそダサいけど。

 

Homme (萌夢) / oscilation circuit 


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知る人ぞ知る環境音楽の名盤、oscilation circuitの「serie reflection 1」がサブスク解禁・再発されたことに言及しないわけにはいきません。

映画音楽作家としても活躍する作曲家、磯田健一郎(=oscilation circuit)のレコードデビュー作として、1984年、芦川聡設立の環境音楽の名門・サウンドプロセスデザインからリリースされたこのアルバムは80年代当時の日本の環境音楽の中でも異質で、電子音をほとんど使用せず、かつミニマルミュージック的な語法をかなり素直に使っています。このへんの電子音楽の潮流の話はまた記事に書くとして、この曲は本当に最小限の変化だけで構成されており、異質ではありながらも環境音楽、そしてサウンドプロセスデザインの思想を体現しているのです。あと長すぎて寝るのに最適。

 

以上2023年に聞いた音楽でしたが、皆さんはどう思うか。

変拍子ソングあれこれ

どうも、作曲家のトイドラです。

今年に名作会の会長をなんすい新会長に譲り、以来ジリジリと地道に音楽活動を続けてきました。

その結果、どういうわけかYouTubeチャンネルで1.7万人ものチャンネル登録者を得ることができました。

正直、1年目でこんなことになるとは思っていなかったので驚きです。

特に今年一番バズったのは、変拍子を題材にしたこの動画。

Dave Brubeck のジャズに始まり、果ては Ferneyhough や Ustvolskaya に至るという相当カオスな動画ですが、コメント欄が「こんな変拍子曲もあるよ!」というコメントで溢れ返りました。

総数200曲近い曲を紹介していただき、「全部聞きます」と豪語していた僕はゲッソリしながら本当に全部聞きました

おかげで変拍子ボキャブラリーがギュンギュン底上げされています。


さて、せっかくこんなアホみたいな数の曲を聞いたんだから、面白かった曲をまとめてみようと思います。

コメント欄で皆さんから紹介された曲のうち、特に良かった曲をピックアップしていきましょう。

 

ブルガリア民謡

まず、複数の方から

ブルガリア民謡はヤバいよ!!」

というコメントをいただきました。

ブルガリア地方では、民族的な舞曲に変拍子が伝統的に使われているようです。

2拍子と3拍子を複雑に組み合わせた微妙な拍感は、確かにダンスとの相性がよさそう。

この系譜で1つ爆笑した曲があります。

エストニア出身のメタルバンド、Metsatöll の曲です。

厳密にはブルガリア地方の音楽ではないかもしれませんが、あからさまに民謡的な暖かい雰囲気と変拍子、そしてメタルが何故か違和感もなく調和しています。

個人的にMVもかなり好きです。

 

メトリックモジュレーション

拍子に関する概念の1つとして、メトリックモジュレーションというものがあります。

微妙なリズム感の変化をもたらせる面白い技法なのですが、今回コメント欄ではそんなメトリックモジュレーションの例がたくさん紹介されました。

あまり派手に使われることのない技法な気がしますが、効果的に使うとけっこうバーンと印象に残りますね。

 

アイドル・同人・ゲーム音楽

オタク的文化圏と変拍子というのは、どうやら相性が良いみたいです。

アンダーグラウンド的な側面で通じているのか、カワイイ女の子が意味不明なリズムに揉まれている様子が琴線に触れr とにかくこういう曲も複数紹介されました。

特にヤバかったのはこの曲です。

ムチャクチャ長いのにずっとサビみたいなテンションだし、全編変拍子でとんでもなくかっこいいです。

激しく聞き疲れはしますが。

 

クソカッコいい曲たち

ただただシンプルにかっこいい曲たちも多数紹介されました。

マジで大好物なので有り難い。マジで。

聞いていて気づいたのですが、こうしたカッコいい曲からはひしひしと「変拍子である意味」が感じられます。

無理やり感のない、それどころか変拍子であることが自然さにつながっているような、不思議なフィット感がある気がします。

 

おわりに

というわけで、特にいい感じの変拍子曲をピックアップしてご紹介しました。

音楽ガチ分析チャンネルの方では、好評だった「変拍子」動画の第2弾を画策しています。

というのも、皆さんのコメントのおかげでもう1本動画にできるだけのネタが余裕で集まってしまったからです。

やっぱり持つべきものは集合知

来年もどうぞご期待ください。

蛇足ですが、最後に今年僕が作った曲の中で最も拍子がヤバかったものを貼り付けておきます。