名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

2023年よかった曲

[前書き]もういくつと数えることもない。なぜなら明日はお正月なのだから。

2023年の3月に私が東京行きの新幹線に置き忘れたイヤホンは、誰かに拾われ今頃どこかの警察署で保管されている。いや、もう捨てられたかもしれない。でももうそんなことはどうだっていい。おかげで半年間電車で音楽を聴くことができなかった私の耳は渇望のあまりついに知多半島を飛び出し、今や名古屋大学のすぐそばに住んでいるという。そばに居て蕎麦煮て。今日は大晦日なのだから。

私は聴いた音楽をその場でメモるとかプレイリストに入れ、濃縮還元するとかいう活動を年がら年中しており、それもついに5年というメモリアル・イヤーに突入した。メモリアルだから何だというわけでもないが、今年も今年で現代音楽〜J-POP〜個人制作まで異種格闘技空中技・寝技・打撃技乱れ打ちの様相を呈している。そしてそれをここに記す。このブログはプログラム通りならば12/31 19:00に公開されているはずである。はたして紅白歌合戦の最中にこんなブログを読むやつはいるのだろうか? しかしまあ紅白歌合戦の最中にこんなブログを見るやつのために私は一年分の記録を参照したのだった。そういう人も、そうじゃない人も、どうぞご照覧あれ。

 

目次

 

やばきゅん♡シューベルト / DIALOGUE+


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DIALOGUE+は女性声優8人組のグループです。プロデュースは全てUNISON SQUARE GUARDENの田淵智也が務めているようです。本曲「やばきゅん♡シューベルト」の作曲は広川恵一によるもの。広川は田中秀和もかつて在籍していたMONACA所属の職業作曲家で、アニメやゲーム音楽などを多数提供しているようです。ベーシストとしての顔も持ち、この曲ではその技が存分に発揮されています。また師匠は「もってけ!セーラーふく」などのアニソンを多数作曲する神前暁であり、師に勝るとも劣らない電波具合でもありますね。

 

SERENITARY 2.0 / Ben Nobuto


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Ben Nobutoは日系イギリス人の作曲家です。現代音楽に加えてジャズやインターネットカルチャー的なイディオムを感じます。今最も「現代」的な作曲家の一人と言っても良いでしょう。梅本佑利と仲が良く、彼がこういった精神性の音楽を実現しようとしているのも頷けます。
この曲もそうですが、全体的にカットアップ的な音響がとても印象的です。目まぐるしく変わるのに不思議と一貫性があるのがとても現代っぽい。切り替わる際にしばしばチャンネルを切り替えるかのような特徴的な電子音が挿入されるのもなんかポップで面白いです。

 

MAGICAL DESTROYER / 愛美


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OPとEDだけよかったクソアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」のOPテーマ。歌唱は声優の愛美。作曲はソロユニットAA=としても活躍する上田剛士です。彼は海外での評価も高いメタラーで、日本だとBABYMETALの「ギミチョコ!!」楽曲提供で有名でしょうか。ルーツにYMOを挙げているように、ただのメタルではなくデジタル的な無機質さが特徴だったりします。

 

Gospelion in a classic love / The 13th tailor


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同EDテーマ。なぜか音楽のセンスだけは異常に高くてむかつくアニメでした。

The 13th tailor吟(Busted Rose)名義でも作曲活動を行う羽柴吟によるソロプロジェクトです。吟名義だとアニメ・ポプテピピック周りの作曲がすべてそうなので、聴いたことがある人もいるかもしれません。そんな彼に好き勝手やらせた結果がこれです。JPOPの楽曲構造をバキバキに崩して文字通り好き勝手やってくれました。もっと好き勝手やってくれると嬉しいなと思います。

 

Scotoma / kou/kizumono


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kou/kizumono、またの名をkasane vavzedは東京出身のミュージシャンですがそれ以上のことはあんまりよくわかりません。とりあえずレーベルに所属せずすべて自力でやっていることは確かなようです。明らかにメタル出身なのは良いとして、そこにビルドアップやドロップなどEDM的な要素とハイパーポップががっつり加わり、歌っているのは可不と、現代インターネット・ポップスの流行りどころが贅沢にミクスチャーされています。混ざりすぎてもはやかっこいいことしかわからない。

 

Negaceando / Radames Gnattali


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Radames Gnattaliはイタリア系ブラジル人作曲家です。クラシックもポップスも幅広くてがけていたようで、この曲ではポップス方面での才が発揮されています。ジャズが基調となりながらもときおりクラシカルな香りがしたり、自身の出身であるブラジル音楽への目配せが効いているなかなかイカした小品だと思います。

 

鬼 remixed by 佐藤優介 / 吉澤嘉代子


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吉澤嘉代子はもはや押しも押されもしないシンガーソングライターなわけですが、相変わらずいいですね。原曲ももちろんよかったですが、佐藤優介の80年代風ポップアレンジが特にナイスでした。

 

シノワズリ / Babi


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Babiは日本の作曲家で、主にCMのBGMなんかを作曲していますが、やはりソロ活動が素晴らしいと思います。こんな感じで旋法性の強い室内楽調の楽曲が特徴です。長らくアルバムが出ていなかったんですが今年は久しぶりに新作(この曲が入ったアルバム)が出ました。その間にどうやら子供が生まれたようで、作られる曲の中に生活感が見え隠れするようになったのもなかなかほっこりするポイントかも。

 

The Fairy / Paavo


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Babiいいな~と思っていたら海外で若干似たような音を鳴らすバンドを見つけたのでついでに紹介します。Sofia Jernberg と Cecilia Persson 、ふたりの女性バンドリーダー率いる Paavoです。それしかわかりません。Paavoで調べるとパーヴォ・ヤルヴィ(指揮者)のことしかでてこないからです。

しかしこれはジャンルは何になるんでしょうか?一応ジャズのような気がしなくもありませんが......。

 

化石のうた / パスピエ


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パスピエといえば人気邦ロックバンドだったはずなのですが、ここ数年で売れ線っぽい曲を作る頻度が激減し、最新作ではこうなりました。

どうしてこうなってしまったのかは全くの不明なのですが、とにかく脱臼しまくったモダンジャズみたいな何かが展開されていきます。ところで今までの客層ってついてこれてるんでしょうか? マジで何がしたいんでしょうか? 私はこのまま続けていってほしいですが。

 

意外なことが次々に起こる / ZOMOZ


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ZOMOZはほかのすべての曲もかっこいいので四の五の言わずすべて聞いてほしいです。活動自体は今年はあまりやっていなくて情報があまりないんですが、たま~にライブはやっています。

肝心のこの曲ですが、リズムもコード進行もかっこよすぎます! 途中のビートチェンジもめちゃくちゃスムーズ。タイトルがキャッチーなのに意味不明、あと歌詞が意味不明。本当に意外なことが次々と起こる。

 

大仏ビーム / カラコルムの山々


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カラコルムの山々は下北沢を起点とするシネマチック・ロックバンドです。バンドのアカウントを見たらめちゃくちゃそのへんの大学生の軽音サークルみたいで吹き飛ばしそうになりました。

さて、肝心の「大仏ビーム」ですが、どう考えてもZAZEN BOYSとか向井秀徳に影響されまくっています、されてないとは言わせません。にしても「第三の目から大仏ビーム」のなんてキャッチーなこと! 曲自体も普通にかっこいいです。ZAZEN BOYSみたいだから。

あとなんか地下演劇の香りがする曲が多いです。シネマチックを名乗るのはその辺が所以でしょうか?

 

Valsa para as Criancas / Amilton godoy


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Amilton godoyはブラジルの作曲家・ジャズピアニストです。1941年生まれということでブラジル・ジャズ界の生き字引のような存在らしいです。この楽曲は子供のためのワルツということで(クソ速いですが)平易に書かれてはいますが、ちゃんとジャズワルツとしてめちゃくちゃお洒落でいい感じだなと思います。

 

夢 / めぞぴあのきゃんでぃ


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「めぞぴあのきゃんでぃ」は日本で唯一の姫かわHIPHOPを全国47都道県の少女たちに届けるために美兄(びにい)霊臨(たまりん)とによって結成されたヒップホップユニットです。何を言っているかお判りでしょうか。

おそらくHIPHOPから一番遠いものとは何か考えたときに出てきたのが「姫」だったんだと思いますが、にしてもそのイメージをここまで凶悪な形で具現化できるのには驚かざるを得ません。あと何気にリリックがイカしています。「大きいほうをあげる 小さいほうを食べる パク  ファック」とか普通思いつきませんよ。

彼らはめぞぴあのきゃんでぃ以外でも謎の曲ばかり歌っており、そちらも実は気に入っています。気に入っていますが、紹介するほどでもないのでここには載せません。

 

驚異320回転 / HASAMI group


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さて、HASAMI groupの最新楽曲の一つなわけですが、マジでイカれています。

この曲の前では今まで紹介した曲のすべてがかすんでしまうほどのインパクトとすさまじい熱量を感じます。I’M A KAMAKIRIだけで曲を完成させてしまい、I’M A KAMAKIRIという言葉にこれだけの説得力を与えられるのは青木龍一郎しかいないのではないかと本気で思っています。

 

G.A.D / QUBIT


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さてそろそろ口直しを。

QUBITは今年結成されたバンドで、ボーカルはDAOKOです。の割には全く話題になっておらず悲しいです。ボーカルがDAOKOだからというよりはちゃんとかっこいいからなのですが......。キーボードに現代音楽作曲家としての顔を持つ網守将平が参加しており、まあまあの本気度がうかがえるのですが......。

 

I'm the president / KNOWER


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当ブログでもたびたび取り上げているKNOWER。EDMっぽいサウンドが特徴かと思っていたのですが、どうやらそれにも飽きてしまったらしく、最早音だけではルイス・コールのソロとの違いが判らなくなっています。それはそれとしてベースラインが絶望的にダサいはずなのにちゃんとかっこよく聞こえていて流石です。今度来日するのがめちゃくちゃ楽しみですね。

 

There's s something happening / Jack Stauber's Micropop


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アメリカの映像作家Jack Stauberによるソロプロジェクトです。くわしくはこちら。

nu-composers.hateblo.jp

この記事を書いた後もたびたび聞くようになり、完全にお気に入りになりました。

 

踊るクエン酸回路 / おしゃれTV


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おしゃれTV野見祐二荻原義衛によるテクノ・ポップ・ユニットです。野見祐二は職業作曲家で「耳をすませば」の劇伴で有名です。個人的には「日常」サウンドトラックなんかも結構お気に入りなのですが。彼の仕事を聞くとわかるようにオーケストラを使うのが得意です。なので「踊るクエン酸回路」でもそのクラシック的な技法がいかんなく発揮されています。さらにいえばおしゃれTVは坂本龍一プロデュースなので余計にその傾向が強いです。同アルバムに収録されている「アジアの恋」なんかはモロ坂本なんじゃないでしょうか。

「踊るクエン酸回路」ではほんとになんでそうしたかったのかは全くわかりませんが、食事から消化、好気呼吸にいたるまでに起こる諸反応について細かく解説してくれています。しかも現代音楽的な語法を交えて。ありがとう。なんか食事の内容がおしゃれすぎてむかつくけど、まあおしゃれTVだし、いいか!

 

Boys, be ambitious (feat. ermhoi) / 東京塩麹


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東京塩麴は昔からスティーブ・ライヒのようなミニマルミュージックをポップスに落とし込んだ楽曲を製作していましたが、近年でそこにはEDMなどの現代ポップス的なアクセントが加わるようになりました。

本楽曲ではまず明らかにメロディがロクリア旋法をなぞっています。サビはといえばEDMにおけるドロップをそのまま人力で置き換えたかのような(どっちかというとIDMかも?)めちゃくちゃ断片的なフレーズを演奏していますし、今までよりは行儀がよくないミニマルミュージックになっていてなかなか面白いんじゃないかと思います。歌詞はくそダサいけど。

 

Homme (萌夢) / oscilation circuit 


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知る人ぞ知る環境音楽の名盤、oscilation circuitの「serie reflection 1」がサブスク解禁・再発されたことに言及しないわけにはいきません。

映画音楽作家としても活躍する作曲家、磯田健一郎(=oscilation circuit)のレコードデビュー作として、1984年、芦川聡設立の環境音楽の名門・サウンドプロセスデザインからリリースされたこのアルバムは80年代当時の日本の環境音楽の中でも異質で、電子音をほとんど使用せず、かつミニマルミュージック的な語法をかなり素直に使っています。このへんの電子音楽の潮流の話はまた記事に書くとして、この曲は本当に最小限の変化だけで構成されており、異質ではありながらも環境音楽、そしてサウンドプロセスデザインの思想を体現しているのです。あと長すぎて寝るのに最適。

 

以上2023年に聞いた音楽でしたが、皆さんはどう思うか。