名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

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RMCチャンネル人気動画ランキング2023

RMC

 年々、年末の雰囲気がなくなりもう師走になって私の担当も年内最後になったとは思えない状況です。相変わらず各種感染症は減るどころか、過去にない流行となっていますし、世相も荒れるばかり。嫌なご時世でしたね。今年は個人的にも環境の変化が大きく、とても疲れた年でした。
 さてそんな中、名作会との共同プロジェクトであるRMCの年間トップ10発表の時期になりました。今年はどんな曲がランクインするか。どうぞお楽しみください。
 なお筆者の都合で、執筆時点(2023/12/5)でのランキング集計となることをご承知おきください。

 

 今年一年間で視聴回数は10634回となって少しずつ多くの人に届けられてきているようです。

 

2023年の再生数ランキングに早速参りましょう。

 


第10位
ピアノのためのソナチネ「青の詩」/助川敏弥
指定期間内再生数173
トータル再生数173

助川敏弥

 第10位にランクインしたのは助川敏弥氏が子供のために書かれたソナチネ「青の詩」でした。さすがRMCリスナーは渋い選択をされますね。
 助川氏は1930年北海道出身、東京藝術大学で池内友次郎に支持しました。その後戦後左翼活動を柱とした作曲の会である「山羊の会」に参加し、伝統音楽と前衛音楽の関係を模索された作曲家です。この曲もそんな彼のアイディアに満ちた内容で、表現力を求められる良曲ではないかと思います。助川氏は2015年に惜しまれながら亡くなられました。

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第9位
日本民謡による三つのパラフレーズ/別宮貞雄
指定期間内再生数194
トータル再生数194

別宮貞雄

 第9位にランクインした曲も実に渋い曲です。というか渋い曲ばかりなので当たり前かもしれません。別宮貞雄は1922年東京生まれ。東大で物理学を学び、同大学に再入学して美学を学びます。そして新声会に参加後渡仏し、ミヨー、メシアンなどに師事しながらも、ドイツ音楽本流を意識し続けたという風変わりな人です。
 保守的な作風を貫きながら、重要な作品を書き上げていった別宮先生は2012年に亡くなられましたが、この曲にもそんな彼の意志がみなぎっています。この機会にもう一度お楽しみいただけたらと思います。

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第8位
トリトローペ/西村明
指定期間内再生数208
トータル再生数208

西村朗

 第8位は本年なくなった西村朗先生の若き頃のピアノ独奏曲「トリトローペ」でした。西村先生の訃報には多くの人が衝撃を受け、そして悲しんだことは記憶に新しいですね。今でも残念でありません。
 西村先生は1953年大阪生まれ。自転車店を営む家に生まれたそうです。ヘテロフォニーを自作の中心的な語法として、日本を、アジアを代表する大作曲家になったレジェンドです。東京藝術大学出身で作曲は池内友次郎、矢代秋雄、野田暉行に師事しました。この曲も大学院在学中に書かれたものですが、すでに完璧な西村流の作風が確立しています。
 逝った人を惜しむことが追善供養の精神です。今ここにもう一度聴くことで、先生の御霊の安らかなることを祈りたいものです。

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第7位
ピアノ曲集「宮古のアヤグ」/杉本信夫
指定期間内再生数214
トータル再生数214

杉本信夫

 第7位にランクインしたのは本年ランクインした曲の中でも特に渋い選択となった曲ではないかと思います。沖縄・八重山民謡の研究家である杉本信夫が、収集した宮古民謡をもとに独特の方法で作曲した曲集がそれです。
 杉本氏は1934年大阪生まれ。日大芸術学部二入学ご中退、東洋音楽短期大学を卒業しました。作曲は箕作秋吉、アルベルト・レオーネに支持し、その後教諭の仕事に就き、沖縄民謡の研究に打ち込みました。長くこの方面の第一人者として活躍しましたが、2022年に亡くなられました。
 民謡というものの背景にある文化と伝承の中の雰囲気を巧みに読み取った専門家ならではの仕事と言っていい名曲ではないかと思います。

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第6位
万葉の杜/青島広志
指定期間再生数225
トータル再生数225

青島広志

 第6位はお茶の間でも人気の青島広志先生のピアノ組曲「万葉の杜」です。ブルー・アイランド先生は、エッセイに漫画、作曲、MCと多彩な人であり、その独特のキャラクターで人気です。作風は調性を手放さず、寧ろ多調を軸としたものが多いのですが、難解ではなく人気な曲も多い作曲家です。しかしこの作品は音源がなく、実にもったいないという思いから当チャンネルで取り上げさせていただきました。
 青島先生は1955年東京生まれで、東京藝術大学に学ばれ、池内友次郎、林光に支持し大学院まで首席で卒業されています。テレビで見るコミカルな姿とは打って変わって、独特の切り取り方で描く万葉の世界、もう一度聴いてみませんか?

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第5位
ピアノ曲集「音の栞」/三善晃
指定期間再生数227
トータル再生数227

三善晃

 第5位は堂々の巨匠の作品です。
 三善晃先生は言わずとしれた本邦を代表する作曲家。1933年東京生まれで平井康三郎、池内友次郎に支持して英才教育を受けました。その後東京大学文学部に進学後、渡仏。パリ国立高等音楽院でアンリ・シャランなどに師事して帰国、その後はあらゆるジャンルの音楽で飛び抜けた才能を発揮し日本音楽し塗り替えていきました。特に合唱への改革は凄まじく、その在り方の根本をすっかり変えたことでも知られています。一方ピアノの教育にも取り組み独自の三善メソードを作り、この曲集もそれに準拠した内容になっています。
 三善先生の曲はこどものための曲でも表現力を求めるものが多く、この曲集も素晴らしい内容の曲がたくさん詰まっています。しかしyoutubeをみると全曲まとめて作られた動画がなく、指導現場で選曲が偏っていることを感じたので、頑張って全曲を動画にしました。なお三善先生は2013年に亡くなられています。

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第4位
ソナチネ/丸田昭三
指定期間再生数233
トータル再生数233

丸田昭三

 第4位はこれまた渋い丸田昭三先生の書かれた「ソナチネ」でした。
 丸田先生は言わずとしれた大理論家で、教科書などの執筆者として名前を見ることはあっても中々作品を聴くことはありません。当チャンネルではゴリゴリの現代曲である「5つのバガテル」も紹介してこちらも好評でしたが、ソナチネは打って変わって優しい曲調です。
 丸田先生は1928年生まれで東京藝術大学で石桁眞禮生に師事し、渡独しハラルド・ゲンツマーに師事しました。厳密な理論家の側面は「芸大和声」の執筆者の一人というところにも現れており、また名伯楽としても知られました。ソナチネはもっと演奏されるべき曲ですので、この機会にしっかり聞き直してみましょう。

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 さて上位三作品を紹介する前に閑話休題
 今年は公私ともに大きな変化があってとてもつかれました。父の死と引越、持病と感染症の流行とすり減るだけすり減らされ、一時はやる気も枯渇してしまい多方面にご迷惑をかけてしまいました。しかし老いる身体とは対象的に、怒りは尽きることがなく、これが原動力になってなんとか乗り越えてこれました。一部では政府の救済策がなくなった今こそが本当のコロナ禍だなどと言われていますが、私も無傷で済む訳はなく、難しい舵取りも多くありました。おかげさまで今年は無事越せそうですが、そろそろ新たな動きも模索しないと干からびてしまいます。
 来年は更に尖りつつ、いよいよ再始動の年と位置づけて頑張っていこうと思います。とにかくバカとのやり取りは時間の損失ということが身に沁みてわかった年でもあるので、今後は蹴散らすことだけを考えてやっていきたいものです。

 

さてランキング上位3つ、行ってみましょう。



第3位
失われたものへの三章/有馬礼子
指定期間再生数283
トータル再生数799

有馬礼子


 第3位にランクインしたのは当チャンネルでもスーパーロングヒットとなっている、有馬礼子さんの書かれた「失われたものへの三章」です。どうしてこの曲がずっと再生され続けているのか不思議なところですが、たしかに非常に素晴らしい名曲であることは疑いようもありません。
 有馬先生は1933年東京出身で、東京藝術大学に学び、下総皖一伊福部昭に師事しました。子供用のピアノ曲などを多く手掛ける作曲家で、愛される曲は多い中、このちょっと難解な曲に人気が集まるのは、ひとえに有馬先生の力にほかありません。この機会にもう一回聴いてみましょう。

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第2位
ピアノ組曲/坂本龍一
指定期間再生数302
トータル再生数302

坂本龍一

 今年の音楽トピックの上位と言えるのがあの坂本龍一の死であったことは誰もが認めるところでしょう。そしてこの曲が上位に来ることはまったくもって妥当なことだと言わざるを得ません。クラシックだけではなく、劇伴、POPSとすべての音楽ジャンルで活躍した「教授」こと坂本龍一の死は日本音楽界の大きな損失でした。
 坂本は1952年に東京に生まれ、東京藝術大学に進学し、松本民之助に師事しました。しかしほとんど学校には行かず、バンド活動や、既存の現代音楽への抗議活動に明け暮れたそうです。その後様々な出会いの中から、真にオリエンタルな音楽を標榜し、独特のアジア性と、左翼的イディオムによる音楽を作り出しました。純音楽の仕事は多くはありませんでしたが、その中でもあまり取り上げられないこの曲を紹介できたことは、私自身とても良かったと思っています。

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さて栄えある第一位は何だったのでしょうか。


第1位
変奏曲-ピアノのために-/水谷一郎
指定期間再生数353
トータル再生数353

水谷一郎

 なんと第一はとても渋い曲となりました。水谷一郎氏による「変奏曲」です。音楽理論家として著名な水谷氏は1942年大阪生まれ。大阪音楽大学に学ばれその後は早くからシンセサイザーなどの電子楽器を導入しました。電車の発車音楽などを多く手掛け、一方では優れた教育者として母校に奉職されました。惜しまれつつも2014年に亡くなられましたが、この曲はパッサカリアとヴァリエーションの手法を織り交ぜた意欲作で、対位法の腕が光る名曲です。そもそもこのチャンネルはこういった本当に知られていない曲を紹介するのが本義ですので、この一位には驚きつつも、とても嬉しいい結果となりました。

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 ということで今年も皆様お世話になりました。
 当チャンネルはもちろん今後も収益化など度外視で、ひたすらにマイナーを掘っていく姿勢は揺るぎません。資料集めやデータ化は大変ですが、多くの人に知ってもらう、埋もれた曲に生命を取り戻してもらう、そしてレパートリーの参考になれば幸いです。

 

本年も本当にありがとうございました。