名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

YouTubeの高評価動画一挙公開(音楽編)

なんすいです。

 

私がYouTubeで高評価した動画を紹介する記事を前に出したんですが、今回はそれの音楽編です。

 

普段はSpotifyで音楽をdigしている私ですが、どうしても1つのサブスクアプリで音楽を聴いていると、おすすめのジャンルが偏ってきたり、堂々巡りになったりして、なかなか新しい音楽に出会えなくなってくることもあります。

そこに新しい風を吹き込んでくれるのが、実はYouTubeなどの動画サイトで流れてくる音楽だったりするんですね。

流行りものやミームなんかもSpotifyよりYouTubeの方が敏感に反応していたりするのもアドバンテージですし、そもそもサブスクで流していないけどYouTubeでは聴ける、みたいな曲も結構存在しています。

 

今回はそんなYouTubeで私が高評価している音楽たちをご紹介します。玉石混淆かもしれません。お楽しみ下さい。

 

 

トマトを炊くと炊飯器爆発/友達は野菜

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早速出ました。私が全国の音楽好きに激推ししているアーティスト「友達は野菜」です。

このアーティストは、とにかく野菜に関するシングルをアップしまくっていて、めちゃくちゃ多作ですがまだ認知度は高くありません。

一方、多作すぎて新着動画として流れてきやすいことが功を奏し、新着動画からこのアーティストに辿り着いた人が僅かにいるようです。私もそうです。

たくさん出すって大事なことですね。

 

肝心の音楽の内容は、独自性に溢れ、一貫したスタイルを確立しており、まさにまだ見つかっていない天才と言うべきものかもしれません。

素朴な内容の歌詞に、無駄の無い音楽性やボーカロイドの機械声がマッチしています。

 

なお、YouTubeだけでなく各種サブスクでも配信しているのでSpotifyでも聴けます。

 

 

 

少女レイ(いよわRemix)/みきとP・いよわ

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ボカロ曲の「少女レイ」を、「きゅうくらりん」などでお馴染みのボカロ作曲家であるいよわがRemixしたものです。

いよわ特有の語彙が詰め込まれた良Remixになっています。

いよわのRemixは本当にかっこいい時と普通のピアノアレンジみたいだなという時がありますが、今回は特別気合い入ってるなーという感じがします。

 

この動画は、色んなRemixから新しいアーティストを開拓しようとしていた時期に見付けました。

この方法のdigは、しばらくやってると系統が同じようなアーティストたちのテリトリーが可視化されていくので、若干おすすめです。

 

 

 

ロゼッタプラネット/永田権太

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3DSのゲームマリオカート7のBGM。

一時期マリオカートのサントラをずっと聴いていたんですが、この曲だけ好きすぎて高評価してました。

ごーーーんと響くピアノの低音が思い切ってて良いですよね。マリオカート8版のロゼッタプラネットのBGMはこのピアノが無いので結構物足りなく感じます。

 

作曲者の永田権太ニンテンドー64の時期から任天堂作品のゲーム音楽を多数手掛けていて、マリオカート7のBGM作曲にあっては「所謂レースゲームのBGMにならない」ことを意識したとコメントしているようです。

ロゼッタプラネット以外にも珠玉のBGMが揃っているので、皆さんもぜひマリオカートのサントラは聴いてみて下さい。

ゲームのサントラなんかは、サブスクに流してないものも多数あるので、その点YouTubeに軍配が上がることがあります。

 

 

 

イワシがつちからはえてくるんだ(しふおRemix)/ころんば・しふお

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まず原曲を知らない方に説明すると、原曲イワシがつちからはえてくるんだ」ころんばというアーティストによるUTAU曲で、特定の界隈の中では聖典とも言えるほど有名過ぎる曲ですが、そうでない人達はたぶん全然知らないというような曲です。

 

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その界隈とは、ころんば、またこれと同一人物でないかと言われている2号.というアーティストを狂信し、作風を真似て曲を作ったりする、所謂「2号兄貴リスペクト界隈」と呼ばれるものです。(界隈民の曲は「界隈曲」と呼ばれます)

他にも、ネットミームやネットロア系が好きな層や、音MADをよく見る層にはこの曲を知っている人もいるかもしれません。2号.が音MAD作者であったことから、彼の曲で音MADが作られることはよくあります。そしてこの動画もまた、数ある音MADのひとつです。

 

私自身ネットミームを愛好していたため、こうした界隈曲をよく聴いていた時期もありましたが、今となってはこうしてご紹介するのも少し小恥ずかしい所があります。

それでもこの動画をご紹介するのは、このしふおによるMADが比較的新しい素材で構成されていたからです。

まどマギのまどかは出てきますが、ほむらとのストーリーをなぞるとかではなく、マギレコのMADになっていたり、あとは最近の人気アニメ「お兄ちゃんはおしまい!」が使われていたりしています。

2号.やころんばはとっくに活動を辞めているため、界隈曲の世界に新しい世代が入ってきづらいだろうと思っていたんですが、ちゃんとこれは新世代の音MADになっており、それにちょっと感動して高評価を付けました。

MADのクオリティも高く、無駄の無い美しいMADだと感じました。

 

 

 

ラーメンたべたい/矢野顕子

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Spotifyに無いのでYouTubeでいつでも聴けるように高評価してます。

Spotifyにも出して下さい。

 

ずっとカラオケで練習してますが、全く様になりません。矢野顕子は歌が上手いんですね。

 

 

 

WE ARE 共産党!/雇用のヨーコ

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日本共産党「カクサン部!」雇用担当部員である雇用のヨーコによる、共産党の歌です。

この歌が共産党の活動としてどれくらいプラスに働いてるのかは知りませんが、曲自体は私の大好きなアーティスト、内田温に似てるとこがあって好きです。結構名曲だと思います。

あらゆる団体などがかわいい二次元キャラクターで大衆の性欲やサブカル趣味に擦り寄ってる一方で、このキャラクターで踊らせているところに、社会派な生真面目さを感じますね。

 

 

 

SATBのための《金魚オブセッション》/清水チャートリー

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副会長の拓くんに教えてもらいました。

金魚がセッションをしているとしか言いようがありません。

現代アートと言われるものの難解な印象に苦手意識を持っている人達にこそ聴いてみてもらいたいですね。本当は現代音楽に価値など無いので、全然肩肘張らなくて大丈夫なのです。

 

 

 

てるてる/r-906・Garech

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曲はr-906のボカロ曲「まにまに」を使っています。

下ネタや淫語を連発した政見放送で一躍有名になった政治家、後藤輝樹の音MADです。後藤輝樹が定着したあたりから、奇抜な政見放送で目立とうとする候補者が増えてきたような気がしますが、同じタイミングで当の後藤輝樹は一転真面目な内容の政見放送へと転換していきました。クールだ。

 

この音MADでは、最新(にして最終?)の政見放送で後藤輝樹が全編に渡りラップを披露したものを利用し、過去の政見放送を交えながらまとめあげたものになっています。

もちろん内容だけでなく、音MADとしても粋を尽くされた名作です。こういうMADと梅本佑利の現代音楽作品を交互に聴いたりすると、だんだんどっちがどっちかよく分からなくなってきて、euphoriaを味わえます。

 

 

 

しなこワールド/あぃりDX・しなこ

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先月私が書いた「歌」に関する記事のドロップとしても掲載しましたが、改めて高評価動画としてご紹介します。

 

しなことは、原宿系動画クリエイターで、ベビタピトーキョー原宿店の店長として日々ASMRの動画などを投稿したりして人気を集めています。

さて、そんなしなこちゃんがアーティスト活動として初めて上げたシングルがこの曲というわけです。

 

この曲の特徴はなんと言っても、曲中にひっきりなしに「咀嚼音」が入っていることです。

それも結構ぐちょぐちょしたグロテスクな音とかも入っていて、正直初めて聴いた時は凄く不快な気持ちになりました。

しかし、音楽で不快になった時こそ、作曲家としては成長のチャンスです。

私は三日三晩「しなこワールド」を聴き続け、咀嚼音を「歌」として受容し、高評価を押すに至りました。その後、しばらく出来るだけ不快な音を出しているASMRを聴き漁り、私の美的聴感覚は一層歪んでしまいました。

私が受けた不快は今後の自分の作曲で仕返ししたいところです。

 

 

 

ふしぎなメルモ宇野誠一郎

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ふしぎなメルモは、手塚治虫がテレビアニメ用として制作した作品で、子供の性教育を意図して作られていることで知られています。

本動画の曲はそのオープニングテーマ。サブスクにはアレンジバージョンしか上がっておらず、たぶんYouTubeとかでしかオリジナルは聴けないと思います。

このオリジナルが、本当にかっこよすぎる。

作曲者は宇野誠一郎という人。何の人だろうと調べてみたら、「ひょっこりひょうたん島」のテーマや童謡「アイアイ」などを作った人らしいです。

 

アニメも結構面白く、リメイク版ですが公式が1話をYouTubeに上げてるのでぜひ。

 

 

 

金管四重奏のためのソナタより III. Rondo/YUNO

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わぁぁぁぁ、、、!!!!!!!

完璧すぎる…

 

凄い綺麗な折鶴を見た気分です…

この曲聴く度若干凹みます。

 

 

人マニア/原口沙輔

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上がったばかりの全然再生数無い段階で見つけて、こりゃ凄いべと思って高評価してたものです。いつの間にかとんでもないです。

 

 

 

△▽/ju sei

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ネットだとゲット出来る情報がかなり少ないんですが、ちゃんとした活動をしてそうなバンドという感じがするので、もっと色んな曲を聴いてみたいところです。

アルバムがCDとして出てるようです。

 

 

 

Luchtballon/Joost

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オランダのヒップホップアーティストであるJoostの曲で、タイトルは「熱気球」という意味です。

一時この曲だけしか聴いてないくらいにハマっていた時期がありました。泣きながら聴いていました。

Music Videoも素晴らしいです。

 

 

 

ソウルフードを君と/七尾旅人

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MrsGreenAppleのコロンブスという曲のMVが差別的とか前時代的とかで炎上した時があって、その時に引き合いとして誰かが上げていた曲が、この曲です。

曲のイントロと同時に始まるナレーションは、コロンブスの逸話から始まりますが、その内容は西欧の侵略者たちがアメリカ大陸の先住民たちの故郷を奪った「負の歴史」に目を向けた、シニカルな内容になっています。

そして、なんやかんや語ったあと、それでもそこに生きる人々のアイデンティティとしてあり続けたソウルフードにスポットを当て、メインテーマが始まります。

旅人として現地の人々と触れ合う経験の中で曲を作る七尾旅人にしか書けない、ソウルフルな歌だと感じました。

 

 

 

スクラップあそばせ/いはくし

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歌愛ユキというボカロによる曲です。

歌愛ユキといえば、「強風オールバック」みたいなかわいい歌を歌う小学生ボカロのイメージですが、この曲ではそんなユキに口の悪い高速ラップを歌わせています。

なかなか聴けないユキの低音ボイスを聴くことが出来ますが、これがなかなかかっこよく、ちゃんとボカロでやる意味がある曲だなーと思いました。

曲と歌詞がただめちゃくちゃにかっこいいです。

 

 

 

M@GICAL☆CURE! LOVE ♥ SHOT!/SAWTONE

youtu.be

これが最後にご紹介する曲になります。最後はやっぱりこれでしょう。

初音ミクの英語の曲です。

日本語のアイドルコールのダサさから一転本場の英語歌詞がかっこよすぎて、日本語話者を辞めたくなってしまいます。「うりゃおい」って本当になんなんでしょう。不快に思ったならそれは成長のチャンスです。

 

 

 

雪に、遠く/animebrass

www.nicovideo.jp

本当の最後です。

これはYouTubeじゃなくてニコニコなので番外編というわけです。本当はニコニコのマイリス動画を載せるつもりは無かったんですが、最近ニコニコ動画が復活したのに関わって、最後にご紹介したくなりました。

この曲はYouTubeにも無く、ニコニコでしか聴くことが出来ません。ニコニコがサイバー攻撃によりダウンした時は、この曲がもう二度と聴けないんじゃないかと恐ろしくなったものです。

最悪作曲者ご本人に連絡を取って音源を上げてもらおうとまで考えていたんですが、本人のTwitter「作った曲の音源自分もどっかやっちゃったから、ニコニコ復活しなかったら今までの曲は本当に闇の中に葬られてしまう」旨のツイートをしていて、愕然としました。

再び聴くことが出来るようになって本当に良かったです。

 

皆さんも、今聴ける音楽を大切に。。。

 

mumyo のコンサート「euphoria」レビュー

先日、現代音楽のアーティスト集団「mumyo」による第2回コンサート「euphoria」に行ってきました。

「mumyo」とは、作曲家の山根明季子さん・梅本佑利さん・そしてヴァイオリニストの成田達輝さんの3人で2022年から活動しているグループです。

https://mumyo.org/

山根明季子さん・梅本佑利さんといえば、このブログでも何回も名前が登場している、まさに今注目すべき作曲家たちではないですか!

しかもどういうわけか、今回の公演は愛知県の長久手という田舎でやってくれる上、他の場所で再演する予定はないとのこと。

地方で現代音楽のコンサートを見られるのは珍しく、"名古屋"作曲の会としては行かざるを得ません。

しかも、「たくさんの初演曲を含む作曲家主体のコンサート」という活動内容、われわれ名作会としては他人事に思えない……。
僕と会長のなんすい、副会長の榊原、3人で聴きに行ってきました。

 

というわけで、今回はその感想とレビューをつらつら書こうと思います。

感想を一言でいうなら、大変面白く、興味深く、このようなコンサートをいつでも見たいなあと思えるような充実した内容でした。

とはいえ、どこがどう良かったのかキッチリ言語化するのが僕の役目でしょうから、ここから先は踏み込んだレビューをしていきます。

 

 

euphoria」とは何なのか

まず初めに、今回のコンサートには「euphoria」という題名がついています。
これは日本語に訳すと、

多幸感、(根拠のない)強い幸福

といった意味の言葉です。

 

今回のコンサートでは、この「euphoria」というテーマが演奏曲すべてを強力に貫いていたように思います。

1曲1曲が全く別のコンセプトで書かれているというより、このテーマを軸としたコンセプトアルバムのように1つのコンサート自体がまとまっていました。

各作曲家の視点から、それぞれの「euphoria」を眺めるという体験は、バラエティ豊かな曲を期待した人にはやや平坦に思えたかもしれません。

 

しかし僕としては、今回のコンサートで最も面白かったのがこの部分なのです。

というのも、euphoria」というテーマ自体が、彼らの感性を探る上で極めて重い意味を持っていたからです。

これを話すために、「euphoria」というテーマの持つ意味について少しばかり説明が必要でしょう。

先ほども言った通り、「euphoria」は「(根拠のない)強い幸福」とも訳されるように単なる幸福とは異なったニュアンスを持っています

 

そもそも「euphoria」というテーマは、梅本氏がベン・ノブト氏の楽曲「BREAK-UP MANTRAS」を聞いて着想を得たものだそう。

bennobuto.com

この楽曲では、ラブソングのサンプリングが何度も繰り返され、とても甘く切ないハーモニーがそれを彩っています。

歌詞を聞いてみると、

…まだ感じてる…君が全てだって…君のことを考えてる…私のものだと言って…

という感傷的な失恋ソングです。

この曲を聴いた人は、たぶん
「ああ、なんて切なく美しい曲なんだろう……」
という気持ちになることでしょう。

 

ところが、実はこの曲に使われているサンプリングは、ネットで拾ってきた適当な素材なのです。

ここに「euphoria」のキーとなる感覚があります。

適当にネット上でエモいサンプルを拾ってきて、典型的な失恋ソングの歌詞を反復させ、キレイな伴奏を付けると、聞いた者は強制的にエモい気持ちにさせられてしまう

こうした生理現象としての避けがたい幸福感、いびつな陶酔感こそが「euphoria」であると感じました。

 

インターネットの浸透やSNSの発展で、僕たちは確かに日々こうした幸福感に包まれています。

Instagramで勝手に流れてくるショート動画のネコはかわいいし、YouTube広告でアニメ声の広告が流れてきたらなんかカワイイと思っちゃうし、TikTokでダンスが流れてきたらワクワクするし……って感じでしょうか?

こうした、溢れんばかりの情報に埋め尽くされながらの強制的幸福感というのは、いびつで不気味なものです。

しかし同時に、まぎれもない幸福感でもあるわけで、ここにはキツい倒錯が隠れています。

 

これはまさに現代的な感性だと思います。

ただ単にいびつさを浮き彫りにしただけでなく、

「でもやっぱり幸福だよね?」

というところにまで切り込んだのが面白いです*1

面白いと同時に、メッチャ傷ついたのでエネルギーを消費しました

これは誉め言葉です。

見たくなかったものをいきなり眼前に突き付けられるの、サイコ~!

 

各曲レビュー

さて、ここから1曲ずつレビューします。

とはいえ、さっきも言った通り、このコンサートでは1曲1曲よりも全体としてのコンセプトの方を強く感じました。

なのでさほど深入りはせず、ざっくり感想のノリでまとめていきます。

1.梅本佑利/LOL STREAM

SNSに流れてくる大量の喜怒哀楽と、それに振り回される心を描いた作品。

「ウフフ」みたいな感じの女の子の声がピッチシフトを伴いつつ繰り返され、そこにヴァイオリンが鬼のような連符を休みなく刻み続けます。

まさに梅本節とでも言うべき作品でしょう。

 

感想としては、まずヴァイオリンが上手すぎてビビりました。

一切休みなく続く滝のような連符を、無感情かつ一定に淡々と弾き続ける演奏技術はヤバい。

全ての曲に言えることですが、今回のプログラムは成田氏の演奏があって初めて完成していたように思います。

圧倒的な演奏技術だけでなく、とても滑らかで安定した表現力と、ずっしりした奇妙な存在感を感じさせるプレイヤーでした*2

 

2.梅本佑利/Divinely fuckin Gucci bag

この作品は、後に演奏される「from Heaven_NFT」「Rest in my friends, McDonald」と合わせて3曲で連作になっています。

Twitterで「euphoria」に関するつぶやきを探し、それをAIに学習させ、マルコフ連鎖をもとに生成したランダムな文章からタイトルを取っているとのこと。

各曲でそのテキストが機械音声によって読み上げられ、音声のサンプリングをヴァイオリンで模倣しながら曲が進みます。

これもかなり直截に梅本節です。

 

作品の着想には、Twitterのスパム(いわゆるインプレゾンビとか)が吐き出す無意味な文章が根底にあるようです。

機械が吐き出した妄言が、時として神聖さをまとった啓示のように読めてしまうことがある。

その空虚な神聖さを音楽で補強したらどうなるのか、という実験的意図があるのだと解釈しました。

 

作品の感想ですが、まず題材をTwitterマルコフ連鎖で作るの現代チックだな~~と思いました。

次に、曲のコンセプトをかなりしっかりと明文化してプログラム・ノートに書いているのが面白いと思いました。

今回配られたプログラムには、それぞれの曲に対して楽曲コンセプトがしっかり書いてあり、それなりの文量になっています。

個人的に、この姿勢は好きです。
現代音楽はどうしても、音の響きから作曲意図やテーマを類推するのが難しいですからね。

 

一点思ったのは、逆にこれだけ詳細にコンセプトを明文化していながら、音楽としてはやっていることが普段とあまりにも同じである点にどういう意図があるのだろうか、ということです。

細切れにしたスピーチに楽器のメロディを合わせる、というのは梅本氏のオハコで、これまでにも何度もやっています。

もし仮にコンセプトが文章に書かれていなければ、この曲の意図を理解するのはほぼ不可能に近かったでしょう。

また、ヴァイオリンの演奏方法も割とシンプルに弓弾きするだけで、もっと多様な音使いをしたら音楽的に広がりも出るのでは……?とも思いました*3

 

ただ一方で、「どうせこれ意図的なんだろうな……」という薄ら怖さも感じました。

特殊奏法に関しては、梅本氏はむしろ過去にバンバン使ってますし。

www.youtube.com

個人的な感想ですが、梅本作品は深読みしようとすると過剰に単純に見え、単純に見ようとすると過剰に入り組んで見えるという厄介さを感じます。

楽曲コンセプトにしても、コンセプトはしっかり文章で書いてくれているのに、最終的にこの作品が何を主張しているのか、という最もクリティカルな部分は書いてありません。

つまり、鑑賞者に対して強制的にこの作品を解釈させ、その上で明快な答えは用意しない、というボコスカ殴られるようなエネルギーを感じるんですよね。

 

さらに踏み込むと、今回の梅本作品4曲で面白かった点がもう1つあります。

テーマの「euphoria」に対して、山根氏やベン・ノブト氏は「euphoriaの内側」にいたように感じたのですが、梅本氏は外側から眺めているように感じられたことです。

要は梅本氏は、情報の海みたいなSNSの内側で脳みそチクチクされて「ワァ~気持ちい~」みたいな受動的な幸福(euphoria)を得ることを、究極的には快く思ってないんじゃないか*4、と感じたわけです。

アフタートークのとき笑い交じりに「ボクらには幸福感が足りない」と仰っていたのはそういうことじゃないかと思っています。

 

…………というようなことを、コンサート後にサイゼリヤでずっと議論していました。

隣の席で晩酌していたおじいちゃんは怖がっていました。

フツーに僕らの考えすぎかもしれません。

 

3.山根明季子/Hyperpopvlar

2010年代初頭のヴェイパーウェイヴを題材とした作品で、CVLTVRΣの「マ​ー​ケ​テ​ィ​ン​グ 現金 - マ​ー​ケ​テ​ィ​ン​グ キ​ャ​ッ​シ​ュ - マ​ー​ケ​テ​ィ​ン​グ 金」に影響を受けて作られたそうです。

cvltvre.bandcamp.com

ヴァイオリンがバッハのサンプリングを演奏する中、とつぜん無関係な4つ打ちドラムが鳴り始めて???となりました。

「画面の向こう側とこちら側」というレイヤーの遠近感を、リズムが合わないドラムビートによって表現したようです。

 

4.山根明季子/夢の泉

幼少期のユメカワ文化に思いをはせた1曲。

ファミコンの「星のカービィ 夢の泉の物語」からタイトルを取っているようです。

 

背景でキラキラした効果音が鳴りまくっている中、ヴァイオリンがarcoとpizzを織り交ぜて演奏するという曲でした。

今回のコンサートでは、バックの電子音響が積極的に使われていて、今後は現代音楽でも同期演奏がフツーに使われるようになるのだろうか、と考えさせられました。

個人的に電子音響は賛成派なので、バシバシ使って面白い曲が生まれたらいいと思います。

 

5.アレックス・パクストン/Lurrv U

弦楽四重奏曲「Floidhorrid」を改作したもので、タイトルは「ラアアアヴュ!!!」と読むそうです。

要は「Love You」ということで、愛の囁き(というか呻き?)でしょう。

 

原曲を聞いた成田氏が

「なんかこの曲、アイラヴューってみんなで言い合ってるみたいだね~」

と言ったのがパクストン氏に伝わり、

「じゃあそういうことにしよう!」

という流れでタイトルを変更した*5とか。

ちなみにこの曲の説明文は意味不明で、なんともeuphoriaじみています。

 

音楽的にも、この曲は印象に残りました。

同じセンテンスがずっと執拗に繰り返され、その中でイントネーションが変化し、ついには狂気的に歪んでいきます。

クライマックスではとんでもないヴィブラートをかけながら演奏しており、鬼気迫る様相で見ていて背筋が冷えました。

成田氏がどっか飛んでいくかと思いました。

 

6.梅本佑利/from Heaven_NFT

上記の通り・・・

 

7.山根明季子/楽園

この曲は、今回の山根作品の中では一番好きでした。

非常~にシンプルな3和音のアルペジオをひたすら繰り返しながら、スル・ポンティチェロやスル・タストによる音色の変化をモジュレーションのように徐々にかけていくだけ。

大変シンプルながら、このシンプルさは山根氏らしいです。

使われる和音は4つしかなく、コード進行は2パターンしかありません。

冒頭、いきなりハ長調で「ドミソド・ソシレシ……」と弾き始めたので、心の中で爆笑してしまいました。

 

このあり得ないくらいシンプルな秩序に「楽園」と名付けられていると、どうも怖さを感じます。

あと、こんな繰り返しが多くてシンプル極まりない曲をちゃんと弾き切れる成田氏の表現力もヤベ~と思いました。

 

8.ビリー・アイリッシュオキシトシン & 9.ソラージュ/煙を燻べる者

この次の曲、なんとビリー・アイリッシュです。

しかもプログラムには「※ 音源のみ」と書かれています。

何が起こるの???と思いながらドキドキしていたら、なんと舞台が暗転して舞台裏でビリー・アイリッシュが流れ始めました

マジ何???

成田氏は直立不動です。

 

と思っていたら、急に舞台上のスピーカーからも音楽が流れ始めました。

いきなり爆音になったのでびっくりして

PAミスか!?」

と思ってしまいましたが、どうやら正しい演出だったようです。

 

こうしてひとしきりビリー・アイリッシュが流れている最中、成田氏がまだ曲が終わらないうちから次の曲を演奏し始めました

やがてスピーカーの爆音が止み、流れるように「煙を燻べる者」の演奏へ移行。

かなり攻めた演出で面食らいましたが、効果は抜群でした。

 

この2曲の演出は、まさに今回のテーマ「euphoria」に直結するようなものだと感じます。

まずビリーの「オキシトシン」は、端的に言ってセックスの歌です。

オキシトシンのためにあなたが欲しい」という歌詞から分かる通り、クッソ退廃したセックスをしてお天道様に顔向けできないほど気持ち良くなりたいという内容。

そして次にソラージュですが、14世紀フランスの生没年不詳の作曲家。

バッハより古い時代の超マイナー作曲家です。

「煙を燻べる者」は半音階的手法で書かれた怪作で、アヘンや大麻を吸う光景をサイケデリックに描いたものだとか。

 

セックスもドラッグも、われわれを強制的幸福にいざなう暴力的な「euphoria」です。

ここでは、それを時代を超えて結び付けたわけですね。

さらに言えば、ビリー・アイリッシュは現代音楽の人ではなくポップ・シンガーです。

現代音楽の舞台で、ポップスの原曲音源をただ流すというのはなかなか攻めていると思います。

ポップスと現代音楽とで共通する価値観を描き、時代を超えて共通する価値観をも描いた、不思議な2曲でした。

 

10.ベン・ノブト/BREAK-UP MANTRAS

さあ、ここでベン・ノブトの曲がついに出てきました。

先に述べたように、今回の「euphoria」というテーマはそもそもこの曲に端を発しています。

そういう意味では、このコンサートのサビとも言える曲だったんじゃないでしょうか。

元々は木管と弦のアンサンブルだったのを、生演奏のヴァイオリンと録音のチェロにアレンジしての演奏でした。

 

この曲のコンセプトは先に述べた通りです。

個人的にベン・ノブトはかなり好きなのですが、今回この曲を聞いて初めて彼の作品に不快感を覚えました*6

これは悪い意味ではなくて、むしろ面白い体験でした。

ベン・ノブト作品はシンプルにカッコいいから好きなんですが、この曲を聞いてから考えてみると、彼の作品に宿るカッコよさ・聞きやすさって実はかなり悪意に満ちているのでは……???

「コンセプトにも関わらず、強制的にカッコよくorキレイに聞こえる」音楽を彼が意識的に書いているとしたら、なかなかに暴力的です。 

 

11.梅本佑利/Rest in my friends, McDonald

上記の通り・・・

 

舞台演出について

という感じで、バチクソに濃密な11曲でした。

舞台演出についても言及したいことがいくつかあるので、書いていきます。

 

まず一番驚いたのが、11曲演奏する間MCが一切なく、拍手すらなく、ぶっ通しで演奏しきったことです。

舞台が暗転し、薄暗いスポットライトの中に成田氏が現れた瞬間の緊張感が、演奏後も途切れることなく維持されていました。

そのせいで、曲が終わっても誰も拍手できなかったのです。

これはスゲ~~~カッコいい。

おちゃらける気が一切ないということがよく伝わってきました。

 

正直、この演出に関しては不満だった方もいるでしょう。

現実的な話、曲中にプログラムを見返すことができなかった(明転しないから冊子が読めない)のは善し悪しだと思います。

11曲ぶっ続けで演奏する中で、せっかくプログラム・ノートにも相当の文章量があったので、読み返したい人はいたでしょう。

というか、今何の曲を演奏しているのか迷子になった人も多かったかも。

 

ただ、個人的にはあのキィィィィィィィンと張りつめた緊張感は他に代えがたく、最高だなと思いました。

というか、自分たちがコンサートで面白いんだかよく分かんないMCを挟んでいたことが俄に恥ずかしくなってきました。

おちゃらけで誤魔化そうとしてはダメなこともあるんだと学びました。

 

また、さっきも触れましたが、ビリー・アイリッシュ~ソラージュの2曲は曲自体が演出と言ってもいいような使われ方をしていました。

舞台裏でビリーの曲が流れている間、舞台裏の天井に対して赤色の照明が照らされていたのですが、これはクラブのトイレでドア越しに音楽を聴いている表現だ、とアフタートークで明かされました。

このへんの演出はシビれますね。

 

ただ、舞台上のスピーカーから音が出始めるとき、ちょっとびっくりしてPAのミスかと思ってしまったのがやや惜しかったと思います。

たぶんトイレのドアを開ける瞬間の表現だったんだと思いますが、音量変化のさせ方次第でびっくりせずに済んだ気がします。

 

最後に、終演後のアフタートークについて。

これは最高でした。

まあ、僕はそもそも山根氏や梅本氏のファンなので楽しかったのは当然ですが、やっぱり個性豊かな音楽家たちの話を直接聞けるのは面白いです。

三者三様という言葉が似合いすぎるほどのカオスなトークで、かなり楽しめました。

演奏だけ聞いてアフタートーク聞かずに帰った人もチラホラいたんですが、フツーになんで?????と思いました。

 

まとめ

というわけで、明らかに文章が長くなりすぎですね。

この辺でまとめて〆にしようと思います。

 

全体的に大変完成度が高く、満足度も高い公演でした。

音楽からはしっかりダメージを受けたし、記憶に残るものです。

また、やっぱり「たくさんの初演曲を含む作曲家主体のコンサート」の良さを再確認しました。

 

逆に言えば、僕は「既存曲を前提とした聴衆主体のコンサート」を面白いと思えません。

既存曲というのは、歴史的にそれなりの価値を認められていて(そうでなければ残らない)、いわばぜんぶ傑作です。

良い曲だと分かって聞きに行き、良い曲だったと再確認して帰るのでは、頭も全然使わないし意外性もない。

もちろん、そうした軽めの楽しみ方を好む人がいるのは理解できるし全然それでいいと思いますが、僕の好みではないのです。

 

そういう意味で言えば、今回のような「たくさんの初演曲を含む作曲家主体のコンサート」は、ぜんぶ傑作(歴史に残る)ということはないでしょう。

事実、終演後に梅本さんとお話ししたとき

「今回の演奏曲のうち、再演される曲は一体いくつあるのか……」

と唸っていました。

ただ聞き手としては、先入観やレッテルなしに音楽と向き合えるので、たいへん刺激的でスパイシーな体験です。

もちろん魂とか心臓・MP・肝臓・大脳新皮質などが多少すり減りますが、それが楽しいし、体験として重厚だからこそ、こういうコンサートは今後も是非あってほしいと思います。

*1:これについて、アフタートークで梅本さんが
「ベン・ノブトは最終的に幸福感に持っていけるからすごい、ボクらには幸福感が足りない(笑)」
と言っていたのが個人的にツボでした。
むしろこれを幸福として結論付けられてしまうベン・ノブト、ヤベぇ悪党なのでは???(誉め言葉)

*2:舞台衣装にはどデカい龍?がプリントされており、派手でカッコよかったです。
こうした攻めたファッションスタイルは、mumyoの3人全てに言えることですが、現代音楽の発信のしかたとして新鮮で良いと思います。

*3:実際、他の曲では音色を変える弾き方や特殊奏法が多く使われていました。

*4:ちなみに僕は全く快く思っていません。
現代の情報化社会は地獄です。
テレビを見なくて済むためだけに実家を出たくらいです。

*5:作曲者としては、演奏者が自分の作品を解釈してくれたら嬉しいので、共感できるエピソード。

*6:現代音楽を聴かない方には伝わりにくいかもしれませんが、「音楽を聴いて不快になった」というのは誉め言葉です。
聞き手の心が動いたということは、作曲行為が成功した証です。

Various Artistsが一番ヤバい

榊原です。

 

音楽配信サービス(サブスク)って便利ですよね。
世界中ありとあらゆる音楽に一瞬でアクセスできるなんてまさに夢のようです。でも私思うんですよ、ほんとうにあらゆる音楽にアクセスできているのか? とね。
今回私が言いたいのは、サブスクに登録されていない音楽は聴くことができないとかそういう話ではないんですよ。サブスクに登録されている音楽の中ですら、到達するのが極端に難しい地平が存在し、そこは魔境であるということが私は言いたいわけです。そして中でもVarious Artistsが一番ヤバいと。

 

Various Artistsのやばさ① 他に情報が一切ない

ミュージシャンの表記がVarious Artistsになる場合、それはだいたいコンピレーションアルバムなので、そのアルバムに曲を出しているミュージシャンたちが、サブスクにその一曲しか出していないということは往々にしてあります。一曲しか出さないくらいなので、宣伝とか、ましてやSNSアカウントやHPの類が一つも存在しないというのも多いですね。サブスクが台頭した結果、趣味人による本当にただ出しただけの曲が無数に存在することが明らかとなったわけです。マジで最高の事実ですよね。

 

Various Artistsのやばさ② マジでたどり着けない

マイナーなミュージシャンに到達するにはいくつか方法があります。

まず一つ目は「似たミュージシャンから探す」です。ある曲・ミュージシャンを聴いていると、それに似た別のミュージシャンをお勧めしてきます。大体堂々巡りになるので使い物になりません。

二つ目は「AIによるレコメンド」です。なんかいろいろ聴いてると、なんか勝手にプレイリストが作られたりするので、それを聴きます。堂々巡りになりがちですが、たま~~~~に超マイナーな曲を流してくるので油断なりません。ソシャゲの***連ガチャに射幸心があおられるのと感覚が似ています。

三つ目は「SNSから拾う」です。SNS(特にX)ではやたらマイナーな音楽に詳しいおじさんがたくさんいるので、そいつらのポストをチェックします。これもまた玉石混交で、やたら批評家ぶるくせに紹介してる音楽がしょうもないジジイ一周遅れてるジジイを排除するのに時間がかかります。排除できたら有用に機能するかと思います。

四つ目は「音楽配信代行サービスの新曲一覧から探す」です。BIG UP!やTune Coreといった音楽配信代行サービスは、毎月・毎日配信される音楽をどこかしらに公表してくれているので、それを片っ端から聴きます。大変骨が折れる上に実りが少ないのでお勧めしません。

(あるいは友達に聞けばいいのですが、友達がいません)

さて、Various Artistsは前項で述べたとおり、一曲しか出してなかったり、ネットに情報が一切なかったりするのがざらです。となるとSNSから拾うのは困難を極めます。一番拾いやすいのは「音楽配信代行サービスの新曲一覧から探す」ですが、この方法は現在進行形で出版されている音楽に対してのみ有効であり、旧譜を探すにはあまりにも向いていません。昔のVarious Artistsを探すとなると、「似たミュージシャンから探す」と「AIによるレコメンド」を使いこなす必要があります。運ゲーです。マジでたどり着けません。

 

Various Artistsのやばさ③ クオリティがピンキリ

コンピレーションアルバムの宿命なんですが、めちゃくちゃクオリティが高いものと低いものに分かれてしまいます。クオリティが極端に高いものはみんなが評価するので、まあまあ見つかりますが、そうでないもの、つまりゴミ曲のコンピはほとんどの人間が評価しないのでAIによる推薦を全くうけません。でも実は本当はそういうゴミ音楽のほうがこの世には多いんですよね。別にそんな曲わざわざ探し出して聴かなくていいじゃないかという意見はごもっともなんですが、目をむけられてないだけで本当はそこら中ゴミ曲だらけなの、ヤバくないですか......? 俺はゴミにスポットをもっと当てたい。

 

ということで、Various Artistsのヤバさを分かっていただけたでしょうか。わかっていただけましたね?

 

次回「お前は春日井アイドルを知っているか」に続く

コンテンポラリーの回廊 俺の視聴部屋6

コンテンポラリーの回廊


 なんか最近天気荒っぽくないっすか?ネットもすぐ炎上するし、誹謗中傷が当たり前みたいになってきて、なんか殺伐としていますね。そういう行動が良いとは全く思いませんし、匿名性の中から火炎瓶を投げつける輩など、ゴミみたいなものだととある精神科医に言われましたが、全くそのとおりだと思います。なんならちゃんと面と面を突き合わせて、やり合おうやって話です。

 さて私のアンテナにかかったコンテンポラリーを聴くシリーズも6回目となりました。前回からあまり空いていませんが、結構面白い曲が溜まってきたので紹介していきたいと思います。特に今回は近作が多く、そういう意味では国内未紹介作品が多いのではないかと思います。
 しかし毎回このシリーズを書くたびに、日本のアンテナの低さに辟易するわけですが、在野研究の本当の良いところは、こうやってしがらみなくやれることだとも思うので、どんどん紹介に努めたいと思います。

 

Cullyn Murphy

 まずはじめにご紹介するのはアメリイリノイ州に1993年に生まれたカリン・マーフィーの作品です。
 コントラバスと声のために書かれた「Garrulous; Cut Up」は2020年に書かれた作品で、その内容はかなりユニークで思わず笑ってしまいそうなものになっています。
 作曲者は理学士と作曲家という異色の経歴で、ルイビル大学で学びました。作曲はロイ・マグナソン、カール・シメル、エリック・モーなどに学んだようです。
 作曲のテーマは「演劇的で音楽の組織を拡張する独自のスタイル」と形容されるように、まさにジャンルに囚われない世俗感のようなものを持っています。なるほど現代カルチャーをある種磔にして、これを一種の雛形にし、あふれるアイディアで脚色し、それをまた現代に放つといったプロセスが感じ取れる作品になっています。
 実はこの曲には似た先例があります。まあ現代音楽が好きでコントラバス独奏と声といえばある種有名な作品なので、二曲目に紹介しようと思います。
とりあえず聴いてみましょう。

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Tom Johnson

 さて一曲目の紹介の際に「先例がある」と書きましたので、その先例をこの際ついでにご紹介してしまおうと思います。
 それはトム・ジョンソンの書いた「Failing "A Very Difficult Piece for Solo String Bass"」という曲です。コントラバスを演奏しながら語るというコンセプトが非常に良く似ていますね。

 しかし作曲思想は全く別のものなのです。

 トム・ジョンソンは1939年にアメリカに生まれ、イェール大学に学びました。基本的には音楽の余分な要素を排し、ミニマリズムに徹するという点から、図形譜などを用いた即興性の強い作品を各作曲家です。
 現在はパリに住んでおり、単純な規則から生み出される要素を算出して楽譜に書くという、プロセス自体がミニマリズムの影響を受けており、出来上がった作品がライヒ的な響きのミニマルになるわけではない点がユニークです。思想的には、ラモンテ・ヤングに連なるミニマリズムとも解することができるかと思います。
 ちなみにこの作品は案外人気で多く演奏されている点もまた現代の音楽におけるある種の金字塔と言っていい作品だと思います。

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 と、似た雰囲気を持った作品を2つ紹介したので思い切って雰囲気を変えてみましょう。

 

Mirela Ivičević

 次は1980年にクロアチアに生まれた、ミレラ・イヴァチェヴィッチの「Überlala. Song of Million Paths」をご紹介します。タイトルは作者の造語のようで詳しい意味はわかりませんでしたが、多くの道の歌とのサブタイトルが付いています。
 作者は極めて官能性の強い作風で知られ、その音楽創作の原点には、イデオロギーから解き放たれる真の自由への闘いという思いがあるようです。なるほどこのあたりも現代的で、保守的なものに対する左翼的闘いという構図すら古く、あらゆるイデオロギーを敵に回して、そこから解放されるために闘うというわけです。彼女は作曲をベアト・フラーらに師事しており、その言語の先鋭性は師からの影響があるのでしょう。
 この曲はヴァイオリン協奏曲の形をとっており、2024年に書かれた新しい作品です。非常に多様式的な側面があり、言語のチョイスは彼女の経験的な感覚から来ているようですが、自由奔放で官能的という表現はたしかにしっくりきます。とくに高音の処理が美しく、金属質の響きがある種の打楽器のように散りばめられ、これが作品の雰囲気を決定づけているように感じます。そうかと思うと、いきなり三和音が登場したり、なるほど「今の音楽」の性格をよく表しているように聴こえますね。

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Yonatan Ron

 次はアメリカ生まれ、イスラエル育ちの作曲家ヨナタン・ロンの作品「Times sway. Echoes, decay... 」をご紹介します。タイトルは「時代は揺れる」と訳せるメインタイトルに「反響、減衰…」と付け加えられています。作曲家の背景を考えれば納得のタイトルではありますし、この作品も2024年の作品ですから、その背景には政治的な情勢も関与しているかもしれません。
 作者は幼い頃からギターを習っていたそうですが、作曲の師にはゲオルク・フリードリヒ・ハース、フィリップ・ルルーの名もあり、倍音構造に重心を置く響きを構築するタイプの作風を持っているのも頷けます。
 この作品は室内アンサンブルのために書かれていますが、こちらも今の世代らしく、多くの微分音を用いており、微分音の再解釈のブームに沿った曲と言ってもよいかと思います。しかし単なる微分音を使いました的な作品ではなく、響きの演算の中に登場する微分音を巧みに使っているおかげで、ハースの作品と同じく、その響きに違和感は少なく聴きやすくすらあるように感じます。
 ただ、タイトルに比して作品の内容はやや軽く聴こえ、もう少し骨格や構造面でさらなるインパクトを作っても良いような気もします。
ともあれ聴いてみましょう。

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Liina Sumera

 今回のラストはエストニアに1988年に生まれた作曲家リイナ・スメラの「Kimäär」をご紹介します。
 作曲者名を聴いて現代音楽に通じる人ならレポ・スメラの名を思い出す人も居るのではないでしょうか。私もその一人でしたので詳しく調べてみると、レポ・スペラとはなんの関係もないようです。それどころか彼女は結婚しており、旧姓はKullerkuppであり、夫の姓が偶然故郷の大作曲と同じだっただけのようです。
 とはいえ、彼女は結婚によりその大作曲家と同じ姓になり、イニシャルも同じになることに戸惑いがあったことをインタビューで述べております。その上で、レポ・スメラを尊敬しているし、同じ姓になれて嬉しい。できれば一度あってみたかったとも言っています。
 さてそんなリイナ・スメラは幼くして、フルートとポップジャズシングを学び、すぐに作曲に興味を持ったそうです。その後ヘレナ・トゥルヴェ、マルゴ・コラルに師事し、作曲を習得すると、エンジニアリングを学び、さらに電子音楽、映画音楽、ゲーム音楽も学んでいきました。この経歴もまた現代的だなと感じます。マルチな才能をもっており、コンテポラリーを書くだけではなく、ロックバンドも結成していたりとなにかに縛られることはないようです。
 今回紹介する曲のタイトルは「キメラ」の意味を持っており、音楽の内容は師のヘレナ・トゥルヴェの影響を濃く感じます。響きを立ち上げていくタイプの書き方ですが、その直感が素晴らしく、またその中に平然と三和音が登場するのもやはり「今の音楽」を感じさせます。楽器法も非常に見事であり、芳醇な響きの濃淡は透明感を持っており、エストニアの作曲家やラトビアの作曲の多くがそうなように、根底には歌があるように感じます。
 なおこの作品も2024年の作品であり、彼女の今後の動向には目が離せないものがあるといえるでしょう。

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 ということで今回も近作を中心に5曲紹介いたしました。まだまだ最近作で面白いものを見つけており、近日第7回を書こうかなと思っています。
 今を生きる作曲家として同時代性というものは極めて重要であり、また若い人の着想を「権威の名の下に」一蹴することで、年寄の憂さ晴らしをするようでは、この国の現代音楽シーンは終わりを告げるでしょう。
 そういった古い時代の化石に、それこそ引導を渡し、あらゆるイデオロギーから解放された新時代の音楽を築き上げていかねばならないと強く思う今日このごろです。

歌もん問答

なにが正解なの?

ずっと答え探してた

 

 

 

 

軟水:こんにちは。軟水と申します

 

丸山:こんにちは。丸山といいます。どうぞよろしく

 

軟水:早速ですが、今回は丸山さんの方から何か主張したいことがあるとお聞きしたんですが、それは一体何なのでしょう

 

丸山:よくぞ聞いてくれました。私が主張したいこと、それはズバリ、「全ての音は"歌"である」ということなのです

 

軟水:全ての音は”歌”…?どういうことですか

 

丸山:文字通りですよ。この世界で鳴っている全ての音は、実は”歌”だったんですよ

 

軟水:そんなことないと思いますけどねえ

 

丸山:まあまあ、普通はそうですよね。

丸山:ではこの場を使って、一度"歌"とはなんなのか、定義を考えてみましょうか

 

軟水:"歌"の定義、ですか…

 

丸山:軟水さんなら、”歌”をどのように定義しますか?

 

軟水:うーん…

 

 

”歌”とは、人間が音程のある旋律に沿って話す言葉のことである。

 

 

軟水:こんな感じですかね。

 

丸山:悪くないと思います。しかし、この定義ではやや不十分かもしれませんね。

 

軟水:この定義に漏れるような”歌”があるということですか?

 

丸山:では、この曲は知っていますか?

 

youtu.be

 

軟水:名曲じゃないですか。もちろん知ってますよ

 

丸山:そう、山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」ですね。では、この曲の"歌"をよく聴いてみて下さい

 

軟水:(よく聴く)

 

丸山:おわかりですか?歌の途中、「Sirent Night~」と「Holy Night~」の間で「うぉ~お~ぉいぇ~えい」という声が聞こえますよね

 

軟水:合いの手的なやつですよね

 

丸山:この「うぉ~お~ぉいぇ~えい」は、”歌”ですか?

 

軟水:ええ…、まあ、”歌”なんじゃないかな。一応「Wow」とか「Yeah」とか書けるし、私の「音程のある旋律に沿って話す言葉」という定義にも反していないと思うので、これは“歌”でしょう

 

丸山:なるほど。では、この「うぉ~お~ぉいぇ~えい」がもし、何の言葉でもないただのハミングだったとしたらどうでしょう?この合いの手は”歌”では無くなりますか?

 

軟水:うーん、、、いや、それでも”歌”というべきかもしれない

 

丸山:私もそう思います。”歌”において、必ずしも意味のある言葉を言っている必要は無い。例えばコーラスだって、"歌"から仲間はずれにするのは不自然でしょう

 

軟水:それもそうですね。では、定義を直しましょう

 

 

”歌”とは、意味の有無を問わず、楽曲の中で人間がメロディを付けて出す声のことである。

 

 

軟水:これで文句ないでしょう…

 

丸山:おや、何か遠くから筋肉質な声が…

 

youtu.be

 

軟水:ぶりんばんばん だ!!!!

 

丸山:この曲は基本的にラップ調で構成されていて、明確な音程の無い旋律に合わせてリズミカルにリリックが刻まれています。そして、時には明確な音程を持つ"歌"に自然な流れで混ざっていきます

 

軟水:最近では、こうしたラップを取り入れた”歌モノ”は珍しくなくなって来ましたね

 

丸山:続けざまに、これはどうでしょうか?

 

youtu.be

 

軟水:ラップですら無い。曲をBGMにして好き勝手喋っているだけだ

 

丸山:しかし、こうした朗読とラップに明確な境界線は無い。どれくらい曲に合わせているかなんて、聴く者の裁量でどうにでもなってしまうのですから。

 

軟水:そしてそれは、旋律の明瞭な音程という観点にしても同じ…

 

丸山:そうです。シンギングもラップもリーディングも、滑らかに繋がっているのです

 

軟水:だとすれば…

 

 

”歌”とは、楽曲を構成する要素のうち”人間の声”に由来するものである。

 

 

軟水:ここまで定義を広げれば、もう十分でしょう

 

丸山:どっこい…

 

youtu.be

 

軟水:えーーー!昔のHIKAKINじゃないですか。これはさすがに”歌”ではないですよ

 

丸山:でも、ヒューマンビートボックスは人間の声ですよ

 

軟水:声…なのかなあ。喉を震わせてなかったら声とは言えないんじゃないかな

 

丸山:だとすると、定義の方が不十分だったということになります。何故なら、ラップなども含めた、人間の言葉によるサウンドを”歌”の範疇に入れていますが、人間の言葉の中には喉を震わせずに発音する無声音がたくさん含まれていますからね

 

軟水:そう言われればそうなのかも…

 

丸山:ということは、無声音も"歌"として許容されると。となると、こういうのも”歌”といって差し支えないですね。

 

youtu.be

 

軟水:鼻をすする音……歌……?

 

丸山:人間の身体に由来して発せられる音ですから、言語の無声音と何の違いもありません。

 

軟水:確かに…

 

丸山:つまり、人間の身体によるものなら何でも、歯をカチカチ鳴らす音も、手拍子も、関節パキパキも、排泄音も、すべて”歌”なのです!

 

軟水:そうなのか!!!

 

丸山:さらには、こんなのも…

 

youtu.be

 

軟水:ええ~~~~~~~~???????

 

丸山:何ですか?

 

軟水:いや、何ですかも何も、だって、サックスの演奏じゃないですか。これはさすがに…

 

丸山:人間の息、運指によって発せられた音ですよ。この曲がった金属塊一つごろんと置いてあっただけで、勝手に音が出ますか?これは紛れもない”歌”です

 

軟水:身体以外のアイテムを使うのはルール違反じゃないですか?

 

丸山:冷静に考えてみて下さい。人間の声による歌唱だって、「空気」が無ければそもそも聞こえないわけですよね?

 

軟水:むむ…

 

丸山:「空気」だって立派な外部アイテムです。そもそも己の身一つで”歌”が成立しているというのが誤りだったのです

 

軟水:アァ…ウワァァ…

 

丸山:口腔内の唾液も歌唱のテクスチャーに多少の影響を与えているだろうし、鼻をすする音は鼻水無しには鳴らないし、排泄音は糞尿無しには奏でられない(あと便器も)

 

軟水:…………(己の限界を超える悟りの境地を迎え激しく痙攣している)

 

丸山:ここまで来れば後はたやすい。人間は、デスクトップ・ミュージックの世界を創り出し、人間の指がキーボードやマウスに触れるだけで、あらゆる音を奏でることが出来るようになりました。音響とは、重ね合わされた波でしかありません。この世界の全ての音は、それと真に同じ音が人工されるようになったのです

 

軟水:だから、この世界のあらゆる音は、”歌”だったのです

 

丸山:素晴らしい

 

 

 

 

 

 

こうして軟水は丸山と完全に分かり合ったことにより、一つに融合してしまった。

しかしそこで初めて、丸山の内に巧みに秘められていた「悲しみ」を、軟水だった存在は理解するのだった。

 

「”歌”とは何なのか?それは、私自身が”歌”であると信じられるものだけだ。音楽は私のためだけにあるのだから、私の信じるものこそが、どんな理屈にも先行するのだ」

 

そして融合した二人は、次世代の”歌”を切り拓くミソフォニクパイオニアアイドル、「しなこ」になったのだった。

 

youtu.be

 

しなこんちゃ
こんにちは~しなこです
みて、きいて、たのしいしなこ
ぜひぜひ最後までご覧ください
しなGO!

 

なにが正解なの?
ずっと答え探してた
原宿が教えてくれた
正解がない ことが正解だって!

 

こんな服きるの?
そんなの食べるの?
あんなのアリなの?
アリだよ自由でいいんだよ!

 

わくわくパクパク しなこワールド
好きにまっすぐなプリンセス
誰にもならない
自由!自由!自分でOK~!
しなGO~!

 

せーの!
みて!きいて!たのしい!しなこんちゃ!
みて!きいて!たのしい!しなGO!
みて!きいて!たのしい!うれしなこ!
みて!きいて!たのしい!おやすみし~

 

しなこっこっここっこっこっこっこっこっこっこっここっこ
しなこ!
しなこっこっここっこっこっこっこっこっこっこっここっこ
しなGO!
しなこっこっここっこっこっこっこっこっこっこっここっこ
しなこ!
しなこっこっここっこっこっこっこっこっこっこっここっこ
しなGO!

 

わくわくパクパク しなこワールド
好きにまっすぐなプリンセス
誰にもならない 
自由!自由!自分でOK~!
しなGO!

 

せーの!
みて!きいて!たのしい!しなこんちゃ!
みて!きいて!たのしい!しなGO!
みて!きいて!たのしい!うれしなこ!
みて!きいて!たのしい!おやすみし~

 

映画遍歴を振り返る。



みなさんこんにちは。そして、お久しぶりです。ぎょくしです。

 

皆さんは映画が好きですか?私は、年間視聴本数はさほど多くはありませんが、それでも胸を張って「映画が好きだ」と言うことができます。今回は、そんな自分と映画の思い出について語ってみたいと思います......

 

子供の頃どんな作品を観ていたか

幼稚園〜小学生の頃は、夏休みや冬休みに祖母に連れられて映画館に行っていました。当時、自分の住んでいる街にはシネコン(複数スクリーンあるようなデカい映画館)が無かったので、ミニシアターのような所に映画を観に行っていたのを覚えています。また、まだインターネットの発達していなかった時代なので、新聞の地方欄の片隅にその時上映している作品が載っていた覚えがあります。当時観た作品としてはとっとこハム太郎ドラえもんポケットモンスターの劇場版作品だったと記憶しています。当時から根っからのアニメーションウォッチャーですね、これは...

 

中学・高校時代になると...

中高生になると、小学生の頃に比べて映画館に行く回数がめっきり減りました。というのは、家がクソ田舎にあるため、映画館へ行くには親に連れていってもらうしかなかったからです(そしてその頃の親と自分の関係についてはこのブログから察してください)。

当時観た作品としては、カイジだったりライアーゲームだったりを観てたような覚えがあります。当時は特にこだわりもなく流行っている映画を観ていた感じでしょうか。というかなんというか、あんま良い作品に巡り逢えなかった気がしますね。だって、観ていた当時は面白かったかもしれませんが、今なお印象に残ってる作品なんてほぼ無いですもの...

 

映画を敬遠していた大学時代初期

そして自由の身となった大学時代、その前半は映画を全く観に行きませんでした。というのも、長い間映画を観ていなかった所為で、映画に対するバリアのようなものを感じていたからです。そのバリアとは、主に以下の二つになります。

 

1. 長時間拘束される

コレ、結構同じような人が多いんじゃないでしょうか。(トータルの時間は長いけれど)各話20分程度でサクッと観れて、イッキ観してもある程度自分の好きなタイミングで休憩ができるテレビアニメ作品。それに対して、映画は1時間半〜2時間ほど腰を据えてじっくりしっかり向き合わねばいけません。どちらかというとじっとしているのが苦手な自分は、映画を観るのはあまり得意なことではない...と思い込んでいました。

 

2.ストーリーの「谷」が観ててキツい

そして一番の大きな理由が物語の「谷」です。映画ってどうしてもあの比較的短い時間の中で話の盛り上がりを作らなきゃならんので、特にハッピーエンド映画だと「谷」(悲しみ・苦しみ・諍い等々のネガティブな事件)が明確に存在しているように思えます。ジブリで例えるならば、『となりのトトロ』でサツキとメイがケンカしてメイが行方不明になってしまったり、『魔女の宅急便』でキキが飛べなくなってしまったり、といった感じです。で、そういうシーンがとにかく観ててキツい。なんなら観てる最中に「ああ...そろそろ"谷"がくるぞ...」と考えてしまうので、物語にあまり入り込めないのです。

 

そんなわけで、映画を観るのはなんとなく敬遠していました...しかし、大学時代後半には、そんな自分を大きく変える出来事が起こり始めるのです。

 

映画「若おかみは小学生」に出逢って

大学生活も後半に差し掛かったある日、いつも通りTwitterのTLを辿っていると映画若おかみは小学生!の評判ツイートが流れてきました。その時珍しくふと、「あれ、この作品ちょっと観てみたいぞ」と思うことができたのです。

 

youtu.be

 

関織子です。おっこって呼んでください。あたし、ここでがんばります!

小学6年生のおっこは交通事故で両親を亡くし、おばあちゃんが経営する旅館<春の屋>に 引き取られることになった。旅館に昔から住み着いているユーレイのウリ坊や、美陽、子鬼の鈴鬼、ライバル旅館の跡取り娘、真月らと知り合ったおっこは、ひょんなことから春の屋の若おかみ修業を始めることになった。慣れない若おかみ修業に、毎日失敗の連続・・・。「わたしって、ぜんぜんしっかりしてないじゃん。」落ち込むおっこだったけど、不思議な仲間たちに助けられ、一生懸命に接客していくうちに、少しずつ成長していくのだった!

 

しかし、何せ数年間映画館に行っていないもんですから、どの席を選べば良いかも分かりません(普通の人はそこまで気にしないよ...)。そこで映画好きのフォロワーにオススメの席の選び方をわざわざ聞き、万全の準備の上で映画館へ向かったのでした。

 

映画の内容は思った以上に素晴らしいものでした。そして、ずっと苦手に思っていた「2つのバリア」も実は大したことない、ということが分かりました。

 

懸念ポイント一つ目の「長時間拘束される」という点ですが、映画を実際に観てみると、「アニメ視聴トータル時間に比べればむしろ短時間」という当たり前のことをやっと実感することができましたし、「むしろ拘束されてる分集中して観れるから、これはこれで良いんじゃない?」とも思えるようになりました。

 

また懸念ポイント二つ目の「ストーリーの“谷”が観ててキツい」という問題ですが、この課題もクリアすることができました。「若おかみは小学生!」でも勿論主人公が苦悩するシーンはありましたが、物語のある一箇所にドデカい「谷」がある訳ではなく、物語全体に満遍なく「谷」が分散しているような感じだったので、この作品は観ていて苦にはならなかったです。むしろ「こういった作風の物語もあったのか!」という新たな発見になり、映画に対する固定観念が崩れ去った気がします。

 

こうして映画に対する抵抗感が無くなった私は、その勢いで若おかみは小学生!」を4回観に行きました。名古屋住みの自分がわざわざ豊田方面の劇場に足を運んだりもしたので、当時相当ハマってたのがわかりますね?

 

そして、大須シネマとの出逢い

そんなこんなで大学を卒業してある程度経った頃、大須シネマ若おかみは小学生!」が再上映される、という情報が舞い込んできました。これは行くしかねぇな...!

 

www.osucinema.com

 

nu-composers.hateblo.jp

 

という訳で大須シネマにて、若おかみは小学生!」を追加でもう2回観た訳ですが、初めて大須シネマに行って分かったのは、「この映画館、結構良いかも...!」ということでした。それまでミニシアターには数回した行ったことがなかったのですが、人の多さや上映前の予告編の多さに煩わされることなく映画に集中できたのが嬉しかったですし、なにより後で調べたときに過去作のラインナップが素晴らしかったので、「この映画館、また来たい!」と思ったのです。これが私に「推し映画館」ができた瞬間でした。

 

それからは大須シネマの公式アカウントをフォローして、こまめに上映情報を得るようにし、ちょっとでも自分の「気になるな...」という作品があったら劇場に足を運ぶようになりました。

 

そして、運命の出会いがあったのは2021年3月のこと。大須シネマのロビーでたまたま流れていたのは、「夢みるように眠りたい」の予告編が流れていました。

 

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大正7年。初めての女優主演映画といわれる帰山教正監督「生の輝き」の以前に、実は月島桜が主演した「永遠の謎」という映画があった。しかし、この「永遠の謎」は、警視庁の映画検閲によって妨害され、ラストシーンが遂に撮影されないまま、その名を映画史から消されてしまった……。 昭和のはじめ、東京。私立探偵・魚塚甚(佐野史郎)の元に、月島桜と名のる老婆(深水藤子)から、誘拐された娘・桔梗(佳村萠)を探して欲しいとの依頼がくる。調査を続けるうちに、魚塚は、この事件全体がまるでドラマのように出来すぎていることに気がついていく……。

 

白黒で、人の声は殆ど入っておらず、予告編だけでは大まかなストーリーすら掴むことのできない予告編。それでもその予告編は、なぜか自分の心を捉えて離しませんでした。とうとう居ても立っても居られなくなった私は、フラッと大須シネマへ行き、その映画を見ることにしました。

 

...で、めちゃくちゃ感動しました。どれくらい泣いたかというと、映画本編途中で目からポロポロ涙が溢れ、クライマックスのシーンでは泣きじゃくりたいのを必死で堪え、上映後は顔がぐちゃぐちゃになっていました。映画館でガチで涙を流したのは、おそらく小学生の時に観た「マリと子犬の物語」以来だと思います。そして極上の感動体験と共に、「こんなに面白い映画がまだあったとは!」という気づきも得ることもできました。それからというもの、アニメだけではなく映画も積極的に「掘る」ようになりました。

 

そして現在...

こうしてすっかり映画好きになった私。といっても、気力に左右されがちな人間であるので、長期間映画を観る気が起こらない...なんてこともあります...... が、去年は一年の間に30本ほど(重複含む)を観ることができました。ま、「毎週2-3本は必ず見ます!」なんて映画マニアには叱られちゃうかもしれませんが、それでも以前の「映画を敬遠していた自分」から大きく変わることができたのでした。

 

おわりに

というわけで今回は、自称・映画好きの私がこれまでの映画遍歴について語ってみました。

さて、皆さんはどんな映画遍歴をお持ちでしょうか。昔どんな作品を観ていましたか?映画が好きになったきっかけは?一番好きな映画は?皆さんもこれまでの映画遍歴を振り返ってみると意外と楽しいかもしれませんよ!

 

ではまた!

機材でも買おうかな

私は音楽機材をそろえて悦に入るミュージシャンが本当に嫌いで、かつ尊敬するミュージシャンはみな機材周りがかなりシンプルなので、機材を買うことにかなり消極的です。どれくらい消極的かというと、スピーカーを買うかどうかにすら3年間迷いました。これはもう消極的というより、優柔不断とか、ケチの部類に入るかもしれません。それはそれとして楽器は好きなので色々持ってます。二万円するよくわかんない植物とかも持ってます。つまり機材の購入はかなり優先順位が低いということです。

ですが、この度研究活動をしているだけで国から毎月金(研究専念金という)をもらえるようになりまして、そうすると私の日々の生活が少しだけ楽になるんで、余剰資金で機材でも買っちゃおうかなと思うわけです。研究に専念するためにも音楽は不可欠ですよね!? だって「音楽」には、人を救う「力」があるんですよね!???!?!??!じゃあ活用しねえとなあ!

 

ソフト音源

厳密には機材だはないですが、常々良いエレピの音が欲しいと思っていました。フェンダーローズが大好きなんです。

Electra 88 Vintage Keyboard Studio

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軽く調べた感じだとこれが一番理想に近いです。ドライな音は比較的簡単に出せるので、こういうウェットな音が欲しいですねー。

お値段 ¥40,000くらい

 

サンプラー

サンプリング命みたいな曲をたまに作るのと、ソフト上でサンプラーを操作するのが地味に面倒なので、サンプラーは地味~にずっとほしいです。特にマイクがついてるやつ。
凝ったことをしようと思うとDAW上で操作したほうがたぶんできるので、多機能であることよりは、操作性のほうを重視したいかも。

 

SP-404SX

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サンプラーと言えばこれみたいなところはありますよね。まあ実際これでいいとは思います。
後続機のmkIIはマイクがないからいらね~!と思っているのですが、そっちのほうがマイク以外が明らかに上位互換なのでmkIIでもいいかもしれません。

お値段 ¥70,000くらい

中古市場だと半値くらいで取引されているのでそれでもいいかも。

 

PO-33 KO

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あるいはこれか。これは純粋に安くて小さいのが良いです。
ただ安い分見た目も容量も小さい(40秒)のがネックかも。どれくらい容量あればいいのかあんまり見当ついていませんが。

お値段 ¥20,000くらい

 

モジュラー音源

SC-88 pro

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言わずと知れた名機で、Rei Harakamiが使っていたことでも有名ですね。
Hi-Fiな音に慣れた皆様におかれましてはカスみたいなカラオケ音源にしか聞こえないと思いますし、実際そうです。
ソフト音源化したものはすでに持っていますが、やっぱり実機として一台持っておきたい気持ちがあり、かつそこまで高くないのでこの際買ってみたいです。

お値段 ¥30,000くらい (中古)

 

SK-88 pro

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SC-88proの派生商品というか、SC-88-proに鍵盤が引っ付いてます。それだけ。
Rei Harakamiが使っていたことでも有名ですね。
私はもうかれこれ10年以上Rei Harakamiを聴いてるんですが、好きすぎて、彼の持ってたモジュール音源を意味もなく全部揃えたいかもしれません。普通にMIDIキーボードで間に合う気がするので多分買いません。
お値段 ¥40,000くらい (中古)

 

セミモジュラーシンセ

世間的にはマシンはオワコンで、ソフト音源をMIDIコンを通していじるのが主流になっていますが、いつかモジュラーシンセに手を出したい気持ちが数ミリあります。クソ高いのと、音作りに熱中するあまり音楽の本質から離れてしまいそうなのと、クソ高いのとで手が出ませんが。セミモジュラーくらいなら、まあ買ってもいいかなと思います。

Mother-32

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MOOGは見た目が好きで、あとmini MOOGが好きで、というかBuffaro DaughterのAutobacsでmini MOOG弾いてる大野由美子が大好きなだけなんですけど、一台なんかあると嬉しいかもしれません。

 

Subharmonicon

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こっちのほうが音が好みではあるんですが、まあまあ癖が強そうです。初手ではないかもしれませんが、初手で買わないと一生買わないタイプの商品かも。

お値段 共に¥100,000くらい

 

Make Noise 0-Coast

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キモくて予想外の音を安易に得るのが目的なので、一番見合ってるのはこいつかもしれません。名前がMake Noiseだし。

お値段 ¥90,000くらい

 

その他 楽器(?)

Monotron Delay

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とにかく安く、キモくて予想外の音を安易に得るのが簡単そうなので、発表された当時からずっと買おうか迷っています。全然手が出る値段なので買ってもいいなー。

お値段 ¥4,000くらい

 

TENORI-ON

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そもそも、大コケして全然売れず中古市場にすらあまり出回ってない商品ですが、発表された当時からずっとほしいと思っています。中学生の時にはiOS上で動作するTenori-iを購入したほどです。でもやっぱり見た目がいい(音の拡張性はカス)ので、金があまりに余っていたら実機を買ってみたい気もします。

お値段 売ってない

 

Etherwave Theremin

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テルミンを演奏してる見た目が面白すぎるので、持ってたらなんとなくうれしいです。

お値段 ¥150,000くらい

 

ふつうにMIDIコントローラーを買ったほうがいいのではないか?

ここまで書いて思ったのですが、普通に作業効率化させたいのであれば、サンプラーとかセミモジュラーシンセ買わずに、MIDIコントローラー買えばいいんじゃないでしょうか? 絶対そのほうが早いし楽だし安いです。

MIDIキーボードはあるので、ドラムパッドがあると便利かも。

 

Launcpad X

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見た目がゲーミングすぎてキモいことと、スタンドアローンでないことに目をつむれば、TENORI-ONの(ほぼ)完全なる上位互換です。

ボタンが64個と多すぎておもろいので例に出しましたが、16個とかで足りるならそれでもいいですね。

ただ書いてるうちに普通にマウスでDAWを触っててもいいような気がどんどんしてきたので別に要らないかも。

 

 

いかがでしたか?(俺が)

書いてて、何が必要で、何があったほうが良くて、何がいらないのか、何が欲しくて、何が欲しくないのかわからなくなってきました。誰か助けてください。