どうも、なんすいです。
最近法事に行ったんですけども…
普通の法事ってお坊さんのお経を黙って聴いてるだけだと思うんですが、うちの法事はそうではなくて、お坊さんと一緒に私達もお経を読み上げるというスタイルなんですね。
こういう勤行集を配ってくれるので、読みながら見よう見まねでお経を唱えます。黙って何10分と聴いてるだけの法事よりも楽しくて良いですよね。
折角の機会なので私も結構真面目にお坊さんの唱え方を真似ていたんですが、ここでお経特有の声の出し方というのがあるのに気付きました。
お坊さんのお経は、低音の響いてる地声のさらにその上で倍音がミヨーンヨーンと大きく鳴って、良いクラリネットの低音を直に聴いた時のような重厚な声でした。
ホーミー(倍音声明)とも近しい趣があります。
法事が終わったあと、どうやってあの声を出すのか色々試した結果、重心を下に置き、口腔内を広く取り、めちゃ鼻にかけるとそれっぽくなることが分かりました。
鼻に掛けたまま上顎やその上、頭に至る骨を振動させるイメージです。
そしてその声を維持しようとした結果、副次的に子音の発音にも一定の特徴が現れることに気付きました。
例えば、全体的に鼻に掛けている発声ゆえ、[k]や[g]の発音なんかはほとんど鼻音[ŋ]になります。
それから、口腔内を広く保っているので[i]もほぼ[e]になります。
つまり、「かい」と書いてあるのをお経として読めば、「ンな"ーえ」と言ってるように聴こえる感じです。
このように、お経はフリガナ付いた漢字の羅列を読んでいるはずが、その歌い方のために言葉の発音が本来とは異なるものになる場合がある、ということです。
さて、今度は歌の話です。
お経も一種の歌と言えると思いますが、一般の歌についても、歌のクオリティのために特有の発音をする場合があります。
「ん」の発音で歌声が途切れないように「う」で歌う、とかは聞いたことある人多いかもしれません。
他の例として、日本語の「ラ行」の子音は、[r]に近かったり[l]に近かったりします。
「オーロラ」の「ロラ」は[r]、「お寺」の「ら」は[l]に近かったりとか。(声に出して発音してみて下さい、発音時に舌が当たる場所が変わると思います)
ここで、最近の早口の歌なんかを歌う際、舌の動きが最低限であるほうが流暢に歌詞を歌えるので、全体的に 舌の位置を前に保って歌うことになります。
そうすると必然的に、ラ行を[l]で発音することが多くなります。
後は[h][s][k]などの子音を強調したり引き伸ばして発音したりして存在感を立たせる場合や、「わ」[β̞a]を「ふぁ」[fa]とか「ゔぁ」[va]と歯で遮る子音を使って強調する場合などがあります。
この辺は歌手にもよります。
もっと歌の発音をダイナミックに変えることで個性を出している人もいたりします。
倉橋ヨエコ(現:ヨエコ)の「盗られ系」という歌。
(0:27くらいから)「しけたドアの音」という歌詞の「しけた」を「しゅっきゅったー」と口を狭めて歌っています。
(2:05くらいから)「安い靴の音」の明快な「やすい」の発音と比べてみてほしいです。
倉橋ヨエコはこのように、歌の中で発音を籠らせて暗くしたり、逆にハキハキ発音してあからさまに明るくしたりして歌っており、これにより不安定で強烈な女性的精神性を醸しています。
同じく倉橋ヨエコの「損と嘘」という曲。
冒頭から続くサビ、何度も歌われる「損と嘘」という歌詞も「さんっとふっさー!」に聴こえます。
普通に発音される「損と嘘」という言葉は、全体的に口をすぼめて少し影のある雰囲気を持っていますが、それを逆に大きく開いた発音にすることで、カチキレそうな明るさを感じさせます。
そして、歌い方独特といえば、崎山蒼志。
「柔らかな心地」という歌。
伸ばす母音を全体的に震わせて特有の情感を出しているのはすぐに分かります。
さらに子音にも注目して、(1:10くらいから)サビの「大切なものはまた輝くだろう」という歌詞を歌うのを聴いてみましょう。
「たいせつなものふぁ、またかがやくだろふぉ」と聴こえますね。「わ」[β̞a]が「ふぁ」[fa]になっています。
「お(う)」[o]については、まず「うぉ」[ʋo]と口をすぼめた発音に変化した上で、さらに「ふぉ」[fo]に強められたと考えられます。
続編
以上、お経やら歌の発音を見てきましたが、ここから得られるものは何でしょうか。
そう、歌では正式な言語の発音を歪めても許容される懐がある、すなわち表現の可能性があるという確信ですね。
勇気もらえます!
というわけで次回は、恣意的に歌の発音を様々に歪ませていろいろ歌ってみる実験回になります。お楽しみに。
おまけで、お経の発声について調べる途中で見つけた、お坊さんシンガーを紹介します。
「仏教と歌で癒したい里見呂明 ナムナムドンドン仏教チャンネル」
人気の高い「虹/菅田将暉」を聴いてみましょう。
お坊さんだからやっぱりお経っぽい歌い方になるのかなと思いきや、甘いボイスでめっちゃ上手い歌を歌う感じでした。