▽この記事をもとにした動画▽
今日は変拍子の話をしましょう。
「あーハイハイ、5/4拍子とかね?」
と思ったそこのあなた、僕も少し前まではその程度の認識でした。
しかし、世の中にはもっとはるかにヤバい拍子の曲が存在します。
この記事では、混沌とした変拍子の世界へ足を踏み入れてみることにします。
注※ 本記事での拍子の解釈は筆者(冨田)の私見です!異論はコメントまで。
1. 拍変化型
まずは、もっとも一般的な変拍子からいってみましょう。
いやまあ変拍子じたい一般的ではないんですが……。
〈Take Five(5/4拍子)〉
Dave Brubeck Qualtet の有名な曲です。
ジャズのスタンダードナンバーで、変拍子ジャズと言えばコレですよね。
Swingしながら3拍+2拍のリズムで繰り返される5拍子が心地いいです。
〈All You Need Is Love(7/4拍子)〉
この曲はAメロが部分的に4拍+3拍の7拍子で書かれています。
サビでは普通の4拍子になってしまいますが、その分Aメロの変拍子が際立っています。
〈キッズ・ノーリターン(11/4拍子)〉
日本のポップスでももちろん変拍子はあります。
「相対性理論」のこの曲は、前半部分がずっと6拍+5拍の11拍子です。
疾走感ある変拍子でかなりカッコイイです。
2. サブメーター変化型
さて、ここまで紹介してきた変拍子は、拍の数がおかしなことになっているタイプの変拍子でした。
つまり図にするとこういうことです。
本来は4になっているはずのところが5になっており、変な拍子。
しかし、世の中にはこうじゃないタイプの変拍子もあるのです。
上の図、16分音符までリズムを細分化するとこう書けます。
16分音符×4(=4分音符×1)で1拍なので、当然このようになるわけです。
しかし、もし1拍の長さが16分音符×4じゃなかったらどうでしょう……?
例えば16分音符×5で1拍だった場合、こうなります。
これは、上も下も拍は4拍子で同じです。
しかし、下は1拍の長さが16分音符×5となっており、変拍子になっています。
このように、拍数は普通だけど1拍の長さがおかしいタイプの変拍子を「サブメーター変化型」と呼ぶことにします。*1
〈Jequitibá(20/16拍子)〉
ブラジル生まれの Antonio Loureiro のこの曲、伴奏が全体的に1拍=16分音符×5の4拍子で刻まれています。
結果的に、5×4=20ということで20/16拍子になっているわけです。
ドチャクソかっこいいですね。
〈RUN(7/8拍子)〉
石若駿によるこの曲は、冒頭部分が7/8拍子で書かれています。
これをよく聞いてみると、2+2+3というリズムになっていることが分かるでしょう。
つまり、最初の2拍は1拍=8分音符×2、最後の1拍は1拍=8分音符×3となっていて、全体としては3拍子のリズムを持っていることになるのです。
〈冷たい情熱(13/8拍子)〉
中塚武はカッチョいいジャズ歌謡を書く人ですが、この曲はかなり不思議な拍子です。
分析してみると、2+2+2+2+2+3というリズムになっており、全体としては6拍子系のリズムになっています。
最後の拍だけリズムが少し伸びているんですね。
〈静かな雨の夜に(4.5/4拍子)〉
この曲は、合唱曲で有名な松下耕の作品です。
全体的には4/4拍子ですが、冒頭の
「いつまでも こうして座っていたい」
の部分だけ4.5/4拍子が使われています。
これは実際の楽譜にそう書いてあります。
たいへん珍しい小数拍子の例ですね。
リズムは1+1+1+1.5というようになっており、4拍子のリズムでありながら最後の拍だけ長さが伸びたのだと分かります。
3. さらなるヤバい拍子
さて、世の中にはもっとヤバい拍子の曲も存在します。
まずはその筆頭格である Tigran Hamasyan の曲を紹介しましょう。
〈Levitation 21(21/16拍子)〉
アルメニア出身のピアニストである彼は、変態的な拍子の曲を量産する歪んだ性癖の持ち主です(誉め言葉)。
この曲は全体を通して21/16拍子になっているのですが、その拍の分け方が曲の場所や楽器によって全然違っているのです。
例えば、冒頭部分ではピアノがゆったりとした7拍子(1拍=16分音符×6)のリズムでメロディを弾いていますが、9小節目から入ってくるドラムは4+4+4+4+5という全く別のリズムを刻んでいます。
さらに、03:44あたりからのリズムは最悪で、ピアノは4+4+4+4+5、ベースギターは6+5+5+5、ドラムのハイハットは7+7+7+7+7+7、キックとスネアは6+6+6+6+6+6+6というリズムを刻んでいます。
こんなに凶悪なポリリズムは見たことがありません。
まさか全パートに全く違うリズムをやらせるとは……。
この曲のリズムについては、この動画が参考になります。
→https://www.youtube.com/watch?v=Z47PKin6rbM&ab_channel=HanZhao
〈不通〉
空間現代が手掛けたこの曲は、カッコいいラップの乗った曲になっています。
しかし、リズムが意味分からな過ぎて僕には分析不能でした。
冒頭部分は13/16拍子を中心に進んでいくのですが、途中からは意味不明です……。
でもめちゃくちゃかっこいい。
〈NO one To kNOW one〉
Andy Akiho が作曲したこの曲、ポップスと現代音楽の中間みたいで曲自体もバキバキにかっこいいですが、今回問題なのは拍子です。
頻繁に拍子が変わるうえ、1つ1つの拍子が難解なのでリズムをとるのは相当難しいです。
でも、ちゃんと拍感のあるリズムなので乗れてしまうのがニクいですね。
〈バトンタッチのうた〉
詩の韻律を生かすため、拍子の方を詩に合わせるのです。
その結果、この曲は冒頭部分でかなり壮絶な拍子になっています。
さらに、01:14あたりからはメロディパートとそれ以外のパートで違う拍子になり、拍頭がずれるばかりか、小数拍子も当然のように出てきて完全なカオスになります。
さいごに
蛇足ですが、最後に僕の曲を紹介させてください。
先日リリースされた名作同のアルバム「YOURS HOURS」に収録された僕の曲ですが、じつは結構ヤバい変拍子を実用しています。
〈Diversity of 16 Tragedies(16/16拍子)〉
この曲は、16/16拍子(≒4/4拍子)というごく普通の拍子なのですが、拍の長さを5+6+5と割ることで、16/16拍子を3拍子系のリズムとして扱っています。
伴奏のピアノを聞くとリズムが分かりやすいですね。
途中からはポリリズムも加わり、さらに複雑なことに……。
〈23 Year-Old Hassliebe(23/16拍子)〉
この曲は、全体を通して23/16拍子という複雑怪奇な拍子です。
Aメロのリズムは4+5+4+3+3+4、Bメロのリズムは5+3+3+5+3+4と5+3+4+5+3+3の繰り返しで構成され、同じ23拍子でも飽きがこないようにしてあります。
…………と、なんかもう数字を見すぎて目がチカチカしてきました。
結局、変拍子の魅力はなんといっても聞いてカッコいいということですよね。
みんなもカッコいい(そして変態な)変拍子の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょう。
*1:「サブメーター」という言葉は、変拍子お兄さん様の考案です。詳しくはこちらを参照。拍子デザインの世界へ!リズムの音楽理論①|変態音楽理論アカデミー YutopiaParty|note