今回は、実際にスペクトル学派の技法を使ってどのように作曲するのか、自作曲の解説を通してお教えします。
【もくじ】
「変調」で素材を増やす
というわけで、スペクトルの技法で作った楽曲がこちら。
この曲に用いた素材は、前回お話しした通り、北山トライアングルの音をスペクトル解析して得られた音列です。
しかし、ある程度長い曲を作るためには、上のような音列1コだけというのはかなりショボい素材です。
「雪虫の幻想」は4分の小曲ですが、それでも4分間ずっとこの音列を聞かされ続けていたら流石に飽きてしまいますね。
というわけで、素材を増やそうと思います。
そのために使うのが「変調」です。
変調とは
変調という言葉は、もともと通信用語でした。
電気通信で音声を送受信するために、音声の振幅や周波数などを変化させ、音を加工することを言います。
分かりやすく例えると、ひらがなの手紙を暗号にして書き換えるようなものです。
こう言うと難しそうに感じるかも知れませんが、DTMをやっている人にとって変調はむしろ身近です。
なぜなら、リバーブやEQのようなエフェクターは、入力された信号を何らかの形で変調して出力しているからです。
つまり、ごく簡単にいってしまえば、もとの素材を好きなエフェクターにかければ、新たな素材が得られるというわけですね。
こういうわけで「雪虫の幻想」では、元の素材であるトライアングルの音の他に、それを加工した音声を7種類用意し、それぞれをスペクトル解析し直して得られた音列も使っています。
こうすることで、1つの音から8つの異なった音列素材が得られるわけです。
雪虫の幻想」では、それらの素材を徐々に変調の度合いが強くなっていくように配置して使っています。
スペクトルの弱点、それは――
8つの素材があれば、曲を作るうえで困ることはないでしょう。
しかし、作曲の上でとても重要な点についてまだ全然決めていませんね。
そう、リズムです。
使う音は決まったものの、曲のテンポやメロディ、拍子などが決まっていません。
ところが…………
そう、スペクトル学派の考え方だけでは、リズムを決定することができないのです。
そのことをいち早く指摘したのは、線の音楽で一時代を築いた作曲家・近藤譲でした。
スペクトル学派の考え方は、縦方向(音の高さ)に対してはとても論理的に考えることができます。
素材となる音を科学的に解析するわけですから、当然ですね。
ところが、横方向(音のリズム)に対しては一切の論理性を持っていません。
これを解決するため、スペクトル学派はグングン進化していくわけですが…………
今回は深入りしないことにしましょう。
とにかく、リズムの素材は自分で作るしかなさそうです。
存分に創意工夫してみましょう。
実例として、「雪虫の幻想」の話をします。
まず、音列のオクターヴ上下移動は許すことにして、マリンバのパートに次のようなメロディ・モチーフを設定しました。
茫洋とした曲調にしたかったため、テンポや拍子ははっきりしないように滲ませました。
次の曲に向けて
というわけで、スペクトルによる作曲の要点は以下の通りです。
- 素材となる音を決める
- 必要に応じて、好きなエフェクターを用いて素材を増やす
- それらをスペクトル解析し、音列を得る
- リズムは独自に考えねばならないことに気を付け、作曲する
…………しかし、今回紹介した方法とは少々違う観点のスペクトル技法もあります。
それで作ってみたのがこちら。
次回に続く!