名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

『YOURS HOURS』なんすい作の曲の解説

名作同3rdDTMアルバム『YOURS HOURS』が配信されました。嬉しいです。

そういう系の各種サービスで聴くことが出来ます。皆さんぜひ聴いて下さい。

 

今回は曲数が結構多くて、24曲収録されています。

私も、このうち4曲を担当させて頂きました。

今回の記事ではその4曲についての解説を書こうと思います。

 

 

 

7. イマージナル雨宿り

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みんな曲名をかっこいい英語にしていたので、私は逆張りで変な日本語タイトルを付けようと思い、『イマージナル雨宿り』と付けました。ちょっと芸名みたいですね。

なお、後の3曲は全部英語タイトルを付けました。基本的に屈するのが早いので。

 

この曲は、現代社会においてやたらに礼賛されている「多様性」という概念は、果たして本当に良いものなのか?というコンセプトで作りました。

 

また、コンセプトを支える上で《虹》を1つの重要なキーワードとして使いました。曲中の色々な所に《虹》に関連した要素を散りばめてあります。

特に曲の一番最後には、Terry Rileyの代表作『A Rainbow in Curved Air』冒頭を露骨に引用してみました。

 

《虹》はさまざまな概念のシンボルになり得ます。これを利用して、それぞれが《虹》を象徴として持つもの同士のある「対立構造」を引き起こすことが出来ます。

その前者は、LGBTQのレインボーフラッグなどにに代表される『多様性』の象徴として。

そして後者は、『神世と俗世の架け橋/境界』として。

 

古代、《虹》はあの世とこの世、神世と俗世の交わる境界とされました。それは古代社会を支える「排除の文化装置」…第三者を排除することにより共同体自体を維持するという営みと深く関わる場所です。

すなわち、これにより現代社会のトレンド「多様性」と古代社会の「排除の文化装置」という対立構造が生まれました。

 

多様性を認めていくという思想や社会の動きには、あらゆる境界を取り去り全てを等質に扱う『均質化』が伴わざるを得ません。

現代の社会は、あらゆる文化がアイデンティティを喪失していく中で束の間の理想郷を見ている、そういうその場しのぎな状態にあると思います。

 

今この状態を『Imaginal-雨宿り』と呼んでみたとして、いつか雨がやみ、空に虹が掛かった時、果たしてその虹は多様性のシンボルとなるのか、あるいはMarginalな営みをはらんだ古代への回帰となるのでしょうか。

 

 

 

余談として、この曲で「名作同で淫夢音MADを出す」という予てからの願望をついに叶えることが出来ました。感激です。

 

 

 

10. Erin's Quails

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この曲は、『イマージナル雨宿り』で提示した対立構造を引き継いで、「排除の文化装置」を捨てて「商品化」してしまった現代の文化、というコンセプトで作られています。

 

差別的な風習は廃止して、性別人種問わずみんなが不快にならないようにして…

そうして、文化を維持するための障壁を全部取っ払った後に残ったものって、もはや文化とは呼べない、均質化された社会で消費される娯楽商品でしかないんじゃないでしょうか。

 

この曲は、全体的にアイルランド音楽のリールを意識して作られていますが、通常の超空間に対して「反転」された和声が使われています。

これによって、現代の文化的商品に対する違和感を象徴的に表現しています。

 

また「1」「0」の2進法を利用したアルゴリズムによって曲の構造を決定したり、8bitの音源を使ったりして、《デジタル》性を持たせました。

これは舞台が現代であることを明示するためでもありつつ、さらに24曲目の伏線的な要素としての「現代日本」のモチーフという意味もあります。

 

 

 

19. Floating Cafeteria

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この曲は、私が19歳の時に作ったDTM曲のセルフオマージュです。

19平均律の中に独自の方法で調構造を定めて作曲しました。

 

先の2曲における「現代⇔古代」の対立構造から、それよりもっともっと短い歴史の、もっともっと個人的な、「今の私⇔19歳の私」とそこから見える/見えていた世界が曲の舞台になっています。

 

コロナ禍は私たちの社会を大きく変化させましたが、それで無くてもきっと、普段日々を過ごしているぶんには変り映えしないように見えても、本当は世界はどんどん形を変えていっているんだと思います。

 

気が向いてふと昔を振り返ると、かつての日常が非日常に、非日常が日常になっていることに気付いて、時の流れを痛々しく実感することになります。

そうして、昔と今がにじみ合い、かつての日常がふわふわと浮かんで漂ってくるみたいな、言葉に出来ない浮遊感に襲われます。

たぶん、今の日常も同じようにどんどん形を変えていくんだと気付いて、足を付ける現実の地面が無くなった浮遊感でもあると思います。

 

そういう浮遊感をそのまま音楽にしてみました。

 

あと、たくさんがなんとこの曲のMVを作って下さいました。

 

youtu.be

 

めっちゃお洒落で解釈一致な映像なのでこちらも是非ご視聴下さい。たくさんありがとう。

 

 

 

24.Pray for 24th Artists

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アルバム自体の最後の曲でもあります。

 

今年の夏、とある超大規模体動かし国際大会が東京などで行われたんですが、それに関わるセレモニーを巡って色々な事案が起こりました。

この曲は、そのあたりの出来事を受けてのものになっています。

 

先で見たように、現代の「多様性」礼賛の動きは世界の「均質化」を招き、世界中の文化の「商品化」を招いています。

そして、こうした流れの中で苦しい立場に置かれてしまうのは、表現者・芸術家たちも例外ではありません。

 

表現がどんどん規制されていき、重みを失った文化商品が社会に浸透した現代に、私たちアーティストはどうあるべきなんでしょうか。

芸術は現代社会の中でどのようにあり続けられるのでしょうか。

 

先の3曲から引き継いだキーワードたち、そして「現代の日本」「古代の日本」のモチーフを曲の中に散りばめ、4曲を通した大きな命題に懊悩しながら現代を漂泊する自分自身を表現しています。

そして、曲のベースとしてずっと登場しているカノンは、否応なく移り変わっていく日常の表現であるとともに、今を生きる全てのアーティストのための《祈り》のテーマでもあります。

 

後半からは、レクイエム、そして《祈り》のモチーフとして、吉松隆の『地球にて』を引用しています。

そうして無窮の祈りとして先の命題は集約され、最後は全部現代社会の波に飲まれて曲が終わります。

 

 

 

解説は以上です

解説は以上です。

 

『YOURS HOURS』は、「ミニマル&Lo-Fi」がテーマになっています。

 

ミニマル・ミュージック、起源を辿れば決して「最小限の音楽」の意味では無いのですが、それでもやはり、有名な作品においてしばしば見られ、影響を受けた音楽ジャンルの多くに受け継がれた技法として「小さな断片の反復」は重要な特徴だと思います。

実はこれは一方で、古代の民族音楽や儀式の音楽などにも見られるもので、すなわち「小さな断片の反復」を通して現代と古代が結び付く、ということがミニマル・ミュージック自体において言えると思います。

 

さらに今度は、Steve Reichの初期のミニマル・ミュージック「自然的・必然的にゆっくりと進展する音楽」という側面を見てみれば、ミニマル・ミュージック現実世界が移り変わっていくさま、時間の流れを音楽で表す最良の方法の1つとも言えるでしょう。

 

こうした特徴を持つミニマル・ミュージックを下地として、「現代⇔古代」の対立や移り変わっていく日常をコンセプトとして盛り込めたのは、結構面白いことかもしれません。と思いました。

 

 

今回の記事ではなんすいの曲を解説しましたが、他の方の作品もどれもめちゃくちゃ良い曲ばっかりです。

私はKosukeさんの『9 guitar loop song』、機洋さんの『追海』、榊山先生の『Hetero』、トイドラさんの『17th Night of the Horizon』とかが特に好きです。

 

同じような曲ばかりになりそうなテーマで、みんなそれぞれ個性が出ていて色んな曲が集まっているのが本当にすごいです。是非、色々聴いてみて下さい。