小学校で音楽の基本、つまりは楽譜の基本を習ったときに皆さんは気になりませんでしたか?
え?何がって?
音楽のギネス記録ですよ!!
f(フォルテ)が2つになるとff(フォルテシモ)になり、さらに3つになればfff(フォルテシシモ)になります。さすがにそれより先はないものだと思っていましたか?
p(ピアノ)だってそうです、ppp(ピアニッシシモ)より先はないんでしょうか?
なんか百、千、万、億、兆、京、垓、𥝱・・・と数の単位を覚えたのに似ていますね。
fやpだけが記録とは限りません。
音符も気になりませんか?
全音符より長い音符って無いんでしょうか?
六十四分音符より短い音符って無いんでしょうか?
付点て1つしかつかないんですか?
そんな素朴な疑問に答えてくれるサイトがあるんです。
今日はこのサイトに紹介されている中からいくつかを、実際の譜例とともに音源を紹介してみようと思います。たまには音楽の内容ではなく、こんな記録を追って聴いてみるのも面白いんじゃないでしょうか。それに雑学として結構色んな場面で使えますよ。
でははじめにfやpの数についてみてみましょうか。
上記のサイトの「Dynamics」の項に触れられている例を紹介します。
まずはp(ピアノ)の方。
世界記録は「pppppppp」のp8個だそうです。
使ったのは現代ハンガリーを代表する大作曲家、ジェルジ・リゲティです。
彼の「ピアノのための練習曲 第一巻の第4番」と「同 第二巻の第9番」に使用例があるそうです。
今日は前者の方を見てみます。
同郷の偉人バルトークを強く意識した曲集ですが、この楽章はその色合いが特に強くにじみ出ているように思います。
そしてこれが「pppppppp」登場の瞬間です!
うーん、どうやって弾くんでしょうか。音出せるんでしょうか?
それでは聴いてみましょう。
強弱記号は実際にはとても相対的なものなので、絶対的な強弱を必ずしも表していませんが、演奏は気を使いそうですね。
それでは続いてfの記録を見てみましょう。
といってもこれも同じ作曲家の同じ曲集「第二巻の第13番、第14番」にある「ffffffff」なんですよね。
この曲集は強弱記号のコレクションブックかなにかなのでしょうかね。
せっかくなので今回は後者をみてみます。
これが「ffffffff」登場の瞬間です。
早速聴いてみましょう。
やはり思ったほどの衝撃はありません。しかしイメージ的に突き指しそうですよね。
楽譜の表記に比して、相対的な符号である強弱記号はあまりインパクトがありませんでしたが、音符の長さはどうでしょうか。
これもテンポというもう一つの緩急の要素があるので、実際に早いかどうかは相対的なものであろうと想像できますが、それでもなかなかインパクトはあります。
上記サイト「Rhythm and Single-Note Duration」のShortest notated durationにあるのが短い音符の記録です。
最も短い音符を使ったのはアンソニー・フィリップ・ハインリッヒというボヘミア生まれの作曲家です。1700年代の人なので結構古い時代からこんな例が有ったのかと思うと面白いですね。
そしてその音符とは「二千四十八分音符」です!
Toccata Grande Cromatica from The Sylviad, Set 2という曲に使用例があり、その旗の数は9本に及びます。
最後のあたりに出てきますね。もうなんだかよくわかりません。
聴いてみたいのは山々なのですが、音源が見つかりません。
ほらそこのピアニスト!こういう曲をレパートリーにするのも面白いかもしれませんよ!!
ちなみに長い方は何小節にも渡ってタイを書けばどんどんながくなるということで、ヴェルディのオペラ「オセロ」の例などが載っていますが、これはちょっと求めていたものと違う気がします。
そこで代わりに豆知識として全音符より長い音符についての名前をご紹介しましょう。
これは別名「ブレーヴェ」「ブレヴィス」とも呼び、ネウマ時代の名残で、下のような別の表記もあります。
え?これで終わりかって?とんでもない!
四倍全音符(ロンガ)もあるんですよ。
ついでに八倍全音符(マキシマ)なんてのも。
区別がつかなくなってきますよね。
気を取り直して今度は付点についてみてみましょう。
付点とは音符につけられる「点」のような記号で、つけられた音符の半分の長さを足すというものです。
なので四分音符につけると「1+0.5=1.5」の長さになって付点四分音符と呼ばれます。
実は付点とは1つしかつけられないわけではなく、もう一つつければ元の音符の1/4を更に足す意味になります。
そして実際の音楽の例では、四つまでつけられた例があるようです。
さらにその例は非常に沢山あるようです。
有名なものはハンガリーの大作曲家フランツ・リストの「ピアノ協奏曲」の第2楽章ですが、今日はちょっとマニアックな例を紹介しましょう。
現代フィンランドの巨匠、エイノユハニ・ラウタヴァーラの「イコンズ」という作品の例です。
これがその例。複々々付点二分音符とでも呼ぶのでしょうか。
多分タイを書いて楽譜が読みにくくなるのを避けるために点を打ちまくったのではないでしょうかね。
早速聴いてみましょう。
最後に拍子の例を見てみましょう。
最も分母が短い音符の拍子についてです。
用いたのはアメリカの現代の巨匠、ジョージ・クラムです。
彼の代表作である電気増幅された弦楽四重奏のための「ブラック・エンジェルズ」の第5セクション「死の踊り」に7/128拍子が登場します。
このシーンはテンポの指定自体が「三十二分音符=240」なのでここまで細かい拍子の表記が登場することになりました。
非常に不気味で悪魔が踊っているような表現に出会える場面でもあります。
全曲の楽譜付き動画がありますのでご紹介します。
せっかくなので楽譜を追いながら、神と悪魔の対決を描いた名作を味わってみてください。
では長い方の分母はというと、実は先程のサイトではテレマンの24/1拍子の曲が紹介されているのですが、私が個人的に知っている別の例があるので紹介したいと思います。
ドイツの巨匠、カール・オルフの代表作「カルミナ・ブラーナ」の第一幕第5曲「Ecce gratum」に登場する4/0.5拍子がそれです。
この曲の拍子の表記は分母に音符そのもの、そしてその個数を分子にして五線の上部に書かれます。
このシーンでは「倍全音符が4つ」と指示されていることから、4/0.5ということになり、分母の大きい拍子としては記録になるのではないでしょうか。
ただし版によっては倍全音符を無視して4/1と表記することもあるようです。
最後の最後におまけを一つ紹介します。
拍子の分母について、音符の種類を書くことから1,2,4,8,16,32,64,128しか使ってはいけないと思っていませんか?
ではこの拍子はどういうことでしょう?
これはイギリスが生んだ鬼才、ブライアン・ファーニホウの「想像の牢獄第1番」の一部です。
なんと2/12、3/10などという拍子が並びます。
これは拍子というものの定義を改めて私達に教えてくれるものと言っても良いかもしれません。
拍子の分母とはそもそも一小節を「等分するもの」を表しており、例えば2/12なら一小節を12等分するもの、つまり8分音符の三連符を表しています。
この「8分音符の三連符1つ分の音符」が2つからなる拍子なので2/12としているわけです。
ではもう一つの3/10はどうでしょうか。
一小節を10等分するわけですから、8分音符の五連符になります。
結果として「8分音符の五連符1つ分の音符」が3つからなる拍子ということですね。
ファーニホウはこのような拍子の表記を多用した人でもあります。
わかりにくいので同じ意味の拍子を別の書き方をした人もいるのですが、これ以上踏み込むと長くなるので今日はこのあたりにしましょうか。
え?音源聴いてみたいって?
わかりました。
こちらです。