名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

月の光ものがたり

f:id:nu-composers:20190913143951j:plain

日本には月を楽しむ風情ある文化があります。
中秋の名月
十六夜
「朧月」
月にまつわる言葉もたくさんあって、どれもとても雰囲気がありますね。

そういえば今日は今年の中秋の名月に当たるそうですね。

 

月を見あげて様々に思いを巡らせるのは日本人の特権
…と言いたいところですが、実は世界的に月は様々な思いで見上げられているのです。

 

では芸術作品、特に音楽においても月をテーマにした曲があるのではないか?

もちろん沢山あります。

 

え?知ってる?
では、そこの君、言ってご覧なさい。

 

「ベートヴェンの月光ソナタ

盛大なる拍手を…と言いたいところですが、残念それは間違いです。

f:id:nu-composers:20190913144204j:plain

Ludwig van Beethoven

「月光ソナタとして知られるベートヴェンの「ピアノ・ソナタ第14番」に本人が付けた副題は「幻想曲風ソナタで、「月光」の愛称は、この曲の演奏解釈の表現として音楽評論家が言った言葉が元で広がったものなんですね。

 

ともあれせっかく出たので聴いてみましょうか。

 

www.youtube.com

Sonata No.14/Ludwig van Beethoven

 

他にはありませんか?

お、そこの赤いシャツの女の子、言ってみましょう。

ドビュッシーの月の光」

おおおお素晴らしい!そのとおりですね。

f:id:nu-composers:20190913144452j:plain

Claude Debussy


月をテーマにした不朽の大名作の一つ、ドビュッシー「月の光」「ベルガマスク組曲の第3曲にあたるピアノ曲で、ドビュッシーらしい美しいハーモニーと物憂げなテーマがまさに月を思い起こさせますね。

www.youtube.com

Suite Bergamasque - 3.Clair de Lune/Claude Debussy

 

ではここで一旦「月の光」というタイトルに限定してみましょう。

 

同じフランスの作曲家フォーレの書いた「2つの歌」の2曲目が「月の光」というタイトルです。

f:id:nu-composers:20190913144623j:plain

Gabriel Fauré



この歌曲はヴェルレーヌの詩につけられた非常に美しい歌曲になっていますが、あまり聴いたことのある人は多くないのかもしれません。

www.youtube.com

2 Songs - 2.Clair de Lune/Gabriel Fauré

 

もしかすると勘の良い人は気がついたかもしれません。
そう、ドビュッシーの曲も同じヴェルレーヌの詩に影響を受けて書かれたものなんですね。

 

次にあまり有名ではない例を一つあげましょう。
ドゥコーという作曲家が書いた4曲からなる「月の光」という曲集です。

f:id:nu-composers:20190913144735j:plain

Abel Decaux



聴いてみるとわかりますが、非常に難解で現代的な響きがします。
しかしこの曲が書かれたのは1900-1907年であり、当時としては非常にモダンな内容であったことがわかります。

 

www.youtube.com

Clairs de Lune/Abel Decaux

 

このようににフランスには「月の光」と題された曲が沢山あります。
しかしその大半が忘れ去られ、全く見向きもされない状態になっていることはとてももったいない気もします。
名作同でもこういった「失われた作品」「忘れられた作品」の音源化プロジェクトが出来たらいいなと思ったりします。

 

ではそんなほぼ失われた例の一つを、フランス以外の国からご紹介します。

 

ロシアの作曲家、ニコライ・シチェルバチョフの書いた「ソリチュード」と題された3曲からなるピアノ曲の最後が「月の光」と副題が付けられています。
1853年ロシア生まれ、1922年になくなっていますから、かなりロシアの作曲家と言っても古い時代、5人組と同じ世代の人です。
まったく忘れ去られていて、この音源も有志の方のおそらく打ち込みによるものと思われます。

 

www.youtube.com

Les solitudes - 3.Clair de Lune/Nikolai Scherbachov

 

しかしこう聴いてくると、西洋ではやはり月というのは、ただ美しいだけでなくどことなく悪魔的なニュアンスを感じさせるようにも感じます。

 

月と悪魔というのはたしかに西洋的な宗教観からみてしっくりと来るものであり、現にはっきりそのことをテーマにした曲があります。

 

その最たるものはシェーベルクの書いた月に憑かれたピエロでしょう。

f:id:nu-composers:20190913145045j:plain

Arnold Schoenberg



シェーンベルクがアルベール・ジローの詩を元にハルトレーベンがドイツ語訳したものにつけたメロドラマであり、特に歌唱にあっては「語り歌い」とも言われる「シュピレヒシュティンメ」が多用されているのが特徴です。
なお、この曲は12音技法発見前の自由な無調音楽として書かれています。

 

www.youtube.com

Pierrot lunaire/Arnold Schoenberg

 

もう一つ少し不気味な月の姿を描いた例を紹介しましょう。
アメリカの作曲家ジョージ・クラムの書いた「4つの月の夜」という室内楽です。

f:id:nu-composers:20190913145247j:plain

George Crumb



この曲はフェデリコ・ガルシア・ロルカの詩につけられ、アルト、アルト・フルート、バンジョー、電気増幅されたチェロと打楽器という凄まじい編成によって書かれています。

 

www.youtube.com

Night of the Four Moons/George Crumb

 

いかがだったでしょうか。
今回は様々な月の表現を聴いてみました。

 

「自分だったらこんなふうにするのにな」
と思ったりしたあなた、作曲してみましょう!


まったくピンとこなかったあなた、詩を書いてみましょう!

 

きっかけは何でもいいものなんですよ。

 

最後に日本人が書いた月の音楽を一つご紹介します。
この曲は先入観なしに、ただ聴いてみましょうか。

f:id:nu-composers:20190913145443j:plain

三善晃

三善晃中原中也の詩につけた組曲「月夜三唱」です。

 

www.youtube.com

月夜三唱/三善晃中原中也