名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

Corneliusのライブに行った

Corneliusのライブに行きました。

f:id:nu-composers:20231028152955j:image

コーネリアスのライブ自体はすでに何回か行っているのですが、今回のツアーは過去10年くらいのツアーで最もコンセプチュアルなツアーだったと思うのでここに報告します。以下、コーネリアスを聴いたことない人間をある程度置き去りにしますが、拾っておくべき文脈が多いので仕方ないということで。

 

とその前に最新アルバムの話を。

 

夢中夢(アルバム)

youtube.com

最初の曲から徐々に夢(深層心理)へと近づいていき、長尺のアンビエント・ノイズ「霧中夢」で最深部へ。ラストの「無常の世界」で現実にふっと戻るといった構造になっています。しかし、最後で更に夢の奥深くへ行ってしまうかのようにリバーブがかかりながらフェードアウトしていきます。還ってきた現実が本当の現実かどうかわからないというのは、うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマーみたいですね。この構造はジャケットにも表れている(Dream in dream in dream in dream in......)ようにドロステ(永遠に続く入れ子構造)が意識されているようです。この煙に撒く感じはかつてのコーネリアスっぽいです。

まあそんな感じなので、自己言及的・個人的なアルバムになっています。とはいえ、歌詞自体はドライなため暗くはないのが小山田らしいところです。

 

が、最初聴いたとき、なんてつまんね〜アルバムなんだ......と思いました。First Question Awardsのように華やかでなければ、FANTASMAやPOINTのように破壊的な面白さがあるわけでもなく。本人もインタビュー等で言及していますが、フツーの音楽を目指して作ったようなのでそれは至極当然のことなのですが......。

とはいえ


www.youtube.com

こんな音楽や


www.youtube.com

こんな音楽を書いてきた人間の音楽なわけですから、一周周っているとはいえ面白くない。山崎まさよしトークが求められていないように、コーネリアスザ・スミスは求められていないわけです(私からは)。

 

だがしかし、一旦好意的に受け取ってみましょう。

このアルバムは、コーネリアスが今までやってこなかった個人的かつエモーショナルな内容になっています。オリンピックでの騒動の結果仕事が激減した結果、自分と向き合う時間が増えパーソナルな方向ーー後にも言及しますが、特に「死」についてーーへと傾斜していったようです。この点は全く人間的なものが見えなかった過去のコーネリアスの音楽を知っているからこそ共感できるし評価できる(ものの、やはり一周回っています)。

 

 

 

 

ライブ

ということでようやくライブの感想にうつるのですが、当然のように全てをネタバレしていきます。マジで全てなので、ライブを観るかもしれない人はブラウザバック推奨です。

 

早速セトリです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火花

変わる消える

Too Pure

Point Of View Point

Audiio architecture

Helix / Spiral

Another View Point

Count Five or Six

Smoke

Wataridori

夢の中で

霧中夢

いつか / どこか

Cue

環境と心理

あなたがいるなら

無常の世界

 

BREEZIN'

未来の人へ

続きを

 

*客入*

坂本龍一のHibariや、ライブの直前にはサディスティック・ミカ・バンド高橋幸宏のソロ曲が流れておりすでに死の匂いがしました。これから見る夢は涅槃の夢なんだ、と示されているかのようです。

 

*前半*

火花

変わる消える

Too Pure

ここまでは(ライブというフィクションの中での)現実セクションでしょう。アルバムタイトルツアー始まったな......という感じです。なのでここで言及することはあまりなく、ただ何も言及しないのも寂しいので当日の感想でも書いておきましょうか。

 

紫色の煙と共にメンバーが登場し、「火花」が演奏されました。「火花」の映像はこれまでもコーネリアスのMVを数多く手がけている辻川幸一郎が監督をしています。「MVと演者、観客の三つのレイヤーが組み合わさって完成する」みたいなことを辻川が言っていたのでまあまあ楽しみにしていました。スモークによってステージングに立体感が生まれており、確かにレイヤーが意識されているように感じましたが、スモークに反射する明かりが明るすぎて映像が見れず、プロジェクターで映写するのとは普通に相性が悪そうでした。あるいはスモーク炊きすぎなら今後に期待したいところです。

さて音響ですが、最初の方はPAがあんまり良くなくてバランスが悪かったです。マジで歌が聴こえねえ。大丈夫か???とハラハラしながら聴いていたのですが、徐々に安定しました。後で知ったのですが当日メンバーが乗車した新幹線が遅延しており、あんまりリハーサルできなかったからかなとは思いました。ただそれを抜きにしてもToo Pureはなんか崩壊気味でよくわかりませんでした。

 

 

*中盤*

Point Of View Point

Audiio architecture

Helix / Spiral

Another View Point

Count Five or Six

Smoke

Wataridori

夢の中で

蜃気楼

霧中夢

ここから本格的に夢の中に突入していきます。「Point Of View Point (2001)」「Audio architecture (2018)」「Helix / Spiral (2017)」といったように過去に遡ったり、さらに現在に戻ったりといったような選曲。その傾向は後半になる程顕著になり、「Another View Point(2001)」「Count Five or SIx (1997)」「Smoke (2001)」「Wataridori (2006)」「夢の中で(2017)」で確信を得ます。その後「蜃気楼(2023)」で現代まで戻ってくるわけですが、曲名から分かるように全然現実に戻ってきてくれません。そもそも、「Another View Point」の映像が過去のミュージシャンのライブ映像からのサンプリング(最後の方はYMO祭り)なので当然ではあったのですが。

そしてアンビエント・ノイズの大曲「霧中夢」で音楽は完全なるカオスと化し、死の世界へと向かいます。

 

*終盤*

いつか / どこか

Cue

環境と心理

あなたがいるなら

無常の世界

今までサブリミナル的に出てきた高橋幸宏の存在が、死の匂いがもう前面に出ちゃってます。小山田も50代に差し掛かり、自分が残りの人生でど何ができるのかとか考えちゃってるのが出てます。

50代男性の深層心理の奥に死があったというのはありがちなオチではあるのですが、小山田からそれが出たというのは興味深くはあります(つまんね〜とも当然思う)。

そして「無常の世界」で現実世界に帰還......と思いきや、アウトロで大量のスモークが炊かれ演者が消えました。今まで私が言及してきたことすらも全て夢だったというアルバムタイトル通りの演出。ベタベタだなあとは思いつつも、コーネリアスらしいです。

 

*アンコール*

BREEZIN'

未来の人へ

続きを

むしろアンコールが本編なのではないかと思います。

というのも、本編は50代男性(小山田圭吾)の頭の中を覗いたに過ぎず、それ以上のことは結局何も言っていないように感じるからです。少なくともここ数年が激動だった男の音楽とは思えない(そこを隠すのが小山田らしくもあるのですが)。とはいえそういった文脈共有がアンコール曲の歌詞にしっかり効いてきます。

www.uta-net.com

www.uta-net.com

「続きを」は「未来の人へ」アウトロの演奏を犠牲にしてでも演奏していました。この2曲をどうしても連続して聴かせたかったのでしょう。

その部屋には 私はいない

傷だらけの 盤があるだけ

気まぐれでも 針をおとせば

何回でも 会えるでしょう

 

今日出来た 曲を奏でて

さりげなく 友達が歌いだす

 

今ここから 未来の人へ

まだそこには 誰かいますか?

遥か

 

続きを (あなたと)

続きを (もっと見たい)

続きを (最後まで)

続きを (見届けたい)

続きを (例えば)

続きを (悲劇でも)

続きを (あ〜)

続きを (目を逸らさず)

 

音で語っていたはずのコーネリアスがついに歌で語るようになったのは彼の音楽人生においてもかなり大きな出来事だと思いますが皆さんはどう思うか。私はどちらかといえば前者の方が好きですが、とりあえず今は好意的に受け取ろうと思いました。おわり。