名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

ナウシカのシンセサイザーは何を表していた?

 

皆さん、あけましておめでとうございます。

g改め岩附です。

というわけで

今回は映画「風の谷のナウシカ」に登場する音楽とその役割について自分なりに考えたことを話したいと思います。

簡単にいうと、ナウシカBGMのシンセサイザー何を表しているのか?という話題です。

ジブリの音楽の作られ方

そもそもの話、ジブリ映画における音楽、サウンドトラックはどのような過程を経て制作されているのでしょうか。徳間書店の「ロマンアルバム 風の谷のナウシカ」に載っている情報を基にすると、映画のナウシカには主に2つのアルバムが関わってきます。

「イメージアルバム~鳥の人~」と「オリジナルサウンドトラック~はるかな地へ~」です。

 作曲者、つまり久石譲ナウシカの映像が制作される前に漫画や事前情報からシンセサイザーを主に使用して「イメージアルバム」を制作し、それをたたき台として宮崎駿監督や高畑勲といった映像制作スタッフと話し合いを進めつつ、ラッシュビデオを見ながらオーケストラを交えて作曲したのが「オリジナルサウンドトラック」というわけです。

実際には、この 鳥の人 と はるかな地へ の間に「シンフォニー~風の伝説~」が作曲されていますが、劇中に関係するのはこの2つのアルバムです。

music.amazon.co.jp

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・それぞれの特徴

さて、この2つのアルバムを比較したときにわかることとして

・共通したメロディを持つものがほとんど

・イメージアルバムではシンセサイザー、オリジナルサウンドトラックではオーケストラとシンセサイザーを使っている

という2点があげられます。たとえばイメージアルバムNo.2 はるかな地へ はサウンドトラックNo13「鳥の人」~エンディング~ と同じテーマが用いられていますが、前者はリバーブのかかった4つ打ちの電子音的なサウンドが特徴的ですが、後者はリズミカルな要素を抑えてオーケストラの特徴を生かしたサウンドを持っています。

 こうした違いの差は、単にオーケストラとDTMでは制作環境が違うからだけでは片づけられないと私は考えています。なぜならオーケストラで録音することが可能であった後から作られたオリジナルサウンドトラックにも、シンセサイザーを主体にした楽曲が登場するからです。

たとえばサウンドトラックNo.1「風の谷のナウシカ」~オープニング~冒頭30秒、No.2 王蟲の暴走、No.5クシャナの侵略、No.8腐海にて、No.9ペジテの全滅などにはシンセサイザーが登場します。

 

 つまりナウシカDTM主体のいわば仮音源的な役割であるイメージアルバムとは対照的に、サウンドトラックではオケとシンセは明確な意図を持って使い分けされていると考えたわけです。

関係ないけど、短けぇ夢だったな…とぼやくクワトロさん好き
・実際の作中の使われ方

 閑話休題、使い分けに意図があるとは言いつつも、じゃあそれが何なのか分からなければ話にならないです。なので実際に映像とサントラとイメージアルバムのどこが合致するのか聴きながら検証してきました。見にくいし長いですが参考まで。

drive.google.com

 こうした作業を通じて、まず感じたことは

・存外イメージアルバムの音源がそのまま使われているし、未収録の音源もある。

・重要なシーンは無音であることが多い

ということでした。例えばペジテのアスベルが腐海で蟲に襲われているシーンは殆どがシンセサイザー主体の未収録の音源でした。

 

 そしてシーンごとの分析をした結果、私は

オーケストラは歓喜、日常を表し シンセサイザーは蟲、腐海、極度の緊張を表している

と考えています。

 例えば序盤のこのシーンの後、ナウシカはユパが谷へ帰ってくることを知り歓喜します。その瞬間サウンドトラックNo.13「鳥の人」が入りオーケストラが鳴り響きます。

 しかし、その後直ぐにユパが「皆に変わりはないか」と尋ねるとともにBGMはフェードアウトしていきます。これはナウシカの父ジルが動けなくなったことをナウシカが思い出した為です。その後はしばらくの間BGMがない状態で展開します。また、風の谷のシーン(サウンドトラックNo.3風の谷)ではタブラやダルシマーといった民族楽器が演奏されます。

 このような例から、オーケストラや民族楽器といった生の楽器は大きな歓喜や人間の日常の風景を表現する時に使われているということができるでしょう。

 一方でシンセサイザーが登場する音楽のシーンではナウシカ腐海にいたり、蟲から逃げているシーンなどが多かったため最初は単に腐海を表しているのではないかと考えました。実際に風の谷に胞子が紛れ込んだ時や、腐海の植物だらけのナウシカの地下の部屋のシーンでは一瞬だけ電子音が流れます。

 しかし、それでは説明しきれない楽曲がありました。それがサントラNo.4 クシャナの侵略 です。このトラックは重厚な雰囲気をもつバックと特徴的なリードシンセが目立つ楽曲で用いられているシーンも風の谷にトルメキア軍が押し寄せてきたシーンで腐海や蟲が画面に登場している訳ではありません。また、トルメキアが攻めてくるシーンではイメージアルバムNo.7 土鬼の逆襲 も一瞬だけ流れています。

なので私は先ほどのナウシカ歓喜でオーケストラが流れたということとの対比として谷に何者かが攻め入ってくる過度の緊張状態もシンセサイザーは表しているのではないかと考えたわけです。

 

まとめ

 これらのことをまとめると、ナウシカの劇中では物語が進む重要な会話シーンでは無音であることが多く、登場人物の日常や歓喜といった事象に合わせてオーケストラが演奏され、そうしたものの対極の位置にある腐海や敵の存在を表現するためにシンセサイザーを敢えて用いたのではないかと考えています。

 必ずしもこれが正しい訳ではないし、戦闘にオーケストラが用いられているシーンもある(メーヴェコルベットの戦い)のでなかなか難しい所はありますが、1982年当時にわざわざ数千万もする機材を投入して制作された電子音楽には何か込められた意図があると私は感じています。

 皆さんも、もしナウシカを見直すことがあったら、ぜひ音楽を含めてなぜそのような表現をしたのか考えながら観ていただければ幸いです。

それでは。