名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

自作曲「Holy Night Solitude」解説 ~コンセプト設計、作曲から反省まで~

僕はクリスマスが嫌いです……。

いきなり何だよって感じですが、まあとにかく嫌いなのです。

みんな俗っぽくウカレているし、街は人々の欲望でパンパンに膨れ上がるし、電車も店も混むしバカップル共が目に障るしで、良いことなんかありませんよ。

確かに、子どもの頃ならプレゼントがもらえるとかパーティーをするとか、そういうワクワクするイベントもありました。

でも、成人男性になった僕の心はもはや酒と金と女にしか揺さぶられなくなったので、

「ママーッ、今年もサンタさんからのプレゼント届くかなあ!」

などと瞳を輝かせている少女を見かけようもんなら

「おう、きっと着払いで届くぜ!」

と気を利かせた返答をしたくなってしまいます。

年を食うのってイヤなもんですね。

 

こんなことを言いながら、実は僕はクリスマス・キャロルがとても好きです。

「ジングルベル」、「赤鼻のトナカイ」、「ママがサンタにキッスした」、「ホワイト・クリスマス」など、聞いていると実に心があったかくなってきます。

前の記事にも書きましたが、こういったキャロルを聞いていると幼い頃の楽しい気分を思い出し、なんだかクリスマスもそう悪くないんじゃないか??というような気さえしてきます。

 

クリスマスは嫌いなのにクリスマス・キャロルは好きだなんて、我ながら大した矛盾です。

しかし、慌てることなかれ。

人間とは往々にして矛盾を抱えて生きる動物なのです。

僕のこの「クリスマス心底好きなんじゃないか問題」も、実に人間らしくて良いではありませんか。

そういうわけで、

  • 大人になった今の自分の感性で
  • 子どもの頃の郷愁を呼び覚ましながら
  • キャロルをふんだんに使った曲を書こう!

と、僕は考えたのでした。

そして2年前に完成したのが、この

「Holy Night Solitude」

なのです。

www.youtube.com

 

 

というわけで、今回はこの「Holy Night Solitude」の楽曲解説をしていこうと思います。

自作品の本格的な解説をするのは初めてですが、ちょうどクリスマスで時期に合っているし、作曲者目線の解説を聞くというのはあまりない機会だと思うので、そういった意味で読者の方々にも楽しんでいただければと思います。

 

楽曲の解説

1.コンセプト設計

作曲をする上で、まずは全体的なコンセプトを設計せねばなりません。

何の設計もないまま作曲を始めると、最終的にシッチャカメッチャカでまとまりのない曲になったり、そもそも完成までこぎつけなかったりする可能性がとても高いからです。

そこで、どんな曲にしたいのか考えてみることにしました。

 

小さい頃はクリスマスと言えば、石油ストーブの香るリビングで家族みんなで過ごしていました。

しかし、大学生にもなった僕はふらふらと夜の名古屋を一人で歩きながら、やたらと目に痛いイルミネーションの電飾を眺めてから

「ああ、もうこんな季節かね」

と初めてクリスマスの足音に耳を澄ますほど、季節の行事には無頓着になっていました。

目をブスブス突き刺す名古屋栄のイルミネーションは、上の動画の背景画像にも使われていますね。ブルーライト100%はマジで止めた方がいいと思う)

幼い頃の暖かな団らんに対して、大人になってからのクリスマスは寒さや孤独がテーマのように感じました。

しかしそれが悪い訳ではなく、孤独や寒さの中にもどこか心の沸き立つような、「特別な日」という感じがして、僕はそこに暖かい趣を感じていました。

 

また、この時期僕はrei harakamiというアーティストの音楽を研究していました。

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原神 玲

この人は僕が最も好きな作曲家の一人なのですが、この人の音楽にはどこか「孤独感や寒さの中にある暖かさ」を感じます。

ちょうどいいので、実験的にrei harakami の作風を引用して作曲しようと決めました。

 

というわけで、コンセプトは次のように決まりました。

  1. 「クリスマスの街を一人で歩く」というストーリーで曲を仕立てる。
  2. 実験的に rei harakami の作風を引用する。
  3. クリスマスキャロルをたくさん引用する。

 

2.作曲する

コンセプトが決まったので、次は作曲に移ります。

この時、くれぐれも設計したコンセプトから足を踏み外さないようにしないと、結局シッチャカメッチャカになってしまうので注意が必要です。

 

イントロ(冒頭~0:52)

まずは冒頭部分、エレピのソロで柔らかなイントロに入ります(0:00~0:52)。

この部分は、分かりやすく「もみの木」の編曲になっていますね。

当時覚えたてだった和声法をここで生かし、聖歌である「もみの木」をリハモ*1してみたのでした。

また、このシーンは幼い頃の暖かなクリスマスの記憶を再現したシーンでもあります。

一通りメロディが終わると、パーカッションが「もみの木」のリズムを模倣しつつリズミカルに入ってきます。

このリズミカルなビートは、街を歩いている歩調のリズムとして以降ずっと引っ張られます。

 

前半部(0:52~1:51)

 イントロが終わると、「ジングルベル」のメロディが奏されます(0:52~1:12)。

“ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る”

の部分が2回繰り返されますが、ハーモニーが大幅に変えられているので原曲とはかなり雰囲気が変わっていますね。

1:21からはメロディが消え、つなぎの部分に入っていきます(1:12~1:51)。

メロディの断片がちらっと挿入されたりしていますが、これは街中で流れているクリスマスソングがちらほら聞こえてくるイメージです。

 

また、都会らしい瀟洒な感じを出すために、ここではテンション・ノートとして#15thを通すという技を使っています(1:28~1:40)。

この曲は長調ですが、ふつうメジャーコードに対してテンションとして通る音は 7th・9th・#11th・13th だけだと考えられていますね。

しかし、実はもっと上にテンションを積むと #15th#19th あたりまで使えるようになります。

これを使いこなすにはちょっとしたコツが必要なのですが、慣れれば違和感なく通せるようになる上、とてもオシャレな響きがして良いのです。

なお、このテクニックは楽曲全体を通して使われています。

 

後半部(1:51~2:55)

そんなこんなあって、曲は後半に入っていきます。

歩調のリズムを取り戻した後、伴奏のリズムパターンが少しだけ変わり、クリスマス・キャロルの断片が次々と奏されます(1:51~2:23)。

がやがやした街の雑踏がサンプリングされており、ここはまさに繁華街を歩いているシーンです。

ちらほら聞こえてくるキャロルも、ほんの断片だけなのでとても分かりにくいですが、実は結構な数のキャロルが使われています。

具体的には、

  1. 「みつかいくだる」より “みつかいくだる ユダヤの空から~” (1:57~)
  2. あわてんぼうのサンタクロースより あわてんぼうのサンタクロース~” (2:01~)
  3. 「さあかざりましょう」より “さあ かざりましょう~” (2:05~)
  4. おめでとうクリスマスより おめでとうクリスマス~” (2:07~)
  5. 「前歯のない子のクリスマス」より “ぼくだけついてない~” (2:07~)
  6. 「クリスマス・ディ」より “おさなごたちの~” (2:11~)
  7. 「赤鼻のトナカイ」より “真っ赤なお鼻の~” (2:13~)
  8. もろびとこぞりてより “もろびと こぞりて~” (2:16~)
  9. 「サンタが町にやってくる」より “サンタクロース・イズ・カミング・トゥ・タウン~” (2:18~)
  10. 「あらののはてに」より「“Gloria~”」(2:21~)
  11. 「ママがサンタにキッスした」より「“それはきのうの夜~”」(2:26~)

というわけで11曲ものキャロルがこのシーンに詰め込まれているのでした。

使われている断片もほんの少しだし、2秒おきに次のメロディが押し寄せてくるので、聞いていてもほとんど分からないと思います。

ですが、このごちゃごちゃした感じでもってクリスマスににぎわう繁華街を描き出したかったのです。

もし全部のキャロルを聞き分けられる驚異的な人がいたら、その人には僕からクリスマスプレゼントをあげましょう裏と表が逆の珍しい50円玉でもあげるよ(適当)

 

さて、そうしてキャロルまみれに展開した後、同じ場所をもう一度リフレインします(2:23~2:55)。

2回目では少し変化を加え、2:39からリズムパターンを一気に変えています。

これは rei harakami の技法を意識した工夫です。

 

アウトロ(2:55~最後)

ごちゃごちゃしたシーンから一転、伴奏が一気に消えて静かになります(2:55~3:12)。

これは裏設定なのですが、このアウトロのシーンでは僕は次ようなストーリーを考えて作曲しました。

一人で街を歩いていると、クリスマスツリーの点灯式に偶然出くわし、足を止める。

周囲には楽しそうにはしゃぐ子供たちの姿があり、過去の思い出をふと思い出す。

カウントダウンが始まり、イルミネーションが点灯されたツリーを見て、どこか暖かな気持ちになる。

とても感傷的なメロディを2回繰り返し、ロマンティックに曲は終わっていきます。

最後のシーン(3:28~)の甘く静かな終わり方は、こういったストーリーを踏まえてのものです。

 

というわけで、何とか曲は完成したようです。

製作期間は約1か月でした。

つっかれた~~~。

 

反省

作曲した後は、曲の出来を自分で見直して反省します。

まずは褒めるべき点から行きましょう。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

1.個人的にしゅ

まあ自分で作ったんだから当然ですが、個人的にめっちゃ好きな響きです。

しゅき。最高。

 

2.都会感出てる

都会っぽい孤独感や涼しさの演出には成功しました。

テンションを過剰に積むやり方や、大胆なリハモが効いたように思います。

 

3.コンセプト倒れしなかった

一応コンセプトをきっちり踏み外さずに作れたと思います。

まあこれは当然なので、あえて褒めなくていいかもしれませんが。

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次は改善点を挙げます。

自分の曲をあんまり褒めても意味がないので、こっちの方がはるかに大事です。

ビシバシ行きましょう。

 

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1.ごちゃごちゃしすぎ

キャロルをたくさん引用すると決めたはいいものの、もう少し丁寧に引用できなかったのか……?

後半部分にテキトー感が出てます。

 

2.キャロルの引用が曲ごとに釣り合ってない

冒頭でバーンと「もみの木」を引用してるくせに、他の曲はかなりチョロッとしか出てこず釣り合ってません。

「もみの木」に特別思い入れがあるならまだしも、特にそうでもないし。

今回は特に引用に関して、至らぬ点が多かったです。

 

3.rei harakami の研究が不十分

表面的には rei harakami っぽいサウンドになってますが、「っぽい」に終始している感じがします。

ただの rei harakami の下位互換になってしまっていますね。

この時点ではまだ rei harakami に対する研究が浅く、自分の音として獲得できていませんでした。

 

4.コンセプト設計が雑

計画の段階で楽曲の構成も決めておくべきでした。

どこにどの曲を引用するかまで決めておけば、ここまでゴチャつかなかった可能性もあります。

設計図があれでは、少々ざっくりしすぎでした。

 

5.リハモが行き当たりばったり

今回かなりの量リハモをしましたが、リハモに関しては何ら設計をしていませんでした。

そのせいで若干苦しく聞こえる場面が多いです。

ちゃんと計画しないと……。

 

6.全体的にDAWの使い方が下手

当時はDTMやって1年程度だったので、使い方が全然わかってませんでした。

マスタリングすらしてねえ……

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さて、これが2年前のクリスマスのことです。

もう随分と前のことになってしまいましたね。

てか見る限り2年前の僕クリスマスめっちゃ大好きじゃないですか。何コレ。

コンセプト設計の時点でもうしゅきがあふれてるでしょ。

自分で自分の嘘を暴いちまったよ……

 

とにかく、これにて楽曲解説は終わりです。

長々とお付き合いいただきありがとうございました。

今後のトイドラの作曲活動にもぜひ期待してください。

*1:和音を付け替えてアレンジすること。