名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

「現代音楽=無調」という時代の終わり

どうも、トイドラです。

先日、よこはまみなとみらいホールで開催されるコンサート
梅本佑利 音MAD ~デジタル・マキシマリズムと音楽~
を見るため、東京旅行に行ってきました。

梅本佑利 音MAD ~デジタル・マキシマリズムと音楽~の画像

梅本佑利と言えば、大変若い新進気鋭の作曲家でありながら、昨今ヨーロッパ中で活躍しています。

現在は「よこはまみなとみらいホール」のホールコンポーザーに就任しつつ、オペラの作曲にも取り掛かっている、とても上り調子の作曲家です。

そんな彼ですが、実は以前にYouTube「音楽ガチ分析チャンネル」でコラボ動画を撮ったことがあります。

そのご縁で、今回はホールの方にコンサートへご招待いただきました。

というわけで、私トイドラは横浜を目指して東京から電車を乗り継いだのですが…………

不運なことに、めちゃくちゃ東京の洗礼を受けることになります。

(ちなみにこの話は超余談です)

その日はとんでもないゲリラ豪雨が降り注ぎ、東京中で様々な場所が冠水しまくっていました。

そのせいで電車は遅延、駅は人でごった返し、乗り換えようと思った駅のホームで身動きが取れない!

これはダメだと判断し、あの手この手で抜け道を探すも、結局ホールに着いたのはコンサート開始から1時間後でした。

マジ何!?!??!

30分前には着くつもりで動いていたので、ざっと1時間半は余計な時間を使ったことになります。

横浜行の電車の中はとんでもない混雑で、ずっと誰かの肘がみぞおちに突き刺さったままガタンゴトンと揺られていたので、体調も完全に限界の域。

文字通り虫の息でホールまでたどり着きました。

東京に住むことは今後の人生で1度たりともないだろうことを確信する夜でした。

 

……余談はこの辺にして。

ともかく、そうして1時間遅れでコンサートに到着しました。

聞きたい曲がいくつか聞けず残念でしたが、どうやらメインの曲は後半に固まっていたようで、梅本さん自身も
「前半の曲は全部YouTubeで聞ける」
とあっけらかんと言っており、ちょっと安心しました。

 

さて、今回のコンサートで梅本さんはキュレーションも行っており、彼自身の他にも様々な作曲家が取り上げられました。

しかし今回の記事では、とりわけ梅本さんの作品に注目したいと思います。

今回演奏された彼の作品は、次の6曲です。

梅本佑利:look at me, senpai (2024) for violin, cello and fixed media
梅本佑利:萌え²少女 (2022) for cello and fixed media
梅本佑利:スーパーバッハボーイ (2020) for cello
梅本佑利:Heidenröslein (2025) for piano and fixed media(日本初演、ピアノ版:世界初演
梅本佑利:aaaaa for piano and fixed media (2025)(本公演委嘱作品、世界初演
梅本佑利:my girl friend is not like me for violin, cello and fixed media (2025)(本公演委嘱作品、世界初演

このうち、上の3つは彼の過去作品で、いわば梅本さんといえばコレとも言えるような定番の曲です。

これに対し、下の3つはいずれも今回が初演。

作曲されたのも今年という点で、上の3曲と対比されているように思います。

 

この新曲3つの音源が今後YouTubeなどに公開されるのかどうかわかりませんが、僕はこれらを聞いてかなり驚きました。

というのも、メッチャあからさまに調性音楽、それどころか和声法で解釈できるレベルの超カンタンな音楽だったからです。

 

いわずもがな、梅本さんの音楽はコンテンポラリー・ミュージック――所謂"現代音楽"――に属しています。

現代音楽の特徴の1つは、その響きが無調的であること*1

調性音楽を拡張していく試みの中で、新たな音楽が生まれていった結果です。

そして、梅本さんもかつては無調音楽を作曲していました。

しかし、彼の作風はここから変化していきます。

今回のコンサートでも演奏された「スーパーバッハボーイ (2020)」や「萌え²少女 (2022)」では……

明確な和声は見られないものの、なんとなく調性的な響きが随所に散りばめられています。

局所的には、明らかに和声進行がある箇所もありますね。

「look at me, senpai (2024)」にもなると、もはや曲全体が明らかに調性に支配されるようになってきます。

セリフの音程を旋律的になぞる「スピーチ・メロディ」という技法を使っている関係上、メロディはややスケールから外れた音も鳴らしていますが、全体の響きに無調感は全くありません。

とはいえ、この辺りまでの梅本作品に見られる調性は、和声的というよりはやはり感覚的なもので、和声的にスッキリ解釈できるかと言われたらそうでもありません。

 

ところが、今回のコンサートで初演された3曲は、もはや明確に和声分析できるほどド直球の調性音楽でした。

僕が特に印象に残ったのは、最後に演奏された「my girl friend is not like me (2025)」です。

彼の特徴的な技法として、セリフの抑揚からメロディを抽出する「スピーチ・メロディ」があります。

「萌え²少女 (2022)」や「look at me, senpai (2024)」では、萌え声のセリフをもとにスピーチ・メロディで旋律が作られていますよね。

ところが、「my girl friend is not like me (2025)」ではもはやスピーチ・メロディすら使われていませんでした

「My girl friend is not like me ~」とアニメ声の女の子が歌っているのですが、そのメロディは明確な歌です。

そして、それに対する伴奏も明確なコード進行を持ち、半終止したり全終止したりします。

言ってみれば、超~フツーの音楽になっていたのでした。

 

思えば、彼が最も仲のいい作曲家だと語るベン・ノブトウも、無調的ではない作曲姿勢を取っています。

ベン・ノブトウと梅本さんが同じ理由で調性音楽に行きついたのかは分かりませんが、もはや現代の"現代音楽"(?)では無調音楽をやる必要性が薄れていると言うことができるでしょう。

今や、無調音楽それ自体は新しいモノでも何でもないですからね。

 

個人的な印象として、梅本さんの最近の調性音楽からは、強い"個人的ロマン主義"を感じます*2

ロマン主義的な作曲態度がどんどん磨かれて鮮明になった結果、無調音楽を使う必要性が全くなくなってしまったのでしょうか。

 

ところで、今回のコンサートの委嘱作である「aaaaa (2025)」は、超美しい調性音楽であると同時にメチャクチャ短い曲(たぶん30秒くらい?)でした。

そして、なぜかコンサート中に2回演奏されました

全く同じ曲として2回です。

終演後、梅本さんに「一体アレは何だったんですか???」と聞いたところ、

「本当は5回くらい演奏したかった。YouTubeのCMソングみたいな感じで、またあの曲か~ってなる存在」

というようなことを言っていました。

*1:単に「特徴の1つ」であって、全ての現代音楽が無調的なわけでは当然ありません。

*2:彼の作曲態度がロマン主義的であることは、僕とのコラボ動画の中でも本人が言及していました。