名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

リコーダー三重奏のオリジナル曲解説

6月9日、名古屋大学の学祭「名大祭」にて、リコーダー三重奏のライブを行いました。

@一緒に演奏してくれた二人 まじでありがとう!

本記事では、そこで演奏した曲たちについて解説しようと思います。

 

 

 

作曲にあたって

まず、リコーダー三重奏で手頃な難易度、内容も良い感じの曲はそうそうその辺に転がっているものでも無いので、自分で曲を作ることにしました。

曲を作るにあたって、レギュレーションを整理します。

 

・使える楽器:ソプラニーノ、ソプラノ、アルト

(テナー以降、低音になればなるほど楽器の値段がみるみる上がっていくので、アルトまでしか用意出来ませんでした)

・難易度:アマチュアが週一合わせ練習して1ヶ月で仕上げられるかな、というくらい

 

そしてさらに、リコーダーという楽器自体の特性も考慮しなければいけません…

 

・音域が狭い

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安定して出て、安心して楽譜に書いてもいいかなーという音域は、大体ド~オクターブ上のラくらいまで。

さらに、低い音は息をゆっくり入れないと鳴らないため、発音に時間が掛かってしまいます。(いや、上手い演奏者なら低音だろうと問題なく発音できるが?という古楽研究会の方やリコーダープレイヤーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一緒に企画をやらせて下さい)

 

・低音が聴こえない

持っている楽器のラインナップから、アルトリコーダーにベース楽器の役割を任せたい所ですが、リコーダーの低音はマジで聴こえないのに加えて発音に時間も掛かるので、エレキベースみたいなシャキシャキしたベースラインをやらせようものなら、曲が崩壊してしまいます。

必然的に、リコーダーアンサンブルを作ると音楽全体が高音域に偏る形にどうしてもなってしまいそうです。

 

・#♭の付いた音が出しにくい→転調が限られる

リコーダーで#や♭の付いた音を演奏しようとすると、難しい運指や穴を半分抑えるみたいな微妙な運指が要求されるようになったりします。

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そのため基本的にはトーナルな音を中心に音楽を作るのが無難なので、使える調も大体#2つ、♭2つくらいまでに限られてしまいます。

リコーダーアンサンブルというとなんとなく簡単そうで親しみがある感じがしますが、実際の所は、音域が狭いためボイシング的に広がりを作れない一方で自由な転調も難しいという、非常にシビアな制限の中で頑張らないといけないジャンルと言えそうです。

 

さて、そんな制限のある中で、私は3曲のリコーダー三重奏を作りました。

 

 

 

五月の風

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一曲目なので正攻法でリコーダーに挑戦しようと思い、普通に良い感じの爽やか曲を書きました。

特に思い入れが無いので、どこかで聞いたようなタイトルを付けました。

 

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5月ということで、一応5月にまつわる唱歌「鯉のぼり」と「茶摘」をベースに曲全体が構成されています。分かるかなーと不安でしたが、一部の人から曲中に鯉のぼりや茶摘をちゃんと聴き取って指摘してもらい、嬉しくなりました。

 

編成はソプラノ2台とアルトにしました。敢えて音域的に厳しい編成でやってみようとソプラニーノ抜きで作ってみましたが、対位法を上手く使うことで意外と身のある音楽に出来たように思います。

 

曲に広がりを持たせるために、なんだかんだ転調や#♭の音を結構使用しちゃったんですが、ここは長年リコーダープレイヤーをやってきた私の経験が活きた所でした。

#♭が付く音は確かに入れると運指が難しくなるんですが、入れるタイミングを上手に選べば実は意外と使い所があったりします

楽器の演奏に精通していないと、その楽器の可能性を引き出した曲は絶対作れないんだな、と身をもって実感しました。

 

 

 

EUPHORIA ~The paradise we desire is only a holy ritual away. The mother of the savior is... Byakuya Rinne!?

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タイトルからも曲調からも分かる通り、イロモノです。

 

とはいえ、リコーダーにはこういう原始的、マテリアル的な魅力もある楽器だと思うので、真面目に書いたつもりでもあります。

 

この曲は、Euphoria」というアダルトゲームのアニメ版の第六話「目指す楽園は神聖なる儀式の先に。救世主の母は……白夜凛音!? 編」が元ネタになっています。

救世主の母になれる喜びで笑顔になる白夜凛音ちゃん

 

アニメ版は、ゲームの設定やストーリーを引き継ぎつつも、ほとんどストーリーの説明はカットされており、とにかく出てくる凌辱シーンのみを出来るだけたくさん抜き出して繋ぎ合わせた、いわばEuphoriaエロシーン切り抜きチャンネル」の様相を呈しています。

しかも、各話がゲームのそれぞれ異なるルート分岐に沿った内容になっているので、話を見進める度に全然違う事実や展開を説明され、訳が分からなくなっていきます。

 

かくしてアニメ版はもはや元のゲームとは異なる狂気的な空気を醸すことに成功しており(とたぶん私だけが思っている)、この構造美自体をリコーダーアンサンブルで表現出来ないかと考えて作ったのが、本曲です。

異なる分岐が節操無く並行しながら、不穏だが腹落ちしない空気を纏い進行していく様子を、三重奏の中で色々表現してみました。

編成はソプラノリコーダー三本、そのうち一本は事前に管を抜いてピッチを50centほど下げた状態で演奏するよう指示しています。

三曲の中では、最も演奏効果的に上手くいったと感じた作品でした。

 

 

 

Starry Phonon (Festival Edition)

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最後の曲は、冨田悠暉作曲「Rainy Phonon」と榊原拓「星色の水面」のマッシュアップです。

 

「Rainy Phonon」は名作会初代会長の冨田悠暉…愛称トイドラくんが大学生時代、作曲の授業で作った曲です。

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(トイドラくんはこの授業、堂々の成績「S」を収めました!)

 

この曲の「Phonon」というのは、当時名大に存在していたカフェの名前で、文化的で面白い店長がいると、知る人達の間では知られていたようです。

しかしその後カフェPhononは閉店してしまいました。トイドラくんはそれを受けて、失われていく過去と続く未来への手向けとしてセルフアレンジ「good-bye edition」を作曲しました。

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このgood-bye editionで曲中に登場した詩は、その後のトイドラくんの作品で何度も使われることになります。

 

次に「星色の水面」、こちらは名作会副会長の榊原拓、愛称拓くんがピアノコンサート《四季を巡る》に寄せて作曲したピアノ曲です。

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こちらは、自然豊かな水面で夜光虫を見た自身の経験を基に、文明の発達に伴う破壊と希望を表現した作品になっています。

文化や社会構造的なものに自分を結び付ける拓くんの思考回路に明確に触れたのは、この曲が最初だったような気がします。本人的にはなんでこの曲を今?という感じかもしれませんが、私的にはなんとなく印象深い一曲です。

 

さて、これらの全く異なる文脈を辿って作られた二曲をマッシュアップし、「失われていくものへのレクイエムと祈り」として名大祭の舞台に今一度蘇らせる、というのが「Starry Phonon (Festival Edition)」のコンセプトです。

 

さらに、名作会で過去に行ったハンドフルートコンサートに寄せて私が書いたハンドフルートプレイヤーのための『ロマンス』」という作品、これはまさに「失われていくものへのレクイエムと祈り」そのものと言って良いコンセプトの曲でした。

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この曲には、移り変わっていくものの「記録装置=Recorder(レコーダー)」として、リコーダーが使われています。

同様に、記録装置としての役割をリコーダー三重奏に持たせる意味で、「Starry Phonon」には「ロマンス」からの引用もされています。

 

Starry Phononが私にとって何かを引き継ぎ、また次の何かへ繋いでいく曲になればいいなー、と思います。

 

 

 

まとめ…リコーダーアンサンブルを作るコツ

やっぱ、対位法ですわ。

こんなまとめで申し訳無い所ですが、広がりを作りにくい編成で曲を作る時は、対位法が信じられないくらい強力な助けになってくれると実感しました。

そもそもリコーダーはバロックの産物ですし、対位法が馴染むのは当たり前かもしれませんが。

 

リコーダーは音が重なるとめちゃくちゃ倍音が聴こえるので、複雑な和声には向いていません。その代わりに、旋律の絡み合いの妙、あるいは思いっきり平行させてみたりといった対位法的コントラストで魅せると、いい感じのリコーダーアンサンブルが出来るんじゃないでしょうか。一連の作曲を経て、私はそんな気がしましたよ。

 

皆さんも、小学生が吹いてる楽器と思って侮るなかれで、ぜひリコーダーアンサンブルの作曲に挑戦してみて下さい。さよなら!