名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

閑話休題「今宵も一献」第1巻「愛知県」

今夜も一献

 先日名古屋作曲の会のミーティングのときに、私が音楽以外の話しをいつブログに書くかという話題になった。確かに一貫して会の専門性を社会認知させる一助として、特に現代音楽の分野における、かなり本格的な内容の記事を中心に、音楽専門でこれまで執筆をしてきたのだが、考えてみるとたまにはちょっと音楽以外の道にそれてもいいかなと思えてきた。
 そこで私の趣味、というか音楽以外の特性を紹介することもかねて、閑話休題シリーズとして私の愛してやまない酒についてちょっと語ってみようかなと思う。

 実は根っからの酒好きで最近は苦手ジャンルなしと言えるほどにどの酒も呑む。完全にウワバミおじさんと化しているのだが、実は若い頃から大の左党(日本酒が好きな人の意味)なのである。これまでに飲んだ日本酒の種類は3000を超えるだろうし、大抵は記録にもとどめているから語るには困らないのだ。
 しかし私も悪名高き昭和53年世代ということで、もう48歳にもなってしまった。そのうえ糖尿病三代目というありがたくない遺伝因子にやられてしまって、血糖値を上げる日本酒は控えなければいけなくなった。まあもっとも全く飲んではいけないわけではないし、糖尿病の症状も安定しているので、相変わらず嗜むことはある。しかし昔のように一晩一升とか、三日間呑み続けとか、そういうことは一切やらなくなった。泥酔して喧嘩して回ったり、警察に怒られたり、ガードレールを投げたりという狼藉もはたらかなく⋯なってきたと思う。
 せっかくそれだけ経験値があるのだが、ちょっと都道府県ごとにお気に入りの銘柄の紹介と、個人的にどんな料理に合わせるのが好きか、少し語ってみようかと思うに至った。酒は飲んでも飲まれるなというが、飲まれてこそ酒のうまさがわかるというのは、私の座右の銘にしてもいいかもしれない。

 とりあえずどこから手を付けようかと思った時、このブログは名古屋作曲の会のブログであるわけだから、当然愛知県から始めるのが筋だろうと思ったので、愛知県の日本酒のお気に入りをいくつか紹介しつつ、アテは何がいいか、なんて感じで軽く語っていこうと思う。


1.長珍(長珍酒造)

長珍 生生熟成5055 純米無ろ過 生原酒

 まず第一に挙げるのは、愛知県津島市にある長珍酒造さんの造る「長珍」としたい。実は愛知県と言ったら何しろ一番好きな銘柄なのである。

 1868年創業、初代が津島街道で酒造りを再興したのが始まりで「提灯屋」といっていたものに「末永く珍重される酒」という願いを込めてこれを文字って名付けられたのだという。
 最近の酒は、香りよく、味わい軽く、フルーティという若者層への遡求を狙ったコンセプトのものが多い中、長珍は全く違う。その水はミネラルが多い硬水、さらに冬の「伊吹おろし」の寒さがもたらす力強く、重い酒であり、そのコンセプトは食中酒にして、熟成に強く、燗上がりする酒という、実に堂々たる構えである。そしてその言葉に偽りはなく、特に生原酒においてフルボディーで米のすべてを溶け込ませたような濃い酒、生のまま熟成させたことによる熟成感が相まって、正直言ってクセが強い。しかしこれが何故か抜群に美味い。

 生のまま燗酒にしてよし、その味は熱燗程度では壊れない。さらにその見た目も新聞紙を巻き付けた独特の出で立ちで、無骨そのものである。
 とはいえ、濃くてクセが強いだけではなく、その味のバランスは設計が行き届いており、甘みも酸もしっかり出しているからこそ、ただ濃くて辛いだけというものではなく、ものすごく深いコクと、男酒(硬水仕込みの酒)らしいキレの良さも併せ持つのだ。
 数あるラインナップで私が最も好きなのは「長珍 生生熟成5055 純米無ろ過 生原酒」、通称「5055」である。これは麹米と掛米の精米歩合がそれぞれ50%、55%であることに由来するネーミングだが、実は米も二種類使われている。兵庫県産山田錦が20%と、広島県産八反錦が80%である。この山田錦を加えたことにより、八反錦だけでは表現しにくい幅のある飲み口を実現している。

 そしてスペックは純米吟醸なのだが、そんなことを感じさせない強烈なボディと、パンチの強さ、さらに少しクセがあっても円熟味の良さを取るという頑なな思いが見え隠れする玄人好みの味わいに仕上がっている。

 日本酒の名前には色々とルールが有るのだが「生生」というのは、別にエロい話ではなく一切の火入れをしていないという意味だ。

 普通の日本酒は製造の過程で二回の火入れ作業がある。これは中に生きている酵母を死滅させて腐ることを防止したり、熟成感を出すためだったりなどいろいろな意味があるのだが、この火入れを、酒を絞ったときに一回、出荷前に一回行うのが基本である。前の一回だけなら「先生(さきなま)」とか「生詰」と呼び、後ろ一回だけなら「後生(あとなま)」とか「生貯蔵」と呼んだりする。どちらも行わないので「生生」というわけだ。
 更にこの酒は「原酒」である。原酒とは絞った酒に水を一切加えていない酒を指す。実はほとんどの酒は割水といって、水を加えて度数を15度程度にしているのだが、これは原酒なので18度と度数も高い。

 昔は三増酒などといって水で三倍に割り、味がなくなったので調味料や酸味料を加え、下がりすぎた度数を調整するために醸造用アルコールを添加するなどということを普通にしていたが、こういった酒は非常に美味しくない。そればかりか悪酔いのもとである。

 そこへいくとこの酒は原酒であると同時に純米づくり、つまりはアルコールの添加もしていない本当にそのままタンクで出来上がった酒そのままを、火入れもせずに瓶詰めし、そのまま生の状態で熟成させたという、手間暇と原価率の高い商品となっていて、この内容を一升で4300円ほどで発売していることには頭が下がる。

角煮

 おっと、つい語りすぎたが、この重い酒に何を合わせよう。―私は角煮が良いと思う。しっかり煮しめて濃い味の染み渡った角煮に辛子を乗せて頬張った後に、こいつを流し込めばもう体中に旨味の洪水が起きること間違いなしだ。もちろん温燗ぐらいに温めてもいい。生酒の燗はまたちょっと違う風味に仕上がり実に良い。まあお酒初心者や、カクテル大好きーな女子には絶対に勧めない男の一杯である。好きならいざなわれてみるがよろし。

 

2.白老(澤田酒造)

白老 純米酒 若水 六割五分磨き 槽場直汲生原酒

 愛知県常滑市に位置する澤田酒造は、こちらも創業の古い蔵元で実に1848年創業だという。会社組織化したのは昭和28年で、常滑焼の地で伝承と革新を掲げた現代的で、どこか無骨な酒造りをしている。

 実は2020年に澤田酒造は工場内での出火から麹室(酒の種である麹を作る部屋)を全焼してしまうという悲劇に見舞われた。麹室が燃えるというのはその部屋に済み続けてきた蔵付きの麹菌が死滅することを意味する。そして蔵を再建するときには、長年この蔵に住み着いてきた酵母菌もいなくなってしまったであろう。これは酒の味が根本的に変わってしまう実に大きな出来事なのだが、見事立ち直り、現在はその一度リセットされたことを前向きに捉え、新しいスタイルの酒造りにも乗り出すなど非常に活発な姿勢を示している。
 私がこの酒に出会ったのは火災前だった。一口飲んで「美味い」と声が出た。含み香(ふくみが―口に含んでから広がる香り)がよく、爽やかさと木香(きが―木のような香り)が懐かしさを醸し出していて、ピチピチとガスを含んだ発泡感が心地よい酒だった。何度もリピートしたが、そんな中で火災のニュースを聞いた。無論味が変わることはわかっていたが、応援の気持ちが強く、復活後すぐに買ってみた。たしかに味は変わった。少し硬さが増した。しかしクリアさが出た。木香がなくなった。しかしラムネのような香りが加わった。うん大丈夫。美味かった。
 そう、変わってしまった味をマイナスに捉えることなく、新しい酒造りのスタートとしたのだろう、その心意気だけで美味かった。辛味が増したのも、キレを良くしていているように感じるし、その頃から見ればすでに数年の時を経て最近はまた味もまとまってきているだろう。そういう再スタートの形に応援しようと思っていたこっちが勇気づけられた。思い出深い酒になって私の中に刻まれたのだった。
 さてラインナップから何を選ぼう。やはりこの酒は活性感が似合う。だから限定品だが「白老 純米酒 若水 六割五分磨き 槽場直汲生原酒」を選ぼうと思う。長い名前だが、まず純米酒であるということは、さっきも言った通りアルコールの添加がない。そして若水というのは米の名前である。それを65%精米にして仕込んだ酒を、生原酒のまま、槽場直汲(ふなばじかぐみ)、つまりタンクから直接便に詰めたというものだ。
 シュワっとした活性感は、決して細く繊細なわけではないが、新酒の荒々しさと、若水というやや硬めの味の米に、こちらも伊吹おろしの冷たい風に育てられたボディのしっかりした設計がよくあっている。含み香はややラムネのような、洋梨のような香りで、それほど強くなく、カッと強めのアルコール感が荒々しく喉に来る。これが良いのだ。非常に無骨で荒々しい、それこそがこの蔵の良さ、そして男気の味だと思うのだ。

炙り海苔とチーズ

 アテは何にしようか―常滑ならえびせんべい!と言いたいところだが、それよりさっと炙った鬼崎海苔はどうだろう。

 わさびやチーズを巻いてもいけてしまう。そう洋物にも合わせられるポテンシャルがあるのだ。海の香に男っぽさのある酒はよく合う。ロマン派のような合わせ方かもしれない。

 

3.奥(山崎合資会社)

奥 純米大吟醸原酒 夢山水二割二分

 最後は愛知県西尾市にある山崎合資会社の造る「奥」を挙げようと思う。しかも高級なやつ。四合瓶で6000円くらいする「奥 純米大吟醸原酒 夢山水二割二分」を選んでしまおうと思う。

 ちなみにもともとの銘柄は「尊皇(そんのう)」であり、鑑評会出品酒を中心とした高級酒は「幻々(げんげん)」、夢山水米を用いたシリーズは「奥」、さらにお燗酒用として「焚火」など様々な名前の酒を商品化している。

 夢山水は愛知県独自の酒造好適米で、あまり使っているところは多くないが、この蔵元は実にこの米をうまく扱う。おそらくかなり硬い米なのだろう。精白の低いものは少し硬さがあり、味乗りが悪い気がする。しかしこの高精白酒になると、しっとりとした旨味と透き通るようなクリアさ、そしてこの蔵元の特徴でもあるライチのような甘みのある酒質があまりにも美しい。
 もともと私の日本酒の師匠と言える一人の居酒屋主人が蒲郡の出身で、地元の酒だよと紹介してくれたのが出品酒の「幻々」だった。そちらは本当に酒の優等生そのものだったが、その造りの確かさに自分でも買ってみたくなって調べてみると、何やら銘柄を多く出していることがわかった。

 もともと多種類の米の品種にも興味があったので「奥 夢山水十割」を買ってみたのだが、このライチのような味わいにすっかりやられてしまった。年末には我が家に酒好きが集まって、年越し飲み会をするのが通例なのだが、ここでは必ず高級酒も買うことにしていて、そのときに思い切ってこの酒を選んでみた。なんとも黙ってしまうほどに美しい酒質、そして瑞々しさ。実に美味い。これだけの値段の価値は十分すぎるほどある。そればかりか私は「幻々」より「奥」のほうが更に好みだった。もちろんメンバーにも大好評、愛知県を代表する酒という認識で一致した。

焼き牡蠣

 しかし困るのはアテだ。とても繊細な酒だけに強すぎるものを当てると台無しになる。そこで押したいのが愛知県が誇る美味である「貝類」だ。しかも西尾市は牡蠣が有名ではないか。うなぎでは強い、牡蠣も生より焼き牡蠣にしたほうがより一層合わせやすい。旨味と甘露な一献が絶妙だ。冬だからこその贅沢な組み合わせかもしれない。


 愛知県にはまだまだ美味しい酒がある。一般には醸し人九平次などもよく知られているだろうし、菊鷹や孝の司、昨今人気の二兎など数え切れないが、その中でも特に自分の好みに刺さった3つを独断と偏見で紹介してみた。「酒場放浪記」ならぬ「家飲み放蕩記」である。たまにはこういう記事もいいんじゃないか。今日も酒が呼んでいる。