軟水です。
我々名作会、普段は各々作曲をしておりますが、時に「作詞」をすることもあります。
昔は「作詞家」という職業が確立されており、作詞と作曲は分離されていました。
しかし最近だと、一人で作詞も作曲もしてしまう、ということが多くなっていると思います。大変ですよねえ。
そこで今回は、既存曲の歌詞を分析し、それを自分自身の作詞に活かす方法を我流ながらまとめてみました。
歌詞は詩のサブジャンルでもありますから、詩の分析法とかぶっていたりする部分もあるかもしれませんが、怒らないで下さい。
歌詞分析の手順
分析の大きな手順を先に示しておくと、
1. ミクロ(単語~一文単位)
2. メゾ(セクション単位)
3. マクロ(曲全体)
の順番で見ると整理しやすいです。
それぞれの段階で何を見るのかを順に説明します。
(本記事ではまず1のみの解説になると思います)
実際の歌詞例として、次の2曲を適宜示していきます。
1. 若者のすべて/フジファブリック
フジファブリックによる邦ロック楽曲。
真夏のピークが去った
天気予報士がテレビで言ってた
それでもいまだに街は
落ち着かないような気がしている夕方5時のチャイムが
今日はなんだか胸に響いて
「運命」なんて便利なもので
ぼんやりさせて最後の花火に今年もなったな
何年経っても思い出してしまうな
ないかなないよな
きっとねいないよな
会ったら言えるかな
まぶた閉じて浮かべているよ(後略)
2. Cyber Kawaii Kunai Girl/yanagamiyuki
yanagamiyuki によるボカロ楽曲。全編ラップ調のHIPHOP曲。
私 サイバーかわいくないわ
1000年先 サイバーかわいくないおれたち
このまま死んだら怖いな
意外なタイミングでさ
誤解はもう誤解のまま私 サイバーかわいくないわ
ぴえんすぎ サイバーかわいくねーおれたち
このままいつか死んだら
死にきれないよな
転送先 まだ間に合っていないわ嵐の中 漕ぎ出したボート
片足入れたら 息したボーカロイド
また来年くらいのスパンでしか会えない人
かわいげのない姿 心持ちをどうしよう(後略)
1. ミクロ分析(単語~一文単位)
歌詞をミクロで見て、語彙や言い回し、修辞を分析します。
特に、以下の分析ポイントにおいて「不自然」な箇所をピックアップしていくと良いです。
また、そうした言葉使いがどのような意図で選択されたのか考えてみると、さらに深い分析が出来ます。(主に、詞のニュアンスを作る意図、メロディにリズムや語数を合わせる意図、韻を踏む意図などがあると思います。)
語彙
使われている単語の語彙が
・どんなジャンルに偏っているのか
・日本語なのか、他言語なのか
・簡単な語彙か、難しい語彙か
・使い古された語彙か、目新しい語彙か
を分析します。
最後の2つ、「語彙の難しさ」と「語彙の目新しさ」は似ているようで別の指標です。
例えば、「静寂」とか「随(まにま)に」、あとは「我爱你(ウォアイニー)」とか。これらは語彙としては難しいですが、歌詞の中の語彙としては相当使い古されています。
こうした"使い古された語彙"には、どうしても先入観が付いてまわり、ネガティブな印象を与えてしまう場合もある気がします。使う際は注意かも。
逆に、難しくないのに歌詞ではあまり使われていない語彙は、丁寧に分析しなければ取りこぼしてしまうので、見つけたらピックアップすると良いかも。もちろん自分が目指す歌詞の理想によりますが。そういった語彙は
・固有名詞
・特定の界隈や用途、ジャンルでは珍しくない語彙
・一時的な流行語
などであることが多いです。
例:若者のすべて/フジファブリック
真夏のピークが去った
天気予報士がテレビで言ってた
それでもいまだに街は
落ち着かないような気がしている
あまり突飛な語彙は使われておらず、むしろ平易で一般的な語彙で構成しようという意図すら感じます。
「天気予報士」がやや珍しいか。「天気予報」のほうが歌詞ではよく見がち。職業名を歌詞で使ってもいいんだな、という知見を得ます。
例:Cyber Kawaii Kunai Girl/yanagamiyuki
私 サイバーかわいくないわ
ぴえんすぎ サイバーかわいくねーおれたち
曲名にもある「サイバーかわいい」という言葉が当たり前の如く使われています。
こうした奇妙な造語を曲のキャッチコピーとして何度も使う、というのも一つの作詞の定石かと思います。
若者言葉の「ぴえん」も特徴的な語彙としてピックアップ出来るでしょう。
助詞
ありきたりな語彙で出来た詞でも、助詞次第で大きく印象が変わる場合があります。
・が/は…「日が昇る」/「日は昇る」
・が/の…「君が作った歌」/「君の作った歌」
・に/へ…「外に行こう」/「外へ行こう」
などは、どちらも文章として成立していますが、微妙なニュアンスの違いを作っています。グッとくる助詞の使い方はピックアップしましょう。
また、特定のアーティストの作風を真似したい場合は、どんな助詞が多く使われているか、といった頻度分析も行うと良いでしょう(助詞以外も)。
例:若者のすべて/フジファブリック
真夏のピークが去った
天気予報士がテレビで言ってた
それでもいまだに街は
落ち着かないような気がしている
・「は」は述語を強調し、既知の情報を伝える
・「が」は主語を強調し、新情報を伝える
説明されることが多いですが、これも使用する時々でまちまちなので、適宜当てはめて実験してみるとイメージが深まります。
「真夏のピークは去った」「いまだに街が落ち着かないような」とか、言い換えてみるとどのように印象が変化するか検証してみましょう。
私個人的には、前半二文で「が」を使うことで淡々とした状況説明のようなニュアンスが生まれていて、「は」を使った後半の方にものものしい空気感が醸成されているように感じました。
語調・言い回し・語尾
・文語/口語
・い抜き言葉…「歌っている」→「歌ってる」(文語/口語の一指標)
・方言
・典型/非典型の言い回し
・特徴的な語尾…ぜ・ね・わ・さ など
などがあります。特に口語~文語ははっきり区別されるというより、グラデーション的であることも多いです。
「してしまっている」⇔「してしまってる」⇔「しちゃってる」
みたいな感じで。
「ぜ」などの特徴的な語尾は、キャラ付けとして曲全体一貫して用いられる場合と、ニュアンスを変えるために局所的に用いられる場合があります。
例:若者のすべて/フジファブリック
真夏のピークが去った
天気予報士がテレビで言ってた
それでもいまだに街は
落ち着かないような気がしている
「言ってた」のみ、い抜き言葉になっています。局所的にラフな言い回しを使うことで、空気感を調整しています。前半は淡々と状況を語るが、後半でグッと自分自身の内面の語りに入る感じがします。
例:Cyber Kawaii Kunai Girl/yanagamiyuki
私 サイバーかわいくないわ
1000年先 サイバーかわいくないおれたち
このまま死んだら怖いな
意外なタイミングでさ
誤解はもう誤解のまま
一貫してラフな語調。「わ」「な」「さ」といった語尾も見られます。
比喩
これは巷の作詞法でもよく言われていますね。
・比喩の種類
・比喩の目新しさ
・比喩とその対象の文章における関係性
などに注目すると良いでしょう。
例:Cyber Kawaii Kunai Girl/yanagamiyuki
また来年くらいのスパンでしか会えない人
これもひとつの比喩で間違いないと思いますが。
低頻度であることを「また来年 くらい」と表現してます。
こういうの真似したいですよね。メモっておきましょう。
省略
歌詞では、特有の「省略」が頻出します。よくある省略として
・「私」の省略
・述語の省略
・目的語の省略
・助詞の省略
など、他にも結構何でも省略されます。省略の目的は主に2つで、
・省略可能な自明な語を抜いて、メロディやリズムに合わせる
・省略した部分を不明にすることで印象をぼやけさせる
が多いと思います。
例:若者のすべて/フジファブリック
真夏のピークが去った
天気予報士がテレビで(真夏のピークが去ったと)言ってた
それでもいまだに街は
落ち着かないような気が(僕は)している
前半は、天気予報士が「真夏のピークが去った」と言ったという、自明な部分を省略しています。これにより、「真夏のピークが去った」という事象に、天気予報士がそう行ってたよ、と補足するような構造が作られています。
後半には「僕」という主語が隠されています。よくある手法ではあるのですが、『若者のすべて』では、自分自身を指し示す主語を「ここぞ」という箇所のみに制限しています。自分自身の心情を多く歌った曲であるにも関わらず、一人称が全体の中で2回しか出てきません。
例:Cyber Kawaii Kunai Girl/yanagamiyuki
嵐の中 漕ぎ出したボート
片足入れたら 息したボーカロイド
また来年くらいのスパンでしか会えない人
かわいげのない姿 心持ちをどうしよう
特にラップ調の曲だと当たり前のように使われる手法ですが、断片的な名詞の羅列で詞を構成するパターンが見られます。のちの「語順」で扱った方が良いような倒置や体言止めによって長い名詞句を作る箇所もあります。(「嵐の中 漕ぎ出したボート」)
実際の作詞では、メロディやリズムに合わせるために適宜省略を用いて試行錯誤しているうちに、ニュアンスとしても美しい詞が出来ていくということが多いと思います。
語順
倒置法・体言止めも含まれます。これらは比較的見つけやすいですが、それ以外にも、微妙な語順の工夫でニュアンスを作っている歌詞は多くあります。
例:若者のすべて/フジファブリック
最後の花火に今年もなったな
伝説の歌詞です。
文章として最も自然なのは「今年も最後の花火になったな」ですが、最も強調されるべき「最後の」を最初に置くことで(ややこしい)、切ない印象を最大限に引き出しています。
反復
歌詞では頻出の技法。使い古されているとも言えます。
何度も繰り返すことで耳に残るようにしたり、リズムの良さを作ったりする狙いがありがち。
例:若者のすべて/フジファブリック
ないかな ないよな
きっとね いないよな
単純な反復ではなく、「ないかな」「ないよな」「いないよな」と、変化させながらの反復。諦められず、でも次第に諦めていく様子がきれいに表現されています。
フジファブリックって、ひょっとして、すごいですか。
意味的接続
文法的には普通だけど、奇妙な組み合わせの単語や言葉同士が接続されている、という場合。
あまり無い接続を使うことで新しいニュアンスを作り出す意図があるのかも。
語彙が簡単かつ使い古されていたとしても、使う場所次第で目新しくなることもあります。
また、暗喩であったり、大きな省略が隠れていたりする場合もあります。
例:エイリアンズ/KIRINJI
バイパスの澄んだ空気と 僕の町
今まで例示してきた2曲に良い例が無かったので、3曲目を持ってきてしまいました。
「バイパスの澄んだ空気」と「僕の町」が「と」で並列されていますが、並列するにはあまりにもモノが違いすぎるゆえに、違和感が生まれています。
どちらも「〇〇の〇〇」という形ですが、一方は「バイパスの…」他方は「…の町」と、場所に関する共通ワードの位置もずらされていたりしていて、凝った言葉選びだなと感じます。
実際に作詞してみる
実際の作詞では、分析によって得た知見を活かしながら、自分の理想とするニュアンスに詞を近づけていく意識が大切です。
作詞例として、私自身が作詞した曲を1つ示します。
作詞例:霊台/軟水
幽霊
海の約束や、いつかの嘘や嫌だった顔が
薄れてゆく
夜明けの電灯の揺れ
あなたと居ない夜がすぐ来る
幽霊
僕は今でも幽霊
そばでパン選んだりしてる、忘れていたら
さようならと言う
全体的に、あまり難しい言葉を使わないように気を付けました。(その方が良いと今回の私が思ったからです。)
幽霊
海の約束や、いつかの嘘や嫌だった顔が
薄れてゆく
前半。「幽霊」が何なのか、何をしたのか、一切の説明を省き、ただ「幽霊」と提示してみました。
二行目は最初もっと長かったのですが、作っていたメロディーの音数に全然当てはまらず、大幅な省略をしました。ここを省略したらニュアンスがどう変わるか、といろいろ試しながら、です。
「薄れてゆく」の「薄れる」の言葉選びも慎重に行いました。
夜明けの電灯の揺れ
あなたと居ない夜がすぐ来る
中間部。「夜明け」って個人的にはポジティブな文脈で使われるイメージがありますが、ここでは敢えて「電灯」に引っ掛ける修飾として使いました。
前半の「薄れる」ニュアンスを引き継いだ表現です。(夜道を照らす電灯は、夜明けになるとぼんやりしてきますよね)
また2行目は最初「あなたの居ない夜が…」だったのを「あなたといない夜が…」に変えました。ここら辺はまさに、自分が目指すニュアンスによって決定すればよいです。
幽霊
僕は今でも幽霊
そばでパン選んだりしてる、忘れていたら
さようならと言う
後半。前半のフォーマットを引き継いでいます。
3行目「パン選んだりしてる」の言い回しには極めて気を使いました。急に俗世的な表現を入れることで特有のニュアンスを出す、しっかり狙って書きました。
最後の最後は「言う」というベタベタの動詞を敢えて選択してみたら、空虚な余韻が残ってグッドでした。
関係ないですが、「言う」を歌う時に「ゆう」になってしまうという性質がとても好きです。
続き
2. メゾ(セクション単位)
3. マクロ(曲全体)
の手順を次回以降で引き続き解説しようと思っています。今回はこの辺で。