名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

電子化の時代、楽譜店って行く意味あるの?

会の名前にそぐわず大阪在住の弾け弾です。

太陽の塔とミャクミャクが並ぶ万博記念公園
先月当会が主催した《失われた音楽》ピアノコンサートでは、日本の演奏会で比較的演奏されることの少ない、日本の現代作曲家の作品を取り上げました。
(と開催者目線の書き方をしながら、こと私に関しては運営チームではなかったので、ただただお客さんとして聴きにいっただけなのですがそれはさておき)

曲目を聴いていると、クラシック音楽を作り上げてきた昔の作曲家に感じる畏敬とはまた違った感慨があります。
そうしたクラシック音楽の系譜にある現代の作曲家が、どんな音楽表現をしているのかというのが、同時代・近い時代を生きる私たちにとってより強い実感で伝わってくる気がします。
同じ国で生まれた作曲家の作品であればなおさらですね。
そしてその実感は、曲から聴こえてくる音だけでなく、楽譜から見えてくることでもあります。

楽譜の入手方法としては、楽譜を販売している書店や楽器店に赴き楽譜を入手する方法、
もしくはネット上で出版社から楽譜を購入して発送してもらったり、電子版をダウンロードするといった方法があります。
作曲者の死後70年経過している作品であれば、だれでも自由に楽譜を公開できるので、IMSLPやPiascoreから楽譜を落とすことができます。

オンラインでの入手方法だと電子版の楽譜を手に入れることができて、 紙の楽譜に比べて物理的な重さがなく、書き込みも修正しやすいなど普段使いに圧倒的に便利なため私は好んで活用しています。
それどころか慣れると紙の楽譜はもう場所も取るわ、ページが勝手にめくれるわで今までなんて不便なものを使っていたのかという気持ちになります。

それで私はもう長年楽譜屋に足を運ぶということは発想から消えていました。
でも、今回のコンサートみたいに演奏機会の少ないレアな曲をディグろうという気になると困ることになります。
明確にこの楽譜が欲しいと決まっていれば、ネット上の楽譜販売ページで検索すればいいけど、 知らない曲に興味を持とうと思っても販売ページだけの情報だと取っ掛かりが無いものです。

そこで思い出しました。視界いっぱいに並ぶ楽譜を見ることのできる実店舗って宝の山なんじゃないか?
今回は、大阪在住の私が、近場で現代曲の楽譜が売られているスポットとして大阪の「ササヤ書店」、神戸の「神戸楽譜」に行ってみた感想をお話しします。

ササヤ書店

こちらは、西日本最大規模を誇る楽譜店です。
実はこのお店があることは、コンサート後の座談会の中で他のお客さんから聞いて知りました。大阪にいる私が知らなくて、名古屋で教えてもらうなんて不思議な話です。(それくらい座談会は芸術に対して深い知識や実績を持つ方で溢れていました。)
まあ私が住んでいるのは北摂で、ササヤ書店があるのは大阪駅から南側にある北新地駅に向かって歩いた大阪駅前第二ビルの中にひっそりと佇んでいるので、普通に生きててもまず気づかない隠し要素です。その中でも超ラッキーな隠し要素!一歩足を踏み入れるともうその先は楽譜の海です。
ササヤ書店は輸入楽譜に力を入れているお店で、Schott社の楽譜がアルファベット順に並ぶ作曲家の棚に遍在していました。Schott社、カプースチンの楽譜を買う時くらいしか使ってなかったけど、こんなに出してるのか・・・と驚き。
※私がピアノ方面にしか明るくないので、ピアノ曲メインの紹介になっているのはご了承ください。

後、ショパンの楽譜が多すぎる。私が普段使っているパデレフスキ版の他に、ウィーン原典版、エキエル版、全音、春秋社、などなど、全部合わせると200冊近いでしょうか。大変風格を持って並んでおりました。
現代曲に関してもカプースチンはもちろん、ワイセンベルク、ローゼンブラットなど私の推し作曲家の作品を見ることができました。
また、海外の作品ばかりかと思いきや、邦人ピアノ作品についても専用の区画があり、カワイ出版、全音、音楽之友社、黄色い表紙のSchott社など、合わせて50冊程充実しておりました。
皆さんも大阪駅を訪れる際は、梅田ダンジョンを探検しながら、経験値稼ぎに隠し要素を探してみてください。

推しのローゼンブラット(左)とワイセンベルク(右)の楽譜。ワイセンベルクの表紙絵は彼自身が描いたもので、かわいらしいですねー。ジャケ買いです!

神戸楽譜

こちらは阪急神戸三宮駅やJR三ノ宮駅の北側で信号待ちをしていると、自然と円柱状の看板が目に入るためとっても見つけやすいです!今までも数回訪れたことはありました。
ただピアノ曲よりは、弦・管の曲がメインなので普段から頻繁に行くような場所ではありませんでした。
しかしいざ改めて入ってみると、出版社の大家であるヘンレ版の楽譜が存在感を放ちながらも、
カプースチンも置いているし、ローゼンブラットに関しては意外や意外(?)、ササヤ書店よりレパートリーが豊富にありました。
昔訪れたときは無かった気がするが、やはりラインナップは更新されていくものなんですね。
ここでは法人作品は海外作品と区別なく並べられていて、主な版元は緑の表紙の国際芸術連盟でした。

そして神戸楽譜の面白いのは、楽譜店であると同時に出版社でもあるところです。
公式サイトの出版情報で気になった徳永秀則の「パウル・クレーのタブローによるピアノのための三つの断章」を手に取ってみると、中身は何と手書きの譜面。ということはおそらく自筆譜でしょう。貴重ですね~。
ちなみに徳永秀則という方、何者なのかと言うと、店主の先生だったということです。そういう繋がりが見えるのも楽しみの一つですね。
皆さんも三宮を訪れる際は、あ~、あの看板か!と思ってください。

神戸楽譜出版の徳永秀則の楽譜。変拍子と連符による複雑なリズムが紡がれています。

楽譜店の魅力とは

ということで、2店舗巡ってきたわけですが、
実際に行ってみた感想としては見ず知らずの作者の遍歴や楽曲解説が興味の入り口になったり、動画とは違って自分の脳内で音を鳴らす必要があるため、楽譜の指示を注意深く見定めて味わう楽しみがあります。
相当音楽に通じている人でないと、リアルタイムに実際に演奏される音楽を再現するのは難しいでしょう。
でもその必要はなくて、断片的にでも楽譜をたどっていくことで、聞き流しでは気づけなかった作曲家の指示を見つけたり、気に入った個所を何度も反芻することでより深く音楽に没頭できます。

練習して楽曲を弾けるようになるための利便性やコスパを求めると、やっぱり紙の楽譜を買うのはハードルは高いかもしれません。
紙の楽譜の魅力は練習用というよりは、読み物として楽しむだったり、コレクションとして楽しむ、そういう方向性に求めても良いでしょう。
そんなこと言ってるうちに、直近でGoogleドライブのドキュメントキャプチャが爆速になったし、紙で買って電子化という荒業も全然やりやすくなってます。
そして何より、月並みではありますがこういった楽譜を世界各地から集めて知的好奇心を満たす場所を提供してくれる従業員の方々への応援・感謝として、これからも利用していければと思います。

また実店舗で楽譜を探すのは、一周回って現代のスキームに合っていると言うこともできます。
というのもちょっと前までは、ネットで情報収集といえば、検索エンジンからキーワード検索でした。
そうすると全く関わってこなかった分野を知りたいと思っても、用語が一つも分からないから検索エンジンの前で手が止まってしまう、なんてこともありました。

そんな時代が終わって今は、生成AIに日常会話の文でこの分野がどうなってるのか教えて!って投げればそれなりの回答が返ってきます。
回答の情報は自分で吟味していく必要がありますが、大局観を得るのは一瞬で済むのです。
なんて便利な時代になったのでしょう!

これってよくよく考えると、書店に行って得られるものとよく似ているんですよね。
こんな出版社があって、こんな作曲家がいて、こんな音楽ジャンルの曲を書いてるんだ・・・
一度訪れるだけで全体が見渡せる素晴らしさは、この加速化していく時代にみんなが求めていることだと考えました。
なんか大きい話になりかけていますが、何が言いたいかと言うと、
こういう専門的な場所は敷居が高いなと思っている、一般人にこそ楽譜店の存在意義があるのだということです。
私自身、楽譜店で見たこの作曲家のこの音符、すげ~!みたいな話はしてません。わ~ショパンがいっぱいいる~ってほんとそれだけです。
というかお店でパラパラ見ただけでそこまで読み取れたら凄すぎで、そんな専門的なことは買った後の話です。
楽譜の量だけで気圧されてしまうし、店主とお客さんはなんか難しい話してるし・・・最初は入りづらい雰囲気を感じることもあるでしょう。
しかし楽譜店はそういった我々にこそ門戸を開いて待ってくれているんですね。皆で利用していきましょう!

※サムネイルに使用している店内写真は、ササヤ書店様、神戸楽譜様から撮影・ブログ掲載許可をいただいたものです。