名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

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テンションコードを図式化したらこうなった 前編

弾け弾です。突然ですが皆さんは、音楽におけるテンションって何だとお考えですか?

手元にあった書籍を見ると「ハーモニーに緊張感を与える」と書かれています。

でも、音楽理論を勉強しようと思った時に、心理的な説明だけでは物足りない、もっと原理を知りたいと感じる人が私を含めているはずです。

それに何より、13のテンションと\flat13のテンションを比べた時、本番前の「上手くいくかな……」というネガティブな緊張感はどっちかと聞かれたら、たいていの人は\flat13を選ぶと思います。前者はもう「テンション上がってきた!」って感じの音で、日本語の「緊張感」のニュアンスとは遠いです。「緊張感」という言葉が持つ意味の曖昧さで、うまくごまかされている気分になります。

実際テンションコードの語源が何なのかは調べてもよくわからなかったのですが、私なりの結論は、結局直訳が一番わかりやすいということです。

テンションって何?それは「引っ張られること」。何が引っ張られる?コード=です。

ギターのチョーキング奏法を思い描いてみてください。弦を引っ張ると、音が上がりますよね。テンションとは、「弦が引っ張られて音が高くなる」それだけの事だと考えましょう。

参考動画:《ギターテクニック》チョーキングのやり方を解説してみた!

テンションの説明として、実際に使われるテンションを列挙していくという方法もあります。

「テンションとは、9と11と13があって、9には\flat\natural\sharpがあって、11には\natural\sharpがあって、13には\flat\naturalがあります。縦軸に数字、横軸に臨時記号で表を作るとこうなります。」

 \flat13 13
 11 \sharp11
 \flat9 9 \sharp9

これがテンションの全貌だと言われれば一見整理された形であり納得した気になります。でも、弦が引っ張られたものがテンションだと考えると、この整理の仕方には不都合もあります。引っ張られた状態があるなら、当然自然長(元の位置)もあるわけで、それを書き入れると

 5 \flat13 13
 3 11 \sharp11
 1 \flat9 9 \sharp9

元の位置がガタガタ。綺麗に並ばないのです。

今回の記事は、この改めて考えると難しいテンションコードをもっと原理に基づいて整理してみよう。そして、テンションコードの地図、テンションマップを作っていこうという回になります。

独自研究かつ全てを十分に説明できる状態ではないですが、いったん形になったので提案しつつ、図式化の中で私の過去記事の内容もおさらいできればと思います。 そして後編では、作ったテンションマップをどう使うのかについて詳らかにしていく予定です。

テンションマップを描こう

トライアド

テンションの前にまずは、自然長の弦から奏られる原位音が何より肝心要。3度ずつ垂直に積み重ねます。

 5
 3
 1

このそれぞれの段が一本の弦になっていて、引っ張ることで横に使える音を増やしていきます。

ナチュラルテンション

それではいよいよテンションを加えていきましょう。トライアドの各弦が緊張を持つことで、全音高くなった音を追加します。これらの9,13はジャズの理論でナチュラルテンションと呼ばれます。\sharp11だけはオルタードテンションですが、テンションマップではナチュラルテンションと同じ列に並びます。

 513
 3\sharp11
 19

オルタードテンション

トライアドの各弦が半分の緊張を持ち、半音上の高さになるとオルタードテンションとなります。

ここでも、一般的にはオルタードに属さない\natural11が含まれていることに注意してください。

 5\flat1313
 3\natural11\sharp11
 1\flat99

 \sharp9th

一応これで \sharp9以外のテンションは綺麗に並びました。 最後に \sharp9を含めたいのですが、

 5\flat1313
 3\natural11\sharp11
 1\flat99\sharp9

一つだけ突き出していて、収まりが悪いですね。 何故こうなってしまうのかというと、私の過去記事から重ねて述べている通り \sharp9は他のテンションとは性質が違うのです。

nu-composers.hateblo.jp

他のテンションは、自然長から音階の一つ隣の音に転位した「一次転位音」の性質を持っているのに対し、 \sharp9だけは2つ動いた「二次転位音」からできたテンションなのです。だから \sharp9がハブられているのは残当です。 ここで自然長自体についても、自然長から音階0個分動いた音「零次転位音」と見なして表を整理してみます。 \sharp9 \flat17になっていますが、この2つは過去記事で書いた通り、同じ意味です。

零次 一次 二次
 5
 3
 1
\flat1313
\natural11\sharp11
\flat99
\flat17

この通り、中央2列が一次転位音、左右に零次・二次とくっきり分かれているのです。 これで一般的に使われるテンションがすべて出そろいました。シンプルで、だんだんこの表の便利さが見えてきました。

17th

次は、同じく私の過去記事に登場した\natural17thをテンションマップに組み込みます。 これも二次転位音なので、\flat17thの隣に置いておきます。

 5\flat1313
 3\natural11\sharp11
 1\flat99\flat1717

マイナー、ディミニッシュ

一次転位音と同じく二次転位音も二列になりました。じゃあ零次転位音だけ一列なのがむしろ変ですよね。もう見出しにあるのでバレバレですが、テンションではないあいつらが表に入ってきます。

 \flat5 5\flat1313
 \flat3 3\natural11\sharp11
 1\flat99\flat1717

これですべての次数が2列になりました。1度だけはマイナーやディミニッシュに当たる音がありませんので不使用とします。

テンションの表を作ろうと思ったら、あるはずなのに無い「空白」が気になって、探してみると確かにそれに相当する音があった。まるでメンデレーエフ周期表みたいで面白いですね。 さらにsus4を[tex;\natural11]、augを\flat13と同一視するなどしていけば、この表はテンションに限らず色んなコードを表せるという可能性も見えてきます。

また、各次数の2列の中では、左側が暗い、右側が明るいとされる音が配置される傾向が共通していることにも注目です。実は各次数の右側は、これも過去記事で解説した13次までの自然倍音列の十二平均律近似に現れる音、左側はそれより少し低い音になっています。

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どちらかといえば右側が「安定」で、左側が中途半端で「不安定」な響きになっているのです。

弦は、チョーキングして高くするのは簡単でも、低くするのは難しいです。もし低いという状況が生まれたなら、それは経年劣化で弛緩したものです。マイナーコードや \flat13を人が悲しい、怖いと思うのは、このような古びて腐ったものに対する生理的な嫌悪感を思い浮かべているのかもしれませんね。

テンションマップ各部分の名称

表の中身が増えてきたので、各部分の名称を決めておきます。一旦、この図式化シリーズ内での便宜上の呼び方とします。

まず列に関しては既に決めている通り左2列を「零次」の列、中央2列を「一次」の列、右2列を「二次」の列とし、それら2列を細分化して、左側を「」の列、右側を「」の列とします。これは弦の弛緩と緊張から来ていまして、右側は緊張というよりは「安定」なのですが、意味的な対比とカン-キンの語呂が良いのでこのようにしました。

続いて行については、一度、三度、五度でも分かりそうですが、「一弦」、「三弦」、「五弦」とします。度数ではなく行全体の、一本の弦から変位した音の集まりであることを明確にするためです。 そして各マスに対しては、行と列の組み合わせで「○弦-○次-(緊/緩)」のように表すことにします。

零次一次二次
五弦 \flat5 5\flat1313
三弦 \flat3 3\natural11\sharp11
一弦 1\flat99\flat1717

セブンス

テンションコード以外も表したくなると、まだセブンスが表に出てきていなかったので、「七弦」の行を追加することを考えます。ただ難しいのは、マイナーセブンス、メジャーセブンス、ディミニッシュセブンスの3種類をどのように配置したらよいかという問題です。

そこでまた倍音列の考え方を使えば、自然長の位置には第7倍音を近似したマイナーセブンス、一次の列には第15倍音を近似したメジャーセブンスを置くことになります。ところが一次の枠は2列あるのに、マイナーセブンスとメジャーセブンスの間には12平均律の音がありません。そこでここでは、メジャーセブンスを2枠分使って置くことにします。 そしてディミニッシュセブンスはマイナーセブンスの左側、零次-緩列に置くことにします。これで七弦もセブンスで使われる三種類を当てはめることができました。

 \mathrm{d}7 7\mathrm{M}7
 \flat5 5\flat1313
 \flat3 3\natural11\sharp11
 1\flat99\flat1717

19th、21st

いよいよ最後のピースです。 今二次の列が寂しいですよね。そこにも実はテンションが隠されているとしたら…。

倍音列の考え方を使うと、零次の列は[8,10,12,14]、一次の列は[9,11,13,15]倍音の近似です。順当にいけば二次の列は[10,12,14,16]倍音が当てはまるはずで、一弦の17は10(=5×2)倍音だから実際そうなっていますね。三弦、五弦に関しては、長5度・短7度が該当し、一次-緊の音から半音上がっただけなので、七弦-一次のM7と同じく2列にまたがって配置します。これは前回記事で紹介した19th, 21stの二次転位音がちょうど対応します。

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七弦-二次の16倍音は基音とオクターブの関係になります。ただ実際はルートの音と同一視され、セブンスのテンションと聴くことは難しいため不使用とします。

それではようやく完成したテンションマップを見ていただきましょう!

零次一次二次
七弦 \mathrm{d}7 7\mathrm{M}7
五弦 \flat5 5\flat131321
三弦 \flat3 3\natural11\sharp1119
一弦 1\flat99\flat1717

まとめ

今回はテンションの原理を探り、全貌を図式化しました。テンションを「弦が引っ張られて音が高く」なったものとして、コードが弦の緊張と弛緩から出来ていると捉えると、それはテンション以外のコードにも敷衍できるスキームであり、さらにマイナー・メジャーに芽生える感情をも示唆しました。そうして出来た図はもはやテンションコードだけの地図ではないとも言えますが、弦の緊張度合いを一望できる図という意味合いで「テンションマップ」という名称は引き続き使っていきます。またテンションが「転位」で類別できることは過去記事から述べていましたが、テンションマップで列毎に分かれたことで視覚的にもそれが実感できました。

表の見え方としては、弦の変位だけでなく転位音・倍音列の考え方も入ったことで、結局は不使用箇所あり、セル結合ありのちょっとややこしいとも思える表になった感もあります。テンションコードを簡単に覚えられるかも、と思って読んでくださった方には期待外れだったかもしれません。

しかしそうはいっても現時点のテンションマップは実用に値します。後編ではそれを主張していきます。お楽しみに!