名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

「引用」と「サンプリング」、語源的に正しく説明できますか?

なんだかんだ地元・愛知が恋しいSouthernです。

 

突然ですが、皆さまはこちらのCMをご存じでしょうか?

 

 

こちらの「HASSIN」*1というのは、愛知県大府市に店舗を置く宝石店です。HASSINのこのCMは少なくとも中京圏では絶大な知名度をもっており、またそれが故に使用されている楽曲について「タイトルはわからないけど知ってる」人も多いことでしょう。

 

当ブログを訪れる皆さまへは説明不要かと存じますが、こちらに使われている曲はかのモーツァルトが作曲した交響曲第25番』の第一楽章です。

 

 

モーツァルト交響曲では数少ない短調曲のようで、CMでは冒頭の似たフレーズを繰り返し使用しているため、より耳に残りやすくなっているように思います。
CM中の台本も「ROLEX・カルティエ正規販売店」のアピールに終始しており、簡潔で飾り気のない、わかりやすいものになっています。

 

……とここまで調べて書いてきましたが、
この楽曲がかつて使われていない時期があったことをご存じの方はいますでしょうか?

 

 

交響曲第25番」かと思いきや……?


上記のCMは2023年12月の投稿で、少なくともその前後には使われていたものと類推されます。なにぶんテレビは持っていないので類推しか出来ません。

 

それに対し、2018年に使われていたCMの内容はこちら。

 

 

いや『交響曲第25番』が使われてんじゃん。

 

……と思われた方もいるかもしれませんが、こちらの2018年版に使われているのは、ズバリ『HASSIN』という曲
ギタリストの山下俊輔氏*2が「作曲」したとされています。

 

 

いや『交響曲第25番』が使われてんじゃん。

 

……と突っ込みを入れたくなった私ですが、まあちょっと待てよ。

一度冷静になって楽曲について調べてみました。すると、こんな文言が。

 

愛知県大府市にある宝石店「宝石の八神」が長きにわたりこの曲をCMで使用していた。2021年現在は、この曲を引用した「HASSIN」なる楽曲がCMに使用されている。

交響曲第25番 (モーツァルト) - Wikipedia より引用(要出典)

 

出典がなかったので信憑性は極めて低いですが……これが正しいという前提に立てば、著作権がとっくに切れた『交響曲第25番』の一部を使って作られた曲、ということで納得できる部分もあります。

 

 

「サンプリング」っていうのは……


話は変わりまして、皆さまはこちらの曲をご存じでしょうか?

 

 

2024年8月に公開された、Snow Manの楽曲「EMPIRE」。
冒頭から曲中まで交響曲第25番」のフレーズが組み込まれているSnow Manのチャンネル内でもかなり再生数が回っている曲です。ジャニーズに詳しくなくてこの程度しか書けずすみませんってかもうジャニーズとも言わないんですよね確か

 

上記経緯により中京圏のファンには特に大ウケしたという噂もあるこちらの曲は、調べてみるとこんな記述がみられました。

 

EMPIRE」は誰もが聴いたことのあるモーツァルトの名曲交響曲第25番」を大胆にサンプリングし、

Snow Man、新アルバムリード曲「EMPIRE」はスペイン・バルセロナでMV撮影 | オリコンニュース(ORICON NEWS) より引用

 

最新曲で特に注目されているのは、Snow Manの新たな試みとしてクラシックの名曲をサンプリングした点だ。

Snow Man「EMPIRE」、名曲に飲み込まれない存在感 クラシックサンプリングが与える効果を考察 - Real Sound|リアルサウンド より引用

 

様々な媒体で、サンプリングという表現に終始しているようです。

 

と、ここまでざっと調べてみましたが……正直なところ、上記例においてはこの「引用」と「サンプリング」は意味を取り違えられているのではないか? と思いました。

 

実際にはどういう行為なの?


正しく出来ているか自信はないですが……いま私が執筆している記事でもやっているように、文献において引用をする場合、それをしたことを明白に区別しないといけないということになっています。

 

対して「サンプリング」というのがいまいちピンとこなかったため調べてみると、こんな行為のようです。

 

録音された音声を数値化し,それを電気・電子楽器によって再現すること,またポピュラー音楽などで楽曲の素材として利用することをいう。

サンプリングとは? 意味や使い方 - コトバンク より引用

 

つまり今回の例で言えば、

  • 『HASSIN』はオリジナルそのままの楽器構成ではないので「サンプリング」
  • EMPIRE』は楽曲がオリジナルに近いので「引用」

と言えるんじゃないか? ということになります。

 

裏付けではないですが、米津玄師の楽曲『KICK BACK』の歌詞に登場する「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」というワードも、CD付属の歌詞カードに「『そうだ!We're ALIVE』からのサンプリング」と明記されています。あれだけ原型がなくなっている以上、表記はこれで正しいという認識です。

 

 

おわりに


なにも今回提示した事例に限った話ではなく、引用などの行為が本来使われる分野を超えて使われる際に意味が簡略化されるというのは日本語ではたびたび起こることと私は認識しています。
文献と音楽のようにそもそもの前提が違っていることも関係するかもしれませんが、それでもおおむね定められた意味から外れることはないよう、クリエイターの端くれたる私自身注意して書いていこうと、一層気を引き締めて参ります。それでも間違いがありましたらこっそり教えてください。

 

 

最後に余談ですが、『EMPIRE』ってずいぶん格好良いタイトルだなぁと思いながらネット記事を眺めていると、こんな記述を見つけました。

 

クラシックのサンプリングを取り入れ、ラップパートをふんだんに用いた楽曲で示されているのは、Snow Manというグループのアティチュード。暗闇を抜けた先に広がる光に向かって自らを奮い立たせ、EMPIRE=帝国を築くという決意や覚悟が歌われている。

Snow Man「EMPIRE」MVが1000万回再生突破 “究極の映え”を更新、壮大な映像は成功の証に - Real Sound|リアルサウンド より引用

 

ここまでしっかりと歌いたい背景を定めているのに、引用元を絶対音楽にしたのは何故なんでしょうね……。
まあ絶対音楽は受け取る側次第、と私は思いますし、これこそ深くは考えないようにしておきますね。

 

それではまたいつか。

 

 

 

*1:後述のCMなどでは「八神」とも書いてあり勘違いしていましたが、店舗名は「HASSIN」が正式なもののようです。マジか、知らんかった……

*2:高知県出身、桐朋学園大卒で、大府市観光大使もされているそうです。どういった縁なのか非常に気になります。