なんすいです。
今夏、東方projectの新作「東方錦上京」の製品版が発売されました。

こちら、この水色の絨毯みたいな背景は、今流行りの「生成AI」を使って作られています。
今作はまさに、「AI」との対峙が一つの大きなコンセプトになっており、そのため背景テクスチャなどで積極的に生成AIが使われているようです。
作者のZUN氏曰く「商業、技術の行き着く先はAI」であるとし、今回は「反・技術」を標榜した創作になったと述べています。
と、今回は作品自体かなり気合の入ったものになっており、めちゃ面白いです(ぜひ遊んでみて下さい)。
さて、今作はBGMにおいても、やや独特なテイストに仕上がっています。
以前、前作「東方獣王園」が発売される際に、最近の東方曲の作風変化について書きました。
・メロディがリズム、旋律ともに自由に、キャッチーでなくなってきている
・メロディよりもリフが曲を支配する「BGM的な構造」が増えた
こうした変化が、最近の東方曲では起こっていました。
今回は、今作でさらにこの作風がどう変わったのか、変わってないのか、特徴的な曲をピックアップしてみようと思います。
"ZUNペット"の消失
先んじて一つだけ、今作からの大きな違いを述べておきます。
東方のBGMには、いわゆる「ZUNペット」と呼ばれる、演歌めいた特徴的なトランペットが高頻度で使われており、東方サウンドの代名詞として知られていました。
しかし今回、Windows更新の際に不具合が生じたとかで、この「ZUNペット」が使用不能になったそうで、東方錦上京においてZUNペットはほとんど使われていません。
そのため、ZUNペットに依存しない形で、大きくサウンドが変化しています。
2面道中 「セイクリッドフォレスト」
リフA(ピアノ)+リフA'(ギター)
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メロA(ストリングス)+リフA'(ギター)
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メロB(ストリングス)+リフA(ピアノ)+リフA'(ギター)
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リフA(ピアノ+エレキギター)+リフA'(ギター)
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メロB(ストリングス+エレキギター)+リフA(ピアノ)+リフA'(ギター)
本曲は、これまでの作風変化の流れにほぼ則った曲と言えます。
全体をピアノのリフが支配しており、BGM的な仕上がり。
メロディも、ペンタトニック、ヘキサトニックではなく、「ファ」を積極的に使った旋律となっています。
さらにメロBでは拍に対してずらす複雑なリズムが出てきます。
これらは前作、前々作でも見られた傾向であり、真新しい所はあまり無いように感じます。
サウンドについては、ピアノとストリングス、ギターによって構成されています。
トランペットのような金属質の伸びる音は、ストリングスがその役割を代わっているように思います。
3面ボス 「どうせなら命を賭けて謎を解け」
メロA(ピアノ)+対旋律(uni)
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リフB(ピアノ)
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メロA+対旋律(uni)
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リフB(ピアノ)
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メロC(uni)+リフB(ピアノ)
ステージ曲で大きく登場するのは初の楽器、「uni」…これは「うにょーん」と伸び鳴る分厚いストリングスの略記で、今作BGMを特徴付ける重要な楽器となります。
キャッチーなメロディとリフがピアノによって繰り返される単純な構成で、対旋律としてuniが主張します。そしてピアノがリフBを繰り返す上で、uniによって新しいメロCが奏でられます。
リフが大きく曲を支配する構造は変わりませんが、各々のメロディやリフの素材自体は、前作・前々作と比べてキャッチーなものに戻って?います。
4面道中 フォーカラーラビリンス
メロA(ピアノ)→リフB(ピアノ)→メロC(ピアノ)→メロD(ピアノ)
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メロE(トランペット)+リフB(ピアノ)
→リフB(トランペット、ピアノ)
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メロC(トランペット、ピアノ)
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メロE(トランペット)+リフB(ピアノ)
↓
メロD(トランペット)+対旋律(ピアノ)
モチーフの数が多く、曲も目まぐるしく変わっていく印象です。
これらのモチーフは、メロディが派生して別のリフになるとか、リフの上で奏する形で新しいメロディが出来るとか、互いに新しい素材を作り合っていくような形でまとまっています。
その結果、さっきまでメロディだと思っていたものがリフのように裏に入ったり、リフがメロディのように機能したりと、それぞれの楽器の役割が曖昧に切り替わっていく音楽に仕上がっています。
6面道中 「ピラミッドの神域」
メロA(ピアノ)+リフB(ピアノ)
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メロC(シンセ)+リフB(ピアノ)
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メロA(シンセ)+対旋律(uni)+リフB(ピアノ)
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対旋律(トランペット)、メロA(シンセ)、対旋律(uni)
後半は、メロAに対してどんどん重なり、盛り上がってファンファーレのように結実するといった感じなんですが…。
最後に重なってくるトランペットの対旋律。このトランペットがモヤシみたいなサウンドで、旋律自体も何だそれ?というような感じで、正直めちゃダサいです。古の東方サウンドを知っている人ほど、ズッコケるんじゃないかと思います。
ただこれが何度も聴いていると、最近の作風変化の延長線上にこのサウンドがある、ということがだんだん自然に感じられてきて、不思議と受け入れられてしまいます。
今作ではZUNペットが使えなくなったことも相まって、ピアノ、ギター中心の音楽になり、結果的に「余白のある」音楽が目指されているように思います。
かつての東方曲といえば、エモいメロディを分厚いトランペットが鳴らし、常に3度でベタベタにハモり続ける、「飽和の音楽」が多かったと思います。そこに対して、最近の作品ではその逆を標榜している感じは確かにします。
そして、この後挙げる6ボス曲はまさにその代表格と言えるでしょう。
6ボス曲 「最後の一人は慣れてるから」
本曲は、これまでの6ボス曲にあるまじき、分かりやすく盛り上がらない曲です。
これはボスキャラクターが不変の神であるという背景から、敢えて落ち着いた音楽になっているものと思われます。
ZUN氏曰く「ボーカル曲として作った」ということで、確かに歌モノのような構成になっています。
正直言って、この曲に関して私の感想は微妙です。
所々かっこいい一方で、所々絶望的にダサく、ボーカル曲にしてもこのメロディは無いだろ、もっとどうにか出来ただろ、と言うところが結構あります。
特に、サビに入ってくるギターの対旋律なんか、単純にメロディとしての洗練が弱く、凄く勿体無いです。
そう、とにかく洗練されていない、に尽きます。えいやっで作った感じ。同じ人が3面ボス曲のような緻密な曲を書いたとは思えないくらいです。
恐らく、反・技術をテーマにしているだけに、今回は非常に感覚的に作った曲があったと思われ、本曲がまさにその金字塔ということなのだと思います。
だとしても、それならもっと攻めて攻めて攻めきったほうが、面白い曲になったんじゃないかと思います。ボーカル曲だけに、本当に自分で歌っちゃうとか。
一方で、東方じゃなければ到底受け入れられないような音楽が、東方だから受け入れられている、という事自体はまさに東方の醍醐味とも言えます。
何か新しい方向、理解の及ばない方向に進んでいるということは、基本的に素晴らしいことです。ガラパゴス的進化の果てに東方の音楽がどんな作風に進んでいくのか、楽しみでもあります。
ともかく本曲は、良くも悪くも、東方ファンの期待を裏切った挑戦作だと思いました。
まとめ
東方錦上京全体の作風変化としては、
・リフが曲を支配する、BGM的な音楽という方向性は継続
・メロディとリフがより有機的に立ち変わる構成
・各素材は比較的キャッチーな旋律に戻っている
・ZUNペットに依存しない、新しい楽器バランス
といった特徴が挙げられると思います。
また、紹介しきれませんでしたが、私はExボス曲の「二枚貝の上のハルシネーション」が作品内で最も良い曲と感じました。
普通に、サビの旋律がとにかく素晴らしいです。
サビを奏するトランペットはやはりZUNペットではなく、かなりチープな音を使っているのですが、それが非常に曲にマッチしています。これもまた今作ならではと思いますので、ぜひ聞いてみて下さい。