弾け弾です。最近あった大災難予言絡みで新たに知ったのですが、震度5弱って5~5.5じゃなくて、4.5~5の範囲を表してるんですね。そして震度5強が5~5.5になります。そう考えると2時間弱・強の言い方と割と似てるんですねー。
・・・いや最近と言いつつ、2025/7/5の大災難予言に絡めた導入って、流石に古くね?
ちょうど1か月前ならまだ流行に間に合ったかもしれません。話題が1か月周期で繰り返されるといいのですが、残念ながら時間経過にそのような性質はないのでした。
しかし音楽の世界ではそういうことがあります。音は周期的に繰り返される波ですからね。加えて面白いのは、音の高さにも周期性があることです。
ある音と、別の音の周波数比が2倍であるとき、2音は似たような印象の音になり、同じ名前で呼ばれます。そのような2音の関係をオクターブといいます。
では周波数比を3倍にするとどうなるでしょう。もう1オクターブ上でしょうか?そうではないですね。2倍の1オクターブ上は2倍の2倍で4倍になるはずなので、3倍はオクターブの中間辺りになるはずです。
同様に、4倍の1オクターブ上は8倍ですが、その間の5~7倍は中途半端な音程になります。我々が普段使っている12平均律、ドレミファソラシドのいずれにも、正確に一致はしません。
過去、そんな厄介ものの倍音列を音楽に組み入れた作曲家がいます。
彼らは倍音を12平均律の似た音に近似することで、倍音列を12平均律上に映し出しました。


画像の中の数はそれが第何倍音かを表しています。第1倍音でもあえて第8倍音のように表していることに注意してください。オクターブの違いを無視して7~13の連続した数で表せるようにしています。
さて、彼らはどうやって倍音と似ている12平均律を見つけたのでしょうか?
実際の方法を確認したわけではありませんが、そのために数学的な計算は不要です。優れた音感を持つ人であれば。
倍音はあらゆる楽器の音に含まれているため、その音が鳴った時に各倍音の成分を聞き分けて、何の音に近しいかを正確に判断できればいいのです。
ただ数学的な計算によって平均律のどの音に近いのかを求めることも可能です。
では彼らが用いた音列と数学的計算で導かれた音列とを比較してみましょう。歴史に名を残しているくらいですから、その感覚値は理論値と見事に一致するはずです。
| 倍音 | 感覚で求められた音程 | 数学的計算による音程 |
| 第7倍音 | シ |
シ |
| 第8倍音 | ド | ド |
| 第9倍音 | レ | レ |
| 第10倍音 | ミ | ミ |
| 第11倍音 | ファ |
ファ |
| 第12倍音 | ソ | ソ |
| 第13倍音 | ラ | ラ |
てあれ!?違うじゃん!
ラとラ
の違い。7音のうちたったの1音、半音の差だとしても、大作曲家が音程を間違えるはずはありません。一体どういうことなのでしょうか?
実はこの問題地味なようでなかなか厄介なことに、「倍音」を画像検索すると第13倍音がラになっているもの、ラ
になっているものが半々で存在します。更には書籍でも解釈が分かれている状態。どちらかは噓をついている?そんな由々しき事態なのに理由が語られることは私の知る限り無い。これは倍音の存在を知って以来長年私自身の謎となっていたのですが、多分こういう理由なんじゃないか、という仮説が一応出たので、記事にまとめました。
倍音の感じ方とピッチの求め方
まずは先ほどの表の数学的計算による音程がどのように導かれたかを説明します。
音の高さは物理的には周波数で数値化されますが、周波数という尺度は冒頭で述べた通り1オクターブ上がるたびに倍々になるという、人の感覚としては扱いづらい部分があります。
人間の感覚は「周波数×2→+1オクターブ」のように、物理的な量の掛け算が足し算になっています。
これは音の高さだけでなく、音の強さや震度など広汎な知覚に当てはまる法則で、ヴェーバー・フェヒナーの法則という名前がついています。
倍音が何の音に対応付けられるかを求めるには、掛け算を足し算に変換する数学の道具、logを使います。周波数比をlogの中に入れると、音程が求まります。*1便利ですね!
この式は、周波数が2倍なら1オクターブだ、ということを言っています。
これを用いて、周波数3倍が何の音に対応するかを調べると・・・
無限に続く中途半端な数になりました。ここで値を12倍すれば、オクターブ刻みだったのが12で1オクターブ上がる半音刻みになりますのでやってみましょう。
なるほど、やはり小数点以下のズレは残るものの、第3倍音は基音より大体19半音高いことがわかりました。この音程は、基音をドとすると1オクターブ上のソに相当します。
同様にして過去使われていた他の倍音を計算すると、下表のようになります。
| 第7倍音 | シ |
| 第8倍音 | ド±0セント |
| 第9倍音 | レ+4セント |
| 第10倍音 | ミ-14セント |
| 第11倍音 | ファ |
| 第12倍音 | ソ+2セント |
| 第13倍音 | ラ |
セントという表現が見慣れない方もいるかもしれませんが、1セントは半音の100分の1を表します。第11倍音でいうと、ファより半音の約半分だけ低い音ということになります。
先の感覚との比較表における計算値はこの導かれた音程のセントのズレを取り除いて表示したものでした。ご理解いただけたでしょうか。
やっぱり、計算上第13倍音がラに近似されるのであってラ
ではないことがわかり、非情にも過去の巨匠への反証がなされるばかりです・・・。音楽と数学はそもそも相容れないものなんでしょうか?
いえ、実は計算上でも彼らの選んだ音が正しかったことがわかるのです。
巨匠たちが選んだ倍音
ポイントは、スクリャービンもバルトークも、無限に続く倍音列の一部しか使っていないということです。
彼らが選んだ倍音、それは今まで表に出している通り、第7倍音~第13倍音です。
何故それらを選んだのでしょうか?これは私の想像ですが、きっと我々が普段用いているドレミファソラシドの七音音階と数が同じで、かつ並べたときにオクターブになるような倍音列を選んだのだと思います。第7倍音に始まり第13倍音まで進んだ次は第14倍音ですが、これって第7倍音の1オクターブ上ですよね。再び第7倍音から繋げていけば、どこまでも音階を上がっていくことができます。
またそれらを和音として使った時には、セブンスコードの4音に、テンションコード9th, 11th, 13thの3音を全部乗せた7音と一致します。勿論スクリャービンが生きていた時代にテンションコードという概念はありませんでしたが。
他にも、例えばより高次の第8~第15倍音の八音音階を使った時のことを考えると、第14倍音・第15倍音・第16(=8)倍音の間隔が密になりすぎて使い勝手が悪くなります。倍音というのはより高次になればなるほど人間の感覚としての音程差は小さくなり、第14・15・16倍音くらいになるともはやほぼ半音の差で、同時に鳴らしたら不協和音とかノイズになってしまうんですね。(実はこれよりもっと高次の倍音を使って作られた音楽はあるので音楽は奥が深いです。)
これらの理由から、オクターブ内を1周する連続する7音をとる選び方は合理的といえます。
| 第7倍音 | 第8倍音 | 第9倍音 | 第10倍音 | 第11倍音 | 第12倍音 | 第13倍音 |
| シ |
ド±0¢ | レ+4¢ | ミ-14¢ | ファ |
ソ+2¢ | ラ |
省スペースのため表を横にし、セントを¢で表しています。
今度は平均律に比べて倍音が低いものを青、高いものを赤として色分けしてみました。
そうすると見えてくるものがありますね。なんだか平均律に比べて倍音が高いものより低いものの方が目立って見えませんか。
震度の表現を借りると、5強より5弱の範囲が目立っている。
第7倍音はシ弱、第10倍音はミ弱、第11倍音はファ
弱。逆に第9、第12、第13倍音は強側ですが、分かりやすく平均律より高いのは第13倍音くらいで、強側のズレをすべて足し合わせても第11倍音1つのズレすら打ち消せていない。どうも全体的に倍音列が平均律の音程より低い。アンバランスなんですね。
そこで、全体的に倍音列に下駄を履かせてあげましょう。
| 第7倍音 | 第8倍音 | 第9倍音 | 第10倍音 | 第11倍音 | 第12倍音 | 第13倍音 |
| シ |
ド+21¢ | レ+25¢ | ミ+7¢ | ファ |
ソ+23¢ | ラ-38¢ |
この表は、全体を21セント上げたところです。
計算するとわかりますが、弱側、強側のバランスが取れています。
ここで再び注目していただきたいのが第13倍音。いつの間にかラではなく、ラ
側に近くなっていました。巨匠たちの使ったあの音階が見えました。
さらに全体的なズレの二乗和を計算しても、21セント上げた時の方が小さくなっており、こちらがより良い近似であることが分かります。(二乗和も誤差評価によく使われる数学的な指標です。)
さらにさらに実は全体の高さを-50セント~+50セントまで上げていく中で、弱側・強側のバランスが取れる瞬間が5回あるのですが、その中で一番近似精度が高いのが21セント上げたとき。第13倍音がラになったときなのです。*2
参考までに、-50セント~+50セントでの各倍音の二乗誤差を累積したグラフを載せておきます。下から第8倍音:赤、第9倍音:オレンジ、・・・のように色分けして、横軸が音程のずれ、縦軸が二乗誤差の大きさとなります。何を表しているかわからなくてもせっかく作ったのでとりあえず虹色でキレイダナーとだけでも思っていただければ嬉しいのですが、確かに黄色い線で示した+21セントあたりで最小になっています。

こうして、理論的な計算をもってしても大作曲家たちの耳は確かだったことが分かりました。彼らは基準から21セント高い倍音列を近似すればもっとも精度の高い倍音列音階が使えることを感覚で知っていたのです。
他にもグラフからわかることは色々あります。まずグラフが極小値を取るところは先述した弱側・強側のバランスが取れる瞬間です。ここから左右に動くと弱側・強側に偏りが生まれ、誤差が対称的に増えていきます。また滑らかでないところは、ある倍音が2つの半音差の音の中間に来た瞬間です。低い方に近い・高い方に近いがここで切り替わり、近似される平均律の音程が変わる境目です。そこから全体の高さを変えていったときにドレミファソラ
シ
の音階に近似される範囲は意外と狭く、ドレミファ
ソラ
シ
の倍音列音階に近似される範囲が相対的に一番大きいということもわかります。このグラフは倍音を近似するのに倍音列音階がいかに適しているかを示しているんですね。
まとめ
今回は倍音列と平均律の関係を数学的に比較し、第13倍音がラかラ
かの謎を解き明かしました。
結論、どちらが間違っているというわけではなく、基音を基準にした音程差を見ればラになるし、第7倍音から第13倍音の近似誤差を最小にしたときにはラ
になる、要するに2通り存在するのは見方の違いでしかないということです。
今後第13倍音をラとしている記述を見かけた場合は「それは基音を基準とした音程差を表現したときであって、実際の音楽として有用なのは第7倍音から第13倍音の平均律近似誤差を最小にしたときに現れるラの方なんだけどなー、過去の大作曲家たちはラの方を使ってるんだけどなー」と早口で思いつつも、ラ
を採用した側を否定するのはやめましょう。もちろん逆もまた然りです。
ただし第13倍音をラとする場合については、大切な前提があります。第15倍音以上は「人間にとって」狭すぎたから、使う倍音を第13倍音までに制限した。つまり、音楽が人間のものであった故に倍音列音階が生まれたのです。前者は人間の存在を仮定しなくても成立するただの計算結果です(それでも人間の知覚、オクターブ等価性・12平均律を用いてはいますが)。
人間の特性で音楽が変わりうるというのは面白いですよね。もし人間以外の生物、例えば宇宙人が音楽を作っていたとしてもそれは我々にとって全く理解できないものである可能性は否めません。
音楽は、人間なくして成り立っている数学とは違い、人間あってのものだということは、作曲する上で意識しておきたいです。
また今回倍音のテーマを取り上げたのは、最近YouTubeでLΛMPLIGHTさん、豊穣ミノリ さんらにより独立して倍音列をポップスに取り入れるという興味深い試みが行われ巷で空前の倍音ブームが起こっているため、これを機に便乗したかったということもあります。音楽・映像を用いた表現は(実は試みたが)私の能力では敵わず、あくまでブログという媒体での紹介になりました。先に挙げた両名は、すでに知能としては常人離れしていそうですが、それでも両者とも使用している倍音は第13倍音までに収まっており、あくまでも人間が持ち得て親しめる音楽表現を拡張しようとしているように思われます。
話題の流行り廃れが加速化する昨今、予言等はどうでもいいにしても、この倍音ブームは長続きしてほしいものです。