はじめに
名作会ブログをご覧の皆さん、こんばんは。Niynuh Swidffel(ニーヌ・スウィドゥフェル)です。
さて、今回は少しお知らせと解説を兼ねた記事をお届けいたします。
先月末より、名古屋作曲の会から私の楽曲がサブスクリプション配信という形で皆さまのお手元に届くようになりました。今回配信が始まったのは、拙作「luminiferous」と「sihahmern mamonde」という2曲です。
この記事では、その2曲の歌詞に込めた意味と背景について、少し詳しくお話しさせていただこうと思います。
初めて耳にされる方にも、既にお聴きくださった方にも、この記事が楽曲の奥行きを知る一助となりましたら幸いです。
どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
https://www.youtube.com/watch?v=kMtmCZzQh-E&list=OLAK5uy_n_bvwOnum6D_Z_PTq414wguoKODYDyVzo
(ここからフルサイズで視聴できます)
この楽曲の歌詞は全て「ミュラン語」(Mulanese)という架空言語によって表されています。
まず初めに、ミュラン語がどのような言語であるかについて説明したいと思います。ミュラン語という名前は、日本を中心に活動している(いた)二組のアーティストの名前からつけられました。そのアーティストというのが、MiliとKalafinaです。
Mili: 2012年結成のインディーズ音楽ユニット。幻想的かつ緻密なサウンドが特徴で、ゲームやアニメ好きから特に強い支持を得ている。
Kalafina: 梶浦由記プロデュースの女性ボーカルユニット。荘厳で神秘的な三声ハーモニーが特徴。2018年に活動終了の後、2025年1月に一夜限りの復活ライブを開催した。
この言語はSynthesizer Vという歌声合成ソフトに歌ってもらうために開発されました。Synthesizer Vには日本語や英語といった言語の文章だけでなく、言語が持つ音の最小単位である「音素」を直接入力することが出来ます。この機能を活用することにより、現実に存在しない架空の言語を歌声として出力することに成功しています。
Synthesizer V: Dreamtonics社製の歌声合成ソフト。AI技術で自然かつ滑らかな歌声を生成する。多彩なボイスバンクと多言語対応が特徴。
それでは歌詞の解説をどうぞ。
luminiferous
【構成】
原詩
㣎語訳
逐語訳
解説
[Verse 1]
霞む空の果てに見えた
iso-shao hhah laasgnahfah-serpita ntia-e etelius
/iso shɔː hɑ lasgnafa sɝpita ntia e etɝlius/
見る-過去/〜に(in)/霧-のような/終わり-の(エザーフェ)/天空
1語目の後半は過去を表す接尾辞です。英語でいうところの-edのようなものです。そして、動詞の過去形が文頭に置かれることで英語の過去分詞のような振る舞いをするのも重要な文法事項です。英語で例えるとすると、”Seen from an airplane, buildings look like grains of rice.”で「飛行機から見ると、ビルは米粒のように見える」というような意味になります。
続いて4語目のntia-eです。ここで注意すべきは「-e」という語尾です。この「-e」は言語学の用語でエザーフェといいます。ペルシア語などにみられる要素で、修飾関係を表す時、「〜の」にあたるものが修飾される側に付きます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A7
(エザーフェのWikipedia)
淡い影が揺れる朝
lehptuh saolatiy paa-esonami edola
/leptu sɔːlatɪː pa esonami edola/
薄い/影/進行形-揺れる/朝
ここで注意すべき点は、3語目の「paa-esonami」です。「揺れる」を意味する女性動詞「esonami」に進行形の接頭辞「paa-」がついています。先程触れた接尾辞の「-shao」とは異なり、これは文頭につきます。
知らぬ世界の囁きが僕らを導く
maht-nihksay amalemi-meh baot-i leh emali ihgaaleh
/mɑt nɪksaɪ̯ amalemi me bɔːt i le emali ɪgɑle/
打ち消しの接頭辞-知る/囁き-of/世界-(属格)/それ/導く/我々
まず1語目、「maht-nihksay」。「知る」を表す男性動詞「nihksay」に打ち消しの接頭辞「maht-」がついた形です。そのあとの「amalemi-meh baot-i」ここの2語で「世界の囁き」の意味になります。そしてその後ろのbaot-iは「世界」に属格の接尾辞がついています。接尾辞というのは独立した1語としての機能をもたない造語成分、すなわち接辞のうち、語のあとにつくものです。日本語の「神さま」の「さま」、「こいつめ」の「め」、「汗ばむ」の「ばむ」と同じと考えていただいて問題ありません。
過ぎゆく時の彼方に 隠された真実
hhah ntia-e kluhn Dfo-paa-sitashtus vlaa dfo-sih shao-liyyah
/hɑ ntia e klʊn ðfo pɑ sitaʃtus vlɑ ðfo sɪ ʃɔː lɪːjɑ/
in/終わり-の(エザーフェ)/時間/that-進行形-過ぎる/真実/that-コピュラ/過去-隠す
この聯では、1から4語目とそれ以降の部分で倒置が起きています。さらに「時の彼方」の部分がエザーフェで修飾されているので見かけ上2重に倒置されています。まず隠されている場所を示し、その後に隠されているものの内容を示す、という構成になっています。
勇気の灯火を胸に 暗闇を越えよう
yahkahlah-shao fleyah-meh heCka hhah hhahliyah chah sitashtus myah
/jɑkɑlɑ ʃɔː fleɪ̯ɑ me heθka hɑ hɑlɪːjɑ tʃɑ sitaʃtus mjɑ/
抱く-過去/火-of/勇気/in/胸/〜しましょう/越える/闇
第1聯で触れた内容を覚えていらっしゃるでしょうか?この聯にも「文頭の過去形動詞」のパターンが使われています。このパターンでは英語の分詞構文のような訳、「~するとき」「~するので」「~するならば」になるという話でした(ミュラン語における分詞構文は英語とは異なる点があるので英語の訳し方をそのまま適用することはできませんが)。
無限の夜空に散りばめられた 数多の星々
mistio-shao asorro-ihd-estola paalih leshka-leh
散らばる-過去/無限-性質の-夜空/多い/星-複数
/mistio ʃɔː asoro ɪd estola pɑlɪ leʃka le/
私はこの曲を作るにあたって、まずメロディとオケ(伴奏)を作り、日本語で歌詞を考え、最後にミュラン語に訳す、というステップを踏んだのですが、日本語で歌詞を考える時につい筆が乗ってしまい後で訳すのに苦労した箇所がいくつかあります。この聯もその一つです。「無限の夜空」をミュラン語に訳すにあたって、この塊を「無限という性質をもつ夜空」と解釈し直しました。ちょうど「aなb」を表す機能をもつ接中辞-ihd-があったのでそれを使用しました。
それぞれの物語が 静かに輝く
chilaki yema krristela Cierra
/tʃilaki jema kristela θiera/
それぞれの/物語/輝く/静かに
ミュラン語には子音と母音に性の区別があります。長母音や二重母音を含む17の母音があり、そのうち12が男性、5が女性です。そして、25の子音があり、そのうち7が男性子音、13が中性子音、5が女性子音となっています。ミュラン語の発音について語る上で欠かせないのが、共起の制限です。着想を得たモンゴル語と同様に、1語の中に性の異なる母音または子音が共起することはありません。ただし、ハイフンで連結されている場合は、一つの語の中であっても違う性の音素が入ることがありえます。
[Chorus 1]
未知なる未来の扉を 今、開け放つ
ihgaa vih-sihahmern maht-nihksay Nabi-e hiu, yaolah
/ɪgɑ vɪ sɪɑmɝn mɑt nɪksaɪ̯ ŋabi e hiu jɔːlʌ/
私/指大辞-開ける/打ち消しの接頭辞-知る/未来/扉-エザーフェ/,/今
ここでは「開ける」を意味するsihahmernを強調するために指大辞の「vih-」を添えています。また、3語目には打ち消しの接頭辞「maht-」が含まれています。これを男性動詞の「nihksay」につけることで「未知なる」という意味になります。ミュラン語には品詞の壁がなく、1つの単語が複数の品詞をまたいで様々な意味を持つことがあります。なので、この一見ありえないように見える組み合わせも、きちんと意味を持つことが出来ます。
魂の声を聞き 希望を抱きしめて
paa-dehdeyls brrad-e da, paa-yakala miaxamine
/pɑ dɛdeɪ̯ls brad e da, pɑ jakala miaxamine/
進行形-聞く/喝采、鳴き声-エザーフェ/魂/進行形-握りしめる/希望
君と共に光と影の間に漂う(Drifting between light and shadow with you.)
ihgaaleh stiy jhahsliy liyhhaa-Cam-saolahtiy
/ɪgɑlɛ stɪː dʒʌslɪː lɪːhɑ θam sɔːlʌtɪː/
我々/漂う/〜の間/光-接中辞(aかつb)-影
[Verse 2]
忘れ去られた涙が海へと還る
solte-shao-vih piaNa xasta mahnyuh pihknaa
/solte ʃɔː vɪ piaŋa xasta mʌnjʊ pɪknɑ/
忘れる-過去-指大辞/涙/還る/〜へと(into)/海
1語目、男性動詞のsolteに過去の接尾辞と指大辞がくっついています。これで「忘れ去られた」の意味になります。加えて、3語目の発音は注意が必要です。xの音は無声軟口蓋摩擦音(舌の奥(舌背)を軟口蓋に近づけて、そこを通る空気を摩擦させて出す音)といい、現実の言語ではドイツ語やロシア語、スコットランド英語などに含まれる音素です。
(私は)幻の地図を広げる
paa-tiher saturro ahsaoliy
/pɑ tɪɝ saturo ʌsɔːlɪː/
(主語省略)prog-広げる(vt)/幻の/地図
1語目の頭についている「paa-」は進行形の接頭辞になります。これは、「主語を省略したうえで文頭に置くことで英語の現在分詞のような振る舞いをする」という規則に則った表現です。
遠い記憶の欠片が 静かに語りかける
shuhliy mounui-ihd xestela yeymaa hhah tehs
/ʃʊlɪː mounui ɪd xestela jeɪ̯mɑ hʌ tɛs/
古い/記憶-性質の/欠片/物語る/〜に(to)
6語目の前置詞「tehs」が後ろに指示対象を従えていないことが気になる方もいるかも知れません。この表現にした理由は2つあります。まず1つは英語的な表現を目指したためです。ここまでの解説でミュラン語が特に文法において大いに英語の影響を受けていることは分かって頂けると思います。英語でtalk toに当たる意味を持たせたかったので、このようにしたのが一つ。そして、もう一つは音数合わせです。曲を先に書き、別に書いた詞を後で合わせる私のスタイルでは、どうしても言葉が足りなくなったり逆に余ったりする事が出てきます。そういった問題を解決するため、多少強引ではありますがこのようにした、という背景もあります。
煌めく調べに 二人で耳を澄ます
tehsehn dehdeyls lirrie krristella bea
/tɛsɛn dɛdeɪ̯ls lirie kristella bea/
包括的一人称双数/聞く/注意深く/きらびやかな/音楽
包括的一人称双数は文字通り「私」を含む2人を意味します。ここで「私たち」を意味する「ihgaa-leh」を使わなかったのは、できるだけ多くの単語を使いたいという思いがあったからです。それに、なんとなくかっこいい響きですからね、包括的一人称双数って。加えて、4語目のkrristellaは英語のcrystalから輸入した単語になっています。
次は「sihahmern mamonde」の解説です。
sihahmern mamonde (花よ、咲け)
【構成】
原詩
㣎語訳
逐語訳
解説
[Verse 1]
朝は雲を従えてやってきた
ehdaolah kaom-shao suhmih daeuhl
/ɛdɔːlʌ kɔːm ʃɔː sʊmɪ dæʊl/
朝/来た/~と共に/雲
2語目のkaom-shaoのkaomは「来る」の原形です。それに過去を表す-shaoが付くことにより、「来た」という意味になります。ちなみに、kaomは英語のcomeに由来する単語です。
(私は)藍色の空をすり抜けて飛ぶ一羽の鳥を見ていた
ihgaa paa-ihsao-shao iys kuhkuh Dfo-merhheh foyfehn yahkahn siheylah
/ɪgɑ pɑ ɪsɔː ʃɔː ɪːs kʊkʊ ðfo mɝhɛ fɔɪ̯fɛn jʌkʌn/
私は/見ていた/1つの/鳥/that-飛ぶ/しなやかに/藍色の/空
2語目、paa-ihsao-shaoに注目してください。これが過去を表すことは既に申し上げた通りですが、その前にpaa-というものもあります。これは進行形を表します。過去形と違い、動詞の前に付くことに注意が必要です。これらの接辞が動詞、ihsaoに付くことにより、「見ていた」という過去進行形の意味になります。そして5語目の頭についているDfo。これは関係詞、英語で言うところのthatです。このDfoを様々な動詞と組み合わせることにより複雑な表現が可能になります。もう一つ注意が必要なことがあります。この単語は、続く動詞が母音で始まるか否かで形が変化します。母音で始まる場合はDfで、子音の場合はDfoです。この機能は子音の連続を避けるために実装されました。
この街の灰色が静かに変わっていく
suhmeh lahviynao-eh toyn paa-lih-tah kaonkiyehtaa
/sʊmɛ lʌvɪːnɔː ɛ tɔɪ̯n pɑ lɪ tʌ kɔːnkɪːɛtɑ/
この/灰色-の/街/変わっていく/静かに
[Pre-Chorus 1]
夜は月を従えてやってきた
eyhhaalbih kaom-shao suhmih mahaal
/eɪ̯hɑldɪ kɔːm sɔː sʊmɪ mʌɑl/
夜/来た/~と共に/月
4語目、mahaalの1音節目と2音節目は表記上別の音になっていますが、発音する際は「あー」(/ɑː/)のように長母音として発音して構いません。
(私は)霞むような蒼く淡い夢を覚えている
=私が覚えている夢は霧のような蒼く淡いもの
luhnaem Dfo-mai ihgaa moyniy sih laasgnahfah-serpihtah, yahkahn-Cam-lehpt
/lʊnæm ðfo mai ɪgɑ mɔɪ̯nɪː sɪ lɑsgnʌfʌ sɝpɪtʌ, jʌkʌn θam lɛpt/
夢/私が/覚えている/(コピュラ)/霧-のような/青い-かつ-薄い
張り巡らされた真綿の糸に首を絞められながら
lahkuh-shao hhuhnehk eh mahlih luhmpaa-eh Cetida
/lʌkʊ ʃɔː hʊnɛk ɛ mʌlɪ lʊmpɑ ɛ θetida/
絞られる(過去分詞)/首/~によって/満杯の/糸-の/綿毛
[Chorus 1]
運命に導かれた者たちの歌声を
vehlah-ihs-eh ehmaalih-shao muhlah eh sertao
/vɛlʌ ɪs ɛ ɛmɑlɪ ʃɔː mʊlʌ ɛ sɝtɔː/
歌う-(名詞化語尾)-エザーフェ/導く-(過去)/人間/~によって/運命
ここで特筆すべきは1語目の-ihs-です。ミュラン語においては単語の前や後ろ、あるいは中に音を付加することで様々な派生した意味を表すことが出来ます。ここについているのは名詞化語尾で、「歌う」という動詞に付くことで「歌声」という意味に変化します。現時点でこのような特定の働きをする接頭辞が20個、接尾辞が11個、接中辞が2個定義されています。全体の意味は「運命に導かれた者たちの歌声を」になります。この部分はベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章、通称『歓喜の歌』に影響を受けています。
私たちには目指すべき光があるから
=私たちは目指すべき光を持っている
ihgaaleh kuheytaa faoleh deym liyhhaa
/ɪgɑlɛ kʊeɪ̯ta fɔːlɛ deɪ̯m lɪːhɑ/
私たち/持っている/〜するための/目指す/光
さあ、共に行こう
jhah yah chah irra
/dʒʌ jʌ tʃʌ ira/
さあ/共に/〜しましょう/行く
この部分は発音が特徴的です。まず1語目にレアなjh子音があり、4語目にはふるえ音が入っています。3語目のch子音もミュラン語においては比較的珍しいです。
この歌は希望を紡ぐためにある
suhmeh lamasoma D-Nau faeleh toy aetao
/sʊmɛ lamasoma ðŋau fælɛ tɔɪ̯ ætɔː/
この/歌/ある/〜するために/構成する/希望
3語目、「~がある」を意味するD-Nauに大文字のNが含まれています。これは軟口蓋鼻音と呼ばれる音で、日本語では「半額」のようにカ行またはガ行の前のンの音に当たります。
花よ咲け
sihahmern mamonde
/sɪɑmɝn mamonde/
咲く(vi)-呼格/花
ミュラン語で命令文を作る場合はその方法が2パターンに分かれます。自動詞の場合と他動詞の場合です。他動詞vtの場合、主語を省略することで、自動詞の場合、動詞を文頭に置くことで作ることが出来ます。今回は「咲く」という自動詞が使われているので先頭に置かれています。オプションとしてさらに動詞の語尾に呼格の語尾「ern」をつけることによっても表せます。ミュラン語にはロシア語やラテン語、ドイツ語のような格変化のシステムが存在してはいますが、古い時代に廃れてしまって現代ではほとんど使われることはない、という設定になっています。
[Verse 2]
春は花を従えてやってきた
tiy kaom-shao flaoleh daeuhl
/tɪː kɔːm ʃɔː flɔːlɛ dæul/
春/来る-(過去)/~と共に/花
毎日歩いたあの道はもうないけれど
=毎日歩いたあの道は既に消えたけれど
fuhah Dfo-mai chehstah maeblih-shaol mey mahmuhs-shao fahn
/fʊʌ ðfo mai tʃɛstʌ mæblɪ ʃɔːl meɪ̯ mʌmʊs ʃɔː fʌn/
道/that/(主語省略)/毎(every)/日(day)/歩いた/既に/消えた/〜なのに(逆説結果)
この部分では主語の省略が起きています。メロディの音数に合わせるための方策だったのですが、ミュラン語では文脈により明らかな場合に主語の省略を認めているので、問題は無いということになっています(要検証)。
でも、ほら夜明けだよ 霧の街に光が差し込んだ
paohhah, hheh, faonkah kaom. liyhhaa arria laasuhgnahfah taon
/pɔːhʌ, hɛ, fɔːnkʌ kɔːm. lɪːhɑ aria lɑsʊgnʌfʌ tɔːn/
だけども(逆説理由)/ほら/夜明け/来る/。/光/(空間に)入る/霧/街
文頭に単体で逆説理由を表す「paohhah」が入っています。英語のhoweverに似た発想です。また、元の日本語の歌詞では「夜明けだよ」となっていますが、訳す際に「夜明けが来る」と解釈し直しました。
[Pre-Chorus 2]
冬は雪を従えてやってきた
leyhhyahdih kaom-shao yah sihah
/leɪ̯hjʌdɪ kɔːm ʃɔː ja sɪʌ/
冬/来る-(過去)/~と共に/雪
凍えそうな私を包んでくれたあなたの温もり
=あなたの温もりが凍えそうな私を包んでくれた
tehsih laombah nahnerkaos-shao-gwaa ihgaa Dfo-NaNexos luhnmih
/tɛsɪ lɔːmbʌ nʌnɝkɔːs ʃɔː gwɑ ɪgɑ ðfo ŋaŋexos lʊnmɪ/
あなた-の(属格)/温もり/包む-した-(指小辞)/私/that-凍る/〜しそうな(about to)
まず1語目のtehsihです。2人称単数の「teh」に属格語尾の「sih」がついて、「あなたの」になっています。次に3語目のnahnerkaos-shao-gwaaです。長いですね。これはハイフンから分かる通り3つの成分から出来ています。まず男性動詞原形で「包む」を意味する「nahnerkaos」過去形語尾の「shao」、そして指小辞(物事や人を小さく、可愛らしく表現する接辞。例: 〜ちゃん、〜っこ)の「gwaa」です。この指小辞をつけることで「包んでくれた」という相手への親愛の感情を表現しました。
それが薄れゆくことに恐怖するけれど
=それが薄くなっていくことに恐怖するけれど
ihgaa lhhehnaa leh paa-ihlyaa leptuh
/ɪgɑ lhɛnɑ lɛ pɑ ɪljɑ lɛptʊ/
私は/恐怖する/それ/〜になる/薄い
原詩では「それが薄れゆくことに恐怖するけれど」になっているのですが、訳すにあたって「それが薄くなっていくことに恐怖するけれど」とニュアンスを少しだけ変更しました。
あとがき
さて、これにて全ての歌詞解説が終了いたしました。最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。いかがでしたでしょうか。
このミュラン語という言語を創り始めて、気付けばもう3年の歳月が経ちました。その間、日々試行錯誤を重ねながら語彙を一つ一つ編み出し、文法の体系を組み上げ、発音や表記の細部にまで心を砕いてきましたが、それでもなお、まだまだ未完成で拙い部分が多いことを痛感しております。
それでも、この言語を通して少しでも物語や音楽の奥行きや彩りを感じ取ってくださったなら、これほど嬉しいことはありません。世界にたったのこの言語が、誰かの心に少しでも残ったのなら、私の努力も報われる思いです。
また新たな語や表現が生まれたときにはぜひ、再びお付き合いいただければ幸いです。
それでは、またいつかお会いできる日まで。