名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

作曲・アレンジ覚書001 ハモリの可能性No.1

ピアノロール

 作曲やアレンジを行うとき、それがVocal入りの楽曲である場合は特に、ハモリのパートの重要性が際立ってくる。しかし、ややもするとその重要性を見落としてしまって、妥協の産物にしてしまい最悪の場合はメロディーやハーモニー、せっかく手を掛けたバッキングの完成度を著しく低下させてしまうという諸刃の剣でもあることに気付かされる。
 かく言う私も「ハモリなんて最後に付ければいい」と簡単に扱っていて、メロディーとバッキング出来て「ハモリ付けてねぇ。面倒くせー」と半ば投げやりに付けた結果の駄作を量産していた訳だが・・・。

 さてそもそもハモリを付けるというときに、何故上記のような適当な創作スタイルになりがちなのかをじっくり考えてみると、面白い点に気付く。まずハーモニーの様に様々な理論体系がメロディーやハモリには存在せず、せいぜいスケール理論とちょっとした和音理論くらいしか影響しないため、むしろ聴きやすさや、格好良さ、キャッチーなどと言った感覚的要素が占める割合が非常に大きくなり、結果経験則や聴覚的感性に従う部分が多くなることだ。
 これが原因かどうかは断定出来ないが、そのため「慣れ書き」「聞きかじり」「音に対する責任低下」等が発生し、様々な二次生成的呪縛を生むと考えられるのである。

 今回はそんな例をどうしたら打開できるのか、下手くそアレンジの原因は何なのかに焦点をあてて、私のアレンジ哲学の一部をお見せしようという新しいシリーズの第一回としてみたいと思う。

 この記事はプライドが高いオタクアレンジャー、特に同人と言われる界隈の気持ちだけはプロになったつもりで基本的なこともマスターできてないのに、人に聞くなんて恥ずかしくてできないという底のキミに捧げるシリーズであるから、同人界隈で一時代を気づいた東方Projectのメロディーでそれを検証してみようと思う。

 

●三度の呪縛

元メロディ

 ハモリにおける呪縛の代表的なものが「三度の呪縛」だろう。
 洋の東西を問わず、基本的にメロディの上か下の三度にハモリを付けると大体においてそれらしくなるのだが、それだけに「とりあえず三度で良い」と適当に括ってしまい、その中に生まれる悪い要素のデバッグを行わないという弊害を生む。
 譜例1を見てみると、基本2小節単位でハーモニーチェンジが行われ、6-7-1を含むオーソドックスな進行にメロディがついている。これに三度のハモリを加えた物が以下の譜例2と譜例3である。

三度ハモリ1

三度ハモリ2

 まず譜例2の下三度ハモリのケースについてみてみると、響きを悪くさせている原因となっているのはC#mのコードに対するハモリのA音である。
 下三度に付けるハモリの最大の欠点はIの時にメロディー音がルートにあると、ハモリは必然的にIに対する六音に位置してしまうことだ。コードがメジャーであればまだ良いのだが、マイナーであった場合6音は好ましくない音になる。理由はマイナーコードの五音と半音のぶつかりになり音が濁ることと、VIの第一展開形(C#mならA/C#)のニュアンスが出現し、Iとしてのハーモニーの強さがぼけてしまうことにある。さらに言うと、Bのコードの部分のメロディーに六音があるため、ハモリは四音となり強拍上に四音というアヴォイドが出現してしまうことも大問題だが、これは長くなりそうなので機会を改めて考えることにする。
 つぎに上三度のハモリについてみてみると、一見何の問題もない様に見える。実際響きとしては全く問題ないのだが、上三度にハモらせると、耳が自然と上音を聴いてしまい、結果元のメロディーがぼやけて存在感が薄くなることを忘れてはならない。
 これを解消するためには、メロディーと違う動きを使うことが一番なのだが、その事については、次段に筆を譲ろう。

 このように漫然と三度でハモればいいんだろうという錯誤はアマチュア初学者に非常に多く見られる例で、その結果の音の濁りやまずさに対して、まだ経験も知識も追いついておらず、なんかへんだけどまあいいやとしてそのままGoしてしまうケースが非常に多い。

 これは結構曲を書く人間には思い当たるフシがあるのではないだろうか。まあ見様見真似ではじめて、こうなってしまいましたというのは誰でも通る道だけに、一概にそれをバカにはしないが、それをいつまでも理論嫌いや、自身の感覚を神のように思いたいがゆえのゴミのようなプライドのため、初学者の陥る初歩的な問題の解決に思い至らず、ともすれば偉そうに若い目に、こうすればいいんだよ的な態度で教えようとする人間が要ることが一番の問題なのである。私はそういう「先輩格同人作家」を結構見てきたが、皆プライドが高く、他人をその気にさせる一種の宗教的カリスマがあったりするから質が悪い。バカは馬鹿と見抜く目を養いたいところである。

 

●平行の呪縛

 譜例2や譜例3は例として分かりやすいように、完全に三度を維持した状態で書いてあるのだが、どんなに馬鹿でもさすがにここまでずっと同じ度数を維持してハモらせることは少ないだろう。初学者とて違和感を感じるだろうから、それに気が付かないのはもっと根本的問題とも言えるのかもしれない。
 例えば、上三度のハモリの一拍目はB音にあるが、多くの場合これはC#音にするだろうし、最後のB#音のハモリは多くはD#にするだろう。しかし、その方法論を用いても、メロディとハモリが同じ形に進行する平行の呪縛からは殆ど解き放たれていないことに気付く。平行というのは同じ方向に同じだけ進む事を言うのだが、響きが硬直化する原因でもある。
 人の耳というものは無条件に大きい音、特徴的な音、高い音を中心に拾おうとしてしまう。このため、上に平行というメロディぼやかす所以がここに眠っている。であるならば、どれか要素を削ってやれば上にあったとしてもしっかりハモってくれて、メロディをぼやかすことが無くなるとも言えるだろう。

 

 ここまででポイントとなるのは以下の二つの点である。

 1.誰が三度でハモらせないといけないと決めたのか
 2.誰がハモリはメロディと同じ動き(平行)でないといけないと言ったのか

 

 結論から言えばこの二つこそ、慣れ書き、聞きかじりの最たるもので、全く根拠がない眉唾も良いところの酷い慣習と言わざるを得ない。そしてそれをさも得意げに以心伝心しようとする人間は実際には力のないゴミ以下の奴と見抜く必要が生じるのだ。

 元来アレンジのテクニックも専門職の職人芸的世界であるのに、なんの勉強もしないでプライド高く、俺は一家をなしたと言わんばかりにしている人を、神と崇めようなんてことがおかしいのであって、力のないものを見抜いてそれを一言にバッサリ切ってやることが後進の誉とすべきなのだ。

 

●三度の裏は六度である
 さて上三度ハモリについて、そのまま1オクターブ下げてみよう。

六度ハモリ



 上三度ハモリの時にメロディと平行で上に音があると、そちらが目立ってしまって、
メロディがぼやけると説明したが、であればそれをそのまま1オクターブ下げたたらどうか。これが六度のハモリである。
 上三度の時の良好なハモリが下に沈むことで、メロディを引き立てかつ音に幅が生まれる。非常に良好な配置となるが、メロディが低くなると六度の幅を持つハモリはかなり低い位置になってしまい、場合によってVocalistさんの音域を越えてしまう。歌い手などと称するプロとも名乗れず責任も持たずに格好つけたいという職人にとってはもっと厳しい問題になってしまうから、あえて嫌がらせのためにそうしてやるのもいいが、それはもうちょっと熟達してからにしよう。あいつらの青くなった顔をみるのは楽しいもんだが、こちらに力がなければそれも空振りで、さも当たり前のように鼻高々に文句を言われて終わりになってしまう。

 

●三度と六度を混ぜてみる
 六度ハモリの最大の欠点である低くなりすぎることを三度ハモリを混ぜることで解消してみるのはどうだろうか。

三・六度混合

 上三度ハモリで得られた良好な響きと、上に出ることでメロディがかすむ問題を解決し、三度ハモリを一部利用して音域的問題を解決すると、ついでに完全平行の呪縛も
都合の良いことに断ち切ることが出来る。
 平行が断ち切れた瞬間にハモリはメロディとは別の動きをしはじめ、一つの独立性を持つようになる。その結果ラインとして生き生きとすることに注目し、更に残る問題を解消していこう。
 現時点で見られる問題は、下三度ハモリを復活させたことで出現した濁りのある部分だ。譜例5に丸印を付けた部分が濁りのある部分になるが、ここをどのように解決するかを考えてみる。
 初めの○印部分の問題は六度下のハモリがA音にあり、上述の通りC#mというマイナーコードに対して厳しい響き且つ、A/C#のニュアンスを付加してしまうことにある。
C#mはC#-E-G#で構成されテンションの11音にF#があり、メロディのF#をこの音と見ると、ハモリにはD#音があると、全体でC#m11の響きの中に落ち着かせられることから、
まずはD#音に配置してみる。
 二つ目と三つ目の○印はE音がBのコードに対して四音となり、メジャーコードのアヴォイドになってしまうことから、半音下のD#音にしてこれを避けることとしてみる。

三・六ハモリの問題解決

 これで厳しい響きは遠ざけられ、平行の呪縛も完全に遠ざけられたばかりか、ハモリ自身の独創性がかなり顕著なものになってきた。 しかし喜んでばかりは居られない。新たに微妙な跳躍が生まれたり、導音の連打が目立つ箇所が出てきてしまっている。
 初めの跳躍進行はD#音の前後にあるG#音が跳躍を生んでいる元凶なので、この音を他の使用可能な音に置き換えるとすると、E音を選んでメロディとハモリを1オクターブ関係にしてみるのが面白い。これにより綺麗な順次進行が得られると同時に、メロディに対して反対に向かう反行進行となってユニークですらある。
 次の導音連打部分はメロディがB音の部分をオクターブにして、次の音を順次進行させてC#としてみると下から上がる進行が生まれて、音楽的にも高揚感が発生してくるようになる。この様な対策を講じたものが譜例7である。

問題解決案

 こうなると、上三度平行や下三度平行の呪縛がいかにハモリを束縛し、硬直的な創作スタイルに陥らせていたかが一目瞭然になる気がする。
 ハモリを付けるというのはやはり機械的な作業になってはいけない重要な創作上のファクターであり、実はこういう所ほど細かく推敲して作り上げていくことが、最終的な楽曲のクオリティに大きな影響を与えるのだろう。

 今まで当たり前だと思っていたことや、そうするのが当たり前と言われていることを
色々な見地から検証しなおして、創作スタイルを拡大していくことは、一見地味かも知れないが、オリジナリティの確立に大きく影響する。
 音楽は聴覚的経験と時間軸の呪縛に支配されていて、それが最終的に聴くものの感覚や記憶、イマジネーションや精神に及んでいくものだから、初めに飛び込む聴覚に心地よさとインパクトを与えたり、音のメタファーとしての役割を持たせることが出来れば、より印象深く味わい深い物になるのではないだろうか。

-どうやらハモリの世界にはまだまだそんな呪縛がありそうな気がしてきた。

 今後もこのシリーズではちょっとしたアレンジや作曲のにおける職人芸の世界を言語化して、誰にでも利用しやすいTipsにしていこうと思っている。狙いはなにか?それはこの界隈にはびこる腕のない調子に乗ったド素人を駆逐し、音楽の平均水準を上げることにある。そうすれば、まだ音楽文化の健全性は山の麓にあっても少しは保たれるだろうし、見えやプライドのために音を羅列するバカを見抜く力を一般に養うことで、調子に乗った連中を引き釣り下ろせるようになると固く信じるからである。

 当会のトイドラくんが「音楽ガチ分析チャンネル」という非常に良いYouTubeチャンネルを運営しているが、そのチャンネルにも言える在野の底上げに寄与するという側面を、私なりに嫌味と悪口を交え、これまでに経験したクソのような思いに対する恨み節を盛り込んで、ちょっとずつ紹介していこうと思うので、楽しみにしていただけたら幸いである。

 なお最後にお断りをするが、今回の内容は私がかつてその界隈で「GODWOOD」や「月食」という名義で書いた文章に手を加えてまとめ直したものであることをお断りしておこうと思う。

 その当時は連載企画にするはずで第1回のみ書いたのだが、結局雲散霧消空中分解となって続かなかったものを再構成してもう一度自分の手でちゃんと残しておこうと思った次第だ。