名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

正規位数条件(べき生成スケール後編)

本記事は、なんすいの理論記事シリーズの続きです。過去記事で紹介した用語を基本断りなしに使うので、本記事最後の用語集を眺めてから読むのをおすすめします。

 

 

 

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こんにちは、なんすいです。

 

前回、12音律の正規べき生成スケールを全て見つけました。

正規というのはインターバル構成の条件、そしてべき生成スケールとは、べき音列から生成されたスケールのことでしたね。

結果見つかったスケールは次の3つでした:

 

・ホールトーンスケール [0,2,4,6,8,10]

・リディアンスケール [0,2,4,6,7,9,11]

・ロクリアンスケール [0,1,3,5,6,8,10]

 

同様にして、今回は12音律以外の音律で正規べき生成スケールを探してみましょう。

 

 

 

n音律のホールトーンスケール

n音律における、べき数pによるべき生成スケールを考えてみましょう。(「n/pスケール」と書き表すことにします)

n音律の正規べき生成スケールを探すには、各pによるべき生成スケールを順に確認していけば良いのですが、前回述べた「べき倍音列の網羅性」を考えて、まず「pがnと互いに素であるかどうか」で場合分けしてそれぞれ調べていきます。

以下、aとbの最大公約数をGCD(a,b)で書き表すことにします。

 

pがnと互いに素でない場合、正規条件からGCD(n,p)≧3ならばべき生成スケールは正規になり得ません。

従って、nが奇数のとき、nと2は互いに素なのでGCD(n,p)>2 つまり正規べき生成スケールを持つpはありません。

一方nが偶数のとき、GCD(n,p)=2になるようなpにおいて正規べき生成スケール[0,2,4,...,n-2]が出来ます。

これは全てのインターバルが2であるようなスケールで、n=12を代入すればホールトーンスケール[0,2,4,6,8,10]になります。

 

以上をまとめると、nとpが互いに素でない場合については、nが偶数のときに限り、ただ1つ[0,2,4,...,n-2]という正規べき生成スケールが存在することが分かりました。

このスケールはいわば一般のn音律におけるホールトーンスケール、と呼ぶことが出来るでしょう。

 

 

 

nとpが互いに素である場合

では一方、nとpが互いに素である場合はどうでしょう。

全てのpに対して正規べき生成スケールが存在すると言えるでしょうか。

 

例として、13音律について考えてみましょう。

13は素数なので、12以下の全てのpが互いに素なべき数になります。

まずはp=5を選んでべき生成スケールを見てみましょう。

位数8のところでちょうど正規となるスケールが見つかりました。

 

では次に、p=3を選んでみましょう。

この場合は、正規条件を両方満たすスケールにはなりませんでした。

すなわち、nとpが互いに素の場合、正規べき生成スケールが得られるときと得られないときがあるようです。

 

 

 

正規性を満たす条件を考える

nとpが互いに素のとき、そのべき生成スケールは、元のべき音列の長さを1ずつ増やしていくごとに1つずつ新しい音がスケールに追加されていく、という特徴がありました。

ここで正規条件を再び確認してみましょう。

 

《正規条件》

①各インターバルの長さが2以下

②長さ1のインターバルが連続しない

 

べき音列の長さkを増やしながらべき生成スケールを作っていくことを考えると、kが増えるにつれて各インターバルの最大値はだんだん減少していきます(増加することはありません)。

したがって、「kがあるところより大きければ条件①が満たされ、kがあるところより小さければ条件②が満たされる」ということになります。

すなわち、条件①を満たす位数の領域と②を満たす位数の領域、2つの領域で被っているところがあるかどうか、が「正規べき生成スケールが存在するかどうか」を左右しているのです。

 

また前回「正規スケールから1つでも成分を取り除いたり加えたりすると、正規性は失われる」という事実を示したので、結局以下の2パターンが考えられるということになります:

 

(i)2つの領域がちょうど1つのある位数でだけ被っている→その位数のときに限りべき生成スケールが正規となる

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(ii)2つの領域が被っていない→正規べき生成スケールは存在しない

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正規条件を満たす位数kの条件

最初に、次のような定義を用意します:

 

l_+をMOD(l_+ p)=1 かつ 1≦l_+≦n-1,

l_-をMOD(l_- p)=n-1 かつ 1≦l_-≦n-1

を満たすものとし、

l = min(l_+,l_-) とする。(minは括弧内の数の最小値)

 

例として、n=13,p=5の場合を考えてみましょう。

pの倍数を13で割った剰余は、順に

0,5,10,2,7,12(=13-1),4,9,1,... と続きます。

すなわちMOD(5*5)=13-1, MOD(8*5)=1だから、

l_+=8, l_-=5 そして l=min(8,5)=5

となります。

 

lたちは、nとpによって決まる値というわけですね。

これを使って、正規条件を満たすべき生成スケールの位数kの条件を与えます。

 

《命題①》

位数kのn/pスケールが正規条件①を満たす⇔k≧n-l

 

[証明]

べき生成スケールの表を思い出して下さい。

これを逆から遡っていくことを考えます。

すなわち、k=nの状態[0,1,2,...,n-1]からべき音列の後ろの音を1つずつ取り去っていきます。

そうすると、べき生成スケールの位数は減っていき、どこかで条件①を満たさなくなります。

それは、長さ3以上のインターバルが初めて生まれたとき…すなわち、取り去った音群のうちで連続したものが現れたときです。

 

よって、音群(MOD( (n-m)p, ... , (n-1)p ) )を取り去ったとき、この両端の音程

MOD( (n-1)p)-MOD( (n-m)p )=MOD( (m-1)p )

が初めて1or -1になるような個数mの時点で、条件①を満たさなくなります。

これはlの定義からm=l+1であると分かるので、条件①をギリギリ満たす位数はl個取り去ったとき、すなわちべき生成スケールの位数がn-lのとき、ということになります。■

 

 

《命題②》

位数kのn/pスケールが正規条件②を満たす⇔k≦min(2l,n-l)

 

[証明]

定義から、

(a)MOD(0,l_- p,2l_- p)=(0,-1,-2)

(b)MOD(0,l_+ p,2l_+p)=(0,1,2)

となるので、(a)(b)どちらかの3つ組がスケールの中に現れた時点で、正規条件②は満たされなくなります。

(※MOD(l_-p)とMOD(2l_+p)など, 0以外の(a)の要素と(b)の要素の値が一致することは有り得ません(容易に分かります))

一方をlで書き直すともう一方はn-lで書き直せるので、

(a')MOD(0,lp,2lp)

(b')MOD(0,(n-l)p,2(n-l)p)

と出来、さらに 2(n-l)≡n-2l (mod n) だから、n/pスケールで位数を増やしていったときに、

位数が2l+1に達する→(a')が揃う

位数がn-l+1に達する→(b')が揃う

となるので、結局条件②を満たすギリギリの位数は、min(2l, n-l) となります。■

 

 

以上の命題①②から、正規条件①②を満たす位数kの条件は

n-l≦k かつ k≦min(2l, n-l) だから、これを両方満たすkは、

n-l≦2l ならば k=n-l 

n-l>2l ならば 解なし、つまり正規べき生成スケールは存在しないということになります。

n-l≦2lの場合にkがただ1つの値n-lに絞られているのは、「正規スケールから1つでも成分を取り除いたり加えたりすると、正規性は失われる」という事実にも合致していますね。

まとめると、次のようになります。

 

《正規位数条件》

n/pスケールが正規スケールを含む⇔n≦3l

このとき、正規性を満たすスケールの位数はk=n-l

 

正規位数条件の使用例

例えばn=56として、56/pスケールが正規スケールを持つかどうか調べましょう。

愚直にやれば、位数kを1つずつ増やしていって、正規条件②を満たさなくなるまで調べる必要がありますが、今回のようにnが大きいと大変ですよね。

そこで、先程の位数条件を使います。

 

まず、p=5の場合を調べてみます。

5の倍数のMODを計算していくと、l=11であることが分かりますが、56>11*3=33 だから、正規位数条件より56/5スケールは正規スケールを持たないことが分かります。

 

次に、p=9の場合を調べます。

9の倍数で56に近いのは6*9=54(=56-2)と7*9=63(=56+7)なので、この2つを使ってMODが1になるようなものを作ります。

すなわち3*54+63=3*(56-2)+(56+7)=4*56+1≡1(mod 56)

よってl=3*6+7=25

56≦25*3=75 だから、正規位数条件より56/9スケール正規スケールを持ち、その位数は25であることが分かります。

 

 

 

べき生成スケールの広い世界

さて、ここまで来て、あらゆる音律に対してべき生成スケールの世界が開けました。

現在作られている音楽のほとんどを支配している、12音律べき音7のべき生成スケールによる調空間は、その「12」「7」そして位数「7」という数に縛られながら音楽理論を展開させています。

すなわち、また別の音律におけるべき生成スケールに基づいて調空間を構成した時、そこには全く別の数に縛られた物理法則を働かせていくことになるでしょう。

それはまるで音楽構造のパラレルワールドが犇めいているようです……


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へぇ、ここがメイド喫茶かー。入ってみよう

 

ウィーン

 


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「お帰りなさいませ、ご主人様︎︎︎︎♡」

(目が3つある緑色のメイドさんが席へ案内してくれる)

 

「このお店、メニューに『ライブ』があるんですね。入れるとメイドさんが踊ってくれるんだ…1つお願いしてみよう」ポチ

(スピーカーから56音律べき数9のべき生成スケールを基にした調構造のある電波ソングが流れ、メイドさんが敏捷に踊り出す)

 

という世界も存在しているかもしれません。

 

 

 

【定義・表記など】

数列によって音列を表記する方法:インターバル構成など単に音列のときは()、スケールを数列で書くときは[]で囲むことで区別する

 

スケールのインターバル構成:スケールの各インターバル(隣接音程)を順に並べた数列

 

巡回同値関係:2つのスケールを適当な巡回によって一致させることが出来るとき、2スケールは巡回同値関係で結ばれているという

 

巡回同値類:どの2スケールを取っても巡回同値関係で結ばれているようなスケールたちの集合を巡回同値類といい、そこに含まれるスケールを1つ取ってきて括弧でくくり表記する

 

位数:スケールに含まれる音の個数

 

正規条件:①各インターバルが長さ2以下②長さ1のインターバルが連続しない

正規条件を満たすスケールを正規スケールと呼ぶ。

 

スケール:  n音律のスケールとは、次の3条件を満たす音列である:

①要素に0を必ず含む

②全ての要素が0以上n-1以下の相異なる整数である

③要素が左から小さい順に並んでいる

 

スケール化可能性: n音律のもとで音列aが次の条件を満たすとき、スケール化可能であるという:

①要素に0を必ず含む

②各要素a_jに対してMOD(a_j)が相異なる

 

スケール化: スケール化可能な音列に対して、その音列の各要素を小さい順に並べ替えてスケールを生成することをスケール化、生成したスケールを生成スケールと呼ぶ。

 

MOD: n音律のもとで、MODは次のように計算される:

単音eに対して

MOD(e)=(eをnで割った余り)

音列a=(a[0], a[1], ... , a[m-1])に対して

MOD(a)=( MOD(a[0]), ... , MOD(a[m-1]) )

 

べき倍音列: ある数の倍数を0から順に連ねた音列。(0, p, 2p, ... , (k-1)p) を「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼ぶ。

 

べき生成スケール: べき倍音列から生成されるスケール

 

べき倍音列の網羅性: n音律のもとで、0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,11の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であること(pはべき数)

 

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l_+,l_-,l:

l_+をMOD(l_+ p)=1 かつ 1≦l_+≦n-1,

l_-をMOD(l_- p)=n-1 かつ 1≦l_-≦n-1

を満たすものとし、l = min(l_+,l_-) とする。

 

正規位数条件: n/pスケールが正規スケールを含む⇔n≦3l

このとき、正規性を満たすスケールの位数はk=n-l