どうも、名作会会長の冨田です。
自分は今年度大学を卒業してから、作曲家として活動すべくインプットを重ねる日々を送っております。
「インプットを重ねる」というのは、具体的にいうと優れた作曲家の曲を分析して作風を真似してみるということです。
実際やってみるとなかなか面白いものがあり、ちょっとシリーズものとして解説してみようと思います。
今回はかの有名なベートーヴェンをものまねしてみましょう。
ベートーヴェンとは
ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)は、楽聖とも呼ばれるドイツの作曲家です。
1770~1827年を生き、古典派の集大成をなすと同時にロマン派への先駆けともなりました。
神経質で繊細な性格を表すように、重厚で暗く時に荒ぶるような楽想を見せるのが印象的です。
20代から難聴を患い、その後完全に聴覚を失ったというエピソードもよく知られています。
ソナタ形式に通じており、たいへん構成力のある作品を書きあげます。
さて、今回彼の作風をモノマネするにあたり、参考にした曲は「月光ソナタ」こと「ピアノソナタ第14番 『幻想曲風ソナタ』」です。
特徴点の分析
全体
まずは全体的なことから。
このソナタは3楽章制ですが、同じ主題が別々の楽章に共通で使われています。
特にわかりやすいのは、第1楽章と第3の冒頭部分です。
どちらの楽章でも、分散和音+低音の順次下行という音型が見られます。
また、第1楽章の第2主題は第3楽章でもそのまま用いられています。
半音進行が印象的で、絶妙な不協和音を生じる不思議な主題なのですが、これが第3楽章でも再現されることで、ある意味伏線が回収されたような感じがしますね。
このような、楽章間で使い回される循環主題はベートーヴェンの大きな特徴です。
また、古典的なソナタでは第1楽章はふつう明るいものなのですが、この月光ソナタの第1楽章は大変重々しく暗いです。
ベートーヴェンの挑戦的な一面が現れているといえます。
☆POINT☆
・循環主題
・伝統的な形式に対する反抗
第1楽章
さて、第1楽章の特徴を見ていきます。
なんといっても一番の特徴は、主題がぜんぜん旋律的ではないということでしょう。
きわめて鈍重な分散和音から始まり、そのあと第1主題が奏されますが、旋律的な要素はほぼありません。
同じ音が「デーンデデーン」と連打されるだけです。
たいへん主張が穏やかで、主題としては最低限のものだといえます。
ただ、茫洋とした均質な音像の中で、「デーンデデーン」というリズム感が印象的に響くので、結果的に耳に残る主題となっています。
そして、その背景の和声はとても不思議なものです。
古典音楽ではなかなか考えられないような複雑な転調もあり、かなり茫洋としています。
古典のソナタでは転調する調が決まっているのですが、そうした原則は破られています。
また、メロディの音が第5音高位になることが大変多いです。
ふつう、ある和音が鳴っているとき、メロディはその和音の根音か第3音を鳴らすのが美しい響きになるのですが、この曲ではあえて硬い響きになる第5音が好んで用いられています。
さらには、高音だけではなく低音も、第5音を保続することが多いです。
これらのことから、ベートーベンは属音や属和音の響きを強く意識していたことがうかがえます。
つまり、解決の響きよりも緊張の響きの方に重点を置いていたということです。
☆POINT☆
・旋律的な動きのない主題
・複雑な和声
・属音機能への傾倒
第2楽章
第2楽章は、このソナタの中で唯一明るい楽章です。
冒頭からいきなり示される直截な反復進行がかなり印象的で、果敢な反復進行はベートーヴェンの得意とするところだったと分かります。
また、この第1主題はきわめて美しい旋律動向でできています。
ベートーヴェンが対位法の名手だったことが分かりますね。
旋律的な要素が最低限しかなくても、対位法的にリズムや和音を絡み合わせることで、聞きごたえのある音を作っているというわけです。
こうした対位法は、中間部にも見ることができます。
やはり旋律的要素はかなり希薄であるにも関わらず、係留音を使いこなすことで対位法的な面白さが生まれています。
☆POINT☆
・効果的な反復進行
・対位法的な処理でシンプルな旋律をおもしろく
第3楽章
第3楽章は、まず第1主題がかなり特徴的です。
なにしろ、ただの駆け上がる分散和音が第1主題となっているわけですから。
やはり旋律的な要素の薄い主題が用いられています。
それに対し、第2主題はとても旋律的なものが示されます。
ややモーツァルト的な、転がるような旋律ですね。
が、この第2主題もすぐに変奏されていき、結局は旋律的要素のないものになってしまいます。
和声的には、ナポリのII、つまり主調の半音上をrootとするメジャーコードが多用されます。
ベートーヴェンがナポリ学派の影響を受けていたことの証左ですが、この和音は第1楽章にもかなり多用されています。
和音どころか、ナポリのII調への転調さえ見られます。
これはなかなか果敢です。
結果的に半音の動きがやや多めになり、妖艶な響きを形作っています。
また、特にカデンツァ付近が分かりやすいですが、曲全体に直接的なdim7の響きがたくさん見られます。
ベートーヴェンはこの響きが好きだったようです。
☆POINT☆
・第1主題は和音主題
・第2主題はモーツァルト的な旋律主題
・ナポリのII・dim7の和音を偏愛
ものまね曲、完成
……以上のポイントを踏まえて、ベートーヴェンをものまねしてみました。
この曲は僕が作ってみた曲です。
ちゃんとベートーヴェンっぽく聞こえるでしょうか?
まあ、ちょっと月光ソナタに寄り過ぎた気もしますが、おおむねいい感じではないでしょうか。
こうしたものまねはを通して、音楽的な理解が深まっていけばいいな~と思います。
皆さんもぜひ、ベートーヴェンっぽい曲を作ってみては?
作ったらぜひ僕に聞かせてください。
なお、「月光ソナタ」の詳細な分析はこちらにアップしています。
興味があれば見てみてください。