名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

ドロステ

時計を見ると朝の7時でした。ああ、大学へ行かなければならない。私は居室を出て最寄り駅に向かいました。今日も良い天気です。

 

改札を抜けるとそこは幼稚園の前でした。なぜこんなところにあるのだろうと疑問に思いつつ、大学に向かうべく園内を抜けようとすると、ある教室から声が聞こえてきました。窓から覗いてみると、どうやら三者面談を行っているようでした。
「このままだと将来碌な大人になりませんよ」
そう言うのはかつて私を受け持っていた保母の先生でした。すると彼女はこちらに気づき、
「ほら、こんなふうに」
と言い、私を指差しました。すると子供とその親もこちらに顔を向けました。彼らは幼少期の私と父でした。
私は教室内に進み出て、「ろ、碌な大人になれなくて、申し訳ありません」と謝罪しました。

少しの沈黙の後、「やりたいことをやっていれば、それでいいんだ」と父は答えました。幼い私は父の後ろに隠れて恐る恐るこちらを伺うだけでした。

 

やりたいこと。

 

やりたいこととはなにか。

 

当時絶対的な存在だった先生に、反撃を試みること。

 

そこで私は先生を押し倒したのです。やってみると案外簡単なものだな、と私は思いましたが、あたりどころが悪かったのか先生はそのまま動かなくなりました。私は驚いておもわず机にぶつかり、ハサミを落としてしまいました。ハサミは先生だったものの胸部にブスリと刺さりました。赤い液体が衣服を、床を染めていきました。

(これで私の過去も報われるだろうか......)

 

「やっていいこと悪いことがあるだろう」と父は言いました。
「ごめんなさい」
殺すつもりも刺すつもりもありませんでしたが、他にやりたいことはありませんでした。
私が立ち尽くしている間にも、血は止めどなく溢れ出て床を染めていきます。
私は床がこれ以上汚れてもいけないと思い、さっきまで先生だったものを片付けることにしました。しかし一体なぜかそれは私が所属する研究室の教員なのです。あたりもいつの間にか研究室の居室になっていて、ラボのみんながこちらを見ていました。
「こ、これには理由があるんだ」私は弁明を試みました。
「全部おまえがやったんだ」と彼らは言いました。
よく見ると、その教員だけでなく他の皆の胸にもハサミが刺さっていました。早くなんとかしなければ。私は研究用のアルコールを一面に撒いて火を放ちました。これで何もかも燃えて無くなってしまえばいいのだけれど、そうは上手く事は運ばないんだろうな。

 

炎の向こうで壁掛け時計が鳴っています。
時計を見ると朝の7時でした。ああ、大学に行かなければならない。私は居室を出て最寄り駅に向かいました。今日も良い天気です。