名大作曲同好会

“音楽”を創る。発信する。

怪異と音楽

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某有名幽霊の方

 夏も分かりやすいほどにあっさりと過ぎ、秋の只中、一気に涼しくなり、忌まわしきコロナもちょっと小康状態。皆様、ご健康にお変わりはありませんか?
 なんだか夏があまりにも一気に過ぎていってしまったので、私はちょっとだけ懐かしくなってきました。そして夏にやり残したことを考えていたら、日本の夏の定番「怪談」を思い出したというのが今回の記事の動機なのです。

 

 音楽と怪異の関係には3つが存在するように思います。

 

・怪異のために書かれた音楽(劇伴やホラーBGなど)
・直接怪異とは関係ないが曲調や、その曲にまつわる伝説から怪異と捉えられたりする音楽
・その曲自体が怪異を起こす例

 

 もっともポピュラーなのがはじめの「怪異のために書かれた音楽」でしょう。ホラー映画の音楽や、怪談を題材とした音楽がこれに当たりますから当然ですね。

 

この例をいくつか見てみましょう。

 

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オペラ座の怪人


オペラ座の怪人
 カール・マリア・フォン・ウェーバーの歌劇「魔弾の射手」の公演を下敷きにガストン・ルルーが書いた小説が原作で、これまで幾度となく様々な国やチームにより映像化されてきた有名な作品です。
 その中でもアンドリュー・ロイド・ウェバーが書いたミュージカルは極めて有名であり、現在このタイトルを聴けばこの音楽が思い出される程になっています。
この劇中曲で組曲が作られているが、その一部を聞いてみましょう。

 

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アンドリュー・ロイド・ウェバー

 この曲を書いたのは1948年イギリス生まれの作曲家、アンドリュー・ロイド・ウェバーである。数々のミュージカルを大ヒットさせた巨匠であり、日本でも何度もブームを巻き起こしているのでよくご存じの方も多い作曲家ではないだろうか。
 この短三和音が半音でうごめくオルガンのメロディーは誰でも知っている有名メロディの一つだろう。ちなみにこのミュージカルで抜擢したサラ・ブライトマンと結婚したが、その後離婚し、その出会いと別れをもまた別のミュージカルに仕立てたのは、彼が生粋のミュージカル作家と言われる所以とも言えるだろう。

 

 

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耳なし芳一


小泉八雲の怪談によるバラード」
 小泉八雲といえば皆が知る怪談作家であり、アイルランド人とギリシャ人の両親のもとに生まれたラフカディオ・ハーンのことである。日本国籍を取得し、日本人と結婚し、日本文化を調査しながら英語教師としても働いた小泉八雲が書いた怪談に、フィンランドの作曲家ペール・ヘンリク・ノルドグレンが触発されて曲を書いたものだ。
9曲の組曲の形式をとっており、小泉八雲と言えばこれ!と言われる代表作「耳なし芳一」も含まれている。まずこれを聞いてみよう。

 

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ペール・ヘンリク・ノルドグレン

 実はこの曲を書いたノルドグレン自体が日本に非常に縁がある作曲家なのである。

 1944年にフィンランドのオーランド諸島に産まれ、ヘルシンキで学んだあと1970年に来日、東京藝術大学で長谷川良夫門下として日本の伝統音楽を学び影響受けたのである。そしてそのまま日本人の妻と結婚後、フィンランドに戻って活躍し、2008年に亡くなった。
 北欧ピアノ音楽の権威で現在左手のピアニストとしてしられる舘野泉氏に紹介されたことでこの機会な曲も有名になったという、なんだか外国の作曲家とは思えない親近感があるように思う。

 

 

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Macrocosmos


「マクロコスモス」
 アメリカの作曲家ジョージ・クラムによって書かれたピアノの組曲で、4巻からなる大作シリーズで、彼の代表作の一つでもある。ピアノの内部奏法だけでなく、奏者の声や歌、叫び声まで駆使し、独特の世界観をつくり出している。
 特に第1巻には「ゴンドラ乗りの幽霊」という直截なタイトルの楽章があり、ベルリオーズの「死者のための大ミサ曲」の引用を用いながら極めて不気味展開する。

 

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ジョージ・クラム

 ジョージ・クラムは1929年にアメリカのチャールストンに生まれた作曲家で、アメリカ現代の「三大C」(クラム、カウエル、ケージ)の一人とも言われる作曲家である。
 初期は明確にバルトークの影響の強い作風であったが、徐々に作風をホラーなものに変えてゆく。作曲法はメシアン的な数理操作を伴い、また数秘術を駆使するなど数的な操作に重点が置かれているが、描き出される世界や音はまさにあの世そのものである。
ベトナム戦争について書かれた弦楽四重奏曲「ブラック・エンジェルズ」は彼の代表作としてよく知られている。
 彼の作風がホラー的であるのは、キリスト教文化圏的に見たときに神と対を成す悪魔という概念からみて、それほど奇異なことではないのだが、その描き出し方の見事さは国を超えて背筋を寒くさせるに十分である。

 

 

 さてここまで見たら次の「直接怪異とは関係ないが曲調や、その曲にまつわる伝説から怪異と捉えられたりする音楽」を見てみよう。

 そんな曲あるのだろうか?と思われる方も多いが結構あるのが面白い。
 まず超代表的な例を一つ。

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死神さん?

「レクイエム」
 モーツアルトの絶筆作品として知られる、レクイエムであるがこの曲はモーツアルトが死神から依頼されて書き始め、その途中でモーツアルト自身が絶命したという伝説とともに語り継がれ、それが所以で曰くある曲と言われるようになった。
 またその話を映画にして、その黒幕に当時の重鎮作曲家サリエリを設定したことから、その俗説が広く信じられることになったのだが、全て作り話である。ひとまず聴いてみよう。私の趣味でカール・ベームの指揮する音源を選んだ。

 

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ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト

 ヴォルフガング・アマデウスモーツァルトについて今更語ることは全く無いと思うが、1756年にオーストリアに生まれた伝説的作曲家である。夭折の天才としても知られ1791年に35歳にして亡くなってしまう。あらゆるジャンルで素晴らしい功績を誇り、この作曲家を知らない人はいないと言える偉人の一人である。
 様々な研究で、その素顔は「音楽の神」と呼ばれるような彼のイメージとはかけ離れたところも多々ある、いわゆる奇人でもあったようだがその音楽には確かに人間を越えた何かが宿っていると考えても良い神々しさがある。

 

 

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エクソシスト


「弦楽のための幻想曲」
 ドイツの作曲家ハンス・ウェルナー・ヘンツェが「テルレスの青春」という映画のために書いた曲の第4楽章が、ホラー映画の代表作「エクソシスト」のエンディングに使われイメージが定着した。
 エクソシストという映画は、作品中に多くの現代音楽を用いており、先程のジョージ・クラムの作品や、ペンデレツキの作品、そしてテーマ曲もマイク・オールドフィールドというイギリスのミュージシャンの「テューブラーベルズ」という曲だったりする。そしてこの映画の内容から、これらの引用曲にはすべてエクソシストの曲というイメージが定着してしまったのだ。

 

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ハンス・ウェルナー・ヘンツェ

 ハンス・ウェルナー・ヘンツェは1926年にドイツに生まれ作曲家で、少年の頃より楽才を示し、早くから活躍した天才である。同性愛者であること、極左思想など時代を先取りする激しさを持っているが、作風は正当な後期ロマン派の延長にある現代音楽であり、刺激的で過激なものではない。またそういった思想についても段々軟化することで中道回帰していったことと、作風が先鋭化しなかったことは関係があるとする研究もある。2012年にドレスデンにて亡くなっている。

 

 

 

 さてそうなると最後が気にかかる。「その曲自体が怪異を起こす例」である。そんな恐ろしいものがあるのだろうか。

 まあこれはスピリチュアルな話なので信じるも信じぬも自由だと思われるが、少なくとも私は一つ存在は知っている。

 

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イタコ

 

「合唱のためのコンポジション第11番」
 日本の作曲家、間宮芳生がライフワークとして書き続けたシリーズの第十一番である。間宮は民謡研究を深めに深めたことで、名もなき民謡の作者の息遣いや生活が感じられるレベルにまで没入し、世界中の民謡の精神的なつながりにまで言及、広いい意味で宗教儀礼民間信仰の類も民謡の一種だというところまで至る。そして17番まで書かれているこのシリーズでは、様々な観点からこの民謡性が分析され用いられている。
 ところがこの第11番は出版はされているものの、音源のリリースはない。実は東京混声合唱団の初演時のライブ録音音源が関係者に配られたが、一般的な音源はリリースされていないのだ。


 なぜだろうか。
 そこにはまことしやかにこんなことが囁かれている。

 

「この曲を演奏すると、良からぬことが起きる…」

 

 なにを言うんだと思われる方もいると思うが、実はこの曲題材がちょっとやばいのである。テーマは農村における間引きと言われる子殺しであり、全四楽章それぞれのサブタイトルは以下の通りである。

1.アエーヤー(口よせ)
2.名まえもつかずつゆのいのち
3.まんじ(卍)
4.はなつみ

…なるほどと思われただろうか。
 間引きをテーマに、この世からあの世への呼びかけ、あの世からこの世への呼びかけを描いており、作曲者はイタコの口寄せを参考にしたという。

 本来であれば音源をお聞かせしたいが、上の事情で音源は存在しないも同然なのでそれはかなわない。お知り合いに東京混声合唱団の関係者がいたらテープを貸してもらえるかもしれないが、その後何が起きても私は一切関知しないので…。

 

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間宮芳生

 間宮芳生は言わずとしれた我が国の巨匠であり、日本伝統音楽の研究にはじまり、世界の民謡研究にまでその幅広げる一方、Jazzのイディオムを楽曲に取り入れるなど極めて独自のスタイル確立した作曲家である。1929年生まれで90歳越えてなお現役という長寿作曲家でもある。
 北海道の旭川に生まれ、青森で育ったという生い立ちと、この民族音楽研究はもともと宿命付けられていたのかもしれない。東京音楽学校で池内友次郎に師事するが、それまでは一切独学であったそうだ。その後、日本民族主義と左翼思想をともにする仲間、外山雄三、林光とともに「山羊の会」を結成したことでも知られる。オーケストラ作品、室内楽吹奏楽、合唱、歌曲とその作品に隙きはなく、あらゆる編成の音楽を書きこなす天才である。

 

 


 さて如何だったでしょう。
 過ぎた夏を惜しみつつ、寒くなってきた今日このごろをもっと冷ややかなものに出来たでしょうか。たまには違った視点で音楽を見つめてみるのも面白いですね。
 音楽と怪異、実は音楽演奏される現場であるコンサートホールなどにも、結構多くの怪異が言い伝えられていたりするんですよ。もしそういったものが見えちゃう方、コンサート会場でも注意しないといけないかもしれませんね。

 

 

それではまた…。