名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

自作曲あけすけ解説シリーズ②「夜の窓辺にて」~楽曲編その1~

~前編~


気づけば。もう6月も中旬に差し掛かろうとしています。
来る6/26、名作同は1年ぶりにコンサートを挙行するわけでして、今はその準備に追われております。
そうわけで、ブログの更新が1週間遅れたことはご勘弁を……と弁解させてもらったところで、今回もあけすけに語っていきましょう。
今回は、それぞれの曲を作る際に考えていたことを話します。

 

 

【もくじ】

 

はじめに

この曲集には、28曲の曲が収められています。
曲のタイトルは、初めの方は「夜、月、鏡、水」などといったモチーフを含むものになっており、最後の方に行くにつれてだんだんとアイデンティティの確立を匂わせるものになっていきます。

ピアノ小品集「夜の窓辺にて」 /冨田悠暉 - YouTube

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曲のタイトル

各曲については、特に語ることがないものもあれば、かなり思い入れのある曲もあります。

今回は、思い入れのあるものを中心に語っていきます。

 

水底に沈んだ星座

この曲のタイトルには、「水の底」に星座という「空」のものが沈んでいるという視点の転倒が含まれています。
視点の転倒は、この曲集のテーマでしたね。
水の底から夜の空を見上げている、というイメージで、ゆったりとした3拍子の湿っぽい曲に仕上げました。

ちなみに、この曲は曲集の中では2番目ですが、完成させたのはだいぶ後の方です*1


交わらない2声の献歌

この曲を作る直前、僕の部活の後輩が恋人に振られてしまいました。

この曲は、その一件にインスピレーションを得て作ったものです。

曲全体が2声の対位法で作られていると同時に、この2声は2星、つまり織姫と彦星の暗喩でもあり、この2つの旋律線が曲の最後まで交差しないことで、通じることのなかった2人の心を表しています。

ちなみに、献歌も献花とかけており、死んだ恋に対しての僕なりに花を供えたつもりです。

 

あの子と話した

この曲を作っているとき、僕はめっちゃ片思いをしていました(他人の失恋を観察してる場合じゃねえ)。

まあそういうわけでこの曲ができたのですが(雑)、この曲は最後の部分に少し工夫があります。

前半は甘く溶けるような曲調なのが、最後の部分でいきなり怪しく不安定な調子に変わり、そのまま終わっていきます。

ここには、僕なりの価値観の転倒が含まれています。

つまり、恋愛って必ずしも甘くとろける幸せなものではないですよね?

恋焦がれることは、ある種の狂気にも似ていますから。

 

授業中のワルツ

この曲にも、僕なりに価値観の転倒というメッセージが含まれています。

みなさんが小学生とか中学生の頃、授業は真面目に受けていましたか?

もしかしたら、授業中に窓の外なんか眺めて、好き勝手な思索の世界に没入しちゃってた人もいるんじゃないでしょうか。

あるいは、じっと席に座っていられなくていきなり立ち上がってしまう生徒とか。

この曲の主人公は、そんなどこか不真面目(?)な、それでいて自分に正直な1人の生徒です。

彼らの頭の中には、授業で教えているのとはまた別の広い世界があって、もしかしたら彼らはそこでワルツでも踊っているのかも。

たくさんの半音進行を含むこの気だるげな曲は、静かな破戒の雰囲気を漂わせながら淡々と進んでいきます。

 

なに いってるのか わからない

この曲は、タイトルに大きな意味が込められています。

実はこの曲にはある1つの暗号が隠されているのですが、多くの人はそれに気づくことはないでしょう。

「何言ってるのか分からない」というのは、そんなみなさんの気持ちの代弁というわけですね。

訳の分からないホラばかり吹いている子供や、妄言を吐き続ける狂人など、皆さんも1度は相対したことがあるでしょう。

そういう人々はどうしようもない奴だと思われがちですが、実は彼らも彼らなりに何か伝えようとしていることがあって、それを僕たちが分かっていないだけなのかも。

(あとは遊び心で一度自分の曲に暗号を仕込んでみたかった……)

 

ちなみに、この曲に隠された暗号を解くカギは、右手の奏するメロディ*2

あけすけ解説とは言いつつ、最後までネタバレするのはつまらないので、ぜひこの曲に隠されたメッセージを解読してみてください。

 

夢に出てくる子

「夢」というのも、現実の陰の部分ということで、ある意味この曲集のテーマと言えるかもしれません。

みなさん、夢の中に出てきた人に惹かれてしまった経験はありませんか?

その人が現実にいるのかいないのかは別として、夢から覚めてしばらくは猛烈な切なさに襲われちゃったりして。

 

さて、この曲は最後の部分に1つ工夫がしてあります。

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曲の終わりの和音ですが、これを弾こうと思うと必ず右手と左手が触れあってしまうように書いてあります。

一瞬触れ合った両手ですが、右手にだけ次の音が書いてあるので、それを弾くために触れ合った両手はすぐに離れ離れ。

まさに夢の中の2人ですね。

手をつかんだと思ったら、すぐに目が覚めてしまって決して結ばれることはない。

 

寝ているわたしと空が見える

この曲は、実はあるアニメに霊感を得て作曲しました。

「アドベンチャー・タイム」というアメリカのアニメのシーズン6第25話、「幽体飛行」という回です。

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幽体飛行

このアニメは、子供向けのタッチで描かれていながら、かなり重い世界観で哲学的・宗教的なメッセージ性を含み、ナンセンスで不可解なことで定評がある問題作。

僕が知る限りのアニメの中では一番好きです。

 

「幽体飛行」という回では、主人公の少年フィンが幽体離脱をし、空に昇りながら、この広い世界や宇宙について知っていきます。

幽体離脱というのは、主観である自分が客体化されるということです。

この曲集のテーマである「アイデンティティの確立」とかかわりの深い、重要な示唆を含んでいます。

 

あつくって ねむれない

この曲ですが、実は僕がひそかに一番気に入っている曲です。

真夏の暑い日、熱帯夜で全然寝付けないことってありませんでしたか?

(え、冷房ついてたけど?って人は金持ちなので黙ってて下さい(怒))

熱帯夜の暑さにやられて眠れず、寝返りを何度も打ち、それでも眠れずに夜が更けていく、というのがこの曲のイメージです。

 

さて、勘のいい人ならお気づきかもですが、「夜になっても起きている」というのは、前回の記事で示したライナーノーツの詩の第3連

みんな 夜に目をとざして ねむる

ここと対照関係にあるんですね。

つまり、この曲は主人公のアイデンティティが覚醒していくきっかけ、境目となる曲です。

眠れないということは、そのぶん物思いや思索もはかどることでしょうし。

 

この曲以降、意味深なタイトルの曲が増え、怪しい響きの曲も多くなっていきます。

 

 

さて、キリのいいところまで行ったので、今回はこの辺で。

次回では残りの数曲について解説していきましょう。

*1:この曲集は、一旦28曲を完成させてから曲順を再構成してあります。

したがって、曲順は作曲順ではありません。

あるていど演奏難易度順になるようにしつつ、多少のストーリー性も生まれるように並べ替えてあります。

*2:もっと言えば、メロディのリズムが重要。