名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

「あなたも作曲家になろう」Yo-yoh/DENPAMARU☓榊山大亮

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あなたも作曲家になろう

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新型コロナウイルス

名作同の企画「あなたも作曲家になろう」では、私はもう一曲参加をさせていただいている。
その楽曲は、本企画の公募の中で唯一といってもいい、完全な楽曲として投稿されてきたものであった。
そしてそのテーマは新型コロナウイルスと戦う人類」。まさに今を描いたものであった。

この楽曲は会長であるトイドラくんも同様にアレンジを行い、それについては以下の記事にまとまっている。

  

nu-composers.hateblo.jp

 

また私のもう一つの参加作品であるふらったぁさんの作品Piano Duoによるアレンジにしたので、この楽曲については違うアレンジにしようと言う意気込みがあったことも忘れてはならない。

ふらったぁさんの作品のアレンジについては以下の記事をご覧いただきたい。

 

nu-composers.hateblo.jp

 

話をYo-yoh/DENPAMARUさんの楽曲に戻そう。
タイトルもすでに決まっていて「Knot will overcome the Not」とあった。
新型コロナウイルスに対する高い問題意識、危機意識と、人類の力を結びつけるに余りある意識の高さを感じるタイトルである。
そしてその楽曲は数声部のアンサンブルのような形態の楽譜で私の手元にやってきた。
楽曲の説明やコンセプトもしっかりしていて、これをアレンジするためには更に多くのことを考えなければかえってマイナスになってしまう。

 

日頃お世話になっているあるプロミュージシャンがこんなことを言っていた。

 

「アレンジとはアップデートでなくてはいけない」

 

たしかにうなずける。
ダウングレードのアレンジが巷に跋扈している中、ちゃんとアップデートを試みるにはまず原曲を知り尽くすことをしなくてはいけない。
作者の創作にコミットし、あるいは自分に憑依させるような作業である。
そしてその結果、私はこの楽曲にはいくつかの「伝わりにくさ」があると感じた。

・構成の不明瞭さ
・ハーモニー展開が最善とは言えない箇所がある
・命題を打ち出すための力強さ
・結論をはっきりさせるためのシーンの弱さ
オーケストレーション的な問題

 

これらをトリートメントして、さらにアップデートしつつ、原曲の魅力は残す
これが今回私に課された内容であると確信し、以下のような方法論を採用した。

・原曲の構成を変える
・ハーモニー付けを大幅に変えながらも原曲感を維持する
・原曲にはない要素を付け加えコントラストを強調する
・フルオーケストラ作品にする

 

殆どの要素を見直すと言っても過言ではない大手術だが、そうは感じないようにすることがプロの仕事とも言える。

まず現在の世間を見渡したときの対コロナに対する怒りと恐怖を打ち出すために、原曲でもっとも強く鳴り響いているシーケンスを取り出し、これを中心に現代的なアクションと打楽器類を多く鳴らすオープニングを構築した。

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オープニング

実はこのオープニングの書き方には参考にした人物がいる。

それは今回の企画でゲストコンポーザーとして参加したYuya Miyazakiである。
彼もまた私の弟子の一人であるが、普段フルオケを中心としたエピックな作風に定評のあるコンポーザーで、メロディによらない迫力のあるオスティナートを特徴としている。

今回の企画にはメタルサウンドを引っさげて参加しているのでその曲については以下の記事を参照していただきたい。

 

nu-composers.hateblo.jp

 

このオープニングでショッキングさを演出してから、メインメロディに渡す構成に改め、メインメロディは弦とHornによる小さなカノンを形成させて強調を促した。

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メインメロディ1

楽曲はこのまま確保をして印象づけをした後、一旦休止し中間部分に入る。
原曲では緩徐部分が2回登場するのだが、これを改め、2つの緩徐メロディを統合し一つの部にまとめた。
前半はアングレのソロに段々とダブルリードが絡んでゆく体位的な手法を採用し、映画音楽的効果を与えることにした。

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中間部分

そしてテーマの確保では大河ドラマ調の盛り上げ方を利用して更に映画感を強めている。

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中間部確保

この後が再起である。
原曲にはないシーンだが、伝染病は一般に数波に分かれてやってくると言われており、現実的にも今日本はこの曲が書かれた時を第一波とすれば、第二波の渦中にあるので、この構成変更は正しかったかと思う。

オープニングでも使ったシーケンスフレーズマリンバに叩かせ、打楽器で彩られた中に種々の騒音が緊張を高めるシーンである。

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再起へのブリッジ

再起を促した場合、その後は通常ははじめのテーマが戻ってくるのだが、ここでは原曲のもう一つのメインメロディを用いることにした。
このメロディにはコロナと戦う人類の勇ましさ、力強さが表現されていると感じられたので、これを強調するために有名ゲーム音楽の書法を応用した。
ハーモニーもそれに倣っていわゆる「すぎやま節」と呼ばれる形に付け直してみることにした。
こうすることで、ゲームというプラットホームに慣れた現代人に、直截に勇猛果敢な人類の姿を伝えやすくなると考えたからだ。

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再起シーン

最後は願いを込めて原曲と同じく平和に終止することとした。
私だって現実のバッドエンドは望まない。
しかし原曲はハーモニーの余韻のみのような終止であったので、ここにメロディを加える方法を採用し、さらにそれら全体をふわっと演出するためにハープを思い切って使うことにした。
また原曲はこのシーンのハーモニーを起点に別の調で終止させるのだが、それを改め同主長調での終止、いわゆるピカルディ終止にしてまとまりを補った。

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エンディング

以上がこの楽曲のアレンジに私がつぎ込んだアイディアと、その実例である。
楽曲については、各種音楽サービスより絶賛配信中であるのでそちらをぜひ聴いていただきたい。

 

最後になるが、ここまでの大きなコンセプトを着手する刺激を頂いた原曲者のYo-yoh/DENPAMARUさんに深く感謝し、この楽曲のように、忌まわしい新型コロナウイルスに人類が勝ち、再び平和に満たされる日が来ることを望んで止まない。

 

原曲者Twitterアカウント

https://twitter.com/mamecowiwiACeT?s=20

 

 

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