90年代と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
バブル、小室ブーム、ジュリアナ東京、世紀末......などなど様々ありますね。
そんな文化乱立時代の90年代に花開いた音楽ジャンルの一つに「渋谷系」があります。
まあ正確に言うと
ジャンルではないんですがね。
なぜジャンル「ではない」のかというと、それは渋谷系を定義した田中宗一郎曰く
宇田川町の外資系CDショップを中心とした半径数百メートルで流通する音楽
だからです。
いや雑過ぎね??
この定義には渋谷系を揶揄する意味合いもあり、それもあってか、いとうせいこうはもっと肯定的に定義しています。
渋谷のレコード店に通い世界中の音楽を聴いたアーティストたちによって生み出された音楽
そして渋谷系ミュージシャンの特徴を以下のように挙げました。
・オシャレ
・力まない歌声
・メインストリームとの絶妙な距離感
まあ結局渋谷系ってのは曖昧なんですけどね
というわけで今回は、そんな曖昧な渋谷系を聞きながら、渋谷系とは何か考察しつつ、渋谷系の歴史を辿っていきましょう。
......と思っていました。
思っていたんですが、書いてたら文量が死ぬほど膨大になったので分けます。
今回は渋谷系の黎明期、フリッパーズ・ギターに焦点を当てます。
黎明期 80年代後半
The Flippers Guiter
~すげー簡単な歴史~
五人組バンド「ロリポップ・ソニック」から改名
↓
売れる。
↓
なんだかんだで解散。
正直名前はどうでもいいので、ネオアコがなんなのかだけわかれば良いです。
たとえばこのアズテック・カメラ
ロックでもソウルでもない、独特の軽さが特徴ですね。
ちなみにアズテックカメラとフリッパーズギター、めちゃ似てます。
なぜ似ているのか?それもそのはず
フリッパーズギターは曲から歌詞からアートワークから題名まで、とにかく引用が多いんです。ぶっちゃけパクってます。
っていうか
堂々とパクり宣言をしてます。
3rdアルバムに至ってはサンプリングが多すぎて再発ができない有様。
まあ、日本のポピュラー音楽は海外のものを模倣するのが常套手段なので、彼らだけが一概に悪いとは言えない。また、あからさまな模倣をすることで、日本のポピュラー音楽が進歩するという側面もあり...云々
よくもまあ著作権侵害で訴えられなかったものだなあとは思いますが、マイナーな曲を真似したくらい[要出典]だから大丈夫だったのではないか、と勝手に思っています。
サンプリングに関しては、これを多用していたHiphopシーン自体がアンダーグラウンドなものだった故に目に付かなかったんでしょうね~。著作権侵害も親告罪ですし。
サンプリングが一般的な手法になるにつれて規制が厳しくなり、サンプリングにも変革が起きるのですが、その話はまたいずれ。
アルバムは全部で三枚。
この流れが渋谷系全体の流れに近しいものがあるので、順に紹介していくことにします
three cheers for our side〜海へ行くつもりじゃなかった〜
記念すべき第一作。どこへ行くつもりだったんでしょうね。
メンバーが脱退する前の貴重な演奏が聴けます(ただしそんなに上手くない)。
サンプリングを伴わないパクりの数は、おそらくアルバム三枚の中でダントツで多く、
その最たるものがこの「さようならパステルズ・バッヂ」です。
甘すぎる歌声と下手くそすぎる英語はこの際触れませんが、この発音なのにこのアルバムが全編英語なのは流石にツッコみたい。英語に明るい人は笑っちゃうでしょうね。
つか
答え
パステルズ
タイトルまで引用してしまうバンド、それがフリッパーズギターです。ここテストにでます。
引用はこれだけじゃあ終わりません。曲、タイトルときたら次は歌詞です。
歌詞↓
固有名詞が異常に多いですね。なぜでしょうか?
全部引用だからだよ!
『さようならパステルズ・バッヂ』の歌詞には、80年代イギリスのインディシーンのバンド名やそれらにまつわる単語がちりばめられている。おそらく30個以上はあるのではないか。そんな中で当時の私がなんとか元ネタに辿り着けた歌詞が以下である。
A postcard from Scotland says
It’s still raining hard in the highland
(スコットランドからのポストカードに書いてあった
高い山ではまだ激しく雨が降っているって)
©kenji ozawa
これは、スコットランドに「ポストカード」というインディレーベルがあって、そこから生まれたバンドが「アズテック・カメラ」で、彼らのデビューアルバムが『ハイランド・ハードレイン』である、ということをモチーフにしている。
ん な も ん わ か る か ! !(怒)
もはやめちゃくちゃです。確実に小沢健二の知識披露癖がでています。
中学生諸君、社会の試験で「日本の主食はお米、アメリカの主食は?」とあったら、答えは「パンは副食(side)で、チキンやパスタ等、その日のメイン料理が主食。パンは補助的な存在で、設問はむしろ日本の食事観と集団的思いこみを表してますね、先生」と書くのをこらえて「パン」と書こう。
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) April 7, 2019
知識披露する小沢健二
ただこういった側面が必ずしも悪いとは言えず、結果的に耳の肥えたリスナーを生み、ネオアコ再評価・再発売の波などが来ました。立派な功績と言えます。
CAMERA TALK
満を持しての2ndアルバム。題名は多分先ほど紹介したアズテックカメラが由来しています。
タイアップ効果もあり、なんとレコード大賞ニューアーティスト賞受賞。
おそらく渋谷系が浸透することとなった最大の要因であろうと踏んでいます。
ちなみに前作で懲りたのか、今作は全編日本語詞です。最初からそうすれば良いものを......
このアルバムのリード曲が、彼らの代表曲でもある恋とマシンガン
なかなかにシャレオツでMVもかっこいいですね。
当時80年代は空前のバンドブーム(ブルーハーツとかユニコーンとか)だったので、かなーり斬新に聴こえたとか。
恋とマシンガンも、当然のように元ネタがあって、
黄金の7人という曲なんですけど
恋とマシンガンの冒頭と、黄金の7人の35秒くらいからとが、まあ似ている似ている。
また、有名になるにつれてメディア露出も増えていくわけですが、ここでの彼らの言動はひどい。まあ見ればわかる。(と言いたいところでしたが、軒並み動画が消されていました。悲しいかな、情報化社会において我々は映像ではなく映像を見る権利を得ているのです。)
ちなみにレコード大賞でのテレビ出演もあったのですが、その内容は和田アキ子をからかい、やる気の無い口パクを披露。というものでした。
いやーこれ見てると本当に酷いんですよ。ナメプという言葉がぴったり。
まあ相手が和田アキ子なので大歓迎なのですが。
ヘッド博士の世界塔
フリッパーズギター最高傑作にして問題作にして最終作。
全編サンプリングまみれすぎて再発売が事実上不可能な一枚となっております。
一曲聴いてみましょう。
前2作は生演奏を基調とした、明るめの曲が多かったですが、今作はリズムマシンが主体でどことなくサイケでダンサブルです。
なぜこうなったのでしょう?
その鍵はサンプリングという技法の導入にあります。
サンプリングとは、元々はミュージックコンクレートと呼ばれる現代音楽のジャンルで編み出された技法で、ざっくり言うと「自然音や楽音などを録音して自分の曲に使ってしまえ~!!」というものです。んな無茶な。
さらに80-90’sはそこそこ高性能なサンプラー(サンプリングした音を発する打楽器みたいなやつ)がHiphopシーンで大活躍、音楽後進国の日本にも流石に入ってきたという時代背景があるわけです。
めざとい彼らは持ち前の引用力を武器に、サンプリングを使い倒しました。
ゑ? 引用力ってパクりのことじゃないかって?
ものは言いようなのです。
ということで全編サンプリングまみれの狂気のアルバムが完成しました。
ただし、狂気はサンプリングだけではないのです。
アルバムを通して
やけに曇った音・退廃的な歌詞・サイケ
など、どう考えても万人受けしないサウンドが鳴り続ける、かなり実験的な作品になっています。それでいてポップ・キャッチーさも同居しています。自分でも何言ってるかわからなくなってきました。
挙げ句の果てに終曲がこれ
カオスオブカオス。
おもちゃ箱いくつひっくり返しても足りないしっちゃかめっちゃかさ。つか長え。
バンドの終焉を暗示するかのような大曲に仕上がっております。
というのも、このアルバム発表後しばらくして、フリッパーズギターは解散したからです。
フリッパーズギター解散後、小沢健二と小山田圭吾はそれぞれソロ活動を始めます。
(ちなみにこのサンプリング過多カオス路線は小山田圭吾が引き続き行っていきます。いや引き継ぐのかよ。)
フリッパーズギターの活動期間は約3年と短いですが、日本の音楽シーンに多大なる影響を及ぼしたらしいです。具体的には渋谷系が誕生します。
...おや?
そう、フリッパーズギターが活動していた段階ではまだ渋谷系(という括り)は誕生していないんです。
フリッパーズギターの成功が、後に渋谷系と呼ばれるミュージシャンの存在を顕在化させた、と言っても過言ではないでしょう。
さあ、いよいよ渋谷系が始まるというところですが、フリッパーズギターについて一通り話したので今回はここで終わりです。この記事長いし。疲れたし。
渋谷系の時代、次回はおそらく小沢健二と小山田圭吾のその後について書くと思います。ではまた。
終
制作・著作
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次回