名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

打楽器アンサンブルのススメ

打楽器アンサンブル

 暖冬と言われる今冬、たしかに例年より温かい気がしますが、その分花粉の飛散も早く、ワタシ、すでに苦しんでいます。
 それにしても年初から大きな出来事が相次ぎ、先行きが思いやられる立ち上がりになりましたね。本当に災害でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りし、一刻も早い復興を願いたいと思うばかりです。
 さて唐突ですが、今回は、打楽器アンサンブルについてまとめてみようと思っています。それは、打楽器アンサンブルに対する知識の不足が世の中顕著になってきたのかなと思うところがあるからです。
 打楽器アンサンブルというジャンルはその確立が現代になってからと、とても歴史の浅いジャンルです。そして鍵盤打楽器類のように音程のある楽器だけでなく、本来はむしろ音程のない打楽器によるリズム要素と、響き要素で作られる楽曲がその本分であったわけです。

 音楽という芸術活動は、基本的にそれまでのあり方に抗う性質を持っていますから、この事自体がそれまでの西洋音楽のクラシックの伝統に抗う意味があり、あえてメロディ要素を持たせないことが良いとして発展してきたと言えるのです。
 ところが最近の打楽器アンサンブル、特にアンサンブルコンテストなどの状況を見るに、シロフォンにメロディを、マリンバがハーモニー、ドラムセットをバラしたような打楽器がリズムをという、たった一つの形態だけの打楽器アンサンブルが台頭しているではありませんか。これはこのアンサンブル形態全体に対する無理解が背景であり、また本来の面白さをかき消し、大衆の知っている小さな世界だけに阿ろうとする、極めて危険な文化破壊と言って過言ではないとさえ言えます。しかもそれが、吹奏楽界の一部レーベルや、その世界でしか目にしない作曲家の独占的市場となっていることに、打楽器出身で作曲に転身した私としては、極めて強い憤りに似た感情を覚えています。
 また昨今SNSの台頭で、演奏家として大変な経歴をお持ちの方が、こういった状況を擁護、現役世代に思い切り阿ることで、本来の打楽器アンサンブルの姿を隠し、ときに平然とそれを批判するような発言を、公開の場に喧嘩腰に発信している姿は疑問でしかありません。そういったはっきり言って音楽と無縁な児戯にも劣る行為がまかり通ってくると、その世界自体が閉じてしまって終りを迎えていくことになります。私はそれを看過するつもりはなく、真の打楽器アンサンブル形態への知識レベルを上げていくことで、ニセモノが駆逐され、健全な文化的土壌を守れるのではないかと思っています。

 

 私は作曲のレッスンを行う中で、常に感じていたことですが、一般的に作曲を志す人間が一つの壁としてあたってしまうのが、案外打楽器であり、その集まりであるアンサンブルは理解するのに苦労している印象を受けます。
 これは打楽器という括りがあまりにも広範であり、これを理解することが難しいからということと、それら膨大なマテリアルの音、さらにその膨大な演奏法からなる音を記憶し、頭の中でコンビネーションさせることが難しいからだと考えます。このことへの対処法はできる限り多くの打楽器に触れ、音を記憶し、コンビネーションは無限で、いまだに色々思考する余地しかないという自由度を主眼に、実験をし続けていけば良いと教えています。つまり定跡のない力戦の将棋のように、本来の創造性を発揮して立ち向かえば、自ずとそこには新たな音楽が完成しうるということなのです。


この方法への布石として、打楽器をいくつかの分類法で整理して教えています。

1)音程の有無
2)楽器の材質
3)演奏法

これらを組み合わせると、例えば以下のようなコンビネーションができます。

音程があり-膜面楽器であり-叩くことを基本とする

これに該当する楽器の代表はティンパニですね。

ティンパニ

もう一つぐらいやってみましょう。

音程はなく-木質楽器であり-打ち合わせることを基本とする

これを代表する楽器は「拍子木」「クラヴェス」といったものですね。

拍子木

 このように形質などでその属性を整理してしまって、そこに楽器を当てはめて覚えていけば、圧倒的に理解しやすくなるのが打楽器です。


 次にこれにレッスンではその楽器の演奏法、つまり膨大にある特殊奏法を含む演奏法をある程度大きな括りで同じように整理します。これは詳しくやると大変な文章量になってしまいますから、ここでは割愛しますが、ちゃんと整理できるものなのです。

 これら楽器分類と演奏法の分類を知ったら、いよいよ打楽器アンサンブルの形態を分類していきます。本来は有料のレッスンの中でやっていることですが、昨今の無理解の広がりに一石を投じるべく、また無理解にパラサイトする輩に警鐘を鳴らすためにもここにその考察を紹介していきたいと思います。

 

I.通常の音楽の書法を用いるもの
-1.異種混合でいわゆる調性音楽をめざすもの

 この方法論は、メロディ、ハーモニー、リズムの要素を持ち、そもそも調性があり打楽器アンサンブルの本質から本来的には外れる、いわゆる現代文化の生んだスタイルと言えます。打楽器アンサンブルの面白さをある意味捨てて、わかりやすさを優先して一般に阿るスタイルが顕著な形態であり、これは本質的に音楽に興味を持った若者に、視野狭窄と一部の人気者を神格化させ、響きの学習の機会を失わさせる極めて恐ろしい副作用があることに注意が必要です。それでも書き方としては成立し、それは一つのスタイルでもあるので、ここではちゃんと分類して代表的な曲を紹介したいと思います。

 

失われた宮殿/嶋崎雄斗

嶋崎雄斗

 作者は1986年千葉県生まれで、自身が優れた打楽器演奏家です。名門を渡り歩き、武蔵野音楽大学のヴィルトゥオーソ学科に学び、その後は各コンクールで優秀な成績をかさね、ユーチューバーとしても活動する人気の作家です。彼の作品の中でも演奏回数の多いこの作品は、I-1の代表的な例になります。

失われた宮殿

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 思わしげな序奏を聴けば作者が打楽器アンサンブルについて本来はよく知っていると理解できますが、その後の展開はとても大衆音楽的で芸術を志向してはいないように感じます。

 つまりこのスタイルで書くというときには、作曲者には暗に2つの選択肢があるということを示しているとも言えます。

・思いっきり商業主義的作品として割り切って書く
・サラリーミュージシャンとして大衆に阿ると腹をくくったとき

 そうでない限りは芸術作品として新機軸を打ち出しにくく、本来メロディやハーモニーの美しさが他のアンサンブルと異なる打楽器でやる意味は薄く、出来上がりも芸術的とは言えなくなるので、積極的に避けた方が良いスタイルとなってしまうと言えるかもしれません。まあ量産しやすいし、売上に繋げやすいので否定はしないですけどね。これだけが打楽器アンサンブルの世界と誤認させるような在り方は流石に良くないように思います。

 

 -2.通常書法を拡大する
  -ア)同属楽器アンサンブル

 この方法論は同じく通常の音楽の書き方に立脚するものが多い中、それを拡大し特にマリンバなど鍵盤打楽器の同属性を利用した形態です。マリンバは非常に音域の広い鍵盤打楽器でありながら、奏法によって多彩な音を取り出せる稀有な楽器でもあります。
このためこれを数台寄せ集めて書かれるアンサンブルには木質の豊か響きの統一感が生まれます。

Tambourin Paraphrase/安倍圭子

安倍圭子

 安倍圭子は1937年に東京に生まれた世界的マリンビストであり、この世界のパイオニア的存在です。学芸大学に学び、自らこの楽器の可能性を信じて、まだこの楽器の作品の殆どなかった頃から、自ら作品を書き、また多くの作曲家への委嘱活動を通じて世界的な奏者となりました。
 その後は積極的に世界中で後進を育成、また書かれた作品はマリンバの定番曲となったもの極めて多く、マリンバの世界をかたるに、この人を除くことはできません。
 そんな安倍先生の曲にフランスの田舎で、ハンドドラムを叩きながら民謡を歌う少年の印象から仕上げられた素晴らしいアンサンブル曲があります。ソロ曲から改変された曲で、同属性の良さと楽器の可能性を追求した、真に専門的な名曲です。今回は大合奏版を聴いてみましょう。

Tambourin Paraphrase

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 統一感を中心とした観点で見ると、先程の異種混合スタイルはそのスタイル自体が原因となる響きの不味さがはっきりします。こちらは物語性も伝わる柔らかく楽しい音楽になっていますし、やはり統一感がもたらすサウンドの説得力がありますね。しかしこのスタイルを書くのはマリンバという楽器に対する専門的な知識がかなり問われます。特にバスマリンバなど、特殊マリンバを加えたりする際は、実際に楽器屋さん等で実機を触ってみることを強くおすすめします。

 

 -2.通常書法を拡大する
  -イ)役割の変更
 この方法論はI-1に近いのですが、先程来触れている響きの不味さの原因を探って、役割をより打楽器的なものに置き換えていく考え方です。この方法論では同属でも異種混合でも可能ですが、メロディ、ハーモニー、リズムを例えばパルス、集合、フェーズなどに置き換えるとミニマル・ミュージックの組成になります。つまりはミニマル・ミュージックに極めて親和性の高いスタイルともいえ、I-1にあったような欠点が逆に強みに変わっていきます。

 

Six Marimbas/Steve Reich

Steve Reich


 スティーブ・ライヒは言わずとしれたミニマル・ミュージック創始者、発展者として世界的な伝説となっている作曲家です。
 1936年ニューヨークの生まれ、コーネル大学で哲学を学び、その後ジュリアード音楽院で音楽を学びんだ後、ルチアーノ・ベリオダリウス・ミヨーに師事しました。これら師匠の影響を残しつつも、テープをズレて再生させるというアイディアから、フェーズシフティングという技術を確立、ミニマリズムの潮流を起こしました。
 彼は自らオーケストラ作品は特異ではない旨を語っており、アンサンブル曲がその多くを占めていますが、打楽器をよく使う作曲家であるとも言えます。今回はそんな中から同属楽器による例としてこの曲を選びました。

Six Marimbas

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 このようにとても打楽器によく合うスタイルになっており、響きもハーモニーではなく群として制御されることで、寧ろ構造性が押し出されPopsの響きに寄っていきます。
これは一般に耳馴染みが良い音ですし、打楽器の性能を無理なく発揮できることから、打楽器アンサンブルの基本の一つと言っても良いと思います。
 当然マリンバのみで書くときはI-2-イ)と同じようにその楽器への知識が必須になりますが、異種混合のI-1の編成でも無理なく書けるのがとても便利です。まずミニマリズムの作曲を知り、このスタイルから打楽器アンサンブルを書いてみるとうまく行きやすいと思います。

 

 

II.リズムのユニークさを主眼とした書法
 -1.調性的雰囲気を残したもの

 いよいよ打楽器の専門的な世界に入っていきます。このスタイルの書き方は、通常の音楽的構造と打楽器の性能を混合し、その中から打楽器の性能の方に傾斜し音楽を形作るものになります。このためソリストをおいて、打楽器で伴奏するという形に非常に相性がよく、打楽器の配置としても中央のソリストと、対向配置の背景というオーケストラ的要素が加わってきます。ただ背景の楽器がハーモニーを作るとは限らず、寧ろそこにはむき出しのリズム性が出てくる方が良い用に思います。

 

Uneven Souls/Nebojsa Jovan Zivkovic

Nebojsa Jovan Zivkovic

 作者は世界的に有名なマリンビストであり、1962年にセルビアに生まれたという経歴も国際的には異色と言えるでしょう。正確無比で超絶技巧を軽々とこなすスタイルは常人離れしており、また早くから自作を発表する作曲家でもあります。
 音楽性は民族性を臆することなく押し出すスタイルで、特に農民歌、労働階級の視線を持ったしっかりした主張のある作品を多く書いています。なんだか演奏家出身の作曲家はスタイルが似るのかもしれませんが、それぞれ作風は大きく異なっていて、それが本人の表現者としての哲学の違いだと言えます。
 この方法論で書かれる曲は、打楽器の専門知識を駆使した作品が多いので、同じようなスタイルで書くにはかなりの経験が必要ですが、演奏する楽しみや、聴く楽しみは非常に高いものです。

Uneven Souls

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 非常に豊かで主張に満ちた芸術作品であることがわかります。実はこの曲の演奏に携わったことがありますが、聴き易さとは裏腹に、途中にはポリテンポなども登場する難解な曲です。しかしその演奏は内的高揚を誘われる素晴らしい曲でした。

 もしこのスタイルで書く事ができれば、作家としてはもう打楽器曲の名手と言えると思います。そして本来打楽器アンサンブルが目指すべきはこういったスタイルであるべきと強く思います。それが本来の音楽性と、楽器特性の集合体であり、他の形態の真似事のような作品であってはいけない理由でもあります。

 


 -2.純粋なリズムのみで作るもの

 こうなるともうI-1やI-2のように「メロディ」の存在に頼る作曲方法は使えなくなります。しかしその分純粋な打楽器のアンサンブルであることから、古代性や祭祀性などを帯びた楽曲とは抜群の相性です。
 また新たな創作楽器や、音を加える隙も大きくなり独自性が追求しやすいのも大きな特徴になります。最近はこれにエレクトロニクスを加えた作品も多くなってきて、いよいよ世界では中心的なスタイルとなってきていますね。

 

Ogoun Badagris/Christopher Rouse

Christopher Rouse

 作者のクリストファー・ラウスは1949年にボルティモアに生まれた作曲家です。この世代の作曲家にしては珍しくロック好きを公言し、有名なドラマー、ボーナムの名をタイトルにした打楽器アンサンブルも書いています。またこれまでの人々と違い、打楽器奏者でなく作曲専門という点でも、彼の知識が専門家を超える域であったことがわかるでしょう。
 オーバリン音楽院でリチャード・ホフマンに、コーネル大学でカレル・フサに、さらに個人的にジョージ・クラムにも師事したという経歴からも、思考する音楽が力強いモダニズムにあふれていることがわかります。
 打楽器アンサンブルの名作をいくつも書いた彼ですが、純粋にリズムで勝負したこの作品はバーバリスティックな土俗性を感じる名曲です。

Ogoun Badagris

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 打楽器全般に対する知識が問われ、また真に面白いリズムの掛け合いはどういったものかを、感覚面だけでなく、数的な面からも知らなくてはならないですが、これぞ王道という響きです。
 打楽器の世界というのはこうやって広がってきたという原点性の点でもこういったスタイルの曲が、このジャンルの中心的なレパートリーでないと本来はおかしいのです。

 

III.響きを中心とした書法

 芸術性を中心として、作曲家としてアンサンブルを考えた場合最も創造性を必要とし挑みがいがある反面、かなりの専門知識と難解な楽曲構想が問われるスタイルがこれです。少し細分化してみてみましょう。

 

 -1.コアになる音を設定するケース
 特徴的な音というのは、その楽曲の性格を決める上で打楽器アンサンブルにとって最も重要な要素です。そこであまり見ないような楽器や、ヴィルトゥオーゾ性のあるものを中心に据え、この中心からアンサンブルに音楽が波及する構造をもたせる書き方がこれです。構想自体はシンプルなので、波及構造に様々な作曲法を持ち込みやすく、ある程度熟練してくれば書きやすく扱えると言える方法論です。

 

Drums/Sven-David Sandström

Sven-David Sandström

 作者は1942年にスウェーデンに生まれた作曲家で、ストックホルム王立音楽大学で作曲を学び、様々なスタイルの音楽言語を自在に操り、初期は極めて破滅的なサウンドを特徴とした前衛音楽に傾倒、徐々に軟化し、現在はPopsの言語も用いた作品を書くなどしています。
 彼の作品の中に非常に複雑な構造を持つこの曲があり、演奏も至難ながら、まずカオスに満ちた音楽をどう聴くべきかかなり考えさせられます。実はこの曲の構造は単純で、カオスを構成している打楽器群にティンパニが司令塔になって素材を投げ込んでゆくと、それに応じてアンサンブルのリズムが変化して、カオスが解消されます。引き続いてティンパニは今度反対に自ら崩壊の道を進み、これに巻き込まれるようにカオスが復活してくるというものです。
 やや長い曲なので演奏者は極度の集中を維持する必要があり、体力的にも大変な曲ですが、もうこうなると多くの人が知っている打楽器アンサンブルの世界が、如何にこの媒体の表面しか見ていないかがはっきりしてくるのではないでしょうか。

Drums

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 相互に影響し合いながらカオスが形を変えていくさまは、ある種音の視覚化とも言える効果を生み出し、これまでの打楽器に求められる在り方を変える、極めて印象的なものになっていると言えます。

 

 -2.コアを複数とし、波及構造をさらに複雑化する
 この手法はI-1のように異種の楽器をコアに据えることから、それをそれぞれの同属楽器に波及させるか、異種混合に波及させるかで様相が異なります。手法は自由度も高く、波及構造をプログラム処理するなどの方法も魅力的です。出来上がるものは複雑になりますが、非常に大きな編成を必要とすることから、もはや打楽器アンサンブルというよりも、オーケストラ的な世界観が出現します。サウンドのコントロールはかなり難しく、相当の作曲技術がなければ書きこなせないのは明白ですが、聴き応えのある重厚な作品が類例に多いです。

 

レイディアント・ポイント/安良岡章夫

安良岡章夫

 作者は私も個人的にお世話になった先生ですが、1958年に東京に生まれ、作曲は野田暉行、三善晃に師事、日本音楽コンクール作曲部門第一受賞を皮切りに、純粋に音楽書くという行為を追求され、重要な作品を残しています。
 そして特筆すべきはその圧倒的な打楽器に対する知識です。どの曲でも多く打楽器が活躍し、独特の作風の中であるときは唸り、あるときは波打つような自在なコントロール力を持っておられます。アール・レスピラン主宰として、自らタクト持ち様々な作品を世に送り出しておられます。
 このレイディアント・ポイントという曲は流星群にヒントを得て、放射点と波及の構造を巨大な打楽器アンサンブルに応用、マリンバのソロや放射点のチャイムを据えて、ダイナミックに展開する曲です。また編鐘という中国の古代楽器を用いていることもこの曲の大きなポイントとなっています。

レイディアント・ポイント

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 着想はわかりやすいですが、その構想をこの大きな編成の中で実現するのは大変な力量が求められると思います。

 

 -3.中心群とそれ以外という構造を持つもの
 この方法は群を群で囲うような構想を中心としていて、失敗すると音の明瞭性が失われ混沌としてしまいます。しかしうまく音に差をつけるなどして書いていくと、極めてエネルギッシュな曲に結びついてきます。実は結構多く書かれるスタイルですが、響きに力点をおいて書かれることが多く、それぞれの作家の色彩を味わうにはとても良いスタイルになっています。
 ただいざ書こうというときに、しっかりした構想力を求められるのと、演奏には多くの楽器が必要になりやすいので、その点には留意した方が良いものとも言えます。

 

ケチャ/西村朗

西村朗

 作曲者は現代日本を代表する巨匠でした。2023年、突然の訃報には本当にショックを受けました。
 1953年大阪生まれ、全く音楽に縁のない家庭に生まれ、僧を志すようになっていったところ、クラシックに触れて一気にその世界にのめり込んでいったそうです。そして池内友次郎に作曲を師事し、東京藝術大学に入学、野田暉行、矢代秋雄に師事、在学中より東アジアの音楽、特にヘテロフォニーに関心を持ち、同音連打から高揚を作る独自のスタイルを確立、大きく活躍されました。その音楽はあらゆるジャンルに及び、その中でも打楽器のアンサンブルは名曲ぞろいで多くが現在のアンサンブルレパートリーとして定着しています。
 この曲はインドネシアのケチャにヒントを得て、旋法性と原始の音楽とをまといながら恐ろしいまでの高揚感を作る名曲中の名曲です。その音楽は反復が多いことと、リズムのズレを基本とするため、なかなか演奏は難しいですが、この曲を除いて打楽器アンサンブルは語れないと思います。

ケチャ

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 中心のグループをティンパニとチャイムのグループが取り囲み、更にPAで増幅された声によるリズムも加わります。三重のリズムグループと響きが相互に関連性を持ちながら、火の玉のごとくエネルギーを放っていくと言う構想ですが、これが20代の作品ということで西村先生の天才性が伺われます。

 

IV.これまでの分類に属さないもの
 これは作曲家の発想の元、様々に作られた形態の打楽器アンサンブルです。一応細分化して見てみましょう。様々な響きにきっと出会えますよ。

 

 -1.音響体として扱われるケース
 このスタイルは同属楽器、異種混合問わず、また波及構造のようなものもなく、それぞれのアクションが音響体となって展開するものです。非常に作曲家自身の音に対する鋭敏な感性が求められる難しいスタイルです。音楽的経験だけでは決して書けない楽曲が多く見られます。

 

雨の樹/武満徹

武満徹

 武満徹は日本を代表する、そして私の最も敬愛する作曲家です。1930年に東京に生まれほぼ独学で音楽を学び、その後実験工房に参加し劇伴と純音楽の両方で大成功しました。父の影響で触れたシャンソンの響きを一生涯大切にし、愛をテーマに真にオリジナルな作風を気づいた作曲家です。1996年に亡くなったときは私は大いに泣き、しばらくは立ち直れないほどのショックを受けました。
 武満はシリーズを持って作曲に当たる人でしたが、その中の「雨シリーズ」(水シリーズでもある)に打楽器アンサンブルの名作があります。それが「雨の樹」です。この作品は舞台照明も効果として楽譜に書かれ、その明かりと響きだけの中で展開する、静謐な音楽です。
 真に自らの欲する響きを、打楽器の編成に投影し書かれており、その書法は打楽器の書き方にとどまらず、自らの音楽の方法論として選択されており、これまでの作品とは大きく異なります。

雨の樹

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 素晴らしい幻想的な空間と響き、真にオリジナルな打楽器の使い方、全てにおいて武満徹という人間そのものを映し出しています。本来の芸術とはこうでなくてはいけないと気が付かされる大名曲であり、圧倒的な存在感にジャンルの入り口に無数に存在する簡便な楽曲がいかに芸術のなりをしているだけであったかを思い知らされます。


 -2.大規模アンサンブルとしての書法
 この書法は先にも出てきたものに近くはありますが、波及構造などその曲のコンセプトに応じて編成が大きくなったのではなく、最初から大きな編成で書くことを主眼にしたものです。
 いわゆる打楽器オーケストラであり、これを従来のクラシック音楽のように制御することは意味をなしません。なぜならその役割をこなす、つまりはメロディ役もハーモニー役も置かれないことに特色があるからです。逆に言えばI-1のようにこのタイプを扱って書けば、それは商業的に手返しがよく、ジャンクフードのように気軽に楽しめる作品になるでしょう。しかしそういう要素を廃して、真に打楽器オーケストラとしての独自の書法で書かれた世界はもう同じ打楽器アンサンブルと言えないくらいかけ離れた音楽となっていきます。

 

IONISATION/Edgard Varese

Edgard Varese

 エドガー・ヴァレーズは1883年フランスに生まれ、アメリカに帰化した後1965年に亡くなったモダニストです。はじめはフランス印象派の音楽からスタートし、その後未来派の影響を受けつつ電子音楽を先駆けて導入、一貫して前衛の道を突き進みました。その中にモダニズムの代表的な形として打楽器アンサンブルの曲を書き、今ではその作品はこのジャンルにおける古典として親しまれています。
 特にこのイオニザシオンは、サイレンの音を打楽器として用いたり、ピアノにトーンクラスターのみを演奏させることで、打楽器として扱うなどの独特な眼差しが加えられ、シンプルなリズムから始まる音楽とは思えない、大規模で個性的なものになっています。

IONISATION

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 アンサンブル・アンテルコンタンポランの超人的な演奏で細部まではっきりわかる素晴らしい録音となっています。本当に打楽器がオーケストラとして扱われ、しかもその要素にハーモニーもメロディーも使われていないことがわかると思います。これこそが本来的に打楽器アンサンブルが担っていた、モダニズムとしての役割といえます。だからこそ今になってメロディやハーモニーを呼び戻して書くということには理由が必要になると思うのです。商業音楽であると割り切らないのなら、その曲にこの曲を超えるような意味を求めなければならなくなります。それが芸術の宿命なのではないでしょうか。

 


 -3.パフォーマンスとしての書法
 このスタイルは、打楽器が大きくモーションを伴うこと、そして表現主義の影響を受けてヴィジュアライズされたものとして登場してきます。
 実は案外多くの作品があるこのスタイルですが、演奏と肉体の動作というものが深いつながりにあるということをその哲学のベースとしています。つまりは打楽器というものは触媒にしかなっておらず、作者の意図は打楽器であることと必ずしも同一ではないことが多いというのもこのスタイルの特徴と言えるでしょう。

 

L'art bruit/Mauricio Kagel

Mauricio Kagel

 作者のマウリシオ・カーゲルは真に独特な作曲家でした。1931年にソ連から亡命した両親の下アルゼンチンに生まれ、その後ドイツに渡って活躍した作曲家です。この複雑なバックボーンと、作曲は独学であったことが、アイディアマンだった彼の才能を開かせます。
 パフォーマンスを音楽の一部とみなし、殆どの作品でそういった要素が既存の音楽への皮肉として取り入れられており、ティンパニ協奏曲ではソリストティンパニに頭から飛び込むといった指示がされたり、指揮者が胸を掻きむしって倒れるという指示のなされた曲もあります。
 この曲はコンセプチュアル・アートの先駆けと言っても良い面白い曲で、実は打楽器アンサンブルではなく打楽器のソロ曲として書かれています。しかしその内容はアンサンブル的性質をもっており、助演者が参加することで、ソロなのに二人で完成させる作品となっている作品です。とにかく見てみないとわからないと思う曲なので動画をご覧ください。

L'art bruit

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 こういったスタイルの作品は表現主義の作曲家ヘスポスや、日本では川島素晴の作品にも見られます。アイディアが強く求められる一方、ちょっとしたジョークという面もあるので、難しく考えずいたずらごころを鑑賞する気持ちで、面白かったら笑ってしまってもいいと思います。
 ここまで来ると流石に意味がわからないと言って眉をひそめる人もいるでしょうが、なぜ眉をひそめるのでしょうか?音楽にはメロディがなきゃいけないのですか?美しいハーモニーが必要ですか?それが響きを作ることに向いているとは言い難い編成でもですか?
 こういう視点の転換こそが打楽器アンサンブルの真の面白さに繋がっていきます。だからメロディがないとか、和音がないとか、そういう次元で語られるべきものではないのではないでしょうか。

 


 -4.今までの一切に当てはまらないもの
 最後はどの分類も拒否する高いオリジナリティを持つものを見てみたいと思います。
これは無理やり分類すればこれまでの何かには当てはまるでしょうが、カテゴライズを拒絶するという点に力点があることが最も重要です。
 このスタイルで書くというのは相当に困難であり、もはや生まれ持った才能が大きな役割を占めているとも言えますが、現代ではこのスタイルこそ世界標準であることは、作曲をするものとして、特に近年の日本における作家は重く受け止めねばならないのではないかと思います。

 

花庭園/藤家溪子

藤家溪子

 作者の藤家先生は1963年京都府生まれ。小学校三年でオペラを作曲するなど幼い頃から特筆すべき才能を発揮し東京藝術大学八村義夫間宮芳生に師事しました。
 男性社会であった作曲界に女性性ということをそのまま武器に切り込み、ある時期は反構造的な作風と母というキーワードを強く盛り込み大成功しました。尾高賞を二回受賞するなどその経歴はまさにレジェンドそのものであり、その後の日本の音楽界のあり方を根本的に変えたとも言えます。
 藤家先生の作風は時期とともに変わっていきますが、特に女性性を打ち出していた頃の作品に素晴らしい打楽器アンサンブルがあります。それが「花庭園」で、内容は先生の代表作でもあるオーケストラ曲「思い出す ひとびとのしぐさを」とやや似ており、一人の女性の一日を打楽器アンサンブルを通じて描いています。しかし打楽器だけではなく、チェレスタ、鍵盤ハーモニカ、コーラスや電話まで使って表現され、どのようなカテゴライズも拒絶する凄みがある曲になっています。

花庭園

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 実はこの曲の演奏に関わったことがあり、本当に衝撃を受けたことをよく覚えています。これこそ新しい打楽器アンサンブルの金字塔といえるのではないでしょうか。

 

 さて今回は大分長くなってしまいましたが、私のレッスンで教える打楽器の扱い方をベースに多くのスタイルの打楽器アンサンブルを見てきました。
 多くの方はこのジャンルがこんなにも豊かで、こんなに多彩な曲が書かれていることをご存じなかったのではないでしょうか。多少勉強しないとわからないという性質もありますが、だからこそ通り一遍の量産品が入り込んで来てしまうだと思います。繰り返しになりますが、そういうまやかしで若者にイメージを固定させるようなビジネスは、本来の意味での学習の機会を奪っていることに注意しなければならないと思います。
 本当の打楽器アンサンブルの奥深さを少しでも多くの人に知っていただき、ある形だけがこのジャンルの正当な書き方だというような固定観念を改めて頂くチャンスになれば本望です。そしてそういったものを芸術のふりをして書くものたちがSNSyoutubeで幅を利かせているという現状は文化の衰退のボタンを連射していることと他ならないのです。首謀する者たちに言っても意味をなさないことなので、市場を担う一人ひとりがもう一歩深く、もう一歩高く探求することで、市場自体の在り方もきっと変化していくことになるでしょうし、その日を心待ちにせずにはいられません。

 

12音律のべき生成スケール(べき生成スケール中編)

本記事は、なんすいの理論記事シリーズの続きです。過去記事で紹介した用語を基本断りなしに使うので、本記事最後の用語集を眺めてから読むのをおすすめします。

 

 

 

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こんにちは、なんすいです。

前回は、音列からスケールを生成する方法を紹介し、そしてチャーチスケールの1つであるリディアンスケールが"べき倍音列"から生成されることに触れました。

 

"べき倍音列"とは何だったでしょうか。

 

べき倍音

べき倍音列とは、ある数の倍数を0から順に連ねた音列です。

一般に、(0, p, 2p, ... , (k-1)p) 「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼びます。

さらに、べき倍音列から生成されるスケールを「べき生成スケール」と呼ぶことにしましょう。

 

例えば、前回リディアンスケールを生成した音列(0, 7, 14, 21, 28, 35, 42)は、7の倍数を7個並べた音列になっているので、「べき数7による位数7のべき倍音列」となります。

そして、リディアンスケールはべき生成スケールとみなすことが出来る、と言えます。

 

さて、当たり前ですが、べき倍音列は上述の(0, 7, 14, 21, 28, 35, 42)以外にも、べき数p、位数kを変えることでいろいろ作ることが出来ます。

そこで今回は、べき倍音列から生成されるスケールたちを観察してみようと思います。

 

 

 

「べき数7、位数kのべき倍音列」によるべき生成スケール

さて、私たちにとってスタンダードである12音律のもとで、べき数7は固定、位数kをいろいろ変えてべき倍音を設定したときに、生成されるスケールがどのようになるのか見てみましょう。

 

 

位数kが増えるとべき倍音列の長さが単純にのびるわけなので、kが増えるのに伴ってべき生成スケールの成分も1つずつ追加されていきます。

そして最終的に位数12の段階で、べき倍音列(0, 7, ... , 77)の各成分は12音律の全ての音0~11にちょうど1つずつ対応し、べき生成スケールは(0, 1, ... , 11)すなわちクロマティックスケール(半音階)となります。

これ以上位数を増やしても、新たに追加される成分はもう無いので、生成されるスケールはクロマティックスケールのままです。

 

階名で表すなら、べき数7のべき倍音列は「ド、ソ、レ、ラ、ミ、…」と連なっていき、12半音の全ての音を被りなく網羅するような音列になっている、と言えます。

 

では、今度はべき数を変えてみましょう。どうなるでしょうか。

 

 

 

「べき数9、位数kのべき倍音列」によるべき生成スケール

べき数を、例えば9にして、同様に位数kを増やしながら生成スケールを見てみましょう。

 


なんだかさっきと様子が違いますね??

位数4以降、どれだけ位数を増やしても生成スケールは(0, 3, 6, 9)から変化していません。どうしてでしょう。

 

スケール生成とは、音列の各成分に対してMODを施し、小さい順に並べ替えるという操作でした。

今、べき数9のべき倍音列にMODを施してみると…

 

MOD( (0, 9, 18, 27, 36, 45, 54, 63, 72, ...) )

=( MOD(0), MOD(9), MOD(18), MOD(27), ... )

=(0, 9, 6, 3, 0, 9, 6, 3, 0, ...)

 

このように、0,9,6,3,だけが繰り返し出てきます。

したがって、どれだけべき倍音列の位数を増やしたとしても、生成スケールに新たな成分が追加されないため、上表のような結果になったのです。

つまり、べき数9のべき倍音列は、べき数7のそれとは異なり、12音律の全ての成分を網羅出来ないということになります。

 

これを音楽の現象で説明すると、「転調」によりすべての調を網羅出来るかという問題に言い換えられます。

べき数7の場合、7半音=完全五度の転調を繰り返していくと、すべての調をちょうど一回ずつ経て元の調に戻って来れます。

いわゆる「五度圏」と呼ばれるものは、べき数7のべき倍音列の"網羅性"のおかげで成立していると言えます。

五度圏表

 

対してべき数9の場合……9半音=長六度、つまり実質短三度の転調を繰り返すと、4回の転調で元の調に戻ってきてしまいます。

したがってべき数7の場合のようにすべての調に広がっていかないので、五度圏に対して「六度圏」のようなものは作ることが出来ません。

 

では、べき数がどのような数のとき、べき倍音列は"網羅性"を持つのでしょうか?

 

 

 

べき倍音列がすべての音を網羅する条件

突然なんですが、実は次のようなことが言えるんです!

(証明が気になる場合は何かしらの方法でなんすいに聞いて下さい)

 

------------------------------

n音律のもとで、

0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,n-1の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であることである。

(pはべき数)

------------------------------

 

上述のべき生成スケールたちは、みんな12音律のもとで生成されたものでした。

したがって、べき数7の場合、n=12、p=7となります。12と7は互いに素なので、べき倍音列は網羅性を持つということになります。

一方、べき数9の場合、12と9の最小公約数は3なので、12と9は互いに素ではありません。したがって、べき倍音列は網羅性を持たない、と分かります。

 

 

 

12音律の正規べき生成スケール

過去記事「チャーチスケールの近縁を探す」では、チャーチスケールに近しい性質のスケールを見つけるために、"正規性"という指標を定義しました。

 

------------------------------

《スケールの正規条件》

①各インターバルが長さ2以下

②長さ1のインターバルが連続しない

------------------------------

 

この指標を、べき生成スケールにおいて考えてみましょう。

つまり、べき生成スケールであってかつ正規性を満たすようなスケールはどんなものがあるか調べます。

 

ここで前提として、次の事実があります。

 

------------------------------

★正規スケールから1つでも成分を取り除いたり加えたりすると、正規性は失われる。

------------------------------

 

まず、スケールの正規条件①②より、正規スケールにおいて「一個挟んで隣同士」の二要素のインターバルは3または4となるので、正規スケールから1つ要素を取り除くと、その部分に長さ3以上のインターバルが生まれ、正規条件①を満たさなくなります。

f:id:nu-composers:20240204021814j:image

 

また、正規条件①より、正規スケールの隙間に要素を1つ追加すると、その要素はもともとのスケールの2つの要素と両側から挟まれることになります。したがってこの部分で正規条件②を満たさなくなります。

f:id:nu-composers:20240204021830j:image

 

以上から★の事実が分かります。

正規条件を満たしている状態とは、これ以上音が増えても減ってもダメな、ギリギリのバランスを保った状態であるわけですね。

 

 

 

さて、これを踏まえて、12音律の正規べき生成スケールを探しましょう。

ここで、べき数pが12と最小公約数d>1を持つとき、先に述べた事実からべき倍音列は全ての音を網羅しません。

さらに、このとき十分な位数のべき倍音列により生成されるスケールは

[0, d, 2d, ... , (d/n-1)d]となります。(容易に示せます…)

これは全てのインターバルがdとなっているスケールです。

 

したがって、pが12と互いに素でない場合、正規条件を満たすべき生成スケールはd=2のとき、すなわちホールトーンスケール[0, 2, 4, 6, 8, 10]のみであることが分かります。

 

一方pが12と互いに素のとき、すなわちp=1, 5, 7, 11のとき、もしあるpによるべき生成スケールたちの中に正規なものがあったとすると、それはあるただ1つの位数の時に限り正規で、それより位数が多い/少ない生成スケールは全て正規でないということになるはずです。(★の事実から)

 

p=1, 11の場合、べき倍音列は(0, 1, 2, ...)あるいは(0, 11, 10, ...)とインターバル1で連ねていくだけなので、生成スケールが正規条件を満たすことは無いと容易に分かります。

p=7の場合は、位数7のときに限り正規条件を満たします。すなわちこれは冒頭からずっと登場していたリディアンスケール[0, 2, 4, 6, 7, 9, 11]です。

 

そしてもう1つ、p=5の場合、こちらも位数7のときに限り正規条件を満たします。このときのべき生成スケールは[0, 1, 3, 5, 6, 8, 10]、すなわちロクリアンスケールです。

 

まとめると、12音律のべき生成スケールで正規条件を満たすものは

ホールトーンスケール [0, 2, 4, 6, 8, 10]

リディアンスケール [0, 2, 4, 6, 7, 9, 11]

ロクリアンスケール [0, 1, 3, 5, 6, 8, 10]

の3つであることが分かりました。

 

特に、12と互いに素なべき数によるべき生成スケールであるホールトーン以外の2つのスケールは、調性空間を網羅する"圏"を構成するため、広がりのある和声理論の基礎としての役割が期待されます。

 

実際、べき数7のべき倍音列から生成されたリディアンスケールは下属音を持つように変位を加えられ、7半音=完全五度によって全調を繋ぐ五度圏を構成します。そしてその構造のもとに、機能和声やジャズ理論など様々な複雑な和声理論が構築されてきました。

また、リディアンスケールと対称的にべき数5のべき倍音列から生成されたロクリアンスケール、これを基にして作られた理論が存在しています。

それは、当会会員であるトイドラくんが提唱している「トイドラ式ロクリア旋法理論(TLT)」です。

nu-composers.hateblo.jp

 

特性上五度圏での処理が難しいロクリア旋法を扱うために、「四度圏」上で機能和声や対位法を展開するというもので、やはり複雑な構造作りに十分耐えています。

 

べき数5のべき倍音列は、べき数7のべき倍音列を逆さに並べたものに等しいので、このような対称的な結果が出るのは当然と言えば当然ではあります。

しかし、少なくとも「べき生成スケール」および「正規性」という2つの構造的指標のもとにおいて、リディアンスケールとロクリアンスケール…五度圏と四度圏が同じだけの可能性を持って並置されるというのは、これまでの五度圏中心の音楽史を思えば驚けることかもしれません。

 

また、四度圏音楽は「自然倍音の観点から根拠が薄い」と批判されることがありますが、調性音楽における構造的な広がりにおいて五度圏と同じ強度を持つことこそ、四度圏音楽が成立する重大な根拠になると私は考えます。

音響を切り取るだけが音楽ではありません。音がいくつも連なり進行していく上での構造もまた、音楽の重要な側面だと思います。

 

 

 

次回

12音律、飽きてきましたよね。

これまでずっと音楽理論記事なのに数学的な記述を取り入れてきましたが、これのいいところは一般的な話をしやすいところです。

次回は馴れ親しんだ12音律の世界を飛び出して、いろんな音律のべき生成スケールを見ていきます。

 

それではさようなら。

 

 

【定義・表記集】

数列によって音列を表記する方法:インターバル構成など単に音列のときは()、スケールを数列で書くときは[]で囲むことで区別する

 

スケールのインターバル構成:スケールの各インターバル(隣接音程)を順に並べた数列

 

巡回同値関係:2つのスケールを適当な巡回によって一致させることが出来るとき、2スケールは巡回同値関係で結ばれているという

 

巡回同値類:どの2スケールを取っても巡回同値関係で結ばれているようなスケールたちの集合を巡回同値類といい、そこに含まれるスケールを1つ取ってきて括弧でくくり表記する

 

位数:スケールに含まれる音の個数

 

正規条件:①各インターバルが長さ2以下②長さ1のインターバルが連続しない

正規条件を満たすスケールを正規スケールと呼ぶ。

 

------------------------------

 

スケール:  n音律のスケールとは、次の3条件を満たす音列である:

①要素に0を必ず含む

②全ての要素が0以上n-1以下の相異なる整数である

③要素が左から小さい順に並んでいる

 

スケール化可能性: n音律のもとで音列aが次の条件を満たすとき、スケール化可能であるという:

①要素に0を必ず含む

②各要素a_jに対してMOD(a_j)が相異なる

 

スケール化: スケール化可能な音列に対して、その音列の各要素を小さい順に並べ替えてスケールを生成することをスケール化、生成したスケールを生成スケールと呼ぶ。

 

MOD: n音律のもとで、MODは次のように計算される:

単音eに対して

MOD(e)=(eをnで割った余り)

音列a=(a[0], a[1], ... , a[m-1])に対して

MOD(a)=( MOD(a[0]), ... , MOD(a[m-1]) )

 

------------------------------New↓

 

べき倍音列: ある数の倍数を0から順に連ねた音列。(0, p, 2p, ... , (k-1)p) を「べき数p, 位数kのべき倍音列」と呼ぶ。

 

べき生成スケール: べき倍音列から生成されるスケール

 

べき倍音列の網羅性: n音律のもとで、0, p, 2p, ... , (n-1)p たちにMODを施したときに0, 1, ... ,11の各値がちょうど1つずつ全て出てくるための必要十分条件は、nとpが互いに素であること(pはべき数)

2023年に観たアニメ

【2023年版】

 

遅ればせながらあけましておめでとうございます。ぎょくしです。では、今年もまた、去年観たアニメの振り返りをやって参りたいと思います。今年は若干のルール変更がございますのでよろしくお願いします。

 

〜ルール説明〜

①これは2023年内に視聴終了した作品のリストである。年を跨ごうが2023年に視聴終了したらリストに追加される。

 

昨年までは、過去に一回観た作品をもう一回観た場合などはリストに追加しなかったが、今年から追加することにする。なぜなら観た時によって印象は変わるので。感想はその時観た感想を記入する。

 

③複数回視聴した場合は作品タイトルの後ろに本年中に視聴した回数を明記する。書き方は(年内に観た回数/観た回数のトータル)

 

④基本「面白かった」しか言わない人間なので評価基準は大雑把に以下の通り

★☆☆☆☆→そこそこ面白かった、一度観れば充分

★★☆☆☆→まあまあ面白かった、印象に残っている

★★★☆☆→面白かった、観られて満足している

★★★★☆→とても面白かった、オススメできる

★★★★★→非常に面白かった、是非観るべきだ

 

それではスタート!

 

うたわれるもの 二人の白皇

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長年続く大人気戦記モノアニメの最終章。“戦”がメインとなったこの最終章は、良いシーンが盛りだくさんで、観ていて何度もドキドキ・ウルウルさせられました...総評として、SFと戦記モノとが絡みあったなかなか素晴らしい作品に仕上がっていたと思います。私は満足。

 

戦記モノ観るならまあオススメ ★★★☆☆

 

・劇場版 機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-(1/2)

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なんとなく観返したくなったので視聴。ルリ艦長が可愛いのと、ストーリーが面白いのは相変わらずでした。

 

相変わらず面白かった★★★☆☆

 

・Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-(2/2)

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高校生の女の子がDIYに挑戦する!という概要だけ聞けばよくありそうな(?)「何かに挑戦する系アニメ」だが、キャラデザよし、音楽も良し、ストーリーもかなり良くて2回も観ちゃいました。何か作業をしながらもフワッと視聴できるような、こういう柔らかな作品を観たのは久しぶりかも。

 

柔らかで優しい雰囲気のアニメ★★★★☆

 

 

・猫のダヤン ダヤンとジタン

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猫のダヤンシリーズを初めて観ました。元は池田あきこさんによる絵本シリーズ。まずキャラクターデザインが可愛すぎて劇場でデカい声出しそうになったのと(←本当の話)、ストーリーもちょっとドキドキハラハラさせる感じですごく面白かったです。別に原作を知らなくても観れるのでオススメです。

 

キャラデザがすっっっっっごい可愛い★★★★☆

 

・猫のダヤン 日本へ行く

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上記ダヤンシリーズのダヤンたちが日本へ行く、という作品群。そこそこ面白かったですが、こっちよりかは「ダヤンとジタン」の方が圧倒的に好きですね...日本要素いる?いやまあ要るか...ってなっちゃったので。

 

ダヤン達の日本の旅★★☆☆☆

 

・魔入りました!入間くん 第3シリーズ

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入間くん第3シリーズは「収穫祭」という学校の行事を中心に描かれるのだが、今シリーズは入間くんのクラスメイトにもしっかりとスポットが当たり、観てて非常に楽しかったです。毎週めっちゃ楽しみにしてたもん、俺。沢山のキャラクターがワイワイ(?)する系の作品が好きな人は是非!!!!

 

非常に丁寧なキャラクター描写★★★★☆

 

たまこラブストーリー

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たまこマーケットの劇場版。京アニ作品。たまこともち蔵の酸っぱくて甘い恋模様を見ることができます。やっぱり作画がめちゃくちゃ綺麗なのと、たまこ達のバトン演技する時に流れる「上を向いて歩こう」のアレンジが素敵だったのがとても記憶に残っています。

 

二人の“恋”の行方は...★★★★☆

 

グスコーブドリの伝記

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宮沢賢治原作、杉井ギザブロー監督版のグスコーブドリの伝記。キャラ原案は銀河鉄道の夜の、ますむらひろし氏です。田園の美しい風景や都市のスチームパンク的世界観はまあ良かったんですが、世界観(?)の解釈の点でこれはあまりしっくり来なかったな〜というのが印象です。それだったら銀河鉄道の夜の方が100倍好きかも。

 

銀河鉄道の夜の方が好きだった...★★☆☆☆

 

シチリアを征服したクマ王国の物語

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海外アニメーション作品。大須シネマで上映してたので視聴。旅芸人の2人がある雪の夜、老いた大きな熊と遭遇する。二人は食べられるまいと「シチリアを征服したクマ王国の物語」の話を披露するのだが...アニメーションも美しく、ストーリーも面白かったです。子どもだけでなく、大人も楽しめる作品になっております。

 

大人も楽しめるクマ王国のおはなし★★★☆☆

 

銀河鉄道の夜(1/2)

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「原作知ってないと良くわかんねぇな」という評価に落ち着いた前回でしたが、今回ボーーーーッとしながら観て評価が★5に跳ね上がりました。いやほんとに美しい作品です...あれこれ考えずに自分も一緒に星の旅に出かけるような、そんな気楽さで物語に臨むのをオススメします。

 

とても不思議でとても美しい、星の世界★★★★★

 

・緑子

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大須シネマで視聴。ものすごい作画で、ものすごいストーリーの、ものすごい作品でした。人によっては「うわっ...!」ってなるかもしれませが、一遍は観てみるのをオススメしたいですね...これは...

 

色々とものすごい作品★★★☆☆

 

大人のためのグリム童話 手をなくした少女

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大須シネマで視聴。「クリプトキノグラフィー」という手法を用いて作られており、美しくてアッサリした線や絵が流れるように動いていて素直に「すご!」ってなりました。ストーリーも結構良かったです。

 

圧巻の「クリプトキノグラフィー」★★★☆☆

 

セロ弾きのゴーシュ

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高畑勲監督作品。原作はもちろん宮沢賢治です。実は、大昔にこれのアニメ絵本を読んだことがあり、「懐かしいェェェェ!」という気分でずっと観ていました。大っぴらに取り上げられることはあまりない作品ですが、間違いなく名作の一つだと思います。登場する子だぬきが可愛いです。

 

隠れた名作品の一つ★★★★☆

 

哀しみのベラドンナ

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虫プロが制作した、大人向けアニメーション。絵が美しく、エロティックだったり、サイケデリックだったりと、一級アート映画に仕上がっております。挿入歌や音楽もかなり良かった記憶...

 

アート系アニメーション映画作品★★★☆☆

 

・ペンギンズ・メモリー 幸福物語(2/2)

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ペンギンが松田聖子の歌を歌う「あのビールのCM」が元となっているこの作品。戦争で心の傷ついた主人公のマイクが放浪の旅の末、ある街に辿り着き、そこでジルと恋に落ちるも...という、キャラの見た目は子ども向けなれど、バリバリの大人向け作品でした。声優も非常に豪華で、ストーリーもめちゃくちゃ面白いので、頼む、DVDかブルーレイを出してくれ。

 

ペンギン達のアメリカン・ニューシネマ★★★★★

 

君たちはどう生きるか(2/2)

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気になってたので観ちゃいましたよ、「君たちはどう生きるか」。自分の感想としては「0(何も考えず観る)か100(完璧に考察をする)で観る作品」といった感じです。自分はハナから0状態で観たので、かなり楽しめました。二度観に行ってもなお「まだ観に行きたい」と思ってしまうので、それだけ自分にとっては良き作品ということです。

 

高純度・高品質のファンタジー作品★★★★☆

 

・駒田蒸留所へようこそ

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お仕事作品でお馴染み、P.A.Worksの劇場版作品は「ウイスキーづくり」に関する作品。酒好きとして一応観とくか...って感じで観に行きましたが、普通に質も高くて面白かったです。ウイスキーに関する知識も得ることができるので良かったです。

 

ウイスキーにまつわる、家族の物語★★★☆☆

 

・鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

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鬼太郎の出生の謎にフォーカスした、「お姉様方」に大人気の作品。いや実際、ストーリーもめちゃくちゃ面白く、音楽や作画の質も高くて「全ての要素において平均点を軽く超えてくる作品」(友人談)となってます。ただ、折角ならもっとじっくり観たい気持ちもあって...半クールくらいで...アニメ化してくれんか...

 

「ゲ謎」人気に大いに納得、面白い★★★☆☆

 

・ちびねこトムの大冒険(4/8)

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大須シネマで上映してたから、また観に行きました。いや実は、初見時の感想は「めちゃ面白かったな(普通)」くらいだったんですが、観るたびに新たな視線が発見されたりして、「めちゃくちゃ面白いやんこれ!!!!!!」という想いに変わりました。本当に素晴らしい作品なんです、チャンスがあったら絶対観てください...お願いします...

アニメーション好きは絶対見るべき名作★★★★★★

 

風が吹くとき(1/2)

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U-NEXTで配信始まってたので、(帰り道の店で飲んだビールに悪酔いしながら)二度目の視聴。戦争(原爆)系映画の傑作の一つ。観てた時のコンディションの悪さもあるんですが、主人公のおじいさん・おばあさんの話がとにかく長いので、観てて疲れちゃった...でも、ラストシーンは本当に心に残るので、一度は観てみると良いかもね。

 

原爆系作品の名作アニメ、ラストが好き★★☆☆☆

 

・劇場版ポールプリンセス(2/2)

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女の子たちがポールダンスに挑戦するアニメ、の劇場版。最初は予習もナシでそれほど期待せずに観に行きましたが、ホンマに凄かった...ストーリーも普通に面白いし、何よりポールダンスシーン(3DCG)のスクリーン映えが凄い。で、そのポールダンスシーンは全てモーションキャプチャで作られているので、現実離れした動きも実は全て「リアル」という驚き... 私は沼に落ちました。どれだけ凄い動きをしてるかは下の動画を見ていただければお分かりいただけると思います...

 

圧巻のポールダンス演技は是非劇場で★★★★★

 

・ポールプリンセス

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上記劇場版に先行して配信されていたWEBオリジナルアニメ。こちらは日常パートも全て3DCGとなっています。ストーリーもそれなりに面白くて良かったのですが、ポールダンス演技シーンはカットされていた(※演技シーンは別動画として配信されている)ので、長尺になっちゃっても良いから同時に見せて欲しかったなぁ...と。でもこちらの演技も素晴らしいので、是非。演技動画はモーキャプ元の実写動画もあるので、それも観てください。観ろ。

 

劇場版を観る前に視聴しておくと吉★★★☆☆

 

 

・Helck

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佐藤竜雄監督作品。原作はマンガワン連載の漫画。最初はギャグ中心で、ギャグがそこまで好きでない私は最初こそは「うーむ...?」という感じでしたが、回数を重ねるごとに夢中になり、ギャグには大いに笑い、シリアスな展開に頭を抱え、ハラハラする展開には手に汗握って、全力で楽しませていただきました。ありがとうございました。ヒロイン達も魅力的ですが、やっぱり自分はヘルク推しですかねぇ...バリかっこいいので。

 

ギャグとシリアスの絶妙な加減、キャラも魅力的★★★★★

 

以上!

 

去年は一昨年に比べて観たテレビアニメの本数がガクッと減少し、そのかわり劇場作品の視聴本数が激増しました。あと、実写系劇場作品もかなり観ましたね(重複含めて12本)。でも本当にTV作品が観れなくなってきているので、良くないですね...良くない...今年は何をどれだけ観れるのでしょうか...

...ではまた!!!

LA SEÑASのライブに行った

LA SEÑASのライブに行きました。

Country of Frenzy (熱狂の国)ツアーでした。

 

貴様はLA SEÑASを知っているか

LA SEÑASは2016年に結成された結成、打楽器奏者のみで構成された即興演奏打楽器集団です。 アルゼンチン発祥のハンドサインを用いた即興演奏法、Rhythm with Signsを取り入れた日本初のグループだそう。Rhythm with Signsってなんだ?

 

貴様はRhythm with Signsを知っているか

アルゼンチンのミュージシャン、Santiago Vázquezによって発案されたパーカッション即興演奏法がRhythm with Signs*1です。グループで演奏する際に指揮者を設定し、あらかじめ考案された150を超えるハンドサインを駆使して即興的に演奏を指示します。いわば野球で監督がベンチから出してるサインみたいなもんです。

実際にどんなハンドサインがあるのかというとこんな感じです。

drumsmagazine.jp

これを実際にやるとこうなります。


www.youtube.com

0:20付近でジャンベに16分音符4つを指示するところとかわかりやすいんじゃないかと思います。

 

こんな感じの事前知識があるとLA SEÑASのライブをより楽しめるような気がします。

 

俺はLA SEÑASのライブに行った

といったところで話はライブに戻ります。

実はLA SEÑAS自体は3年くらい前から知ってました。
私はポピュラーミュージックにおけるパーカッショングループが好きなんですが、人が聴いていて気持ちいいビートが限られているからか、だったらもうDTMでよくね?テクノでよくね?的な感じだからなのか、あんまりいなくて結構ニッチなんですよね~。GOMA and Jungle Rhythm Sectionとか好きなのに......。


www.youtube.com

とか思って探してたら見つけました。


www.youtube.com
今思えばそれより前にツイッターで何回か見かけていたような気もします。でもストリーミングサービスに配信したのはこの曲(が入っているEP)が初だったと思うので、やはりなんでも配信にかけてくれたほうが覚えやすいですね。

そして結成から七年の歳月を経た今年、ついに1stアルバムが完成した(長え)し、東名阪ワンマンツアーを行うとのことで、念願かなってライブを見ることができました。

 

以下感想です。

パーカッショングループということもあり、観客の手拍子や歓声がダイレクトに演奏に反映されるのがライブ体験として新鮮でした。驚いたのは、コール・アンド・レスポンスが裏拍主体だったことです。パーカッショングループとしての妥協がねえ。平気で16ビートのレスポンスを求めてくるので非常に楽しかったです。
さらに言うと指揮者の存在が効果的に働いていた*2と思います。実際、演者だけでなく観客にもハンドサインによる指示で手拍子や掛け声での演奏への参加を促していました。メンバーがしきりに言っていた「ここにいるおれたちだけじゃない、お前たちも含めてみんなでLA SEÑASだ」というのはまさにこの演者・観客の相互作用により生じる面白さ(彼らが言うところの熱狂を示していたと思います。なんですが、その割には客が棒立ちでノリが悪かったように思います。不思議です。どう聴いても実質EDMみたいな曲なのに?????


www.youtube.com

↑実質EDMみたいな曲の一例↑

演奏を見たい打楽器マニアよりは、踊りたいクラブ狂いとかに届くとライブ体験としてもっと充実するかも、と割と真面目に思います。あるいは名古屋が文化的空白地帯の可能性がありますが、これに懲りずにまた来ていただけると私は嬉しいです。

とか言っておきながら、謎の打楽器が大量に出現するので、楽器マニアにはたまらないと思います*3ガムランとかはさもあたりまえかのように出てきました。普通の楽器もどこかおかしくて、特にシンバルからは明らかに打ち込みっぽい音がして異様だったので後で確認しに見に行ったんですが、シンセドラムとかではなく人力だということがおそらく判明しました。その代わり見たことないセッティングでした。

全然伝わらない写真で申し訳ないんですが、セッティングが異様だったんです。信じてください。

南米だとこれが主流だったりするんですか!?

また、先ほども少し言及しましたが、パーカッショングループのジレンマとして人が聴いていて気持ちいいビートが限られているというのが挙げられると思うのですが、その辺はラテン系のビートを基調に日本やアフリカ、現代ポップスのビートを折衷することでなんとかなってました。むしろ折衷の仕方がおかしい。途中ティンバレス奏者が締め太鼓をたたくシーンがあったんですが、たたき方がもろティンバレスだったんですよね。なんでやねん。これが最もわかりやすいシーンだったんですが、おそらくこれと同じことがほぼすべての楽器で起きていました。おそらく、というのは楽器が多すぎて全容を把握できていないからです。

 

という感じで私は結構楽しめました。大所帯なので難しいかもしれませんが、また名古屋に来てほしいです。おわり。

*1:ちなみにRhythm with Signs自体にはLawrence D. “Butch” Morrisが考案した即興演奏法が元ネタとしてあるようです。

*2:本来ならば

*3:私もたまりませんでした

コンテンポラリーの回廊 俺の視聴部屋4

コンテンポラリーの回廊

 皆様あけましておめでとうございます。
 旧年中は当ブログ、そして何より名古屋作曲の会と私自身に多くのご指導ご鞭撻をいただき有難うございました。
 この会の顧問になって数年、会長も変わり次の局面を迎えた昨年は、残念ながら当会としては満足の行く活動内容とは行きませんでした。体制の変化に伴い、徐々にヴィジョンと企画の着地に失敗することが多かったのが主たる原因と考えますが、今年はそんな雰囲気を吹き飛ばし大飛躍をしてもらいたいと考えております。まだ具体的な段階ではありませんが、支部の結成、事務局の設置、さらに外部協力者の方々と色々ご一緒させていただき、会にも大きな刺激になれば良いなと感和えております。

 どうか本年もさらなるご指導ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

 さて本年のブログ、私の担当回としては最初の回となります。やはりここはこの「コンテンポラリーの回廊」シリーズで始まり、近年のコンテンポラリーの動向をどこよりも速くキャッチし、日本の文化度の後退を止めたいとの思いを新たにしたいと思います。では早速近年書かれたユニークだと私が感じた作品を聴いていきたいと思います。

 

Alex Temple

1.This Changes Everything!/Alex Temple


 はじめにご紹介するのは1983年アメリカ生まれの作曲家、アレックス・テンプルの書いた曲です。アレックス・テンプルは写真でも分かる通りLGBTQをカミングアウトしており、Qとしての活動に力を入れている作曲家です。

 彼女はイェール大学に学び、作曲はカスリン・アレキサンダー、マシュー・サッターに師事しており、系譜としてはポスト・ミニマル的なものと言えますが、作風はミニマリズムではなくPOPSとのクロスオーヴァー微分音による音響に関心が置かれているようです。
 この曲はソプラノ・サックスの独奏に打ち込みによる伴奏がつけられ、Jazzのイディオムを柔軟に取り入れた上で、微分音によるゆらぎを加えるというクラシック離れした内容です。非常に現代的でDTM的な視座に立った個人的な作品と捉えられますが、そこらのDTMerと名乗る人々とはやはり土台の力が全く違います。日本でパソコンのケツを眺めてシコシコやっている自称音楽家も、このくらいの精度と解像度を持って音楽に臨んでもらいたいとの思いを新たにする刺激的な作品ではないかと思います。
 え?何が違うって?わからないあなたの耳はもうカビで詰まっているのでしょう。対位法の技術が詰まった作品ということにすら気が付かないようでは先が思いやられますね。さてそんなワードをヒントに聴いてみましょう。

 

www.youtube.com

 

 

Demian Rudel Rey

2.Cuélebre/Demian Rudel Rey


 次にご紹介するのは1987年アルゼンチン出身デミアン・ルーデル・レイの作品です。作者はアストル・ピアソラ音楽大学サンティアゴ・サンテロに師事し、その後は一貫してエレクトロニクスを活用した作曲を行っています。
 その音楽は細かい断片を各楽器に演奏させ、一種ジョン・ゾーンのような無軌道で疾走する断片を敷き詰め、徹底的に電子加工して聴衆に届ける手法を用いています。こういった作品は今に始まった手法ではありませんが、加工の方法がギタリストでもある彼の側面を生かしたものとなっており、一般的なライブエレクトロニクスの域を遥かに超え、楽器の実音を殆ど残さない域に達しているのが現代的ではないかと思います。音楽自体は難解な響きに包まれていますが、文明の利器をここまではっきりと肯定している音楽は、アレキサンダーシューベルトの作品を思い出すほどです。またVJ的な要素をライブに持ち込むインスタレーションアートとしても極めて独創的と言えるでしょう。

 

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Adrianna Kubica-Cypek

3.Reflection Nebulae/Adrianna Kubica-Cypek


 3曲目はポーランド出身の新鋭作曲家アドリアンナ・クビツァ=ツィペックの書いたオーケストラ曲です。タイトルは「反射星雲」の意味で、宇宙に輝く茫洋とした星雲の一形態のことのようです。
 クビツァ=ツィペックは1996年にポーランドに生まれ、デンマーク王立音楽アカデミーでニールス・ロスリング=ショウのマスタークラスを卒業、その後もアレクサンダー・ラーション、ヴォイチェック・ステピエン、デイヴィッド・チャップイス、ルカ・アンティニャーニに師事しています。現在では国際的評価が大きく高まり世界各国から委嘱を受けるようになり、人気作家として頭角を現してきています。
 この頃の音楽ではもはや、調性、無調、汎調、復調、多調、旋法性、倍音性、騒音性などは音楽を分ける区分ではなくなって来ており、彼女の作品も語彙選択が自由に行われています。この曲ではよく鳴り響くポイントとなる鋭い音が、茫洋と反射され溶け込むような響きの残滓になってゆくというはっきりした描写が続きますが、調的な響きと倍音的響きの混在が明らかであり、それが違和感なく美しく調和しています。大きな視座と直感的ですらある感性が結びついたまさに今を表す作風だなと感じたので、ここに紹介してみようと思います。

 

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Jannik Giger

4.ŒIL/Jannik Giger


 4曲目はスイスの作曲家ヤニク・ギーガーの作品をご紹介します。昨今のコンテンポラリー作曲家は作曲行為だけで何かを表すだけでなく、複数の芸術ジャンル、表現活動にまたがって活動することが多くなっており彼もまたそんな一人です。
 1985年にスイスのバーゼルに生まれ、現在もそこを拠点に活動する、作曲家・ビジュアルアーティストです。
 ベルン大学でダニエル・ヴァイスバーグ、ミカエル・ハレンバーグに師事、更にバーゼル音楽大学でミシェル・ロスとエリック・オーナのマスタークラスを修了しています。その後メディアアートを中心に作品を発表しており、映像と音楽との関係を不可分にした表現を中心にしているようです。
 今回は純粋な弦楽四重奏の作品を紹介しますが、聴けばすぐにその作風の特異性に気がつくことと思います。一見すると古典音楽のような響きなのです。しかしなにか歪でレコード変調でもしたかのような不思議な感覚にとらわれることでしょう。これは調性や微分音やゆらぎのようなものを複数の言語の統合として認識し、複雑な楽譜を通じて不思議な音体験として聴衆に正確に届けているためです。倍音管理がしっかりしているため、これら微分音と調性が無理なく結びつき、ユニークな音楽となっています。なお表題の意味は「目」。非常に曲内容とともに意味深なタイトル付けだなと感心します。

 

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Mithatcan Öcal

5.Alessandro Perevelli/Mithatcan Öcal


 最後に紹介するのはトルコの作曲家ミタトカン・エカルの作品です。

 私は常々このブログや他媒体を通じて現代トルコの作曲家はいずれ世界のコンテンポラリーの中心を築くだろうと申し上げておりますが、まさにこの曲を聴くとその思いを新たにします。トルコには非常に豊かで、またかなり細かい微分音を含む伝統音楽の歴史があります。このあたりは当会の岩附会員の専門分野ですので、彼の記事を参照されるとよいかと思いますが、この伝統のせいか先天的に音の分解能が高いという特色があるように思います。
 先程来書いてきた通り、今の作曲家はあまり音楽語法について一つの言語に拘泥せず、それらを如何に混ぜるかが作風の決定的な部分となっています。その中の要素にマイクロトナリティ、つまりは微分音の復活が著しいことは、トルコの作曲の絶対的な後押しになっていると言えると思います。9分音を文化に持つ彼らは、そもそも美しい微分音というものを幼少期から染み込ませているとも言え、これが倍音を中心とした響きを作る上で絶対的なイニシアチブとなっているのです。
 エカルは特にアナトリア民謡や、中東の伝説などに興味の中心を置き、現代においてこれら古典がどのように聴かれるかということを作曲のテーマにしています。このため先程の曲もそうだったように、様々な語法がそれら民族素材の上に並べられ、西洋音楽史上では出現し得なかった旋法音楽に繋がっているわけです。
 エカルは1992年トルコのイスタンブール出身。ミマール・シナン国立音楽院でアフメト・アルトゥネル、メフメット・ネムトルに師事しキャリアの最初の頃から、伝統音楽への傾倒を見せる作風を確立、現在国際的にも注目される一人になっています。
 この作曲家の取り組みについてはそのうち「コンテンポラリーを聴く」シリーズで詳細に取り上げたいなと思っているので今回は多くは語らず、まず彼の音楽を堪能してみてください。ベートヴェン好き、民族音楽好き、そして劇伴好きにも刺さる内容と思います。

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 いかがだったでしょうか。新春を彩るにふさわしい最新現代音楽の世界は。そして日本の遅れっぷり、忘れ去られっぷりとこの国における文化理解度の低さをこれほど簡単に味わえることは少ないのではないでしょうか。
 陽出づる國、経済大国と浮かれてるうちに、何も学ばず、楽を覚え、権利だけが先に行き、努力も研究もせず自分の好きなものだけ食べ続けたら、それはこうなるのは必然でしょう。2024年はどんな音楽が世界から生まれてくるか、どんな表現に出会えるか楽しみですね。願わくばそこに天才的日本人の存在がほしいですが、現状では望み薄なのかなと言わざるを得ません。少なくとも私とその弟子たちは、こういったフィールドへの研究を絶やさず、小さくまとまってほしくないものだなと思うばかりです。

 

 ということで新春から強めの刺激と厳し目の論説で始めてしまいましたが、皆様に置かれましては引き続き感染症にもお気をつけになり、この年を良い年になさってください。また当会の活動にもぜひご注目ください。

 

ストリートピアノ企画各曲解説

明けないに1万掛けてましたが、明けましたね。

おめでとうございます。

なんすいです。

名作会今年もよろしくお願いします。

 

 

さて、我々名作会より、今年の年明けと同時に「ストリートピアノ企画」の公開を行いました。

皆さんご視聴頂けたでしょうか。

 

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ストリートピアノを使って演奏することを前提としたストリートピアノのための楽曲を、3人の会員が書き下ろしました。

 

KIRITORI~by the media's efforts to sabotage the nation through street pianos /榊山大亮

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榊山先生が制作したこの作品は、原曲の演奏にさらに映像編集を施した、メディアアートになっています。

 

「私はだれ?どこから来て、どこへ向かうの?」…というテロップから始まり、終始シリアスな雰囲気を纏ったドキュメンタリー風に映像が仕上げられています。

一体この映像にはどういう意味が込められているのでしょうか。

 

 

ここで作品の英語タイトルを訳してみると、「ストリートピアノによる、国家を妨害するメディアの"KIRITORI"」となります。

なんだか不穏ですが、このタイトル自体が本作品の種明かしになっています。

 

実は、意味ありげな映像には本当は何の意味も無く、ただそれっぽさを演出しているだけのものです。

意味の無い素材達を切り取って繋げ、恣意的に編集する「マスコミの手法」メディアアートとして再現されているのです。

 

マスコミ

 

ストリートピアノはもともと、街中での文化的な営みの機会として世界中に広まりました。

誰でも弾くことが出来、その中で文化的な交流が生まれることを期待されてきました。

 

しかし、現状はどうでしょうか。

 

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ピアノの弾ける人達がこぞってストリートピアノでの演奏動画をYouTubeにアップし、人気を博しています。

もはやストリートピアノといえば、こういう風に上手い人が動画を回して流暢に流行りのポップスを弾いてみせる、といったイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

「誰でも弾く」ものではなく「弾ける人が弾く」ものへ、「何でも弾く」ものから「人気の曲を弾いてウケる」ものへと、ストリートピアノの役割は変貌してしまいました。

 

すなわち、当初の目的を果たせなくなったストリートピアノは「もっともらしく意味ありげな無意味」の象徴となった……ここに、マスコミの"KIRITORI"の手法を重ねるというのが、本作品のからくりになっているわけです。

非常に榊山先生らしい、意地悪なコンセプトです。

ストリートピアノの演奏が専らYouTubeで動画として拡散されていることに対比して、メディアアートの形で本作品が作られているという点も、皮肉ポイントです。

 

演奏者の私自身、最初からコンセプトを聞いていたので、演奏の際は本当に何も考えずに譜面の音符を弾いていただけでした。

映像として見ると、なんだか神妙な面持ちで弾いているように見えてきますが、それは弾くのが難しかったからです。素人の私でも弾けるようにだいぶ少ない音数で作って頂きましたが、いや、ピアノって難しいんですね。

私の演奏のぎこちなさ、そして風貌の謎さがより意味ありげな感じを醸していて、作品により良い効果を出せていたようで光栄です。

 

 

 

空間デザイン/冨田悠暉

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冨田悠暉(トイドラくん)作曲の「空間デザイン」。

これを最初から最後まで飛ばさずに聴いてくれた人は何割くらいいるんでしょうか。

 

1ページに収まるくらいの短くシンプルな譜面を、無限に繰り返し弾くという内容。

私自身、最初に楽譜をもらった時はかなりギョッとしました。

本曲を聴いてくれた人は、なんかずっと同じようなことばっかり弾いてるなと思ったかもしれませんが、本当にそうなのでした。

 

本曲の背景には、エリック・サティ家具の音楽という概念の存在があります。

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家具の音楽」は無意識のうちに聴かれながら空間の心地良さを演出するという、アンビエント的な音楽の構想といわれています。

しかし、そうして作られた楽曲はいずれも癖があり、あまり無意識的に聴けるような内容ではありませんでした。

実際、その初演は観客が音楽に聴き入ってしまったため失敗に終わったとされています。

 

さて、この「家具の音楽」を踏まえた上で、本作品は機械的な内容をひたすら繰り返すという、まさに道具のような音楽を鳴らし続けるものです。

静かな騒音を響かせ続けるピアノ、これを人々が意識に上らせまいと無視することにより、ストリートピアノは環境に溶け込みます。「逆・家具の音楽になりうるのです。

 

本作品は終始左腕で幅広のクラスターをpppで響かせ続けます。それは明確なビートにすらならず、機械のノイズのように静かに単調になり続けます。

コンセプト通り、譜面も演奏の動作自体も家具的で、静的な異様さを孕んでいるのが私的にとても好きです。

 

 

さて、榊山先生の作品とトイドラくんの「空間デザイン」は、どちらもストリートピアノが抱える重大な矛盾を指摘しています。

すなわち、公共空間に自由さを持って設置されたはずのものが、娯楽的で異質な存在としてある現状。本来の存在意義を見失って社会の中で浮遊しているという矛盾です。

この点で、2人の作品は非常に似たコンセプトを持ち、異なる手法でその矛盾に迫っているものといえるでしょう。

 

一方、榊山先生はストリートピアノがYouTube等で拡散された動画として消費されている点に目を向け、トイドラくんはストリートピアノの本来想定された聴衆の方を意識して、それぞれの作品を作り上げたという相違点も明確にあります。

 

どちらもストリートピアノの現状に異なる目線から切り込んだ、厳しいコンセプチュアル・アートになっていました。

 

 

 

ピアノ・イドラ/なんすい

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正直、先の2人と全然コンセプトの毛色が違ってドキドキしていました。が、それは割と当たり前の結果だったと言えます。

何故なら、本企画は私が発案し、私が全曲演奏したいと買って出たものだったからです。

 

したがって、先の2人の作品はいずれも演奏者を含めた空間や映像全体にピントを合わせた作品になっていますが、一方で私の「ピアノ・イドラ」は、最終的に演奏者…つまり私にスポットライトが当たる仕組みになっています。

 

本作品では、「冷たい羨望」をキーワードに、ストリートピアノを使って所謂「地下アイドル」的な風景を作ることを目指しました。

聴衆の平たい眼差したちを含めた風景が、結果的に演奏者をアイドルたらしめるのです。

この演奏を通して、ストリートピアノ界の地下アイドル…「ピアノ・アイドル」を出現させるのが、本作品の目的です。


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私が演奏者である私のために作ったと言っても良い本作品の背景には、やはり非常に個人的な動機がありました。

人前に立った時の湿っぽい緊張感、自分がなれなかったものへの嫉妬心、遠く離れた分野で華々しく活動する人達への複雑な目線。

そうした感情が、去年とあるアニメを見たことがきっかけでより深刻に起こり、作品に残すことを迫られることになりました。

それが「ひろがるスカイ!プリキュアです。



最終回が近づいてきてとても寂しいです

 

このアニメに出てくる青色のプリキュア「キュアスカイ」は、今の所私の中で最もアイドルです。

最高にかっこいくてかわいくて真っ直ぐで向う見ずで、私が絶対になれない性格をしています。

キュアスカイを見るたびに心が洗われ、同じくらいまた心が濁るので、毎回プラマイゼロになっています。

 

そんなわけで、本曲に使われているモチーフはほぼ全て「ひろがるスカイ!プリキュア」のOPメロディや変身シーンのBGMから取られています。

(本曲は「ひろがるスカイ!プリキュア」の二次創作と言ってしまっても過言ではありません、)

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本作品「ピアノ・イドラ」は私をプロのピアニストにはしてくれませんが、アイドル性の本質にある濁った仕組みを描き出してくれる装置として機能するのです。

 

今一度他の作品と比べてみると、ストリートピアノが演奏されている空間自体に作用するという点では、トイドラくんの作品とより近いと言えそうです。

というより、むしろ榊山先生の作品の視点の特殊さがより際立ったという所でしょうか。

 

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以上3曲、変わったテーマの企画であっただけにいつもに増してコンセプチュアルな作品が集まりましたが、それぞれ全然異なるアプローチのものになっていたと思います。

 

これら3曲の楽譜は全て近日無料公開する予定です。どれも楽譜で見るとまたとても面白いので、ぜひご覧頂きたいですね。

またこれらの作品に興味を持って頂けたなら、ぜひお近くのストリートピアノで演奏してみて下さい。公共空間をちょっとだけ揺さぶることが出来ます。

2023年よかった曲

[前書き]もういくつと数えることもない。なぜなら明日はお正月なのだから。

2023年の3月に私が東京行きの新幹線に置き忘れたイヤホンは、誰かに拾われ今頃どこかの警察署で保管されている。いや、もう捨てられたかもしれない。でももうそんなことはどうだっていい。おかげで半年間電車で音楽を聴くことができなかった私の耳は渇望のあまりついに知多半島を飛び出し、今や名古屋大学のすぐそばに住んでいるという。そばに居て蕎麦煮て。今日は大晦日なのだから。

私は聴いた音楽をその場でメモるとかプレイリストに入れ、濃縮還元するとかいう活動を年がら年中しており、それもついに5年というメモリアル・イヤーに突入した。メモリアルだから何だというわけでもないが、今年も今年で現代音楽〜J-POP〜個人制作まで異種格闘技空中技・寝技・打撃技乱れ打ちの様相を呈している。そしてそれをここに記す。このブログはプログラム通りならば12/31 19:00に公開されているはずである。はたして紅白歌合戦の最中にこんなブログを読むやつはいるのだろうか? しかしまあ紅白歌合戦の最中にこんなブログを見るやつのために私は一年分の記録を参照したのだった。そういう人も、そうじゃない人も、どうぞご照覧あれ。

 

目次

 

やばきゅん♡シューベルト / DIALOGUE+


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DIALOGUE+は女性声優8人組のグループです。プロデュースは全てUNISON SQUARE GUARDENの田淵智也が務めているようです。本曲「やばきゅん♡シューベルト」の作曲は広川恵一によるもの。広川は田中秀和もかつて在籍していたMONACA所属の職業作曲家で、アニメやゲーム音楽などを多数提供しているようです。ベーシストとしての顔も持ち、この曲ではその技が存分に発揮されています。また師匠は「もってけ!セーラーふく」などのアニソンを多数作曲する神前暁であり、師に勝るとも劣らない電波具合でもありますね。

 

SERENITARY 2.0 / Ben Nobuto


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Ben Nobutoは日系イギリス人の作曲家です。現代音楽に加えてジャズやインターネットカルチャー的なイディオムを感じます。今最も「現代」的な作曲家の一人と言っても良いでしょう。梅本佑利と仲が良く、彼がこういった精神性の音楽を実現しようとしているのも頷けます。
この曲もそうですが、全体的にカットアップ的な音響がとても印象的です。目まぐるしく変わるのに不思議と一貫性があるのがとても現代っぽい。切り替わる際にしばしばチャンネルを切り替えるかのような特徴的な電子音が挿入されるのもなんかポップで面白いです。

 

MAGICAL DESTROYER / 愛美


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OPとEDだけよかったクソアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」のOPテーマ。歌唱は声優の愛美。作曲はソロユニットAA=としても活躍する上田剛士です。彼は海外での評価も高いメタラーで、日本だとBABYMETALの「ギミチョコ!!」楽曲提供で有名でしょうか。ルーツにYMOを挙げているように、ただのメタルではなくデジタル的な無機質さが特徴だったりします。

 

Gospelion in a classic love / The 13th tailor


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同EDテーマ。なぜか音楽のセンスだけは異常に高くてむかつくアニメでした。

The 13th tailor吟(Busted Rose)名義でも作曲活動を行う羽柴吟によるソロプロジェクトです。吟名義だとアニメ・ポプテピピック周りの作曲がすべてそうなので、聴いたことがある人もいるかもしれません。そんな彼に好き勝手やらせた結果がこれです。JPOPの楽曲構造をバキバキに崩して文字通り好き勝手やってくれました。もっと好き勝手やってくれると嬉しいなと思います。

 

Scotoma / kou/kizumono


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kou/kizumono、またの名をkasane vavzedは東京出身のミュージシャンですがそれ以上のことはあんまりよくわかりません。とりあえずレーベルに所属せずすべて自力でやっていることは確かなようです。明らかにメタル出身なのは良いとして、そこにビルドアップやドロップなどEDM的な要素とハイパーポップががっつり加わり、歌っているのは可不と、現代インターネット・ポップスの流行りどころが贅沢にミクスチャーされています。混ざりすぎてもはやかっこいいことしかわからない。

 

Negaceando / Radames Gnattali


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Radames Gnattaliはイタリア系ブラジル人作曲家です。クラシックもポップスも幅広くてがけていたようで、この曲ではポップス方面での才が発揮されています。ジャズが基調となりながらもときおりクラシカルな香りがしたり、自身の出身であるブラジル音楽への目配せが効いているなかなかイカした小品だと思います。

 

鬼 remixed by 佐藤優介 / 吉澤嘉代子


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吉澤嘉代子はもはや押しも押されもしないシンガーソングライターなわけですが、相変わらずいいですね。原曲ももちろんよかったですが、佐藤優介の80年代風ポップアレンジが特にナイスでした。

 

シノワズリ / Babi


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Babiは日本の作曲家で、主にCMのBGMなんかを作曲していますが、やはりソロ活動が素晴らしいと思います。こんな感じで旋法性の強い室内楽調の楽曲が特徴です。長らくアルバムが出ていなかったんですが今年は久しぶりに新作(この曲が入ったアルバム)が出ました。その間にどうやら子供が生まれたようで、作られる曲の中に生活感が見え隠れするようになったのもなかなかほっこりするポイントかも。

 

The Fairy / Paavo


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Babiいいな~と思っていたら海外で若干似たような音を鳴らすバンドを見つけたのでついでに紹介します。Sofia Jernberg と Cecilia Persson 、ふたりの女性バンドリーダー率いる Paavoです。それしかわかりません。Paavoで調べるとパーヴォ・ヤルヴィ(指揮者)のことしかでてこないからです。

しかしこれはジャンルは何になるんでしょうか?一応ジャズのような気がしなくもありませんが......。

 

化石のうた / パスピエ


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パスピエといえば人気邦ロックバンドだったはずなのですが、ここ数年で売れ線っぽい曲を作る頻度が激減し、最新作ではこうなりました。

どうしてこうなってしまったのかは全くの不明なのですが、とにかく脱臼しまくったモダンジャズみたいな何かが展開されていきます。ところで今までの客層ってついてこれてるんでしょうか? マジで何がしたいんでしょうか? 私はこのまま続けていってほしいですが。

 

意外なことが次々に起こる / ZOMOZ


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ZOMOZはほかのすべての曲もかっこいいので四の五の言わずすべて聞いてほしいです。活動自体は今年はあまりやっていなくて情報があまりないんですが、たま~にライブはやっています。

肝心のこの曲ですが、リズムもコード進行もかっこよすぎます! 途中のビートチェンジもめちゃくちゃスムーズ。タイトルがキャッチーなのに意味不明、あと歌詞が意味不明。本当に意外なことが次々と起こる。

 

大仏ビーム / カラコルムの山々


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カラコルムの山々は下北沢を起点とするシネマチック・ロックバンドです。バンドのアカウントを見たらめちゃくちゃそのへんの大学生の軽音サークルみたいで吹き飛ばしそうになりました。

さて、肝心の「大仏ビーム」ですが、どう考えてもZAZEN BOYSとか向井秀徳に影響されまくっています、されてないとは言わせません。にしても「第三の目から大仏ビーム」のなんてキャッチーなこと! 曲自体も普通にかっこいいです。ZAZEN BOYSみたいだから。

あとなんか地下演劇の香りがする曲が多いです。シネマチックを名乗るのはその辺が所以でしょうか?

 

Valsa para as Criancas / Amilton godoy


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Amilton godoyはブラジルの作曲家・ジャズピアニストです。1941年生まれということでブラジル・ジャズ界の生き字引のような存在らしいです。この楽曲は子供のためのワルツということで(クソ速いですが)平易に書かれてはいますが、ちゃんとジャズワルツとしてめちゃくちゃお洒落でいい感じだなと思います。

 

夢 / めぞぴあのきゃんでぃ


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「めぞぴあのきゃんでぃ」は日本で唯一の姫かわHIPHOPを全国47都道県の少女たちに届けるために美兄(びにい)霊臨(たまりん)とによって結成されたヒップホップユニットです。何を言っているかお判りでしょうか。

おそらくHIPHOPから一番遠いものとは何か考えたときに出てきたのが「姫」だったんだと思いますが、にしてもそのイメージをここまで凶悪な形で具現化できるのには驚かざるを得ません。あと何気にリリックがイカしています。「大きいほうをあげる 小さいほうを食べる パク  ファック」とか普通思いつきませんよ。

彼らはめぞぴあのきゃんでぃ以外でも謎の曲ばかり歌っており、そちらも実は気に入っています。気に入っていますが、紹介するほどでもないのでここには載せません。

 

驚異320回転 / HASAMI group


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さて、HASAMI groupの最新楽曲の一つなわけですが、マジでイカれています。

この曲の前では今まで紹介した曲のすべてがかすんでしまうほどのインパクトとすさまじい熱量を感じます。I’M A KAMAKIRIだけで曲を完成させてしまい、I’M A KAMAKIRIという言葉にこれだけの説得力を与えられるのは青木龍一郎しかいないのではないかと本気で思っています。

 

G.A.D / QUBIT


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さてそろそろ口直しを。

QUBITは今年結成されたバンドで、ボーカルはDAOKOです。の割には全く話題になっておらず悲しいです。ボーカルがDAOKOだからというよりはちゃんとかっこいいからなのですが......。キーボードに現代音楽作曲家としての顔を持つ網守将平が参加しており、まあまあの本気度がうかがえるのですが......。

 

I'm the president / KNOWER


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当ブログでもたびたび取り上げているKNOWER。EDMっぽいサウンドが特徴かと思っていたのですが、どうやらそれにも飽きてしまったらしく、最早音だけではルイス・コールのソロとの違いが判らなくなっています。それはそれとしてベースラインが絶望的にダサいはずなのにちゃんとかっこよく聞こえていて流石です。今度来日するのがめちゃくちゃ楽しみですね。

 

There's s something happening / Jack Stauber's Micropop


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アメリカの映像作家Jack Stauberによるソロプロジェクトです。くわしくはこちら。

nu-composers.hateblo.jp

この記事を書いた後もたびたび聞くようになり、完全にお気に入りになりました。

 

踊るクエン酸回路 / おしゃれTV


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おしゃれTV野見祐二荻原義衛によるテクノ・ポップ・ユニットです。野見祐二は職業作曲家で「耳をすませば」の劇伴で有名です。個人的には「日常」サウンドトラックなんかも結構お気に入りなのですが。彼の仕事を聞くとわかるようにオーケストラを使うのが得意です。なので「踊るクエン酸回路」でもそのクラシック的な技法がいかんなく発揮されています。さらにいえばおしゃれTVは坂本龍一プロデュースなので余計にその傾向が強いです。同アルバムに収録されている「アジアの恋」なんかはモロ坂本なんじゃないでしょうか。

「踊るクエン酸回路」ではほんとになんでそうしたかったのかは全くわかりませんが、食事から消化、好気呼吸にいたるまでに起こる諸反応について細かく解説してくれています。しかも現代音楽的な語法を交えて。ありがとう。なんか食事の内容がおしゃれすぎてむかつくけど、まあおしゃれTVだし、いいか!

 

Boys, be ambitious (feat. ermhoi) / 東京塩麹


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東京塩麴は昔からスティーブ・ライヒのようなミニマルミュージックをポップスに落とし込んだ楽曲を製作していましたが、近年でそこにはEDMなどの現代ポップス的なアクセントが加わるようになりました。

本楽曲ではまず明らかにメロディがロクリア旋法をなぞっています。サビはといえばEDMにおけるドロップをそのまま人力で置き換えたかのような(どっちかというとIDMかも?)めちゃくちゃ断片的なフレーズを演奏していますし、今までよりは行儀がよくないミニマルミュージックになっていてなかなか面白いんじゃないかと思います。歌詞はくそダサいけど。

 

Homme (萌夢) / oscilation circuit 


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知る人ぞ知る環境音楽の名盤、oscilation circuitの「serie reflection 1」がサブスク解禁・再発されたことに言及しないわけにはいきません。

映画音楽作家としても活躍する作曲家、磯田健一郎(=oscilation circuit)のレコードデビュー作として、1984年、芦川聡設立の環境音楽の名門・サウンドプロセスデザインからリリースされたこのアルバムは80年代当時の日本の環境音楽の中でも異質で、電子音をほとんど使用せず、かつミニマルミュージック的な語法をかなり素直に使っています。このへんの電子音楽の潮流の話はまた記事に書くとして、この曲は本当に最小限の変化だけで構成されており、異質ではありながらも環境音楽、そしてサウンドプロセスデザインの思想を体現しているのです。あと長すぎて寝るのに最適。

 

以上2023年に聞いた音楽でしたが、皆さんはどう思うか。