名古屋作曲の会(旧:名大作曲同好会)

“音楽”を創る。発信する。

作曲家の技術 - クリスマスピースを作る

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作曲の技術

今日の記事はとても長いので目次を作ってみました。

 

序文

いつも現代音楽やクラシックの紹介や、世の中の体たらくを叩くばかりの私の記事ですが、一応これでも作曲家を20年以上やっているので、いずれは自分の覚えてきた仕事を紹介したいなと思ってはいた。
しかしそれはレッスンとは区別しないといけない。
何故なら弟子たちは有料で私の講義を受けてるのに、同じ内容を無料で公開しては不平等になってしまうからだ。
とまあ書いてみれば、聞こえはいいのだが、実際のところ技術系の内容は書くのが大変な上に、記事の準備も大変になるから避けてきただけである。

 

面倒は嫌いか?
おう!当たり前じゃないか。

 

ということでまた登場の榊山です。

 

そんなこんなで、やっと重い腰を上げて技術系の記事を書いてみようかなと思いました。
そしてちょうど名作同ブログはクリスマス企画中

前回ブログでも書いたとおり、作曲家にとってこのシーズンはちょっとした稼ぎ時でもあるのです。

 

そうクリスマスピースと呼ばれる音楽の発注が結構あるからです。

 

そもそもクリスマスピースを書くにはどんなことを気をつけて、何が必要なのか
今日はこの記事を使って、実際にその技術を紹介してみようと思います。
今日の記事は「音楽を作る上での基礎知識がある」ことを前提としていますので、全く音楽を作ったことない人にはちょっと難しいかもしれません。
しかし逆にちょっとした音楽の知識があれば、本記事の内容通りに実践することで、自分なりのクリスマスピースを書くことができるようになるかもしれません。

 

1.はじめに知っておくこと

まずクリスマスという時期を描くためには、知っておかなくてはいけない知識があります。
それが「クリスマスキャロル」と呼ばれる古くから伝わるクリスマスのための音楽です。
これらはキリスト教文化圏においてのクリスマス、つまりは降誕祭の期間に歌われる、エスの降誕をテーマとした歌の事を言います。

 

つぎに「クリスマスソング」も覚えておかねばいけません。
これはキャロルなどよりも新しい時代に書かれたクリスマスのための音楽を言います。
まあ世界中に浸透したポップスなどを指すものですね。

 

それぞれ少し例を上げてみると

キャロル

 

・もみの木

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もみの木

www.youtube.com

 

もろびとこぞりて

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もろびとこぞりて

www.youtube.com

 

・聖しこの夜

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聖しこの夜

www.youtube.com

 

 

クリスマスソング

 

・ジングルベル

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ジングルベルのリフレイン部分

www.youtube.com

 

・赤鼻のトナカイ

ototama.com

www.youtube.com

 

・ホワイトクリスマス

musescore.com

 

これに加えて日本独自のクリスマスソングも覚えておくといいでしょうが、それらを使用するには許可が必要です。


なので今回は上記の一般的なものを使って話を進めていきましょう。

 

これらの曲を覚える理由はクリスマスと紐付けられ、どの曲を聴いてもクリスマスであることがすぐに分かる曲であるという理由からです。
オリジナルで作る場合は違うのですが、全くのオリジナルでクリスマスを表現するのは一段も二段も難しくなるので、今回はこれらの曲を使ってアレンジをしてゆく過程を紹介します。

 

2.元にする曲をいくつか選ぶ

 

まずざっと曲の構想を考えます。

 

例えば

<明るく快活な序盤>-<落とした中間部>-<盛り上がって終わる>

こんな感じでこれから書く曲の構成を練っておきます。

 


そしてその各部分に1曲ずつ元にする曲をあてていきましょう。


もろびとこぞりて>-<聖しこの夜>-<ジングルベル>

とこんな感じになるわけです。

 

3.各原曲の利用特性を知っておく

原曲が決まったら各原曲の持ち味を活かすために、先人たちがどんなアレンジをしてきたかを聴いておくと勉強になります。
そしてそれぞれのアレンジの方向に一定のマナーがあることを掴んでおくようにします。

 

もろびとこぞりて
速くも、遅くもできるが、あまり大きくコードを変えたりはしない。

 

・聖しこの夜
様々にアレンジされ、コードを付け替える例がとても多い。

 

・ジングルベル
原曲の持ち味通りに仕上げ、テンポは速めでサンタクロースをイメージさせるようにする。

 

ざっと特性をまとめてみると上記のようなマナーが見えてきます。
そこで先程の自分の立てた構成表に従って、制作メモを作ります。

 

<序盤>F Major
もろびとこぞりてのテーマを使い、明るく元気に始める。
この時あまり大きくハーモニーは変えず、コントラスト変化を中心に書いてゆく。
変奏させてもよいが、大きく変わらないように注意し、長い部分にならないようコンパクトに仕上げたい。

 

<中盤>C Major
一旦音楽を止めてムードを変え、静かな雰囲気の中に聖しこの夜のテーマを立ち上げる。
この時ハーモニは原曲から変え、少し複雑に動向させる。
進むうちにJazzっぽくなっても良い。

 

<終盤>F Major
鈴の音のような音が聞こえてくると、ムードが変わっておなじみのジングルベルが聞こえてくる。
楽しげで終始トナカイのソリやサンタクロースををイメージさせるような演出を加える。
ラストのみハーモニー変化を大きくつけても良い。

 

 

このように構成に対して、それぞれの部分のアレンジの方向性を決めて置くことで、書いているうちにブレて脱線してしまうことを防げます。

こういった地味な準備作業が苦手で、いきなり楽譜に向かい合うタイプの人も多くいます。
特に大きな編成のスコアなどを書くときに顕著ですが、完成形態をいきなり想定し、更にブレなく書ききっていくのは相当の技術と経験を要します。


初級者どころか上級者になっても「一気書き」の方法はおすすめできません
我が弟子でも「一気書き」をして精度の低い結果を量産してしまうことは多くありますが、実はレッスンではあまり注意しなかったりします。
プロの世界ということになると、早書きを覚える必要もあるから、一概にじっくりやるスタイルだけではだめだからなのですが、弟子たちを見ていると、嫌がらずに構成表を作ったほうが、結局もっと早かったんじゃないかと思うケースも多かったりします。


ともあれ、私は早書きがどうしても必要なケースでも、頭の中にこういった構成を作って臨むようにしています。

 

さあここまで来たら実際に書き始めることになります。

 

4.序盤を書く

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序-01

 

まず序盤の冒頭、盛り上がって入るので少し音を高めにして、和音はある程度厚く始めることにしましょう。
そこで頭の位置とその後のワンフレーズを原曲通りに置いてみます。

 

ここでピアノ曲であることから、活発なイメージにする手口として

・早いパッセージ
・左手のこまめな動き

 

盛り上がる要素として

・厚めの音
・ペダル効果

などをテクニックとして思い出しておきます。

 

これに従って、冒頭は「駆け上がり」から始め、盛り上がる印象を強化し、その後は分散和音化して速いパッセージを作り出します。
左手は適宜和音を変えずに動きを加えておくことにし、上下のレンジを広めにとってダイナミックにしてみましょう。
フレーズエンドのところは原曲のままハーモニーの塊にしてみますが、終わりは拍を拡大しておき、その後に小さな音で伴奏形を作って間奏のようにしておきます。

 

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序-02

先程作った伴奏形の上にテーマを乗せていきます。
伴奏が軽妙なのでスタッカートを活かすことと、クラシックの小品で有名な「紡ぎうた」の用な感じにしたいので最低音をしばらくFで固定してみます。
テーマの中盤は低音の推進力を強化し、さらにFを引っ張る感じも強化してFとCをともに引っ張ります二重繋留等と言われる手法です。
終盤はコミカルでチャーミングな16分音符のフレーズがあるので、これを小さなカノンのように追いかけあってみます。
ラストは更に盛り上げられるようにもう一度駆け上がっておいて、もう一回テーマを繰り返してみることにします。

 

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序-03

それではここまでを一度聴いてみましょう。

 

 

繰り返し部分の変奏は、オープニングに使った形を利用します。
こういったときに無闇矢鱈に変形して、新しいパターンを作ると節操がなくなってきてしまいますから、一度作ったパターンを大切に使っていきます。
少しずつ音形を変えピアノ曲っぽくコロコロと転がる雰囲気にしていきます。
中盤の二回目では左手にメロディを渡して、右手はモーツァルトソナタなどに出てくる雰囲気を目指してみることにしましょう。

ラストの部分を次の曲へのブリッジに使って、少しずつ転調を促していくことにしましょう。

一度次の曲のドミナントで止めて、ゆったりと拍子を変えてみましょう。

さあこれで1曲目部分が仕上がりました。

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序-04

 ここまでを聴いてみましょう。

 

 

5.中間部を書く

 

聖しこの夜はとてもアレンジの幅の広い曲だということはここまでに話しましたが、それはメロディの個性がしっかりしていて、ハーモニーではその雰囲気が大きくは壊れないことに起因しています。
そこでここではもとのコードから大きく付け替えて、独自色を出しつつ、中間部としての叙情性も描き出してみることにします。


原曲のはじめ8小節のコード進行を見てみると

|C |  |  |  |G7 |  |C |  |

とこんな感じになっています。

ディグリーで書けば以下のようになりますね。

|I  |  |  |  |V7 |  |I  |  |

シンプルこの上なくてよいのですがここは大きく変えていってみます。

 

各メロディを和声音と刺繍音だけでなく、テンションを含む付加音などと考えるといろいろなことができます。

|C C/B|C7/Bb |Em7 A7|Dm7 Dm7/C|Bm7-5 |E7 |Am7 |Bbdim7 |
今回はこんな感じにひねってみます。
ディグリーでは
|I -|↑(iii/V)7 |III7 (ii/V)7|(vi/IV)7 -|(vi/II)7 |(vi/V)7 |VI7 |(iv/V)9根省3 |
と捉えられます。

 

メロディがズレ和音の和声音になっていると見ると、また雰囲気の違った趣を作れることを使っています。
借用だらけなのも、このシーンが単面的な印象になることを避けるテクニックですが、なれるまではあまりやらないほうが良いかもしれません。

 

このあとも和音を構築し直していきましょう。

次の8小節の原曲の和音は以下のとおりです。

|F |  |C |  |F |  |C |  |


|IV |  |I  |  |IV |  |I  |  |

 

パッシングアップの技術を繰り出せそうなので、それをさらにひねってみます。

|F/A |Adim7 |Em7/B |C |F |F#dim7 |Em/G |Am7 |

少々複雑ですがディグリーは
|IV1 |(iii/V)9根省3 |III72 |I |IV |(iii/V)9根省2 |III1 |VI7 |
となりますね。パッシングを内声におこさせると、見た目の最低音が固定されたようになります。

 

つづけて終わり8小節の原曲です。
|G7 |  |C |  |  |G7 |C |  |

.
|V7 |  |I  |  |  |V7 |I  |  |

 

ここを次のように変えてみます。

|Bm7-5 |E7 |Am7 |F#m7-5 |C/G |G7 |C |(C7) |
最後の小節は次への橋渡しで、四度調への転調をさせています。

|(vi/II)7 |(vi/V)7 |VI7 |(v/V)9根省1 |I2 |V7 |I |(iv/V)7 |

 

とこんな感じでハーモニーを付け替えて、更に伴奏に動きをつけ、メロディの下にもハーモニーを補ってみます。
これで厚い音になりますが、これを弱奏させることで、オルガンのような荘厳さと神聖さを演出してみます。

 

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中-01

ここまでを一度聴いてみましょう。

 

 

これだけハーモニーをいじりまくってもちゃんと原曲の味が壊れていませんね。
しかも単純すぎることがなくなり、非常に深みが得られたように思います。
さてもう一度繰り返していきますが、ここでちょっとしたアイディアを加えてみることにします。

先程言ったように四度調に転調しますが、メロディの位置を動かさないことにしましょう。
つまり原曲と同じ音なのに、F調での和音をつけることからこの先を書き進めてみます。

 

|F |Bb |Am7 |D7 |GM7 |E7 |Am7 |D7b9 |

 

ここでもメロディの位置は変えていません。
少しワルツの雰囲気を濃くするような書き方にして、両手のレンジを広くして盛り上げていきます。
急にダイナミクスを絞るアクションを加えて、リズムチェンジを促しながらつなげていきます。

 

|GM7 FM7|B7 |Em7 G7/D |CM7 |Dm7 B7/D# |C/E F F#m7-5 |G G#dim7 |Am7 |

 

和音の割、拍動を細かくしてゆくことで高揚感を出していきます。

 

|G#dim7 | |Am7 |F#m7-5 |

 

ここで細かった割をいきなり長くして、一気にピークを作ります。
このような拍動のコントロールを使ってコントラストを付けるのは、なかなか面白い技で、トラックを重ねることでしか高揚感をつけられない人が多い中、非常に重要な技術となります。

 

ラストは少し繰り返しを使って終止感を増幅します。

 

|C/G |G#dim7 |Am7 |F#m7-5 |C/G |G7 |AbM7 |DbM7 |CM7 |  |  |  |

 

二度ラストのフレーズを繰り返し、最初はパッシングアップを使って偽終止に、二回目は普通に終わらせると見せかけ準VI-裏-IというJazz系のコードを使ってみます。
ぐっと色っぽくなった感じがします。

 

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中-02

では中盤を通して聴いてみましょう。

 

この曲は序盤からの受け渡しのように、ブリッジを作らず一度曲を止めて入り直す形で終盤に進むことにしてみます。

 

6.終盤を書く

入り方は鈴の音を意識した音を鳴らしてみましょう。
高音でやや不協和な響きが混ざるとそれっぽくなるのですが、この曲は無調などではないのでほんのちょっと付加音をつけてみます。
Iの和音であるFにDの音を加えたF6右手のやや高いところに置いて、8分音符で連打してみましょう。
そうすると不思議なことにちょっと鈴の音っぽく聞こえてきます。


この手法はフリスト・ネジャルコフの書いた「冬の歌」の伴奏にも見られますね。
作曲をする者は、普段からたくさんの音楽に接して、それらを分析し、作者が何を考えたのか類推しながら方法論を細分化して、たくさん記憶しておくようにします。
音楽は経験芸術なので、そういったことを嫌がって「これが俺のオリジナル!感じたままに書けばいいんだぜ!」とやっても、大抵どっかで聴いたものと同じ結果になります。


作風やオリジナリティというのは、たくさんの経験の中から、自ら仮説立てをしてやっと手に入るものだったりするんですね。

 

鈴の音を模した音形からジングルベルのサビの一部使った音形に渡して、前奏をまとめてみます。

 

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終-01

 

 

素直に曲に入ってこれたので、一度原曲通りの形で進んでいくことにしてみます。
あまり凝ったことばかりやると、意外に収集がつかなくなりますし、そんなところで格好つけてもかえってダサいだけです。
落ち着いた形で進めるべき時は派手なことは控えてみます。

左手の伴奏系は序盤を思い出すように少しだけF音を固定するようにして、素材をセクションをまたがって使いまわしていきます。
これは循環と呼ばれる方法の一種です。

その伴奏系の上に原曲通りのメロディを配して進めていきます。

サビに差し掛かる前にぐっと盛り上がるようにオクターブと駆け上がりを合わせて見ます。

 

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終-02

さてサビですが、これはクリスマスピースでありながらピアノ曲なので、少し技巧的な見せ場も作っておきましょう。
丁度このサビの部分が適任かなと思うので、メロディを左手の伴奏と混合させて、伴奏の中からメロディが聞こえるようにしてみます。
右手は分散和音基本とした速いパッセージで埋め尽くしてみることで、一気に華やかになってきます。
ただほどほどにしておかないと演奏する人がいなくなってしまいますので、ここではモーツァルトツェルニー程度の動き方を意識しておきます。

 

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終-03

ここまでを一度確認しておきましょう。

 

なんとなく大きな間奏部が欲しくなりました。
すこしオリジナルで付け足していってみることにします。
反復進行を使った、繰り返しパッセージで間をつないで、小さなワルツに変奏したテーマにつなげてみることにします。
曲中に突如ウインナワルツ調のシーンが挿入されるのは、ディズニーの音楽などにも多く見られる技術ですね。

 

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終-04

テンポを速くして、高音に装飾を伴うメロディの変奏を置き、合いの手にちょっと音がぶつかる刺繍音を入れてみます。
わざと6の音が介在するような形にしているのは、終盤のはじめに使った鈴の音の音形の再現ですね。

ここではクリスマスの楽しげな雰囲気を、細かい装飾音を使ってふざけた感じに描いてみることにします。
楽しい感じにして、頭の鈴の音に繋げられるか試してみます。
ちゃんと劇伴の表現も読んでおかないと、こういうときにネタが出てこなくなってしまいますね。

 

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終-05

さて、音の確認はもう少しあとにして、戻ったあとを仕上げていきましょう。
オープニングに戻りましたが、そのままコピーしてはつまらないですし、何しろちょっと長くて飽きてくる気がします。
そこでオープニングからいくつかのフレーズを抜粋してつないで、間に先程のワルツで使ったコミカルなパターンを混ぜ込んで再構成してみることにします。
その後はサビまでワンコーラス繰り返してエンディングになだれ込みましょう。

 

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終-06

さてエンディングです。
やはりサビで作ったピアニスティックな雰囲気は維持したいですね。
右手はこのまま無窮動的に動いていることにしましょう。
そしてIと◯VIを行ったり来たりして、少しだけ和声に変化をつけてみます。
右手のパッセージは両和音の共通音に置いておくことで、変えないで済みます。
和音を並行的に上っていくのに合わせて、右手のパッセージもついていきます。
右手と左手にジングルベルの別々の部分のメロディを合併して、一気に終わっていくようにしてみました。

 

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終-07

さあこれで終盤も完成したはずです。
音を確認してみましょう。

 

 

 

7.仕上げ

これで一通りのアレンジは終わりました。
細かなところを訂正して、少し推敲を入れて完成です。

こういうときに実際に弾いてみたりできるとさらに良いですね。

弾きにくいところや、不自然なところ、より良い方法が思いついたところを直して聴くことで、どんどん完成度が上がってきます。

 

こちらが出来上がった楽譜です。

www.dropbox.com

 

そして音源などを変えて通しの音源も作りました。

 

 

どうでしょう。ちゃんとクリスマスピースに仕上がったのではないでしょうか。
音源も変えて、雰囲気も良くなったように思います。

 

あとがき

しかし今回はピアノ曲としてのアレンジの一端をお見せしましたが、実際の仕事では様々な編成で依頼が来ます。
さらに曲調の指定があったり、元にする曲が決まっていたりなど色々な条件でアレンジにあたることになります。
作曲を生業としているものは、これらに事細かに対応して、さらに納期通りに仕上げなければなりません。
特に納期が短い場合普段の修練や研究が勝負になりますから、やはり慢心することなく謙虚に音楽に向かい合っていなければならにということになりますね。


でもそれでも楽しいんですよ。


自分の一番好きなことをやれる喜び、大変なことは沢山ありますが、好きなことをできる喜びに勝るものはありません。

 

ということで、初めての音楽の技術系記事となりましたが、いかがだったでしょうか。
準備が大変なのでしょっちゅうは書けませんが、また機会があったらやってみようと思います。

 

クソ長い記事を最後まで読んでいただいてありがとうございました。

それではまた!

クリスマスの思い出 ~人生を変えた贈り物~

もう2019年も終わりが近づいてきましたね、sawapyです。

さて普段はテーマが自由の名作同ブログですが、今回のクリスマスをテーマにしよう、ということで僕の人生を大きく変えたある年のクリスマスの思い出について語ろうかと思います。最後まで僕の思い出語りにお付き合い頂ければ幸いです。

 

 1.始まり

あれは小学校2年生の12月25日の朝の事でした。ちびっ子たちはワクワクしながら起き出して、枕元や庭など、各々靴下を置いた場所を確認することでしょう。 ーー僕もそうでした。我が家では毎年エアコンの室外機の上に置いてくれるようで、毎年この日は、起きて布団から出るとすぐに室外機に向かっていました。

そこで僕は長方形の、少し分厚い物を見つけました。手に取ってみると、ずしりと重い…部屋に戻って包装を解くと、中身は1冊のAB判(多分)のズシリと分厚い本でした。この本との出会いが、僕の人生に大きな影響を与えました。

 

 

2.正体

少し引っ張りましたが…その本はこれ↓でした。

 

https://hon.gakken.jp/book/1130244500

算数おもしろ大事典―IQ

算数おもしろ大事典―IQ

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 学研
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 大型本
 

 

タイトルを見るだけで吐き気に襲われる方もいるかもしれませんが…続けさせて頂きます。

確かに僕は小学生の頃から算数と理科が大好きだったので、サンタさんはそこに目をつけたのでしょうか。サンタさんの狙い通り(?)僕は夢中になって読み始めました。

 

「難しいと思われている算数を、愉快なエピソードやおもしろいパズルクイズ等で分かりやすく解説している。(中略)楽しみながら算数が好きになれます。」(内容説明より)

 

確かにその通りでした。扱っている内容は小学校〜中学校で習う程度のもので、小2のsawapy少年はチンプンカンプンのまま、ペラペラ読んでいました。例えば「偏差値とは何か?」みたいな章がありましたが、当時の僕は偏差値なんて聞いたこともありませんでしたからね。

それでも、漫画仕立てのストーリーで読者をテーマに引き込む工夫がされていたり、(内容の理解は別として)読み物として何度も楽しく読んでいました。だって面白かったんだもん…

そしていつしか、ほとんどのページの内容、写真や図、記述…いわゆる画像としての記憶ですね、覚えてしまいました(内容の理解は別として)。これが後に効いてきました。

 

 

 3.少し成長してから

当然学年が進むにつれて、学校で習う内容もだんだんレベルが上がっていきます。そんなある日、学校でこんな問題が出ました。

 

「鉛筆を5本、消しゴムを2つ買ったら代金は410円、鉛筆を7本、消しゴムを3つ買ったら590円でした。鉛筆1本と消しゴム1つの値段はそれぞれいくらでしょうか」

 

・・・レシートか値札見てこい

 

小学生が躓きがちな難所の1つ、連立方程式の導入「つるかめ算」ですね。しかし当時の僕は「ん・・・?なんか見たことあるぞ?」と思いました。

そうです、ちゃんと本に載っていて、覚えていたんですね(内容の理解は別として)。今でもハッキリ覚えていますが、点と点が繋がったような衝撃が走りましたね。

 

このような経験を繰り返しながら、学校での算数・数学の授業を受けていました。

授業で扱うほとんどの内容が、一度は視覚を通して脳に入れたもの。自慢する訳ではありませんが、小学校・中学校の算数数学の授業で苦労することはほとんどありませんでした。

 

 

4.そして今

僕は、大学受験に向けての受験勉強が楽しかったです。特に数学の過去問を解いている時、答え合わせをする時、解説を読む時は、最高でした。受験勉強というより、数学の定理や原理を使ったパズルを解いている、そんな感覚だったのでしょうか。

当時の自分にとってはただの1冊の算数のことが色々書いてある本、よくわからんけど面白い本…そんな認識でした。しかし、大学受験を楽しく乗り切れた今こうして振り返ってみると、この本がsawapy少年に「“数学パズル”を解く」ということ、更には「自分がまだ知らないことを学び、考えること」の楽しさを教えてくれたのだと感じます。

この本と出会わなかったら、楽しく受験勉強を乗り切ることはなかったでしょう。また、今の、数理学系に興味を抱く僕は存在しなかったかもしれません。

まさに人生を変えたクリスマスプレゼントでしたね。

 

さて、僕の思い出をここまで書いてきましたが、この本、小学生だけでなく老若男女、誰が読んでも面白い本だと思います。ひょっとしたら新しい発見があるかもしれません。ぜひみなさんも一読してみてはいかがでしょうか。

 

また、贈り物としていかがでしょうか。

 

 

ではでは

クリスマスナンバー・クラシック編

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メリー・クリスマス

前回今年最後の担当記事と言いましたが、クリスマス特集をやるという会長の意向カムバックしてきました。どうも榊山です。

 

時は12月、クリスマスの音が迫ってきますね。

 

恋人の時間?
ミサの時間?
サイレントナイト?
ホーリーナイト?

 

ということで、今年もこの季節に街に出るとクリスマスナンバーコレクションが楽しめますね。
大抵が80年代から00年代のヒットソングで、ボカロ以降にはまともなクリスマスナンバーを生み出せていない日本の体たらくを感じさせてくれます。

 

え?あんたが知らないだけだって?

 

バカ言えよ。

皆が知ってる国民的な音楽になってこそのクリスマスナンバーだろうが。
みんな山下達郎を超えられなかったんだよ。

 

とまあ現代のポップスをめぐる事情の愚痴になる前に、それなら伝統と格式のクラシック音楽ではどうなんでしょうか。

まあもともとクリスマスはキリスト教文化圏の文化ですから、そりゃたくさんあるでしょうよ。
でもミサ曲を列挙してクリスマスナンバーだぞ!というのではちょっとあまりにも面白くありませんので、ちょっと本気で調べてみようと思います。

 

まずクラシックファンならこの曲から思いつく人もいるでしょう。
アルカンジェンロ・コレッリの書いた「合奏協奏曲第8番」です。

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コレッリ



コレッリはバッハなどより少し前の時代のバロック時代の作曲家で、イタリアバロックを代表する、そして合奏協奏曲スタイルの音楽を代表する人です。
例によってkrkrのカツラをお召になっていますね。

 

この合奏協奏曲第8番は「キリスト降誕の夜のために作曲した」と作曲者が書いていることもあり、クリスマスの夜のミサにのみ演奏されるべき音楽とされてきました。
しかしこの曲は人気であり、また映画などにも使われた事も手伝って、今はクリスマス以外にも演奏されまくってますけどね。

ちょっとおもしろいのがクリスマスに演奏されるのはこの曲の最終楽章のパストラーレが、クリスマスの夜に演奏される楽章となっていますが、バロック時代には他にもキリストの降誕を表すシーンとして、パストラーレが用いられていたということです。

パストラーレは日本語では牧歌とも書かれる舞曲の一つですが、一般に近代以降は羊飼いの音楽や、そこに引っ掛けた牧神の音楽などで見られるものになっていますね。
しかし古くは田園劇を表すものであったようで、おそらくは大衆とキリスト教を結ぶ線が、牧歌的な劇というラインでつながるのではないかと思います。

 

ということでそのパストラーレ、聴いてみましょう。

www.youtube.com

 

え?結局はミサ曲じゃないかだって?


まあまあいいじゃないですか。伝統と格式の世界ですからね。
ちなみにあのバッハも「クリスマス・オラトリオ」という大きなカンタータ集を作っています。
彼もカントールの立場であったように、教会の人ですからもちろんこの曲は降誕祭を含むクリスマスから新年の顕現節の休日に演奏されるものとなっています。

 

とは言えちょっと教会から離れてみましょうか。

 

皆さんはフランツ・リストをご存知ですよね?
そうですあの超絶技巧ナルシストですね!

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リスト

そんなナルシストもクリスマスにちなむ曲を残しています。

孫娘のために書いた「クリスマスツリー組曲という組曲です。
この曲集は12曲からなっていて50分くらいの大きな作品ですが、その中には様々な回想を含む曲のほか、いわゆるクリスマスキャロルの編曲作品が入っています。
いつもの超絶技巧はなりをひそめて、なかなかかわいらしい曲多くてほっこりした気持ちになります。
もっともリストに可愛さを求める人は少なくあまり演奏されないんですけどね。
同じような趣旨の曲ではフェリックス・メンデルスゾーン=バルソルディも子供のための6つの小品「クリスマス小品集」なんてのを残しています。

 

では50分の少々退屈な時間へご招待しましょう。

www.youtube.com

 

 

次は少々目線を変えてロシアの作品を紹介してみようかと思います。

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リムスキ=コルサコフ



ロシア五人組の一人で、オーケストレーションの達人とも呼ばれたニコライ・リムスキー=コルサコフが書いた歌劇「クリスマス・イブ」です。

 

今度はイブ限定で来ましたか!恋人たちの物なんじゃないの?

おお!いい読みをしてますね!実はそのとおりであらすじはこうです。

 

まず自分が世界一美しいと勘違いしてるクソヒロイン「オクサーナ」という人物がいます。
これに恋をしたのがヴァクーラというヤツです。
ちなみにヴァクーラの親ソローハと言って、悪魔の力を借りて吹雪を起こしたり、悪魔と愛し合ったりします。
ヴァクーラはついにクソオクサーナ告白をするも「女帝の靴をクリスマスプレゼントにくれ」と言われてしまいます。
そして色々あって悪魔を従わせたヴァクーラその力を借りて女帝の靴をゲットして二人の恋は成就するのでした。

 

…って滅茶苦茶かよ!!!

 

そのとおりです。台本はニコライ・ゴーゴリの書いたものを原作にしています。
やっぱりというかなんというか、初演は大失敗だったらしいですね。

だってなんかクソな感じしかしないでからね。

 

まあともあれ曲自体はとても凝った技術で書かれているので聴いてみようではありませんか。
ちょうど聞きやすいオーケストラ用の組曲になっているバージョンがあります。

www.youtube.com

 

 

ロシアつながりでアメリカの有名な吹奏楽作曲家、アルフレッド・リード博士のクリスマスナンバーを紹介しましょう。

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リード



日本大好きで度々来日をしていた博士は全世界にファンが多く、吹奏楽に関わったものならその名を知らないわけはないというほど有名です。
リード博士はクリスマスピースとして「クリスマス・セレブレーション」というキャロルをもとにした曲も書いており、これはこの季節の吹奏楽系のイベントでは耳にするのですが、今日紹介するのはそれではありません。
「ロシアのクリスマス音楽」と題された混声合唱吹奏楽のための大規模作品です。
曲はいかにもリード節というフレーズもたくさん出てきますが、シンフォニーを彷彿とする華やかさもあり、実は大傑作ではないかと思うほどです。
ほんと日本の吹奏楽文化って表面をなでただけのクソ文化なんだなと、こういう曲が知られていない現状を見ても感じますね。

 

ともあれ聴いてみましょう!

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時期ものということもあって吹奏楽にはキャロルベースのクリスマス曲はたくさんあります。
ジェームズ・カーナウのクリスマス・パーティや、アンドレ・ジュトラのセ・ノエルなどがそれですが、あまりここで紹介する気にはなりませんね。


作曲家にとっては音楽が使われる機会の多いシーズンだけに、イイオカネになる仕事だったりもする機会音楽ですからね、まあ仕方ありませんが。


もちろん私も委嘱受け付けてます!!

 

 

次はドビュッシーです。

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ドビュッシー



え?ドビュッシーもクリスマスナンバーを残してるの?

 

そうなんです。しかも最晩年の作品で、自身の作詞による歌曲なんです!

 

なんかかわいい曲な気がする!
すごく印象的な和声で満ちてそう!

 

そんな想像を掻き立てられますね。

この歌曲のタイトルは「もう家のない子のクリスマス」といいます。

 

…は?

 

 

最晩年のドビュッシー戦乱に飲まれる世界に心を痛めていたんだそうですね。
そしてそれを子供の心に重ね合わせて沈痛な歌詞を書きました。


要約すれば「戦争が私の家も、ベッドも、学校も、教会も、イエス様も奪ってしまった。メリークリスマス奴らを罰してください!」という感じです。

 

……痛い…重すぎる

 

幸せで平和の象徴である降誕祭が戦争で蹂躙されてしまったという表現は、なんか「あの手の人々」に利用されそうな内容ですが、逆手に取った表現が沈痛さとドビュッシーの怒りを強調していますね。

 

しかしクリスマスナンバーだから楽しい曲じゃなきゃいけないって誰が決めたんですか?
そんな常識捨てましょうよ。

 

この曲を聴いて、クリスマスと芸術神と悪魔について考えをめぐらせればいいんですよ。
ほらあなたの中にも悪魔が宿ってるじゃないですか。

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さて最後にご紹介するクリスマスナンバーはこちら。
アメリカの現代音楽作曲家ジョージ・クラムが書いた「紀元1979年クリスマスのための小組曲です。

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クラム



イタリアのパドゥア礼拝堂のフレスコ画にイメージを得た作品ということだそうですが、そこはクラムの作品です。
不思議な音程関係の音列が不気味に響き内部奏法がそれを助長します。
しかしたしかによく聴いてみると、透明で神聖な雰囲気をまとっているようで、純度が高い作品だなと思わされます。

 

いやー実にトリに相応しい曲ですね!

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いかがでしたか?
クラシック版クリスマスナンバー特集は。
どれもが非常にクリスマスらしい名曲でしたね。

 

え?そうじゃなくて恋人たちのロマンスを表現したような甘い曲がいいって?
紹介したじゃないですか!リムスキー=コルサコフのやつを!

 

あんな支離滅裂のやつじゃなくて、ラブバラードみたいのが聴きたい?

 

やなこった。

誰がそんなの紹介するかもんかと言いたいところですが、まあせっかくなのでイメージ通りのクリスマスナンバーを最後の最後に紹介しましょう。

 

ここまで何度も出てきていましたが、いわゆるキャロルものと言える作品です。
アメリカのセミ・クラシックの大巨匠リロイ・アンダソンが書いた「クリスマス・フェスティバル」という曲です。さすがちゃんと仕事してくれています。
同じ趣旨の曲は5万とあれど、そこはさすがアンダソンです。
しっかり聖なる雰囲気を演出しながらも、ショーとしてのエンターテインメント性も担保して、誰でも楽しめる内容にまとめ上げる素晴らしいオーケストレーションになっています。
これぞクリスマスという曲ですね。

せいぜいこの曲を聞いて「世俗的なクリスマス」を噛み締めましょうかね。
特に寂しい人をより寂しくしてくれそですね!

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クリスマスにまつわる回想 ~トイドラの場合~

この頃寒くて仕方がない。

年の瀬が猛烈な勢いで迫ってくるので、その足音のあまりのすごさに思わず怯んでしまう。

来年で22歳になる僕だが、20歳を過ぎてからの時間の経ち方が10代の頃のそれとあまりに違って、少しばかり怖い。

このままの勢いで年を取るなら、あれやこれやオロオロと考えているうちに気付いたらオジサンになっていて、堪らず「アッ!!」と叫んだ声がヤマビコして返ってくるのを待たずして僕は老いの内に死ぬんじゃなかろうか。

21歳の若造にこんな老けた考えを持たせるほどには、最近の年月の流れ方は尋常じゃないのだ。

 

さて今の時期、街はクリスマスの雰囲気にほろ酔いだ。

シャンメリーに含まれる炭酸と酒税法に引っかからない程度の微量なアルコールのせいで、繁華街から住宅街まですっかり頬を赤らめて幸せな夢うつつに浮き足立っているように見える。

全く、日本人はアルコールに弱いね!

 

ところで、こんな僕にもかつては少年時代があって、人並み以上にはクリスマスという聖夜を心待ちにしていたもんだ。

僕は両親に恵まれた。

子思いの母とユーモアを絶やさぬ父は、彼らの2人の子どもたちに毎年の誕生日プレゼント、ケーキ、そしてクリスマスプレゼントを与えることを忘れなかった。

そういうわけで、僕の部屋には今でも過去に貰ったクリスマスプレゼントの残骸が(どこかに)残っている(はずだ……)。

今思えば、当時親にねだった品物というのは実に下らない。

例えばラジコンカーなんてどうだろう。

僕は過去に(少なくとも)3,4台はラジコンカーをねだっていたらしく、各々違う思い出としてそれらを遊んだ記憶があるのだが、そう何年も同じものを頼み続けたのは、どのラジコンも1年せずに壊れてしまうからだ。

大して乱暴に遊んだとも思えないんだが、なぜだろう。

どうやら当時のおもちゃの品質はそんなもんだったのだ……。

ラジコンで言えば、確か一度は車でなく飛行機だかヘリだかのラジコンを買ってもらったこともあったが、あれはものの数日で壊れて飛ばなくなった……。

僕は感受性の高い子供だったので、

「壊れたことが親に知れると親を残念がらせてしまう!」

と妙に細やかな気遣いの技量を発揮して、貰いたてのおもちゃに数日で飽きたふりをしたこともあった(結局すぐにバレたのだが)。

また、いつの年だったかに買ってもらった顕微鏡は、なぜかx500とx1000の対物レンズが壊れていてまともに観察できなかった。

僕は慎ましくx200のレンズで満足するよりほかなく、葉っぱの表面やニンジンの断面、パパの陰毛のキューティクルなどを観察して嬉々としていたのだった(冗談です……)。

 

クリスマス前日ともなれば、幼い僕は高気圧下のリンゴのごとくツヤツヤした赤色ほっぺを携えつつ、大好きなマンマとクリスマスケーキを手作りもした。

僕は小学2年生の頃から菓子作りに精を出していて、母が働きはじめる前は週末になるとカップケーキだのプリンだのを2人で焼いていた。

そういうわけで毎年のケーキ作りも半ば恒例行事と化し、ある年は抹茶クリームを練って△に切ったスポンジケーキを段々重ねしつつクリスマスツリー型のケーキなんかも作ったりした。

クリームを練りながら、南側の窓からやたらと日光が差し込んできたことを覚えている。

今となっては、数年前に建った家のせいでその窓から日光は差してこないのだ。

なあ窓よ、君の愛する太陽クンが別の窓に浮気しているぞよ……。

 

クリスマスという愉快な宗教用語には、みんな知ってるあの白髭おじさんの存在がついてまわる。

彼は森の畜生をして虚空を飛翔せしめ、真言密教の法具にも似た鈴をジングルジングルさせながら深紅の法衣に身を包み、「法、法、法。」と真理への道を衆生に説くという……。

冗談はさておいて、この奇妙なカーネル・サンダースもどきの存在を純真な子供たち一派はあまねく信じているのだ。

そりゃあもちろん、最初っから夢も希望もネコもシャクシもないッというガキも一部にはいることだろう。

しかし、同級生に向かって

「知ってるかい、サンタって実はホゴシャなんだぜ!」

などと得意気に言い放とうオマセな野郎には、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイよろしく激しい思想弾圧が待っている。

これは真剣勝負、世界最年少の宗教家たちによる人畜無害な聖戦なのだ……。

さらには、親たちの中に小賢しくも謀略を仕掛けてくる者まである。

子どもたちに奇ッ怪な赤色おじさんの存在を信じさせるべく、何らかの実際的な作戦を練ってくるのだ。

僕の友人には、深夜に差し掛かった折にどこからともなく鈴の音が聞こえてきた、と言った者がいた。

大方、両親が屋外でお遊戯会用の鈴でもブンブン振り回していたんだろうが、その光景をこの年になって妄想してみれば滑稽極まりない。

だが、再三繰り返すようにこれは聖戦だ。

イデアの使者に、滑稽だなんて言ってはならんよ!

また、僕自身も親からそういった小細工を仕掛けられたことがあって、ある年はソリのガレージと思しき雪まみれの小屋の写真がプレゼントに添えられていたことがあった。

どうしてソリでもトナカイでもサンタ自身でもなく、雪まみれのガレージを撮影したのか?

それは些細な問題だが、当時の僕にとってその写真は儚い夢の寿命をほんの少し延ばすにはとても十分だった。

また、当時から理路整然とした思考回路を持っていた僕は次のようにも考えた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

もし実際にはサンタ卿が存在しないと仮定した場合、この日本中あまねく全ての親々が

「サンタ卿に化けて我が子に贈物すべし!」

という同様の使命感を持っていなければならない。

しかし、かくも多くの人々の行動原理が自然と一致するなんて不可解だし、かといって首相官邸から

「12月25日には、子女・子息に望みの物を与えること!」

と日本中にオフレが出ているわけでもなさそうだ。

ということは、やはり全て1つの意志を持つ1人の人間の仕業であるのに違いあるまい!

しかし、いくらなんでも世界中を1人で飛び回るのは時間的に無理があるから、きっと地域ごとの部署で宅配業務を分担しているのだろう…………。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、当時の僕は我ながら先見の明があったと言わざるを得ない。

結局のところその通りで、見事に「各家庭」という部署ごとに業務は分担されていたのだ。

ただ実際には、人類を一つにするのに下らないオフレなどは必要なかった。

ただ1つのディヴィニティ(神性)、これがあれば良かったのである。

そしてもう一つ見落としていたことがあって、実際にはクリスマスにプレゼントを貰えない家庭もたくさんあったのだ……。

 

僕は音楽家だが、親から特別音楽的な教育を受けたわけではない。

だが、情操教育の一環でよくカセットテープを聞かされていて、毎年クリスマスが近づくと食事中にクリスマス・キャロルが流れる期間があった。

僕は、我ながら恥ずかしいくらいにクリスマス・キャロルが大好きだ。

「赤鼻のトナカイ」、「あわてんぼうのサンタクロース」、「サンタが町にやってくる」、「きよしこの夜」、こういったメジャーなクリスマスソングも当然好きだが、僕にとって馴染みがあるのは、むしろあまり有名じゃない歌たちなのだ。

「わらの中の七面鳥」、「もみの木」、「さあ飾りましょう」、「もろびとこぞりて」、「ホワイト・クリスマス」、「前歯のない子のクリスマス」、「神のみ子は」、挙げればキリがないが、中でも今考えると

「ママがサンタにキッスした」

これは名曲だ。

 

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この歌は、Jckson 5  の「I Saw Mommy Kissing Santa Claus」を日本語に編曲したものなのだが、僕は日本語版の方が好きだ。

原曲の方の歌詞では、主人公の子どもがサンタの正体に気付いていないので、

「わあ、ママがサンタさんに浮気してるぞォ!」

という感じのカワイらしい内容なのだが、日本語版ではどうもニュアンスが少し違う。

主人公の子自身がもうサンタの正体に気付いていて、どこか哀愁というか子供ながらの情趣が感じられて良いのだ。

サロンっぽい雰囲気の編曲も非常にいい。

 

 

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これらの曲を聴いていると、僕には1つの風景がぼんやりと思い出される。

家族4人が席に座っていて、机の上には肉料理やサラダ、僕の好きなオニオンスープなどが並べられている。

居間は石油ストーブの香りに満ちていて、小気味良くクリスマスキャロルが流れる中で夕飯が始まる。

そういったオレンジ色の靄のような風景を思い出すのだ。

 

僕のクリスマス・キャロル好きは、きっとそういった楽しい思い出、特別な日、石油ストーブの香りやブイヨンの染み込んだ玉ねぎの味と密接に結びついていると思う。

取るに足らないようなメロディや下らない歌詞でも、僕の思い出にとっては輝かしく、温かみのある味わいなのだ。

これは僕が人間であることの証明でもある。

成人した今になっても、耳のどこかにあのキャロルの残り香が通奏低音のように響いている。

 

こういったことを考えてみると、僕は昔から少しも変わっていない。

否、変わっていない、というのは少し違うのだ。

背が伸び、声も変わり、友人も減ったり増えたりしたし、眼鏡をかけ、髪も伸ばしたり切ったりし、恋人ができて、中学生になり高校生に、そして大学生になった。

そもそも当時は音楽に全く興味がなかった。

人としては全く、別人になり果てたと思う。

だが、ラジコンカーや顕微鏡をいじって喜んでいた当時と同じように、僕は今でもコマゴマとした工作や自然科学が好きだ。

母と菓子を作っていた僕は、今や時たま家族の夕飯をこしらえるまでになった。

サンタに関する背理法的検証をしていた僕は、もはや資本主義社会の妥協点についてまで悟ってしまった……。

そして、何となァくクリスマス・キャロルに思いを寄せていた僕は、十数年の時を経た今や音楽家と名乗っている。

これはもう因果を超えた世界だ。

運命論というのが遺伝子の観点から説明できるとすれば、人々の心の中に広がる内的宇宙こそが、その人の運命であり、居場所であり、一生かけて押し広げていくべきゴム製の土俵なのだと思う。

 

――とにかく、クリスマスってのはそのくらい人々の人生にブッスリと突き刺さっているのだ。

だからこそ、街はかくもシャンメリーのピンク色に酔っている。

年の瀬も近い書き入れ時、絢爛なイルミネイションやら商業広告やらで僕らの頭はクラクラのフラフラ、そして気づくと財布がボッテリとしぼんでいるというわけ。

そんな都会を横目に見ながら、そう言えば、本国ではクリスマスにはチキンでなく七面鳥を食らうそうだね。

ま、僕はチキンでいいや。

そんなことより日本人、きたる4/8の灌仏会には何を食らうんだい。

 

 

 

――え、高野豆腐?

独断で選ぶニュースを音楽で2019

 

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2019年から2020年へ

2019年もあと僅か。

すっかり師走の只中ですが、皆様いかがお過ごしですか?


今年は個人的に大きな転機になった年でしたね。
弟子の活躍により、自分のこと以外にものアチコチ飛び回ることが増え、仕事面でも大きな激震があったりとてんやわんやといった感じでした。


とは言え、今の所去年のように倒れたりすることなく、当初の目標通り健康第一で一年を終えられそうなのは何より良かったかなと思っています。

 

みなさんにとってはどんな年でしたかね?

 

そんなこんなで年末企画らしく2019年のニュースを月ごとに振り返りながら、私が特に気になるニュースに勝手に曲を選んで無理やり音楽系ブログ記事にしようというのが今回のポイントです。

 

無理矢理感がひどいって?
あーそのへんは無視して進みます。

 


それでは早速1月から!
この月はスポーツ関係で大きな引退のニュースが有ったようですね。
霊長類最強という二つ名も付いたレスリングの吉田沙保里選手と、横綱稀勢の里の引退がそれです。


嵐の活動休止発表もこの月でしたね。

 

ではやはりここは嵐の名曲から…

んなわけあるか。なんも興味ないわ。

 

私が選ぶのはやはりこのニュース。


「徴用工問題で日韓関係悪化」

 

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日韓関係悪化


まあ多くは語らないですが、今年は日韓関係の悪化に尽きる年だったと思います。
そのきっかけともなったこのニュースですが、こういうことは今に始まったことではないですから、さすがにうんざりした人も多かったのではないかと思います。

 

で、このニュースに当てる曲ですが。

 

安益泰作曲の「合唱と管弦楽のための交響幻想曲《韓國》」はどうでしょうか。

 

安益泰(アン・イクテ)は1906年北朝鮮平壌に生まれ、日本に渡って音楽教育を受け、そのまま海外に出て更に研鑽を積み、アジア人で一人リヒャルト・シュトラウスに学んだという人です。
大日本帝国臣民」として学んでいたということですけどね。
韓国の実質の国歌「愛国歌」の作者として知られ、この交響幻想曲の終楽章の合唱もまた愛されているようです。
細かいことはそれぞれWikiの項目があるので、ご覧になってみるといいかと思います。

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さて2月です。
今年のもう一つのキーワードである、芸能人の不祥事第一号がこの月でした。
俳優の新井浩文が性犯罪で捕まりましたね。
まあそんなことはどうでもいいですね。
レオパレス建築基準法違反問題もこの月でした。
どうでもいいですね。
青汁王子も捕まりましたが、どうでもいいです。

 

やはりこの月は

はやぶさ2号が小惑星リュウグウへ着陸」

のニュースが一番です。

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小惑星リュウグウ

このニュースにはこんな曲はどうでしょう。

Sun RaのRocket Number Nineです。
アメリカのJazz界の鬼才として知られる彼にまつわる逸話は多すぎて語り尽くせませんので、ぜひ調べてみてください。
ちなみに彼は故人になったのではなく海王星に帰っただけです。

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さてつづいて3月ですね。
この月はカルロス・ゴーンが保釈されたりしましたが、やはりピエール瀧の逮捕に世間は驚いたのではないかと思います。
芸能界と反社の関係などと言われましたが、そもそも芸能界は反社が作った世界なんですけどね。

 

ということで電気グルーヴの名曲を…それは榊原会員におまかせするとして

 

私はこのニュースを選びます。

イチロー選手の引退」

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イチロー

個人的にとても好きなスポーツ選手であっただけでなく、彼の理路整然とした考え方、そして物怖じせずはっきり自分の言葉で自分の考えを発信する姿勢を尊敬しています。
なんだか一生現役でもおかしくないくらいに思っていただけに、結構衝撃を受けました。
引退後も個性的で、そしてあるときには至極まっとうな発言をされていてますます好感を持ちますが、このニュースにはやはり野球を思い出す曲をということで、

黛敏郎作曲の「スポーツ行進曲」はどうでしょう。

テレビ番組用に巨匠黛先生が書いた曲ですが、素晴らしいないようの行進曲になっており流石という他ありませんね。
ちなみに氏は大のスポーツ嫌いだったとのこと。

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さて4月には何があったでしょうか。

やはり池袋での「上級国民様」が起こした「死亡人身事故」が印象的でしたね。
悲劇的な事件そのものもそうですが、その後の「優遇」が話題になりました。
日本てまだそういう部分あったんですね。心底クソな事件でした。


そして紙幣デザインの刷新が発表されたのもこの月でした。
なにより平成はこの月とともに終わったのが印象的でした。

 

私が選ぶのはこれ。

ブラックホールの撮影に初めて成功」

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ブラックホール

宇宙のニュースはいつもときめきを感じられて好きです。

このニュースにはかつての大ヒット番組アインシュタインロマン」のテーマ曲はどうでしょう?

音楽は篠原敬介氏が手がけられて、モーツァルトの音楽をベースに構成された曲でした。

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5月です。
もちろん日本人として改元は一大事でした。
私は昭和-平成の改元も経験しましたが、その時とは全く違うムードでの改元はひたすら素晴らしく、厳かで日本人であることを誇りに感じられた瞬間になりました。
令和の時代が良い時代になるといいですね。

 

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れいわおじさん



この月はその他には大きなニュースがないので困りましたが、その後発表された菅野よう子さんの書かれた「奉祝曲」をもってこのニュースにあてたいなと思います。

菅野よう子さんは言わずとしれた現代日本を代表する劇伴の作曲家です。
非常に幅広い仕事をされており、その仕事をひとまとめに紹介するのは大変ですが、どんなスタイルの曲でもこなされ、さらにどの曲にも菅野さんのものとわかる個性がたっぷり感じられるのはすごいですね。

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6月です。やっと半分ですね。
この月は吉本興業の闇営業問題に端を発した芸能界と反社の話題で持ちきりでしたが、全く興味がありません。
山形県地震が発生したのもこの月でした。
そして日本がIWC国際捕鯨委員会)を脱退したのは心から歓迎したいニュースでした。

 

しかしこの月に選ぶのは

「神奈川県内で相次いで鉄道事故

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鉄道事故

6/1には金沢シーサイドラインで逆走の上、車止めに衝突する事故があり、6/6には横浜市営地下鉄ブルーラインで保守用車を移動させる器具に乗り上げて脱線する事故がありました。

 

鉄道関係なのでこんな選曲をしてみました。
フランスの鬼才、シャルル・ヴァランタン・アルカンの書いた「鉄道」です。
ピアノの超絶技巧を凝らした楽曲は、まさに鉄道が軽やかに走る姿を思い浮かべますね。

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さてどんどん行きましょう7月です。

かんぽ生命の不適切契約問題や商業捕鯨の再開がありました。
個人的にははやくクジラが安価に食べたいですが、職業柄このニュースを選ばないわけには行きません。

 

京都アニメーション放火事件」

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文化への最悪の冒涜行為

この恐ろしい事件によって日本の誇る文化財、そして技術が失われてしまったのは間違いありません。
胸糞の悪くなる最悪の事件でした。


ということで同社を象徴するアニメ作品の一つ響け!ユーフォニアム」の劇中曲「三日月の舞」を選びます。

この曲は原作では架空の課題曲として登場しますが、アニメ版では自由曲ということになっており、音楽担当の松田彬人(作曲者名義は堀川奈美恵)が書いた曲で、非常に吹奏楽っぽさを打ち出した曲になっています。
まあタイトルは実際にあった課題曲「風之舞」を思い出しますし、楽曲自体もどことなくスウェアリンジェン、バーンズ、スパークの作品を思い出しますね。研究されたんでしょうね。

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8月です。
セブンペイが不正アクセスでサービス廃止になりました。
小泉進次郎議員と滝川クリステルさんの結婚発表などどうでも良い話題もありましたが、やはりこの月は、

「あいちトリエンナーレ騒動」

に尽きると思います。

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乗っ取られた要塞

その展示内容がプロパガンダ的として大きな話題になりました。
まあアレが芸術作品だったら芸術家ってのは随分となめられたもんだななどと思いましたが、このニュースに当てるのはこんな曲ではどうでしょうか。

アレクサンダー・モソロフの書いた「ピアノ・ソナタ第2番」です。
モソロフはロシアの作曲家ですが、ロシアンアヴァンギャルドの潮流に位置する作曲家で、ロシア・プロレタリア音楽同盟から攻撃され、最終的には強制収容所送りにされました。
なんというか「表現の不自由」そのものですよね。

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9月ジャニー喜多川氏の死去が話題になりました。時代は変わっていきますね。
台風15号の上陸や、内閣改造がありました。
しかし個人的に目を惹くニュースが乏しいのでこれを選びました。

ラグビーワールドカップ2019日本で開幕」

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ラグビー

まったくラグビーには疎く、出先でこれに伴う混雑に巻き込まれて初めて開催国だと知った程度ですし、おそらく今後もあまり興味は持たないと思いますので、語れることはあまりありません。

選ぶのはもちろんこの曲、アルチュール・オネゲルの書いた「ラグビーという曲です。
その名の通りラグビーの情景を描写したオーケストラ曲です。
ぜひラグビー好きには聴いていただきたいですね。

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10月はどうでしょうか。
消費税の増税が話題だったでしょうか。
私はあまり生活への影響を感じてはいませんが、どうなんでしょうか。
そして個人的には初めて事前避難を経験した台風19号の上陸が印象深いです。
その後も千葉豪雨など、今年も日本は雨に祟られましたね。

 

選んだニュースは首里城の火災」です。

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かっての首里城

その後原因には憶測などが飛び交っていますが、燃え盛る映像はやはり衝撃的でした。
その後の原因究明等があまり進んでいないように感じるのですが、どうなんでしょうか。

選んだ曲は沖縄出身の女性作曲家金井喜久子が書いた「琉球カチャーシー」です。

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さて11月です。
ヤフーとLINEの経営統合桜を見る会問題など心底どうでもいい話ばかりでしたが、
個人的には相鉄とJRの相互乗り入れ開業が印象に残っています。

え?鉄道ネタが多いって?

鉄道好きなんですよ。撮り鉄ではないですけどね。

 

しかし本当に大したことがなかった月なので無視したいところですが、

ローマ教皇の来日」を取り上げておこうかと思います。

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教皇



このニュースに対しても特段語れることはないのですが、なんとなくバッハのロ短調ミサでも聴いてみましょうか。

この曲を聴く時はリヒターのものだけと決めているので、こちらをどうぞ。

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やっと12月です。
と言ってもまだ半ばなのでこの月だけは選ぶニュースはありません。


今年は個人的に雨ばかりが記憶に残る一年でした。
激しい雨は嫌いです。
来年は心穏やかに過ごしたいなという願いを込めて、ドビュッシーの雨の庭で締めたいと思います。

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次に私の記事が出るのは来年のことになるかと思いますので、ちょっと気が早いですが年末の挨拶を。


皆さん良いお年をお迎えください。


来年も皆様にとって私にとって良い年になるといいですね。

今年に輪をかけてシニカルにやっていきたいと思いますので、名作同ともども来年もどうぞよろしくお願いします。

 

それでは本年も一年お世話になりました。

「君が代」はハ長調ではない 〜日本音楽の真実を暴く〜 その②

前回→

「君が代」はハ長調ではない 〜日本音楽の真実を暴く〜 その① - 名大作曲同好会

 

nu-composers.hateblo.jp

 

 

――現代の日本で、陽旋法曲解を受けている

――勘違いされた”陽旋法”は歌謡曲などに乱用され、いかにも”日本古来の”顔をして居座っている

――真の〈陽旋法〉は、僕らの常識から全く外れた力学で動く。

 

――――それは、「日本和声」と呼ばれる。

 

 

 

 

というわけで、今回は真の「陽旋法について解き明かしていきましょう。

結局のところ「君が代」の正体とは?

 

 

 

 

 

君が代ニ短調

前回明らかにした通り、「君が代」の主音は〈レ〉でしたね。

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衝撃的事実

ということは、この曲は少なくともハ長調ではありませんよね。

音階の主音は明らかに〈レ〉(=ニ音)にあります。

 

前回の記事で、

陽旋法とは、別名「ヨナ抜き音階」とも呼ばれる日本民謡の音階です。

「ヨナ抜き」の名の通り、

「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」

という普通の音階から4番目と7番目の音を抜いた

「ド・レ・ミ・ソ・ラ」

の5種類の音からなる音階です。

と説明しましたが、「君が代」の主音が〈レ〉だということを考えると上の説明は間違っています

そもそも前提として「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」という〈ド〉から始まる音階を置いているのが誤っていますよね?

もうお分かりだと思いますが、正しくはこうです。

 

陽旋法とは、

「レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ♭・

という普通の音階から3番目6番目の音を抜いた

「レ・ミ・ソ・ラ・ド」

の5種類の音からなる音階です。

 

どうでしょうか。

何がヨナ抜き音階だって感じですよね。

実際に抜いている音は3と6なんだから、正しくはサブロー抜きとでもいうんでしょうか。

(なんかエロティックですn)

今後もし

「おっ、この曲はヨナ抜きだねえ」

などとインテリぶっている人を見つけたら、読者の皆さんは

「そっすねw」

と冷笑して差し上げましょう。

 

というわけで、陽旋法の正しい音順は「レ・ミ・ソ・ラ・ド」だということが分かりました。

これはニ短調レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ♭・から音を抜いたものなので、一見ニ短調のように見えます。

ただ、厳密にはニ短調ではありません

なぜなら、日本の民謡音階である陽旋法は、そもそも西洋音楽的な長短の音階とは構造が違うからです。

そして、その構造の違いこそが日本和声の神髄なのです。

さっそく説明していきましょう。

 

真の「陽旋法」の和声構造

まず、陽旋法が西洋音楽と最も違っている点はどこでしょうか。

そう、陽旋法には大事な大事な第3音がないですね。

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ニ調 陽旋法

西洋音楽の和声理論では、主和音(Iの和音)の第3音が欠如することは禁じられているので、西洋和声的に考えるとこの音階は主和音を持たないルール違反の音階です。

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「レ・ファ・ラ」の〈ファ〉がない

しかしご安心を。

日本和声的に考えると、ちゃんとIの和音は成立するのです。

それはズバリこう!

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「レ・ソ・ラ・レ」

これこそが日本和声における主和音なのです。

ちなみに、この和音に向かって解決するドミナント・属和音)の役割を持つ和音はこのように定義されます。

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「ミ・ソ・ラ・ド」II4という聞いたことない名前の和音

つまり、基本的なカデンツ(コード進行)はこんな感じになります。

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「T-D-T」のカデンツ

というわけで、陽旋法は根本的な構造が完全に西洋和声とは一線を画しています

これこそが、ざっと「日本和声」の正体なのです。*1

 

君が代」を編曲し直す

さて、ここまでで何となく

確かに『君が代』は曲解されてたんだなあ

と分かってくれたかと思います。

しかし、具体的にはどう編曲されれば良かったのでしょうか。

実際に君が代」を日本和声的に正しく編曲することはできるのでしょうか?

 

 

 

 

 

………ということで、編曲してみました。

 


【研究】日本和声による「君が代」の再編曲

 

 

 

 

 

どうでしょう。

確かにめっちゃ日本的じゃないですか?

私たちの国家「君が代」、本来持つ響きはこういうものだったのです。

 

留まるところを知らぬ曲解

とはいえ、現在一般に知られる「君が代」はあんな感じに編曲されたものです。

それどころか、そもそも日本和声なるものが存在するらしいという事実すら、多くの日本人音楽家は知らないことと思います。

その結果、実は「君が代」に留まらず多くの日本民謡たちが西洋和声的に捻じ曲げられ、誤った形で後世に伝えられようとしているのです……。

 

 

というわけで次回予告です。

 

 

 

 

――日本の民謡は、具体的にどんな風に損なわれているのか?

 

 

――なぜ、そんなことが起こってしまったのか?

 

 

――真の黒幕はなのか?

 

 

 

 

 

――そしてトイドラは、広げに広げた大風呂敷をちゃんと畳めるのか(知らん)。

 

 

つづき↓

nu-composers.hateblo.jp

*1:本文では日本和声のほ~~んの一部にしか触れていない。興味がある方は、小山清茂・中西覚著「―日本の音を求めて― 日本和声 ―その仕組みと編・作曲へのアプローチ―」を参照のこと。(絶版だけど)

機械学習を用いた楽音分離システム「Spleeter」が凄い

最近どえらい寒くなってきたじゃんねぇ…どうも、sawapyです

 

音響信号処理の世界に凄いヤツが登場してしまいました。その名も

Spleeter

つい一ヶ月ほど前に公開されたばかりです。しかも無料。

 

今回の記事では、コイツが一体何者なのか、技術的な話(なるべくわかり易くなるよう頑張ります)や、使用感などをつらつらと書いていこうと思います。

 

・Spleeterって何ぞ?

端的に言うならば、最近流行っており、様々な分野に応用されている深層学習を用いた楽音分離エンジンです。

現在は

・ボーカル/その他

・ボーカル/ドラム/ベース/その他

・ボーカル/ドラム/ベース/ピアノ/その他

の3つの分離のモードがあり、それぞれのパートごとに分離されたファイルを出力してくれます。

 

「深層学習?は???」という声が聞こえそうなので、少し補足を…

 

深層学習とは、あるシステムに膨大な量のデータと答えの対を与え、その時にシステムが導き出した結果と与えられた答えの一致率が高くなるようにシステムが自動で学習していく、というものです。しかし、どのような思考回路を作り上げたのかは完全に機械任せ。どこをどう捉えて答えを出しているのか、人間には解読できません。

音声データで言えば、一次元の入力データをどんどん次元を上げて多次元配列に変換しながら"重み"を掛け算し、その結果と答えを比較しながら"重み"の値を調整し…

そろそろ目眩を起こす人が出てきそうなのでやめておきます。

要するに、データとお手本をたくさん用意すれば、あとは機械が全ていいカンジにやってくれるんだ、そんなイメージです。 

 

・実際に使ってみた

百聞は一見に如かず、実際にSpleeterの精度テストで使われた音楽データを分離してみました。

 

まずは元の音楽がこちら

 

全パート

 

ボーカルパート

 

ドラムパート

 

ベースパート

 

その他

 

Spleeterで実際に分離したものがこちら

ボーカルパート

 

ドラムパート

 

ベースパート(音量ちっちゃいです)

 

その他

 

・・・凄くないですか??

個人的にはドラムのシンバルが他パートに吸われている部分が見受けられるかと思いましたが、正直言って驚きました。過去にもフリーの楽音分離ツールはありましたが、ここまでの精度と音の綺麗さを持つツールははじめて見ました。(従来のものは、だいたい音が反響しまくっているような、ぼやけた音になってしまいがちでした)

 耳コピや楽曲の分析など、色々な場面で役に立ちそうです。

 

・どうやって使うの?

 コイツはプラットフォーム選ばず使えるようになっている(要はMacでもWindowsでもLinuxでも動く)がために、導入が少々面倒でして…

Macなら"ターミナル"、Windowsなら"コマンド"、Linuxなら"端末"の上でコマンドを入力しながら導入します。さらに、実行する時もコマンドを入力して動かすので、慣れないと難しいかもしれません。

そんなものの導入解説を僕が書くととんでもない長さになってしまいそうなので、既存の解説記事に頼らせていただきます…

 

こちらの記事が分かりやすいと感じたので、試してみたい方は参考にしてみてください。

https://chilloutwithbeats.com/spleeter-try/#toc6

 

 

・最後に

音響信号処理の最前線のものを紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか、Spleeter。

ここ数十年で情報処理技術は大幅に進歩しており、ついにここまで精度が高まったのか!という印象です。今後もモリモリ発展していく分野ですので、将来どのようなツールやサービスが登場するのか楽しみですね!